108 / 113
【番外編 その後のお話】兄弟になろう(side亮輔)
3
しおりを挟む
「!」
(すっげぇ力持ちっ!! 俺より10㎝以上背が低くくて細身体型なのにっ!!)
あの時襟首掴んで持ち上げたのが夢だったんじゃないかと思うくらい、俺の腰を片腕で抱えてソファにストンとしたジュンさんの身体からはとてつもないエネルギーを感じてビビる。
「掃除完了したし、ユウちゃんに言ってくるよ」
ジュンさんはニコニコしたまままた三脚を小脇に挟むと、親指をクイッとダイニングの方に向け
「『言ってくる』って、掃除終わった事ですか?」
そうではないんだろうという空気を感じ取りながらも逆張りをする。
「違う違うっ! 忘年会の形式を、だよ!
『男の子チームと女の子チームに分けよう』って提案をしてくるの。会の幹事様に♪」
やっぱりジュンさんの単なる掃除完了報告ではなく、俺と2人きりで乾杯をしたかったようで
お姉さんに小言を言われて弱々しくなるジュンさんの声が聞こえ……数分後に
「じゃあ、乾杯しよっか♪ 2人で!!」
ノンアルコールビールの缶やグラスを乗っけた丸型トレイと、美味しそうな料理の数々を乗せた大型長角トレイの両方を軽々と持ちながら俺の前まで戻ってきた。
「……本当に2人で乾杯する気なんですか?」
「する気満々だよ♪」
俺の問いにジュンさんはウキウキしながらノンアルコールビールをグラスに移し、俺にグラスを持たせる。
「亮輔くん! 1年間お疲れ~!! かんぱーい!!」
軽快に音頭をとるジュンさんに気負けして
「っす」
俺もグラスを持ち上げ本当の意味での「乾杯」をした。
「おっ♪ イケる口だね亮輔くん♪」
空にしたグラスに注ぎ直ししながらジュンさんはニヤリと笑ったり
「まぁ、アルコール入ってないから一気飲みしてもって感じですし」
「あははっ♪ そうだよねっ! 確かにっ!!」
俺の冷静な返しにすぐ「30代半ばのオッサン」さながらの変顔やセルフツッコミをしてきたりと、ジュンさんはとにかく明るい。
(本当にこんな人がお姉さんと結婚の約束をしたんだよな……)
おめでたい事ではあるんだけれど、お姉さんの真逆ともいえるこんなチャラ男と結婚するなんて、天国へ旅立った皐月さんもビックリしていそうだ。
(まぁ、初対面であんな事があってカッとなって襟首掴んだ俺が判断する事じゃないけど)
とはいえあの真面目で「温かな家族を自分で作る事が出来たら良いなぁ」と時々口にしていたお姉さんが見初めた人なんだから、俺がとやかく言う筋合いはない。
「亮輔くん、就活大変でしょ。凹んだり焦ったりしてない?」
「えっ?」
ジュンさんはいきなり俺に、何の前置きもなくそんな事を言ってきて
「俺の会社、小さいメーカーだけど良い人達ばっかりなんだよ。今度OB訪問しにおいでよ! 絶対に損はさせないから」
「OB訪問、ですか?」
「うん、俺、亮輔くん達の大学出身なの♪ 知ってた?」
俺が就活で上手くいっていない事を見透かしているような表情を向けた。
「……」
「俺の会社、商社との繋がりはあるけどあの笠原グループの息がかかってないとこばっかりだし気楽なんじゃないかなぁ」
「……」
「まぁ、就活まだ始まったばかりだしそこまで企業ランク下げる必要もないかもだけど」
俺はかなりビックリしていた。
エントリーシートの段階で企業から落とされ続けていて、しかもそれは実の兄貴が大企業の経営者という権力を振り翳して多方面の関連会社に圧力をかけて俺の就活を阻もうとしているのが理由だなんて……そんな恥ずかしい内容、お姉さんにもあーちゃんにも話していなかったからだ。
「いえ……毎日凹んだり焦ったりしてるのは事実なんで。OB訪問のお誘いは嬉しいです」
「そぉ? なら良かった♪
笠原って超がつくほど有名な名字持ってるからこそしなくてもいい苦労しなくちゃだし、それまでも色々あっただろうし……亮輔くんは大変だよね。いつもいつも頑張っているよね」
ジュンさんは超能力でも持っているんだろうか?
