【完結】この花言葉を、君に

チャフ

文字の大きさ
上 下
91 / 113
2月の陸橋

1

しおりを挟む

「ごめん……ごめん、ユウちゃん」

 私は少し泣いて、その間ジュンが背中を撫でてくれていた。

 単純に悲しかった。
 ずっとこのままうずくまって
 ずっとずっと泣いていたかった。でも……


(でも……私はもう子どもじゃない)

 歯を食い縛り、私は立ち上がる。

(泣いてなんかいられないんだ……私の所為で商店街みんな困惑しているし、その不穏な空気が今店番してる朝香ちゃんに伝わるのはもっと嫌だ)

「ユウちゃん……」

 私はジュンから半歩離れ、それから振り返る。

「大丈夫だから。私は」

 視界に入ったジュンはとても心配そうに私を見つめている。

「本当よ! もう大丈夫。
 ジュンは『ごめん』って何回も言うけど、それって結果論でしょ。きっとあなたから取り壊し日を聞いたとしても『皐月の手紙を取りに行こう』という気持ちにはならなかったと思う」
「ユウちゃん」
「昨日から取り壊し作業始まって、清さんの退院は今日だった……それが運命なんだって思う事にする」

 冷静に考えると確かにそうなるのだ。
 どんなifがあろうとも、皐月の手紙は無くなってから切望する……きっと私はどの道こうなっていた筈だ。

「集会所に戻るよ。心配かけてごめんね、ジュン」
 
 だから私は彼に向かって精一杯笑ってみせた。


 ジュンと早足で集会所に戻ると、予想通り重苦しい空気に包まれていて、田上くん初恵さん清さんから「ごめんなさい」を沢山言われた。

「私はもう大丈夫です。これ以上ここに居たら弟子に迷惑かかるので店に戻らせていただきます。こちらこそご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした」

 私は皆に深々と頭を下げ、気丈に振る舞う事にした。
 それは私の本意でもあったけれど、正直「隣にジュンが居てくれる」という安心感から出来たと言っても良い。

「清さんがお世話になった方は、今出来うる仕事を真っ当したに過ぎないと私は解釈しています。清さんについた嘘とやらは聞かなかった事にします。
 ですから、清さんがその方に感謝の意を込めて花束を贈る気持ちも棄てずにいてほしいと私は願いますし、田上くん奥さんにはご自身のお考えでご判断されてほしいです。そこに私への情は込めない方が今回の場合良いのではないでしょうか」

 私は皆にまっすぐ目を向けて、最後にこんなお願いをした。

「私からの個人的な要望は一つです。
 今回の話はここにいらっしゃる皆様のお心に留め、多言を避けてもらいたいのです。
 特に私の弟子である朝香ちゃんと、過去に深く関わっている亮輔くんには……知らないままでいてほしいんです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

アンコール マリアージュ

葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか? ファーストキスは、どんな場所で? プロポーズのシチュエーションは? ウェディングドレスはどんなものを? 誰よりも理想を思い描き、 いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、 ある日いきなり全てを奪われてしまい… そこから始まる恋の行方とは? そして本当の恋とはいったい? 古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。 ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ 恋に恋する純情な真菜は、 会ったばかりの見ず知らずの相手と 結婚式を挙げるはめに… 夢に描いていたファーストキス 人生でたった一度の結婚式 憧れていたウェディングドレス 全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に 果たして本当の恋はやってくるのか?

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

処理中です...