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誤解

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「4人家族で暮らし始めてしばらくした頃かなぁ……6月頃だったと思う。
 皐月が四角い箱を手にして私のところに駆け寄ってきてね、『この箱を開けて』って言うの」

 ジュンの缶から立ち昇るとうもろこしの甘い香りがトマトスープの酸味を和らげ豊かにする。
 それを感じながら私は昔話をジュンにした。

「その箱の中身が『花』だったの? 香りとか覚えてる?」
「ジャスミンの香りがしたのよね」
「えっ? ジャスミンって、コレ?」

 ジュンはすぐにスマホでジャスミンの花の画像を検索して私に画面を向ける。

「うん、そう。こんな花」
「え? それじゃあジャスミンなんじゃないの? 花の名前」
「それがね、皐月は花の名前を教えてくれなかったのよ」

 私はスマホ画面に映る白い花の画像を目視した後でそれを突き返した。

「なんで?」
「それは私が知りたいくらいよ。花が『ジャスミン』ならすぐに教えてくれたっていいのに」
「珍しいのかなぁジャスミンって。ジャスミンティーとかあるくらいだからそんなに珍しくもなさそうだよね?」
「その時私は高校生だったし、ジャスミンくらいなら理解出来た筈なのよ」
「けど、妹さんは教えなかったのか……ユウちゃんに意地悪したのかな?」

ーーー

『秘密だよ♪ お姉ちゃんに今教えるのはもったいないからね♪』

ーーー

「いや……単にもったいぶってる感じがしたかなぁ」

 私は当時の皐月の笑顔……すなわち、先程夢に出てきた幼い皐月の表情を思い起こしながら答えた。

「もったいぶる……かぁ。じゃあ、後々明かす予定だったのかな」

 これに関しては謎が多く分からない事だらけなのだ。

「箱に入った花を持ってきたのは3回。4回目は来なかったのよ」
「えっ? ……3回?」
「うん、4人家族でなくなった次の年から無くなったの。私も皐月も、両親が急に居なくなったから箱の花の事を気にしてられなくなったのもあるんだけどね」
「妹さんは結局ユウちゃんにその花の名前を明かさず……になっちゃったんだね」
「そうね……」

 時期は梅雨に入る手前頃。
 3回中3回とも、私が勉強に集中している時に皐月が部屋のドアをノックして……

ーーー

『お姉ちゃん』

ーーー

 無邪気に茶色のウェーブヘアを揺らしてひょっこり現れて……それで。


ーーー

『いい匂いだね、お姉ちゃん』

『この花ね、すぐにしおれちゃうの。だからこの箱は私が持っておくね』

ーーー

 
 2人で箱を開けて、白くて小さな花を見て匂いを嗅いだら「バイバイ」って、皐月は手を振って部屋から出て行くのだ。



「不思議な感じだね」
「うん……だから余計に気になってしまうのよね」
「健人に訊いてみたら?答えが見つかるかもよ?」

 ジュンはその不可解な謎を解く糸口を私に示してくれたんだけど、私は首を左右に振って拒否をする。
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