「……」
普通なら「余計なお世話だ」と反論したくなるような発言を今もポンポン口から出しまくっているというのに
「でもね、いつかきっと亮輔くんそのものを見てくれて持ち前の頑張りや誠実さを買ってくれる企業は出てくるよ。大丈夫。
焦らなくていいし、頑張りすぎなくてもいいんだよ」
俺の心に沢山響いて……その全てに温もりを感じてしまう。
「ジュンさん……」
テンションが高いチャラ男満載ではあるけれど、その温かさでお姉さんをこれまで何回も救ってきたんだろうなって想像出来たし
「今日のバイトも色々あったのかな?でもね、凹まなくていいんだよ。大丈夫だよ。
カテキョのバイト、すげー難しくて大変だもん。悩むって事はそれだけ亮輔くんが真剣に取り組んでいる証拠だよ」
「……」
今日だってずーっと俺の事を褒めてくれるし、労ってくれるし
「ユウちゃんと結婚しても、俺達仲良くこうやって男子会しよう……兄弟みたいにさっ♪」
さっきまで抱えていた悩み全てを溶かしてしまえるくらい、ジュンさんの優しい頭なでなでは本当の意味で温かかった。
「はい……」
俺の両目からは涙がたくさんこぼれてきて、実の兄貴よりもジュンさんは「理想的なお兄ちゃん」なんだとその時実感したんだ。
(すっげぇ力持ちっ!! 俺より10㎝以上背が低くくて細身体型なのにっ!!)
あの時襟首掴んで持ち上げたのが夢だったんじゃないかと思うくらい、俺の腰を片腕で抱えてソファにストンとしたジュンさんの身体からはとてつもないエネルギーを感じてビビる。
「掃除完了したし、ユウちゃんに言ってくるよ」
ジュンさんはニコニコしたまままた三脚を小脇に挟むと、親指をクイッとダイニングの方に向け
「『言ってくる』って、掃除終わった事ですか?」
そうではないんだろうという空気を感じ取りながらも逆張りをする。
「違う違うっ! 忘年会の形式を、だよ!
『男の子チームと女の子チームに分けよう』って提案をしてくるの。会の幹事様に♪」
やっぱりジュンさんの単なる掃除完了報告ではなく、俺と2人きりで乾杯をしたかったようで
お姉さんに小言を言われて弱々しくなるジュンさんの声が聞こえ……数分後に
「じゃあ、乾杯しよっか♪ 2人で!!」
ノンアルコールビールの缶やグラスを乗っけた丸型トレイと、美味しそうな料理の数々を乗せた大型長角トレイの両方を軽々と持ちながら俺の前まで戻ってきた。
「……本当に2人で乾杯する気なんですか?」
「する気満々だよ♪」
俺の問いにジュンさんはウキウキしながらノンアルコールビールをグラスに移し、俺にグラスを持たせる。
「亮輔くん! 1年間お疲れ~!! かんぱーい!!」
軽快に音頭をとるジュンさんに気負けして
「っす」
俺もグラスを持ち上げ本当の意味での「乾杯」をした。
「おっ♪ イケる口だね亮輔くん♪」
空にしたグラスに注ぎ直ししながらジュンさんはニヤリと笑ったり
「まぁ、アルコール入ってないから一気飲みしてもって感じですし」
「あははっ♪ そうだよねっ! 確かにっ!!」
俺の冷静な返しにすぐ「30代半ばのオッサン」さながらの変顔やセルフツッコミをしてきたりと、ジュンさんはとにかく明るい。
(本当にこんな人がお姉さんと結婚の約束をしたんだよな……)
おめでたい事ではあるんだけれど、お姉さんの真逆ともいえるこんなチャラ男と結婚するなんて、天国へ旅立った皐月さんもビックリしていそうだ。
(まぁ、初対面であんな事があってカッとなって襟首掴んだ俺が判断する事じゃないけど)
とはいえあの真面目で「温かな家族を自分で作る事が出来たら良いなぁ」と時々口にしていたお姉さんが見初めた人なんだから、俺がとやかく言う筋合いはない。
「亮輔くん、就活大変でしょ。凹んだり焦ったりしてない?」
「えっ?」
ジュンさんはいきなり俺に、何の前置きもなくそんな事を言ってきて
「俺の会社、小さいメーカーだけど良い人達ばっかりなんだよ。今度OB訪問しにおいでよ! 絶対に損はさせないから」
「OB訪問、ですか?」
「うん、俺、亮輔くん達の大学出身なの♪ 知ってた?」
俺が就活で上手くいっていない事を見透かしているような表情を向けた。
「……」
「俺の会社、商社との繋がりはあるけどあの笠原グループの息がかかってないとこばっかりだし気楽なんじゃないかなぁ」
「……」
「まぁ、就活まだ始まったばかりだしそこまで企業ランク下げる必要もないかもだけど」
俺はかなりビックリしていた。
エントリーシートの段階で企業から落とされ続けていて、しかもそれは実の兄貴が大企業の経営者という権力を振り翳して多方面の関連会社に圧力をかけて俺の就活を阻もうとしているのが理由だなんて……そんな恥ずかしい内容、お姉さんにもあーちゃんにも話していなかったからだ。
「いえ……毎日凹んだり焦ったりしてるのは事実なんで。OB訪問のお誘いは嬉しいです」
「そぉ? なら良かった♪
笠原って超がつくほど有名な名字持ってるからこそしなくてもいい苦労しなくちゃだし、それまでも色々あっただろうし……亮輔くんは大変だよね。いつもいつも頑張っているよね」
ジュンさんは超能力でも持っているんだろうか?
「……」
普通なら「余計なお世話だ」と反論したくなるような発言を今もポンポン口から出しまくっているというのに
「でもね、いつかきっと亮輔くんそのものを見てくれて持ち前の頑張りや誠実さを買ってくれる企業は出てくるよ。大丈夫。
焦らなくていいし、頑張りすぎなくてもいいんだよ」
俺の心に沢山響いて……その全てに温もりを感じてしまう。
「ジュンさん……」
テンションが高いチャラ男満載ではあるけれど、その温かさでお姉さんをこれまで何回も救ってきたんだろうなって想像出来たし
「今日のバイトも色々あったのかな?でもね、凹まなくていいんだよ。大丈夫だよ。
カテキョのバイト、すげー難しくて大変だもん。悩むって事はそれだけ亮輔くんが真剣に取り組んでいる証拠だよ」
「……」
今日だってずーっと俺の事を褒めてくれるし、労ってくれるし
「ユウちゃんと結婚しても、俺達仲良くこうやって男子会しよう……兄弟みたいにさっ♪」
さっきまで抱えていた悩み全てを溶かしてしまえるくらい、ジュンさんの優しい頭なでなでは本当の意味で温かかった。
「はい……」
俺の両目からは涙がたくさんこぼれてきて、実の兄貴よりもジュンさんは「理想的なお兄ちゃん」なんだとその時実感したんだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。
アンコール マリアージュ
葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか?
ファーストキスは、どんな場所で?
プロポーズのシチュエーションは?
ウェディングドレスはどんなものを?
誰よりも理想を思い描き、
いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、
ある日いきなり全てを奪われてしまい…
そこから始まる恋の行方とは?
そして本当の恋とはいったい?
古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。
━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━
恋に恋する純情な真菜は、
会ったばかりの見ず知らずの相手と
結婚式を挙げるはめに…
夢に描いていたファーストキス
人生でたった一度の結婚式
憧れていたウェディングドレス
全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に
果たして本当の恋はやってくるのか?

初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる