78 / 113
誤解
1
しおりを挟む「4人家族で暮らし始めてしばらくした頃かなぁ……6月頃だったと思う。
皐月が四角い箱を手にして私のところに駆け寄ってきてね、『この箱を開けて』って言うの」
ジュンの缶から立ち昇るとうもろこしの甘い香りがトマトスープの酸味を和らげ豊かにする。
それを感じながら私は昔話をジュンにした。
「その箱の中身が『花』だったの? 香りとか覚えてる?」
「ジャスミンの香りがしたのよね」
「えっ? ジャスミンって、コレ?」
ジュンはすぐにスマホでジャスミンの花の画像を検索して私に画面を向ける。
「うん、そう。こんな花」
「え? それじゃあジャスミンなんじゃないの? 花の名前」
「それがね、皐月は花の名前を教えてくれなかったのよ」
私はスマホ画面に映る白い花の画像を目視した後でそれを突き返した。
「なんで?」
「それは私が知りたいくらいよ。花が『ジャスミン』ならすぐに教えてくれたっていいのに」
「珍しいのかなぁジャスミンって。ジャスミンティーとかあるくらいだからそんなに珍しくもなさそうだよね?」
「その時私は高校生だったし、ジャスミンくらいなら理解出来た筈なのよ」
「けど、妹さんは教えなかったのか……ユウちゃんに意地悪したのかな?」
ーーー
『秘密だよ♪ お姉ちゃんに今教えるのはもったいないからね♪』
ーーー
「いや……単にもったいぶってる感じがしたかなぁ」
私は当時の皐月の笑顔……すなわち、先程夢に出てきた幼い皐月の表情を思い起こしながら答えた。
「もったいぶる……かぁ。じゃあ、後々明かす予定だったのかな」
これに関しては謎が多く分からない事だらけなのだ。
「箱に入った花を持ってきたのは3回。4回目は来なかったのよ」
「えっ? ……3回?」
「うん、4人家族でなくなった次の年から無くなったの。私も皐月も、両親が急に居なくなったから箱の花の事を気にしてられなくなったのもあるんだけどね」
「妹さんは結局ユウちゃんにその花の名前を明かさず……になっちゃったんだね」
「そうね……」
時期は梅雨に入る手前頃。
3回中3回とも、私が勉強に集中している時に皐月が部屋のドアをノックして……
ーーー
『お姉ちゃん』
ーーー
無邪気に茶色のウェーブヘアを揺らしてひょっこり現れて……それで。
ーーー
『いい匂いだね、お姉ちゃん』
『この花ね、すぐにしおれちゃうの。だからこの箱は私が持っておくね』
ーーー
2人で箱を開けて、白くて小さな花を見て匂いを嗅いだら「バイバイ」って、皐月は手を振って部屋から出て行くのだ。
「不思議な感じだね」
「うん……だから余計に気になってしまうのよね」
「健人に訊いてみたら?答えが見つかるかもよ?」
ジュンはその不可解な謎を解く糸口を私に示してくれたんだけど、私は首を左右に振って拒否をする。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる