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俺と彼女の進む路(みち)
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けれども、賛成する理由は4人それぞれ少しずつ違う。
まずは俺の両親。
両親は息子の俺よりも夏実を溺愛しており、夏実が中学に上がる頃には俺の知らないところで「なっちゃんの片想いがうまくいくように」と夏実にかなり協力していたらしい。
……片想いの相手が息子だと分かっていながら、だ。
だからお袋は「なっちゃんが良いならうちの息子を差し上げよう」という考えを持っている。
親父も基本お袋と同じ考えなのだが去年潰瘍手術をしたのがきっかけでやたらと「なっちゃんの花嫁姿が見たい。なっちゃんの可愛い赤ちゃんが見たい」と言うようになった。
次は夏実の両親だ。
夏実の父親、和明さんは菜央ちゃんの交際や結婚に口を出し過ぎて失敗した経緯がある。菜央ちゃんの双子の弟、直くんとも喧嘩をしていて、結局直くんは若いうちに実家を飛び出してしまったし、自分の味方で居てくれる最後の砦が夏実しか居ないのだ。
だからある意味夏実の言う事には逆らえないし「知らない男に持って行かれるくらいなら隣家の息子がマシ」と内心思っているのだと思う。
そして夏実の母親。
俺に昔から厳しい態度を取る晴美さんだが、俺からしてみたら彼女が一番親らしい考えを持っている。
俺が夏実の実の親なら、12歳も離れた男と付き合い男女の関係になるなんて最初に聞かされたら絶望するだろうし「まだ幼い娘を女として見る男は気持ち悪い」「何を考えているか分からないペドフェリア」という目でその男を見ると思う。
だが晴美さんの凄いところは、夏実が俺に恋する前からこうなる事を予感していたという点だ。
生まれたばかりの夏実の世話を、双子の姉弟ではなく12歳の俺におむつ替えから何から手伝わせたのはある意味その予感によるものだったのかと何度も疑った。晴美さん曰く「その時点では何も考えてなかった」らしいのだが。
……とはいえ「夏実の彼氏に絶望するなら自分の取説に理解を持つ男になるよう教育をすれば良い」と、ある意味合理的に俺に自分の取説を叩き込んだ訳だ。
自己主張が強くただでさえ自分の意見を曲げないのに更に己の取説を叩き込むなんてやってる事がドSなんじゃないかと思うが、俺自身意外と晴美さんに対して嫌悪感を持っていない。
(そう言えば夏実来ないなぁ。俺が「勝手にしろ」と言ったからてっきりすぐ俺の後をついてくると思ったのに)
俺は廊下の方を一旦チラッと向き、人の気配がしない事を確認してまた晴美さんに向き直る。
「……それで、夏実の卒業後についてなんですが」
「さっきなっちゃんの口から聞いたの?」
俺が話を始めようとすると晴美さんが急に質問を被せてきた。
「はい、驚きました」
勿論、晴美さんが話を被せるなんて日常茶飯事のことなので彼女の質問に即答する。
「驚く事かしらね? あの子ずっと言ってたじゃない『みなとくんのお嫁さんになりたい』って」
「それは子どもの頃の話ですよね?! それに結婚なんて高校卒業してすぐにしなくったっていいじゃないですか! 夏実の成績、俺よりも晴美さん達の方がよく知っているでしょう?」
「えぇそうね。湊人くんのおかげで、夏実の成績は落ちる事なくずっと上の中をキープしている。それは私もうちの人もとても感謝しているし、1年の時から志望する進学先の学部や学科を決めていたし、2年の時も担任から何も言われる事なく安寧に過ごしてきたと思う」
「だったらなんで急に夏実が『受験はやめて俺と結婚したい』なんて言うんですか?!」
晴美さんの言う通り、高校2年までは全く問題なかった。
高校は俺の出身校へ行きたいと言っていた夏実は、大学選びの際に初めて俺が学んでいた学科とは違う系統の学科を選んで「これが学べる大学に行きたい!」とハッキリした意見を持っていた。
受験科目が俺の私大とはだいぶ異なったから、俺も夏実の受験科目を一から勉強して、夏実に理解してもらうよう必死で勉強を教えていた。
3年になってすぐの校内模試の結果を見せてもらった際、志望校の選択がどれも遠方の大学を選択していた事に違和感を持ったが夏実の興味を引く大学だったからこそ選択したんだろうし、当時は「大学生になったら遠距離決定かぁ」と軽いショックをおぼえつつ、直くんみたいに生まれ育った土地から離れて自分を見つめ直したい願望でもあるのかと思っていた。
