45 / 317
俺と彼女の進む路(みち)
9
しおりを挟む朝出た時と同じ門扉を開け、両親が手入れした庭を視界に入れる事なく、和風家屋の引き戸を開けてただいまの挨拶も言わずに家の中へ入った。
居間に続く廊下を歩いていると、次第に中年女性二名のキャッキャした声が聞こえてきて、更に俺を苛立たせる。
(まったく! いつまでゲームに夢中に なってるんだこのババアどもは!! オヤジも止めろよ! 非常識!!)
「ちょっといいですか! 夏実の事で話があるんですが!!」
イライラが最高潮に達した俺は居間に足を踏み入れるなり、アラ還4人に聞こえる声で怒鳴るように言い放った。
「「「「………………」」」」
当然の事ながら4人の動きが止まり、低音ボイスの怒声に視線が一気に集中した。
自分の声は然程好きではないが、普通に挨拶しただけで社内の人間を注目させるこの声はこういう時非常に役に立つ。
「湊人おかえり」
50インチの4Kテレビから聞こえる、アラサーには懐かしいアニメを思い出させる小動物的鳴き声とBGMが、母親の一言を何ともマヌケにさせる。
(よりにもよってそのゲームかよ……確かに去年の年末夏実がどハマりしてたけど)
そのマヌケさで自分の怒りがヘナヘナと萎えていくのを感じながら、俺は頭を抱えてダイニングテーブルに鞄を置いた。
「和明さん晴美さんと夏実の件で話したいからゲームはもう中断してほしい……あと、オヤジは酒引っ込めてもらっていいかな」
そしてなるべく声を落ち着け、俺の希望を4人に声掛けする。
和明さんは酔いがだいぶ回ったのか、その場にゴロンと寝転び、残りの3人は俺に向かってガッカリしたような表情を向けていて、まるで「なんだ、結婚の話じゃないのか」とでも言いたげな様子だった。
こうなると、一番顔を不機嫌にするのは夏実の母親で
「うちの人、そっちに寝かしていい?」
と、お袋に確認し、お袋もお袋で
「じゃあお布団取ってくるね……そっちは掛け布団お願いね」
「はいはい」
と、いつも友達同士でお泊りしてるかのような慣れた感じでお袋と親父はサラッと行動する。
(これは俺と晴美さんとの一騎打ちだな)
俺は覚悟を決めた。
正直、緩衝材となる和明さんも話に加わって欲しかったけど今回は仕方ない。
夏実の両親と俺の両親は年齢が近く、皆アラ還世代だ。
しかし比較的穏やかな性格の俺の両親とは違い、夏実の母親は自己主張が一際強い人間性を持っている……要は、自分の意見を曲げないのだ。
お袋の話では、昔は今程ではなかったのだそうだ。
27年前に菜央ちゃん直くんというやんちゃな双子を出産し、その9年後40歳で女の子を出産した女性というものは、ライフスタイルの変化に伴って心も強く逞しくなっていくものなのかもしれない。
そんな、俺にとってはやや緊張してしまう夏実の母親——薗田晴美さんが、俺と向かい合うようにダイニングテーブルの席に着き、直後に俺は頭を下げて口を開く。
「まずは、二泊の外泊を許可して下さりありがとうございました。ご協力下さり感謝しています」
晴美さんは昔から、「まずは礼儀がないと私は話をしない」と俺によく言っていた。
「それと、夏実さんの今朝の弁当や夕食もとても美味しく頂きました。ありがとうございます」
だから、いきなり本題を出してはいけない事は俺も心得ていて
「まぁ、なっちゃんが喜んでいたからね。指輪も自慢してきたし、こっちとしては幸せそうで良かったなぁと思っただけよ。湊人くんもしっかりしてる大人なんだから、外泊は親としてもそれ程心配してなかったのよ」
と、優しい口調で返事をしてくれた。
自分の子ども達以上に、俺にだけ強く「話をするにはまず御礼から」を徹底させたのは恐らく、俺と夏実が男女の関係になる事を夏実の幼少期からそれとなく予想していたからなのだろうと俺は考える。
俺の両親も夏実の両親も、俺と夏実が交際する事について誰も反対しておらず、2年前に「付き合います」と4人の前で宣言した時は「ようやくこの日が来た!!」と皆諸手を挙げて喜んでくれた程だ。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる