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俺と彼女と営みの巣
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「えーっと……何種類か色々詰め合わせになってるやつだから。何個だろう?」
「なんで知らないんですか広瀬さん!! そこ重要ですよ!!」
俺の返答が気に入らないらしく少年のようにプリプリ怒り出したと思ったらまた椅子に座り直し
「ああ~今すぐ開けたいなぁ♪ でも妻が帰ってくるまで開けない方がいいよなぁ……妻に先開けるってメッセージ入れちゃおうっかなぁ」
と、独り言をブツブツ言い出したものだからこっちも笑いが出てしまった。
(夏実にイケメン笑顔をずっと見せつけて楽しく会話してると思えば……コイツの目先には純粋にコーヒーとチョコレートしか目に入ってなかったんだな)
気持ちに靄がかかっていた俺の心が吹っ飛ぶくらい、彼の行動は今や面白いものに成り代わってしまった。
「村川さん、本当にチョコレートが好きなんだね」
夏実も同じ事を思ったらしく、俺に耳打ちしてきたから
「そうみたいだな」
と、俺も小声で夏実に言う。
「あー……箱開けたいなぁ。早く夜にならないかな~」
そして尚もカウンターに顔を向けたまま、ずっとブツブツ言ってる後輩の可愛らしさにまた笑みがこぼれた。
さっき夏実の腰に手を回してきた時もそうだったけど、夏実にイケメン顔を存分に見せつけながら会話するのも、俺が余計な邪推をする程ではないんだろうという事が分かった。
彼は純粋に奥さんが好きで、俺がほんの少しでも「エロい」と思ってしまった事に単純に苛立ち仕返しをして、純粋にコーヒーやスイーツが好きだから単純に夏実と喋っていただけなんだろう。彼にとってそこに悪意は全くないのだ。
「そういえば奥さん、さっきはもしかして仕事抜け出して駅まで来てくれたのか?」
グラスに残っていたコーヒーを飲み干し、村川くんにお代わりをお願いしながら、さっき駅で待ち合わせした時の事を思い出す。
「そうなんですよ。いつもは13時から14時までの1時間休憩取るんですが、今日はマスターに俺からもお願いして2時間ちょっと休憩もらったんです。その間昼食を俺と食べて、妻はそれから夕食の下拵えしてもらってって感じで。
……で、15時前に着く列車に広瀬さん達乗って来てくれたら、俺が妻を見送るついでにみんな顔合わせ出来るかなーっと思って、15時待ち合わせにしたって訳です」
「今日の為にわざわざ休憩延ばしてもらったのか? しかも一旦ここに帰ってまで??」
「2時間休憩は普段もしてるんですよ忙しい木曜日と土曜日だけ1時間なんですが。なので今日は特別ですね」
(忙しい土曜日って……本当にそんな日に俺ら呼んで良かったのか? 奥さんにも店にもめちゃくちゃ負担かかってるじゃないか)
15時待ち合わせの理由よりも寧ろそっちが気にかかってしまった。
「なんでまた奥さんの忙しい曜日に俺らなんか……別に明日でも良かったのに」
夏実と顔を合わせながら俺はそう言うと
「だってそうなると広瀬さんが困るでしょ。明日は明日で内見巡りしたりしなきゃいけないし」
村川くんは俺にコーヒーを手渡し、テレビの横に備え付けられている棚へとスタスタ歩く。
「これ、例の不動産物件です」
夕方までに……と彼が約束していた、有能な不動産屋からの情報も思ったより早く手に入れたようだ。村川くんは俺らに紙の束を差し出してきた。
紙の束は物件一件ずつ数枚1組で丁寧に留められていて、それが何十件分もあって驚く。
「仕事早いんだな、有能な不動産屋とやらは」
そしてそのどれもが、俺がこの1週間漠然とネットで見ていたものよりも良い条件のものばかりだ。
「昨日の22時過ぎに相談したら午前中にこれ渡されて、俺も正直ドン引きましたよ。
俺はてっきり俊哉くんの所有物件を紹介してくれるもんだと思っていたから」
「としやくん?」
「上の階に住んでる人の事です。俺の従兄で、ここ含め周辺に色々土地や建物所有してるんですよ。
俺に関わる人の話持ちかけると有能に仕事してくれるんだけど今回はマジでドン引きレベルです」
村川くんはそう言って、紙の束の下から半分を抜き取って夏実に手渡した。
「え? 私も見るんですか?」
紙を受け取りながら夏実が村川くんの方を向くと
「当たり前じゃん! こういうのは夏実ちゃんが一番よく見て吟味しなきゃいけないんだよ」
と、彼は夏実にニッコリ微笑む。
「でも私、間取り図とか何をどう見たら良いのか分からないし……」
「次のページに各部屋のがカラー画像があるし、間取り分からなくても周辺にどんな店があるかとか、買い物しやすいかとか、そういうのも見ると良いよ」
村川くんに言われた通り紙をめくりながら夏実は「なるほど」と納得した表情をする。
「本当だ……そこのポイントに絞って読んでみたら比較しやすいかも」
「しかも夏実ちゃんに渡したものは全て夏実ちゃんの実家近辺の物件だからイメージしやすいんじゃないかな。ゆっくり見ててね♪」
村川くんは夏実に優しく声をかけた直後、俺をとんでもないものを見るような冷たい表情で見つめ
「広瀬さんはこっち来てください」
と低い声で言われる。
「おっ……おぅ」
(村川くん急に何その表情?! 怖いんだけど)
「なんで知らないんですか広瀬さん!! そこ重要ですよ!!」
俺の返答が気に入らないらしく少年のようにプリプリ怒り出したと思ったらまた椅子に座り直し
「ああ~今すぐ開けたいなぁ♪ でも妻が帰ってくるまで開けない方がいいよなぁ……妻に先開けるってメッセージ入れちゃおうっかなぁ」
と、独り言をブツブツ言い出したものだからこっちも笑いが出てしまった。
(夏実にイケメン笑顔をずっと見せつけて楽しく会話してると思えば……コイツの目先には純粋にコーヒーとチョコレートしか目に入ってなかったんだな)
気持ちに靄がかかっていた俺の心が吹っ飛ぶくらい、彼の行動は今や面白いものに成り代わってしまった。
「村川さん、本当にチョコレートが好きなんだね」
夏実も同じ事を思ったらしく、俺に耳打ちしてきたから
「そうみたいだな」
と、俺も小声で夏実に言う。
「あー……箱開けたいなぁ。早く夜にならないかな~」
そして尚もカウンターに顔を向けたまま、ずっとブツブツ言ってる後輩の可愛らしさにまた笑みがこぼれた。
さっき夏実の腰に手を回してきた時もそうだったけど、夏実にイケメン顔を存分に見せつけながら会話するのも、俺が余計な邪推をする程ではないんだろうという事が分かった。
彼は純粋に奥さんが好きで、俺がほんの少しでも「エロい」と思ってしまった事に単純に苛立ち仕返しをして、純粋にコーヒーやスイーツが好きだから単純に夏実と喋っていただけなんだろう。彼にとってそこに悪意は全くないのだ。
「そういえば奥さん、さっきはもしかして仕事抜け出して駅まで来てくれたのか?」
グラスに残っていたコーヒーを飲み干し、村川くんにお代わりをお願いしながら、さっき駅で待ち合わせした時の事を思い出す。
「そうなんですよ。いつもは13時から14時までの1時間休憩取るんですが、今日はマスターに俺からもお願いして2時間ちょっと休憩もらったんです。その間昼食を俺と食べて、妻はそれから夕食の下拵えしてもらってって感じで。
……で、15時前に着く列車に広瀬さん達乗って来てくれたら、俺が妻を見送るついでにみんな顔合わせ出来るかなーっと思って、15時待ち合わせにしたって訳です」
「今日の為にわざわざ休憩延ばしてもらったのか? しかも一旦ここに帰ってまで??」
「2時間休憩は普段もしてるんですよ忙しい木曜日と土曜日だけ1時間なんですが。なので今日は特別ですね」
(忙しい土曜日って……本当にそんな日に俺ら呼んで良かったのか? 奥さんにも店にもめちゃくちゃ負担かかってるじゃないか)
15時待ち合わせの理由よりも寧ろそっちが気にかかってしまった。
「なんでまた奥さんの忙しい曜日に俺らなんか……別に明日でも良かったのに」
夏実と顔を合わせながら俺はそう言うと
「だってそうなると広瀬さんが困るでしょ。明日は明日で内見巡りしたりしなきゃいけないし」
村川くんは俺にコーヒーを手渡し、テレビの横に備え付けられている棚へとスタスタ歩く。
「これ、例の不動産物件です」
夕方までに……と彼が約束していた、有能な不動産屋からの情報も思ったより早く手に入れたようだ。村川くんは俺らに紙の束を差し出してきた。
紙の束は物件一件ずつ数枚1組で丁寧に留められていて、それが何十件分もあって驚く。
「仕事早いんだな、有能な不動産屋とやらは」
そしてそのどれもが、俺がこの1週間漠然とネットで見ていたものよりも良い条件のものばかりだ。
「昨日の22時過ぎに相談したら午前中にこれ渡されて、俺も正直ドン引きましたよ。
俺はてっきり俊哉くんの所有物件を紹介してくれるもんだと思っていたから」
「としやくん?」
「上の階に住んでる人の事です。俺の従兄で、ここ含め周辺に色々土地や建物所有してるんですよ。
俺に関わる人の話持ちかけると有能に仕事してくれるんだけど今回はマジでドン引きレベルです」
村川くんはそう言って、紙の束の下から半分を抜き取って夏実に手渡した。
「え? 私も見るんですか?」
紙を受け取りながら夏実が村川くんの方を向くと
「当たり前じゃん! こういうのは夏実ちゃんが一番よく見て吟味しなきゃいけないんだよ」
と、彼は夏実にニッコリ微笑む。
「でも私、間取り図とか何をどう見たら良いのか分からないし……」
「次のページに各部屋のがカラー画像があるし、間取り分からなくても周辺にどんな店があるかとか、買い物しやすいかとか、そういうのも見ると良いよ」
村川くんに言われた通り紙をめくりながら夏実は「なるほど」と納得した表情をする。
「本当だ……そこのポイントに絞って読んでみたら比較しやすいかも」
「しかも夏実ちゃんに渡したものは全て夏実ちゃんの実家近辺の物件だからイメージしやすいんじゃないかな。ゆっくり見ててね♪」
村川くんは夏実に優しく声をかけた直後、俺をとんでもないものを見るような冷たい表情で見つめ
「広瀬さんはこっち来てください」
と低い声で言われる。
「おっ……おぅ」
(村川くん急に何その表情?! 怖いんだけど)
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