【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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あなたと、一緒に……

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 けれど、それからすぐに私が托卵である事が発覚して親戚関係も父の仕事周辺も更にこじれてしまって、父は新しい土地での職探しや再婚で頭がいっぱいになってしまった。

 新しい土地での新しい生活は、父の方が大変だったけれど私も私で心に余裕がなく、時々義郎さん裕美さんから送られてくるグアテマラアンティグアのコーヒーが唯一の癒しになっていたのだけれど……

「四角い箱は陶器でしたよね? 義郎さんがコーヒーの花を入れる為だけに作った……」

 けれどやっぱり、義郎さん裕美さんからの愛情を全て受け取る事は、父も私も出来ずにいた。

『うん、そうよ。昔、青磁色のコーヒーカップをパパと遠野くんの2人で作った事があったでしょ? 今夕紀ちゃんが持ってるカップ。
 パパはね、遠野くんが毎日精一杯になりながら生活してるんじゃないかって心配してたの。遠野くんは自分の事を後回しにして、夕紀ちゃんの幸せばかり願っている人って理解していたから。
 だから、あのカップと同じ青磁色の小箱を作ってコーヒータイムのほんの一瞬でも良いからその小箱や花を見て癒してもらいたかったの』
「……すみません、父が。義郎さん裕美さんの温かな気持ちを無視するみたいな態度を取って」

 父は一度も、義郎さんが陶器の小箱を作っていた事もコーヒーの花の事も話題に出さなかった。

『いいのよ。無視したんじゃなくて、んだって、私達は受け止めていたから』

 あの頃、月に一度のペースで焙煎豆が送られてきた。
 きっとその荷物を開封していたのは専業主婦の母と、いつも母のそばにくっついていた皐月だったのだろう。

「きっと、父は陶器の小箱や花の存在を知らなかったんだと思います」
『手紙も入れなかったしただの小物入れみたいな箱だから、きっとそのまま皐月ちゃんの手に渡ったんだろうね』

 皐月は焙煎豆と一緒に同梱されていた陶器を母よりも早くに見つけ、手に取り……そこから香るジャスミン香にハッと気付いたに違いない。
 皐月は花に詳しい子だから、焙煎豆と共に送られてきた箱の中身にすぐ気付き、父や母にその存在を知らせるよりも早く勉強机に齧り付いている私の元へその花を届けたのだ。


ーーー

『お姉ちゃん、良いものを、あげるね』

『匂いもね、ちょっとだけ、するから』

ーーー


 年に一度……確か6月頃だったと思う。
 皐月は3回ともそうやって箱を両手に包んで私の部屋へ飛び込み、そう言って優しくその箱をあけて私に見せてくれていた。

 皐月に質問しても、花の名前を教えてくれなかった。
 それを言い訳にしてはならないけれど、当時の私はそれ以上花に関心を持つことはなく義郎さん裕美さんに今の今まで不義理をしたままでいたのだった。


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