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誤解

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「皐月は『お姉ちゃんに今教えるのはもったいない』ってその時言っていたの。
 なんか、その『今』っていうのが気になって仕方がなくて……」
「うん?」

 確かにあの時皐月は「今」という言葉を使った。
 しかも3回ともだ……さっきのうたた寝で夢として出てきてはいたけれど、幻ではなかった。

「私は昔から花の知識がなかった。それは皐月も知ってる。
 そんな私に対して『今教えるのは』って言ったのは何かしらの意味があるんじゃないかって思うのよ」
「なるほどね」

 ジュンは私を見つめたままコーンスープを飲み干して

「ユウちゃんは自力でその花と向き合いたいんだね」

 私との間に滞留する空気を読む。

「うん」

 私がコクンと頷くと

「うん、『それでこそユウちゃん』って感じする。かっこいいよ」

 ジュンはニッコリ微笑んで手を差し出した。

「だから過大評価し過ぎだってば……」

 彼の優しさに応えようと、私は熱い指に自分のを絡める。

「そういうところ、好き♡」

 ジュンの肌の熱さは心地良いし、声もくすぐったくって

「意地悪しないでよ……もう♡」

 自分の気持ちに正直になるとこんなに楽になれるんだという単純な事を知る。

「応援するよ、俺はユウちゃんの全てを」
「ありがとうジュン。いつか、皐月が投げかけたものに応えられるようになりたい……かなぁ」

 そしていつもいつも、ジュンは私に優しく接してくれているんだと理解した。

「ユウちゃんならきっと……ううん、絶対に出来るよ」

 中庭を照らすオレンジ色の間接照明がジュンの髪に赤みを添える。


「気持ち、落ち着いてきた。ありがとうジュン」




 私は素直に微笑んでいた。











 その何時間も後……


 私は自分のベッドの上で、またあの黄緑色の夢を見ていた。


 上からは白い雪のようなものがチラチラと舞い降りてきていて、私の指に触れると消え……その部分が温まる。


 私の周囲はジャスミンの香りが充満していて、ジャスミンティー色の優しい空間に包まれているかのようだった。




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