【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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【番外編 その後のお話】 ドア越しの営み

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「ねぇユウちゃん、眠れないならこのまま会話続けちゃう?」

 するとドア越しから明るい提案をジュンから持ちかけられた。

「会話って、どんな話?」

 私の質問に彼は間髪入れず

「ユウちゃんが楽しくなるような明るい話だよ。勿論!」

 という返事が返ってきた。

「明るい話かぁ……」
「うん♪ まだまだ早い話かもしれないけどぉ~双子の赤ちゃんの性別どっちかなぁとか」
「うん……確かに早過ぎるね」
「ユウちゃんはどっちがいい? 俺はねー、女の子! だって絶対美人双子になるに決まってるから!!」
「絶対って……」
「ユウちゃん美人だし、妹さんも綺麗な人だし」
「皐月はまぁ……そうだけど」
「ユウちゃんは後ろ向きだなぁもっと自分のルックスに自信持ってよー!」

 ジュンは自信満々で、しかも明るく楽しそうに私に話している。

「えー……自分の顔を褒めるって、変な人じゃない?」
「そんな事ないよ! 9月の事務研修の日さぁ、久しぶりに会社の面々に顔合わせた時のどよめきは凄かったじゃあん!」
「事務研修って、広瀬さんを家に泊めた夜の話?」
「そうそう! 次の日、俺誇らしかったんだから! いろんな意味で!!」
「んー……」
「あっユウちゃんまた後ろ向きに考えてる! じゃあ男の子の可能性も考えてみようよ! ユウちゃんはどんな男の子が生まれると思う?」
「うーん……2人共タカパンさんみたいな、実直で職人気質な子?」
「タカパンってそれ兄貴ー! なんでそこは俺似じゃないんだよっ! 1人くらい俺ソックリの子を想像してよ! 2人も居るんだからさっ!!」
「髪質はジュンとソックリになるんじゃない? 茶色のふわふわとしたウェーブヘア」
「似るのそこだけ?!」
「髪だけじゃなくて対人スキルも高いと思うよ。キヨさんみたいなお喋り好きでリーダーシップが取れて」
「キヨさんってそれ親父ー! じゃなくて俺似って言ってよだからぁ~!!」
「はいはい。ジュンにソックリな男の子が生まれると思うよー絶対」
「棒読みやめてよーユウちゃんっ」

 底抜けに明るいジュンにつられて、私も喋る口が止まらない。

「っていうかさぁ……男の子と女の子って場合もあるよね」
「確かにそうだよねぇ~双子育児は大変だろうけど幸せも2倍なんだろうな」
「そうね」
「俺、ちゃんと育児するから!仕事と両立させるから!!」
「いいよジュンは頑張り過ぎなくても。ジュンはこれから出張多くなるし忙しかったら朝香ちゃんや亮輔くんに手伝ってもらうよ」
「それ……一番怖いんだよなぁ。亮輔くんの事を『パパ』って認識しそうでさぁ」
「ないでしょ、流石に」
「いやいやあるんだよ! マジであるんだよそういう話っ!」
「心配しなくてもジュンの出張期間は毎晩ビデオ通話でやり取りしてあげるから」

 次第に笑いが込み上げてきて、会話の語尾に笑い声がつくようになってきた。


 スマホで時刻を確認したら真夜中の時間帯に差し掛かっていた。
 所謂夜の営みというものを繰り広げている時間帯だというのに、先週の妊娠発覚以降肌の触れ合いはしていないし今日に至ってはベッドの上にジュンの姿すらない。
 なのにドキドキやときめきを今も感じている。

(「夫婦」を営んでいるんだなぁ……ドア越しでも、私達は)

 距離は離れていて私達との間にドアが阻まれているのに、心は密着して触れ合っているような気分になっていた。

「ふふふっ」
「笑い過ぎユウちゃん! あはは」
「ジュンだって笑ってんじゃん!」

 ドア越しの会話であっても心が満たされている。夫婦関係を営んでいる。

「だって楽しいんだもん♡ 愛妻との会話が♡」
「そんなに楽しいんだ?」
「物理的な触れ合いがなくても『ラブラブな夫婦生活がしっかり出来てる』って実感出来てるから」
「……」

 そしてそれはジュンにとっても同じだったようで……

「ユウちゃんだって、きっと俺と同じ事を考えている筈だよ」

 私の、「心は密着して触れ合っている」や「心が満たされている」をごく簡単でストレートな言葉に変換出来てしまうジュンの能力に感服すると共に……

「そうね、ジュンといつまでもこういう時間を作っていきたいな」

 お腹の痛みや吐き気が吹き飛んでいき、気持ちの余裕が生まれてくる事に感謝をした。

「作ろうよ毎日。少しの時間であっても」
「そうね」

「さっき未来の話をしちゃったけどさぁ、双子の赤ちゃんが生まれたらその日からラブラブ4人家族に昇格だよ? ますます会話の時間が楽しくなりそうだね!!」
「そうね。ジュンの言う通りだわ、何もかも」

 私達は今濃密に「夫婦の営み」をしていて最高に幸せな気分なのだと改めて実感する。

「明日はいっぱい寝ようね。洗濯や掃除、俺頑張るから!」
「うん」
「ユウちゃんが体を休めれば休めるほどお腹の赤ちゃん達も可愛くスクスク成長するだろうし、俺とユウちゃんの笑い声もいっぱい聞かせてあげようよ」

 それと同時に「お腹の中へと愛情をたくさん注いであげよう」という意味合いの言葉は、私の幼少期のトラウマを溶かして消し去ってくれるような気がしてならなかった。

「うん……」

 私の頑固な悩みも、今夜はドアの向こう側から降り注いでくれるジュンの愛情で溶かしてしまおう。

 私は素直に頷き、お腹に手を当てて……。


「あなたのパパはね、とっても素敵で格好良い人なのよ」

 とジュンに聞こえないくらいの声で囁き、お腹に向かって優しく声掛けしてあげたのだった。





《おしまい》
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