92 / 113
2月の陸橋
2
しおりを挟む「朝香ちゃん、閉店時間になったからすぐに上がっちゃってね」
15時30分からの4時間。
私はとにかく弟子を不安がらせないよう仕事に徹した。
「ありがとうございます! 夕紀さん♪」
それはとても辛い事であったけれど、SSR的な笑顔を見るとその頑張りも報われた気がしてくる。
「明日からの亮輔くんとの旅行、楽しんできてね」
「はいっ! 明日は祝日ですし夕紀さんにとって大事な日なんですから、ゆっくりと体を休めて1日過ごして下さいね」
「うん、そうする♪」
「勿論、ご自身のお体を良い意味で甘やかしちゃって下さいねっ!」
「フフッ、そうする♪」
「絶対に絶対にスペシャルなお土産、いっぱい用意して帰ってきますからっ!! そこはりょーくんと意見が一致してますんでっ!!」
やっぱり朝香ちゃんは元気で可愛い。
自然と笑みがこぼれてしまうし、やはり私は師としてこの笑顔を守りたいと改めて思った。
「ほらほらこんなところで油売ってないで……って、亮輔くんが迎えに来たよっ!」
私は店のシャッターを締める直前に長身男性の姿を視界に入れるとすぐに弟子の背中をポンポンと叩き身支度を急がせる。
「お姉さんこんばんは♪」
それからすぐに勝手口を開け、サラッとした黒髪マッシュショートの亮輔くんを店内に迎え入れた。
「こんばんは亮輔くん。明日からの旅行、楽しみにしてるんじゃない?」
上目遣いでイジワルな言い方をしてみると
「っ」
彼は瞬間的に首から上を真っ赤にさせて恥ずかしそうに目を伏せた。
「フフッ♪ そりゃそうよね♡ 大好きな朝香ちゃんとの初一泊旅行だもの♡」
「それは……はい、そうですね。彼女の隣に歩けている今がめちゃくちゃ幸せですし」
亮輔くんとは皐月の件で色々あったものの、やはり彼の行動そのものはピュアで可愛らしいと感じる。
(手紙が読めなくなったから、皐月の真意は分からないまま……
だけど、皐月が亮輔くんにも想いを寄せた気持ちは分かるのよね)
妹を自身の出来得る全てを使って救おうとしてくれた亮輔くん。
叶わず散ってしまった彼の初恋は、今、こうして私の「第二の妹」である朝香ちゃんへと実を結んでいる。
「うん♡ 道中気をつけて。めいいっぱい楽しんでね♡」
私は「旅行」で父と母を亡くしたから、どうしても「事故に気をつけて」がすぐに口をついてしまう。
だから彼と彼女に暗い気持ちにならないよう、いつも以上に愛情持った声掛けに努めたし
「はいっ!! お姉さんにいっぱいお土産買いますからねっ!! 期待してて下さいね!!」
やはり亮輔くんの幸せや笑顔も、朝香ちゃん同様見守りたいと強く思った。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
アンコール マリアージュ
葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか?
ファーストキスは、どんな場所で?
プロポーズのシチュエーションは?
ウェディングドレスはどんなものを?
誰よりも理想を思い描き、
いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、
ある日いきなり全てを奪われてしまい…
そこから始まる恋の行方とは?
そして本当の恋とはいったい?
古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。
━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━
恋に恋する純情な真菜は、
会ったばかりの見ず知らずの相手と
結婚式を挙げるはめに…
夢に描いていたファーストキス
人生でたった一度の結婚式
憧れていたウェディングドレス
全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に
果たして本当の恋はやってくるのか?

初めから離婚ありきの結婚ですよ
ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。
嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。
ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ!
ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる