【完結】彼女が18になった

チャフ

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彼女に伝う俺の愛

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 無事晴美さんに事前連絡した23時半の帰宅に間に合い、俺は夏実の手を引いたまま薗田家の門扉を開けて家の敷地に入った。

 庭のセンサーが反応して、玄関前がパッと明るくなる。

「私、鍵開ける」

 夏実は鞄から家の鍵を取り出して解錠してくれ、俺が扉のレバーを引くとそこには晴美さんが立って待っていた。

「晴美さん」

 一応帰宅時間を伝えたとはいえ、立って待っているとは思わず、俺は喉をゴクリと鳴らす。

「ただいまお母さん、あのね……」

 娘の夏実も、仁王立ちみたいにして立つ母親の気迫に負けそうになっているらしく何か弁明するように母親に話しかけようとしていた。

 ……だが

はちょっと黙っていなさい」

 想像以上に怒りのこもったような晴美さんの低い声で一蹴され、夏実は俺の背中側に隠れる。
 確かにいつもは自分をと呼ぶ母親が急にと呼び捨てしたら余計に怖いだろう。

「あのっ!これは全部俺が悪いですから夏実には叱らないであげて下さい!
 食事に無理に誘ったのは俺の方なんですから……」

 俺の背中で小さくなっている彼女を腕でかばいながら、晴美さんに「怒るなら俺だけにしてほしい」という意味合いの言葉を晴美さんに掛ける。

(ヤバい! 晴美さんのこの表情、かなり怒ってる!!)

 今だって鼻から息を思い切り吸っているし、晴美さんは俺らに怒声を浴びせるつもりでいる筈だ。

「晴美さんっ!! あのっ!!」

 夏実を自室に上がらせるのが先か、謝るのが先か……そんな事を考えながら晴美さんの名前を取り敢えず呼んだら、それに被せてくるように

「あなたたち!! もう、どうせなら一緒に住んじゃえばいいじゃない!!!!」

 晴美さんの大声が玄関じゅうに響いて、俺は肩をビクつかせた。

「「!!」」

 それは背後に居た夏実も同じで、俺の肩のビクつきとほぼ同じタイミングで身体をビクッと震わせており、晴美さんは顔を赤くしながら更に話を続ける。

「私、今日は昨日みたいに冷静に居られないの! なんかムカつくし!! 昨夜なんか眠れなかったし!!
 眠れないまま今朝からいろいろ考えてたらイライラが募って、余計にイライラして……なんかもう、湊人くんにまでイライラし始めて!! なんで30にもなって実家暮らししてるんだろうって!!」
「えええっ??」

(俺が実家に居るのは、夏実の勉強を毎日見る為でもあったんですけど?
 そもそも、晴美さんが「湊人くんは一人暮らししないでほしいなぁここに居てくれると助かるなぁ」って言ってましたよね?)

 頭に思い浮かんだツッコミをそっくりそのまま口に出せば晴美さんはまた怒るだろうから、俺は「え」だけを声に出す。

「私ね、考えたの!! 思えばこの27年間、ずーっと子育てしてきたなぁって。夏実も18歳になったし、ずーっと母親してるのも疲れちゃったなぁって思って!!
 もうすぐ高校は夏休みだし、湊人くんは忙しいかもしれないけど、私そんなの知ったこっちゃないし!! もうさ、いっそのこと2人とも出てって欲しいなって! 私思うわけよ!!」
「「!!!!!!」」

 怒りに似た晴美さん特有の主張の仕方に、慣れてる筈の俺も夏実も圧倒される。

「ですから、晴美さん」

 タクシーの中で一度は引っ込めようと思った自分の提案を、まさかこんな形で夏実の母親から逆に言われるなんて全く予想してなかったわけで。

「何よ湊人くん! 私の話に意見する気?」

 俺も何か言おうとしている事に気付いた晴美さんが、怒りの表情をこちらにむけたまま、低い声で聞き返してきた。
 だから俺も一度だけ深呼吸し、晴美さんにこう宣言した。

「俺もっ!! 夏実とこれから一緒に暮らしたいって思っています!!」

「…………」
「湊人……」

 最初に響いた晴美さんの怒声に負けないくらいの声で、俺はそう言い、更に話を続ける。

「タクシーに乗る直前、夏実さんに提案したんです『この夏休みの間に一緒に住むところを見つけないか?』って」
「……」
「夏実さんからはまだ返事もらってませんが、俺だって夏実さんとこれからずっと一緒に居たいという強い気持ちがあります! 今まで一度も、夏実さんの気持ちをないがしろにしていたつもりはありませんから!」

 晴美さんの表情が少し落ち着く。

「なるほど」

 声のトーンも昨日と同じ……とまではいかないにしろ、落ち着きを取り戻したみたいで俺も少しホッとする。

「で? なっちゃんは? どう思うの?」

 それから晴美さんの目線は、さっきからずっと身体を小さくして俺の背中に隠れている夏実へと向けられる。

「わ、私……は…………湊人に突然言われてとにかくビックリして。すぐに返事出来なくて今まで、ずっと考えていたんだけど」

(ええ?? タクシーでの夏実のアレ、考え事してたのか!)

 手は繋いでいてもタクシーに乗っている間、一度も俺の顔を見なかったから不安で仕方なかったのだけれど。
 でも、一応彼女の頭の中で俺の提案に少しでも考えて真剣になってくれたのだとしたら、例え断られたとしても嬉しい。

「高校生活まだ半年以上あるし受験しなくても学校の通常の勉強はお家でしっかりやるつもりだったから……だから急にこの家を離れてっていうのが、実感湧かないけど……でも! 私も湊人とずっと一緒に居たいから。湊人から一緒に暮らしたいって言われて、すごく嬉しくて」
「夏実……」
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