【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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あなたと、一緒に……

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 私の夢は皐月の夢でもあった。

 皐月は大学で教職課程を取っていて教師になる事を夢見てはいたけれど、「お姉ちゃんの理想とする空間で家族みんなで味わったのと同じコーヒーを飲みたいしそのお手伝いもしたい」と言っていた。

(けれど……皐月が一言一句、裕美さんにその通りの言葉を言いお願いしたのだとしたら……それは……)

『私、皐月ちゃんがお金を用意していた以上にビックリしたのよ。
 まるで「夕紀ちゃんが珈琲豆専門店を開店する頃に自分は居ない」と予言しているみたいだったんだもの』

 私はちょうど、スマホから聞こえる裕美さんの言葉と同じ内容を考えていて

「……」

 それは……今思えば、それほど皐月がその時点でだった事がうかがえる。

『それで私は夕紀ちゃんがお店を開いた5年前の10月18日にコーヒーノキの苗を買えるだけ買って、パパは前よりも広い温室を作って育てる事にしたの。
 10月18日は遠野くんの誕生日でもあったから』
「……」

 私の知らないところで皐月は死期を悟り、裕美さんに謝罪し、花の持つ言葉の意味を託そうとしたのだろう。

 皐月にも父と同じ血は流れてはなかったけれど、ある意味親子のように似た部分を持っていたのかもしれない。

『来年の6月、あの温室にはきっと沢山の花が咲くわ。
 だから必ず遊びに来てね。朝香も亮輔くんも、それから夕紀ちゃんの大切な人も、みんなみんな呼んでいいから。
 ……白い花が一斉に咲く様子を、みんなで観ましょうね』


 コーヒーの花言葉は「一緒に休みましょう」


 それは、楽しい事ばかりでないこの世の中で生きる私達だからこそ必要な言葉であって……

 生き急ぐ足をほんの少しだけでも止めて

 深呼吸をしながら、ゆったりと心地よい歩幅で

 明日に向かって一歩ずつ進んでほしいというエールに聞こえる。



「はい」

 私の目からはもう何度目か分からなくらいの涙が流れ落ちていて

 目を閉じると、毎夜夢に出てきた黄緑色の温かな雨空が映像のようにありありと感じられた。

『そうだ、夕紀ちゃん。6月に入ったらいっぱいグアテマラを焙煎しておいてね。いつでもこっちに持って来れるように』

 視界を閉じた私には裕美さんの温かで優しい声はコーヒーの白い花みたいに感じられ、その花々は私の想像の中でたくさん降り注いでいく……。

「はい、必ず持っていきます。
 たくさんの白い花を見ながら、グアテマラアンティグアを飲みたいです。
 私の大切な人達と……みんなで」




 私は夢みたいな想像をしていた。

 キラキラと輝く萌黄色の、あの家の庭の中で

 青磁色のコーヒーカップをみんなが手にしていて、上空を見上げていて

 キャラメリゼされたジューシーなスープみたいなものを飲み込んでは、降り注ぐ花々に手を伸ばし受け取っている。

 
 そんな、夢でしかないような想像ではあったけれど

 とても幸せで幸せでたまらない、素敵な想像で


「約束を、必ず果たしますから」


 私は希望ある約束を師匠に告げ、通話を切り日付も時刻も切り替わった事を知っても……


 優しくトントンとジュンの指が私の背中を叩いても……


「ありがとう、ジュン」


 夢みたいな幸せが私の中に満ち満ちていた。







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