「その件について、実は春からずっと担任と三者面談してたの」
晴美さんは自分の腕を組んで長い息を吐く。
まずは俺の両親。
両親は息子の俺よりも夏実を溺愛しており、夏実が中学に上がる頃には俺の知らないところで「なっちゃんの片想いがうまくいくように」と夏実にかなり協力していたらしい。
……片想いの相手が息子だと分かっていながら、だ。
だからお袋は「なっちゃんが良いならうちの息子を差し上げよう」という考えを持っている。
親父も基本お袋と同じ考えなのだが去年潰瘍手術をしたのがきっかけでやたらと「なっちゃんの花嫁姿が見たい。なっちゃんの可愛い赤ちゃんが見たい」と言うようになった。
次は夏実の両親だ。
夏実の父親、和明さんは菜央ちゃんの交際や結婚に口を出し過ぎて失敗した経緯がある。菜央ちゃんの双子の弟、直くんとも喧嘩をしていて、結局直くんは若いうちに実家を飛び出してしまったし、自分の味方で居てくれる最後の砦が夏実しか居ないのだ。
だからある意味夏実の言う事には逆らえないし「知らない男に持って行かれるくらいなら隣家の息子がマシ」と内心思っているのだと思う。
そして夏実の母親。
俺に昔から厳しい態度を取る晴美さんだが、俺からしてみたら彼女が一番親らしい考えを持っている。
俺が夏実の実の親なら、12歳も離れた男と付き合い男女の関係になるなんて最初に聞かされたら絶望するだろうし「まだ幼い娘を女として見る男は気持ち悪い」「何を考えているか分からないペドフェリア」という目でその男を見ると思う。
だが晴美さんの凄いところは、夏実が俺に恋する前からこうなる事を予感していたという点だ。
生まれたばかりの夏実の世話を、双子の姉弟ではなく12歳の俺におむつ替えから何から手伝わせたのはある意味その予感によるものだったのかと何度も疑った。晴美さん曰く「その時点では何も考えてなかった」らしいのだが。
……とはいえ「夏実の彼氏に絶望するなら自分の取説に理解を持つ男になるよう教育をすれば良い」と、ある意味合理的に俺に自分の取説を叩き込んだ訳だ。
自己主張が強くただでさえ自分の意見を曲げないのに更に己の取説を叩き込むなんてやってる事がドSなんじゃないかと思うが、俺自身意外と晴美さんに対して嫌悪感を持っていない。
(そう言えば夏実来ないなぁ。俺が「勝手にしろ」と言ったからてっきりすぐ俺の後をついてくると思ったのに)
俺は廊下の方を一旦チラッと向き、人の気配がしない事を確認してまた晴美さんに向き直る。
「……それで、夏実の卒業後についてなんですが」
「さっきなっちゃんの口から聞いたの?」
俺が話を始めようとすると晴美さんが急に質問を被せてきた。
「はい、驚きました」
勿論、晴美さんが話を被せるなんて日常茶飯事のことなので彼女の質問に即答する。
「驚く事かしらね? あの子ずっと言ってたじゃない『みなとくんのお嫁さんになりたい』って」
「それは子どもの頃の話ですよね?! それに結婚なんて高校卒業してすぐにしなくったっていいじゃないですか! 夏実の成績、俺よりも晴美さん達の方がよく知っているでしょう?」
「えぇそうね。湊人くんのおかげで、夏実の成績は落ちる事なくずっと上の中をキープしている。それは私もうちの人もとても感謝しているし、1年の時から志望する進学先の学部や学科を決めていたし、2年の時も担任から何も言われる事なく安寧に過ごしてきたと思う」
「だったらなんで急に夏実が『受験はやめて俺と結婚したい』なんて言うんですか?!」
晴美さんの言う通り、高校2年までは全く問題なかった。
高校は俺の出身校へ行きたいと言っていた夏実は、大学選びの際に初めて俺が学んでいた学科とは違う系統の学科を選んで「これが学べる大学に行きたい!」とハッキリした意見を持っていた。
受験科目が俺の私大とはだいぶ異なったから、俺も夏実の受験科目を一から勉強して、夏実に理解してもらうよう必死で勉強を教えていた。
3年になってすぐの校内模試の結果を見せてもらった際、志望校の選択がどれも遠方の大学を選択していた事に違和感を持ったが夏実の興味を引く大学だったからこそ選択したんだろうし、当時は「大学生になったら遠距離決定かぁ」と軽いショックをおぼえつつ、直くんみたいに生まれ育った土地から離れて自分を見つめ直したい願望でもあるのかと思っていた。
「その件について、実は春からずっと担任と三者面談してたの」
晴美さんは自分の腕を組んで長い息を吐く。
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