【完結】彼女が18になった

チャフ

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俺と彼女の進む路(みち)

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 朝出た時と同じ門扉を開け、両親が手入れした庭を視界に入れる事なく、和風家屋の引き戸を開けてただいまの挨拶も言わずに家の中へ入った。

 居間に続く廊下を歩いていると、次第に中年女性二名のキャッキャした声が聞こえてきて、更に俺を苛立たせる。

(まったく! いつまでゲームに夢中に なってるんだこのババアどもは!! オヤジも止めろよ! 非常識!!)

「ちょっといいですか! 夏実の事で話があるんですが!!」

 イライラが最高潮に達した俺は居間に足を踏み入れるなり、アラ還4人に聞こえる声で怒鳴るように言い放った。

「「「「………………」」」」

 当然の事ながら4人の動きが止まり、低音ボイスの怒声に視線が一気に集中した。
 自分の声は然程さほど好きではないが、普通に挨拶しただけで社内の人間を注目させるこの声はこういう時非常に役に立つ。

「湊人おかえり」

 50インチの4Kテレビから聞こえる、アラサーには懐かしいアニメを思い出させる小動物的鳴き声とBGMが、母親の一言を何ともマヌケにさせる。

(よりにもよってそのゲームかよ……確かに去年の年末夏実がどハマりしてたけど)

 そのマヌケさで自分の怒りがヘナヘナと萎えていくのを感じながら、俺は頭を抱えてダイニングテーブルに鞄を置いた。

「和明さん晴美さんと夏実の件で話したいからゲームはもう中断してほしい……あと、オヤジは酒引っ込めてもらっていいかな」

 そしてなるべく声を落ち着け、俺の希望を4人に声掛けする。

 和明さんは酔いがだいぶ回ったのか、その場にゴロンと寝転び、残りの3人は俺に向かってガッカリしたような表情を向けていて、まるで「なんだ、結婚の話じゃないのか」とでも言いたげな様子だった。

 こうなると、一番顔を不機嫌にするのは夏実の母親で

「うちの人、そっちに寝かしていい?」

 と、お袋に確認し、お袋もお袋で

「じゃあお布団取ってくるね……そっちは掛け布団お願いね」
「はいはい」

 と、いつも友達同士でお泊りしてるかのような慣れた感じでお袋と親父はサラッと行動する。

(これは俺と晴美さんとの一騎打ちだな)

 俺は覚悟を決めた。
 正直、緩衝材となる和明さんも話に加わって欲しかったけど今回は仕方ない。

 夏実の両親と俺の両親は年齢が近く、皆アラ還世代だ。
 しかし比較的穏やかな性格の俺の両親とは違い、夏実の母親は自己主張が一際強い人間性を持っている……要は、自分の意見を曲げないのだ。

 お袋の話では、昔は今程ではなかったのだそうだ。
 27年前に菜央ちゃん直くんというやんちゃな双子を出産し、その9年後40歳で女の子を出産した女性というものは、ライフスタイルの変化に伴って心も強くたくましくなっていくものなのかもしれない。
 そんな、俺にとってはやや緊張してしまう夏実の母親——薗田晴美さんが、俺と向かい合うようにダイニングテーブルの席に着き、直後に俺は頭を下げて口を開く。

「まずは、二泊の外泊を許可して下さりありがとうございました。ご協力下さり感謝しています」

 晴美さんは昔から、「まずは礼儀がないと私は話をしない」と俺によく言っていた。

「それと、夏実さんの今朝の弁当や夕食もとても美味しく頂きました。ありがとうございます」

 だから、いきなり本題を出してはいけない事は俺も心得ていて

「まぁ、なっちゃんが喜んでいたからね。指輪も自慢してきたし、こっちとしては幸せそうで良かったなぁと思っただけよ。湊人くんもしっかりしてる大人なんだから、外泊は親としてもそれ程心配してなかったのよ」

 と、優しい口調で返事をしてくれた。

 自分の子ども達以上に、俺にだけ強く「話をするにはまず御礼から」を徹底させたのは恐らく、俺と夏実が男女の関係になる事を夏実の幼少期からそれとなく予想していたからなのだろうと俺は考える。
 俺の両親も夏実の両親も、俺と夏実が交際する事について誰も反対しておらず、2年前に「付き合います」と4人の前で宣言した時は「ようやくこの日が来た!!」と皆諸手もろてを挙げて喜んでくれた程だ。


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