【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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2月の陸橋

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 「そばにいて」とジュンに告げた20分後———

「良い写真だね。『雨上がり』みたいな晴れやかさがあるというか」

 彼は皐月の写真や仏壇に手を合わせていた。

「……ありがとう。お線香上げてくれて」

 部屋のドアを開け放っている先から私が呼び掛けると

「寧ろこの状況下でしないなんてヒトじゃないでしょ」

 ジュンはそう優しく言って私に歩み寄り頭を撫でた。

「……ありがとう」

 ジュンの優しさや温かさが、今日は一段とみる。

「ありがとうを言うのは俺の方だよ」
「なんでよ。私、ジュンに感謝してもしきれないのに」
「ユウちゃんが俺に『ありがとう』って言ってくれる事こそ、感謝してもしきれないからね」

 私はこんなジュンの事が一段と好きになれたと思うし、この場で優しく触れてくれる彼の態度を本当にありがたいと感じていた。

(だから……尚更……)

 今この部屋の冷蔵庫に食料がみっちり詰め込まれていない事を激しく後悔していて

「あ♪ 今、お腹の音がシンクロしちゃったね♡」
「うん……空いたよね、お腹」

 とっても恥ずかしい。

「そうだねーユウちゃんの作るうどん、楽しみにしちゃってる♡」
「かけうどんに近いうどんになっちゃうからねっ! スーパーで買い足しとかしてないんだから」

「うんうん♡ ごめんね俺もワガママ言っちゃって。だって買い物とかで一瞬でもユウちゃんと手を離すだなんて耐えられなかったんだもん♡」

 しかも冷蔵庫の残り物だけでやりくりしないといけなくなったのが、そんなくだらない理由で

「……まぁ、私もずっとくっついていたかったから……別にいいんだけど」

 私も私で、帰宅するまでずっと彼の温もりを感じていたかったのだからどうしようもない。

「俺も手伝おうか? ネギ切ったりとか出来るかも♪」
「イヤよ。『出来るかも』なんて言う人に調理の手伝いしてもらうの」
「じゃあ、うどん用の器出しちゃおうっかなっ」
「いいよいいよ。ジュンは座ってて」
「えー、なんかお客さんみたいじゃん。それじゃ」
「立派なお客さんでしょ、ジュンは」

 今もこうして下らない会話するのが楽しくて仕方なく、ジュンの体を抱き締めながらゆっくりとリビングの真ん中へと彼を引き込んでダイニングテーブルの椅子に座らせ

「じゃあ、大人しく待ってていい?」
「うん……」

 彼の温もりからしばし離れる事への慰めとばかりに私はエプロンをキュッと締めた。




「えっ? ちょっとちょっとちょっとちょっと!!!!
 うどんのモチモチ感も出汁も卵のトロトロ感も完璧なんだけど!!!!」
「へ?」
「『へ?』じゃないよユウちゃん!! 本当にこのうどん10分で作ったの??!!! 窓開けて大声で叫びたいくらいに絶品なんだけど!!!!」
「お腹空いてるからじゃない? 大袈裟なのよジュンは」

 私はただフツーに冷凍うどんを使ってササッと簡単に提供したつもりでいたから、彼のオーバーリアクションにビビる。

「じゃあ、このうどん麺がお取り寄せとかの高級なヤツとか?」
「なわけないでしょ。どこにでもある5玉入りの冷凍麺よ」
「じゃあじゃあこのお出汁は??! 昆布と鰹節の香りがめちゃくちゃ良くって五臓六腑にすうぅぅって優しく染み渡っていくような美味過ぎる美味なうどん出汁はまさか北海道の高級利尻昆布と高知の本枯れ節をお取り寄せ……」
「だからお取り寄せじゃなくて24時間営業のスーパーで買った安い出汁用昆布と徳用花かつおだってば」
「じゃあじゃあじゃあネギは? 卵は??」
「確かにネギは初恵さんの店のだし、卵はタカパンさんが卸してるところと一緒だけど」
「はあぁ? 兄貴と同じ卵使っててこんな美味いの?? なんなのユウちゃん料理の天才なの?
 っていうか、卵は割といいヤツ使ってんじゃん!! 天才だけど卵はちゃんとしてんじゃん! なんなのよユウちゃんってばもう!!!!」

 テンションがたかぶり過ぎてジュンは半ギレを起こしていた。

「まぁ、一人暮らしだから卵に関してはスーパーで買うよりも手間かからなくて良いのよその方が。私の店でも卵使うから」
「にしてもユウちゃん詐欺に近いよこれは! なぁにが『大したもの作れない』だよ!! こんなに美味しいかけうどん食べた事ないっての!!! お願いだからもっと自分の料理の腕に自信持ってよ!!!!」

 ジュンはそう言いながらあっという間に目の前のネギと卵しか乗っていないうどんを平らげ

「ごちそうさまでしたっっ!! ワガママ言っていいならうどんもう一玉お代わりっ!!」
「おつゆもうないから釜玉うどんでいい?」
「釜玉大好きだよユウちゃんの次くらいに好きだよよろしくお願いしまっす!!」

 半ギレしてるんだか半泣きしてるんだか分からない様子でお代わりをねだってきて面白い。

「分かったから落ち着いてよジュン」

 私はまだ食べ途中だったんだけど、仕方なく彼の空になった器を手に取ってキッチンへと振り返った。

(褒めてくれるのは嬉しいけど、それって絶対に空腹と深夜のテンションの所為でしょ。まだ時刻的に深夜とは呼べないかもしれないけど)

 私の作ったものを大好きな人に喜ばれるというのは嬉しい……けど、初見でここまで異常に喜ばれると逆に困ってしまう。
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