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ロックミュージックの6連打
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しおりを挟む『お姉ちゃん』
『今年もこの花、一緒に見よう?』
『箱、開けてみて』
『匂い……する?どう?』
『えっ? 花の名前は何かって?
秘密だよ♪ お姉ちゃんに今教えるのはもったいないからね♪』
「!!」
私の耳に激しい6連打が響き渡り、ハッと目を見開く。
「あ、ごめん。ユウちゃんを起こしちゃった」
次の瞬間、右隣からジュンの明るい声が聞こえて
「こちらこそごめん……寝ちゃった」
しばらくうたた寝していた事を彼に謝る。
「いいよ。深夜だもん眠くなるのは当たり前だし、ちょうどユウちゃんのマンションに着いていつ起こそうかなぁなんて思ってたところだったし」
「ああ……本当にごめん、運転をジュンに完全に任せてた……」
ジュンはマンションの駐車場前に車を一時停止させていて
「車庫入れまでしてあげるよ」
「ああ……ごめん」
「部屋番号と一緒?駐車ナンバーは」
「ああ……うん……番号は」
寝ぼけた頭で私は自分の部屋番号を告げ、ジュンに車庫入れしてもらう。
「じゃあ、曲もここで終わりっと」
エンジン停止と共にスピーカーから流れていたロックミュージックが止んで
「ごめんジュン……ジュンの好きな曲まで聴けなくて」
手にしていたジュンのスマホ表示から、彼のお気に入り曲手前で到着してしまったと理解した。
「ううん、続きはまた今度♪」
「えっ?」
ジュンはニコニコ顔で運転席から降り、助手席側のドアを開ける。
「今度の機会でいいから、一緒に聴こうねユウちゃん♡」
そう言い手を差し伸べる彼の笑顔は、さっきのうたた寝で見た夢に一瞬だけ重なって……
「私……名前をすっごく知りたかった花があったの、思い出した」
「ジュンのお気に入り曲を今度一緒に聴こう」よりも早く、そのセリフが自分の口から漏れた。
「名前を知りたかった花?」
当然の事、ジュンは首を傾げる。
「ごめん……曲も聴きたい気持ちもちゃんとあるんだけど」
「それは嬉しいけどさ、『花』も気になるよ?」
「そうだよね……ごめん、私、寝ぼけてるのかも」
確かに私は今、思考が混乱していていた。
「ユウちゃん、さっきから『ごめん』って言い過ぎだよ?」
「うん……ごめん、ジュン」
「ほら、また『ごめん』って謝ってるよ」
「ああ……本当だ、ごめん」
ジュンに何度言われても、私は「ごめん」を止められない。
(さっきのは夢? ……それとも、記憶?)
そのくらい、うたた寝していた時脳内に流れた映像みたいなものに驚いていたんだ。
「ユウちゃん、部屋まで行ける?ついていってあげようか?」
ジュンは邪な思いなく、私を心配しているようだ。
「エントランスで、落ち着こうかな」
このままジュンと私の住む部屋まで入っていっても構わないとも考えたけれど、「そういえばこのマンションには24時間利用出来るフリースペースがあった」と思い直す。
「ソファとかあるんだっけ?」
「うん。そこで落ち着いたらちゃんとエレベーターに乗ってちゃんと帰れるから」
「そっかぁ~流石だね! 俺のワンルームマンションとは違うや」
「私もまだ利用した事ないんだけどね」
私はジュンと手を繋いでエントランスの自動ドアを解除して、質の良い革製のソファが置かれているスペースへと連れて行く。
朝香ちゃんと亮輔くんが住むマンションには実質的な喫煙ルームとなっている似たスペースがあるのだけれど、私のマンションには喫煙ルームとは別に中庭を有するちょっとしたフリースペースが設けられていた。
「中庭だ♪ オシャレ~」
「1人で住んでると余計にこういうところ利用しないのよね。自販機もあるんだけど」
「まぁ、自販機の缶よりもユウちゃんのコーヒーが美味しいだろうしね~」
私は自販機の前に立ち、あたたかなコーンスープとトマトスープを購入すると、2人掛けの茶色いソファに並んで腰掛け
「缶コーヒーも嫌いじゃないんだけどね」
と言いながら、トマトスープの缶を開封した。
「……で? さっきの『名前を知りたかった花』の話って? 聞いてみたいな♪」
ジュンもコーンスープの缶を開け、ニコニコ顔で私の話を聞こうとする。
「大した話じゃないのよ」
期待に満ちた彼のニコニコ顔が眩しく、夢で見た内容を話すのを少々躊躇ったけれど
「あのね、結構前の話になるんだけど」
「ロックミュージシャンが鳴らした6連打も何かの縁だ」と……その内容をジュンにゆっくり説明する事にした。
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