【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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【番外編 その後のお話】兄弟になろう(side亮輔)

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「!」

(すっげぇ力持ちっ!! 俺より10㎝以上背が低くくて細身体型なのにっ!!)

 あの時襟首掴んで持ち上げたのが夢だったんじゃないかと思うくらい、俺の腰を片腕で抱えてソファにストンとしたジュンさんの身体からはとてつもないエネルギーを感じてビビる。

「掃除完了したし、ユウちゃんに言ってくるよ」

 ジュンさんはニコニコしたまままた三脚を小脇に挟むと、親指をクイッとダイニングの方に向け

「『言ってくる』って、掃除終わった事ですか?」

 んだろうという空気を感じ取りながらも逆張りをする。

「違う違うっ! 忘年会の形式を、だよ! 
 『男の子チームと女の子チームに分けよう』って提案をしてくるの。会の幹事様に♪」

 やっぱりジュンさんの単なる掃除完了報告ではなく、俺と2人きりで乾杯をしたかったようで

 お姉さんに小言を言われて弱々しくなるジュンさんの声が聞こえ……数分後に

「じゃあ、乾杯しよっか♪ 2人で!!」

 ノンアルコールビールの缶やグラスを乗っけた丸型トレイと、美味しそうな料理の数々を乗せた大型長角トレイの両方を軽々と持ちながら俺の前まで戻ってきた。

「……本当に2人で乾杯する気なんですか?」
「する気満々だよ♪」

 俺の問いにジュンさんはウキウキしながらノンアルコールビールをグラスに移し、俺にグラスを持たせる。

「亮輔くん! 1年間お疲れ~!! かんぱーい!!」

 軽快に音頭をとるジュンさんに気負けして

「っす」

 俺もグラスを持ち上げ本当の意味での「乾杯」をした。

「おっ♪ イケる口だね亮輔くん♪」

 空にしたグラスに注ぎ直ししながらジュンさんはニヤリと笑ったり

「まぁ、アルコール入ってないから一気飲みしてもって感じですし」
「あははっ♪ そうだよねっ! 確かにっ!!」

 俺の冷静な返しにすぐ「30代半ばのオッサン」さながらの変顔やセルフツッコミをしてきたりと、ジュンさんはとにかく明るい。

(本当にこんな人がお姉さんと結婚の約束をしたんだよな……)

 おめでたい事ではあるんだけれど、お姉さんの真逆ともいえるこんなチャラ男と結婚するなんて、天国へ旅立った皐月さんもビックリしていそうだ。

(まぁ、初対面であんな事があってカッとなって襟首掴んだ俺が判断する事じゃないけど)

 とはいえあの真面目で「温かな家族を自分で作る事が出来たら良いなぁ」と時々口にしていたお姉さんが見初めた人なんだから、俺がとやかく言う筋合いはない。

「亮輔くん、就活大変でしょ。凹んだり焦ったりしてない?」
「えっ?」

 ジュンさんはいきなり俺に、何の前置きもなくそんな事を言ってきて

「俺の会社、小さいメーカーだけど良い人達ばっかりなんだよ。今度OB訪問しにおいでよ! 絶対に損はさせないから」
「OB訪問、ですか?」
「うん、俺、亮輔くん達の大学出身なの♪ 知ってた?」

 俺が就活で上手くいっていない事を見透かしているような表情を向けた。

「……」
「俺の会社、商社との繋がりはあるけど笠原グループの息がかかってないとこばっかりだし気楽なんじゃないかなぁ」
「……」
「まぁ、就活まだ始まったばかりだしそこまで企業ランク下げる必要もないかもだけど」

 俺はかなりビックリしていた。
 エントリーシートの段階で企業から落とされ続けていて、しかもそれは実の兄貴が大企業の経営者という権力を振り翳して多方面の関連会社に圧力をかけて俺の就活を阻もうとしているのが理由だなんて……そんな恥ずかしい内容、お姉さんにもあーちゃんにも話していなかったからだ。

「いえ……毎日凹んだり焦ったりしてるのは事実なんで。OB訪問のお誘いは嬉しいです」
「そぉ? なら良かった♪
 笠原って超がつくほど有名な名字持ってるからこそしなくてもいい苦労しなくちゃだし、それまでも色々あっただろうし……亮輔くんは大変だよね。いつもいつも頑張っているよね」

 ジュンさんは超能力でも持っているんだろうか?
 
「……」

 普通なら「余計なお世話だ」と反論したくなるような発言を今もポンポン口から出しまくっているというのに

「でもね、いつかきっと亮輔くんそのものを見てくれて持ち前の頑張りや誠実さを買ってくれる企業は出てくるよ。大丈夫。
 焦らなくていいし、頑張りすぎなくてもいいんだよ」

 俺の心に沢山響いて……その全てに温もりを感じてしまう。

「ジュンさん……」

 テンションが高いチャラ男満載ではあるけれど、その温かさでお姉さんをこれまで何回も救ってきたんだろうなって想像出来たし

「今日のバイトも色々あったのかな?でもね、凹まなくていいんだよ。大丈夫だよ。
 カテキョのバイト、すげー難しくて大変だもん。悩むって事はそれだけ亮輔くんが真剣に取り組んでいる証拠だよ」
「……」

 今日だってずーっと俺の事を褒めてくれるし、労ってくれるし

「ユウちゃんと結婚しても、俺達仲良くこうやって男子会しよう……兄弟みたいにさっ♪」

 さっきまで抱えていた悩み全てを溶かしてしまえるくらい、ジュンさんの優しい頭なでなでは本当の意味で温かかった。

「はい……」

 俺の両目からは涙がたくさんこぼれてきて、実の兄貴よりもジュンさんは「理想的なお兄ちゃん」なんだとその時実感したんだ。
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