【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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ロックミュージックの6連打

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「どうしたの?ユウちゃん♡」

 ジュンは空気を読むのが上手い。
 しかも運転席と助手席という至近距離距離。
 私の頬の変化を見逃す筈がなかった。

「どうしたのって、そりゃあ……」

 ジュンは真っ直ぐに進行方向を向いていて、こちら側からは横顔しか見えていないのに

「健人から聞いた? 俺が実家帰らなくなった理由とか」
「……うん」

(イケメン……よね、ジュンって。本当に)

 自信あり気にクッと上がった口角は、ただでさえ高い鼻をスッと一層スマートに印象付けてこっちのドキドキが止まらない。

「もうフラないでね♡ 俺のこと♡」
「何よ『フラれたなんて思ってない』って言った癖にっ! 私の所為にしないでよねまったくっ!」
「ショックではあったからね、一応」
「っていうか私の事なんか関係なく家族とちゃんと向き合いなさいよっ……もうっ」

 恥ずかしくてたまらなかった。

「フフッ♡」
「揶揄わないでよっ! 私をっ」
「ユウちゃん可愛い♡」

 恥ずかしくてたまらなくて

「そういえばっ……清さんは入院生活どうなの? 清さんの事だから看護師さんやお医者さんと楽しくコミュニケーションとってるんじゃない?」

 清さんが入院を楽んでいそうなイメージを脳内に浮かべてみた。

「まぁ……そうだね。親父は俺以上にコミュ力高いし、めちゃくちゃ楽しんでるよ今の状況」

 ジュンも私に合わせて、話題を完全に「清さん」へとシフトさせる。

「清さんの事だから、看護師さんよりもお医者さんとか理学療法士さんとかと仲良くしてそう」
「確かにそうだねー。リハビリもやってるんだけどさ、リハビリ教えてくれてる先生……理学療法士さんかな?その人とめちゃくちゃ仲良くなってるよ」
「そっかぁ……やっぱりねー」
「まだ20代で息子より若いのにさ、俺ら家族の誰よりもその先生の言う事聞くんだよ。なかなか博識だから余計にね」
「へぇ~優秀な方なのね」
「新婚さんらしいよ」
「あらまぁ」
「本当は、もっと早くに結婚するつもりだったんだって。だけどタイミングがなかなか上手くいかなかったとかなんとか」
「ふぅん20代で『もっと早くに』だなんて、学生時代からお付き合いとかしてたのかしらね」
「らしいよー。根掘り葉掘り先生にプライベートな事を訊いちゃう親父も良くないんだけど、先生も結婚に関してはめちゃくちゃ嬉しそうにしてたっぽい。結婚に5年くらいかかったみたいだから」
「5年……かぁ。結婚を阻むような障害とかあったのかしら?」
「なんかねー『タイミング』だったみたいだよ?仕事とか色々あったんじゃない? タイミングなんて」
「仕事が軌道に乗ったらとか、そんな感じ?」
「かもね。『両家共に認められた』って言ってたみたい」
「今が幸せなら良かったんでしょうね、このタイミングで」
「だろうね♪」

 清さんの話題っていうかほぼ「リハビリの先生」の話になっちゃっていたんだけど、私も温かな気持ちになりホッコリとしていた。

「いいわねぇ~……長いお付き合いを経ての、幸せな結婚とか」

 リハビリの先生に会った事がないから顔や姿を想像出来ない……けれどきっと良い恋愛を経てきたカップルなんだろうなと思う。

「そうだね♪ いいよねぇ結婚♡
 ユウちゃんも憧れるんじゃない? そういうの」
「私はどうだろうなぁ……想像出来ないかも」
「想像?」
「うん……やっぱり私には『幸せな家族』そのものに実感が湧かないから」

 ……けど、自分はどうだろうか?
 ジュンにようやく自分の想いを告げられたのに
 キスも、出来たのに。
 どうしてもこの「大好き」と「結婚」がリンクしない。

「そっか……」

 ジュンは私と同じく、しっとりとしたトーンに変える。

「ごめんね、ジュン。フッてるつもりはないんだけど」
「いいよ……俺は今、ユウちゃんと気持ちが繋げられたってのだけで嬉しいし」

 ジュンはちゃんと私の気持ちに寄り添ってくれていた……今もちゃんと空気を読んで私に合わせてくれている。

「多分ね、皐月に対して後ろめたさがあるのかも。あの子は医学部の彼氏との恋がうまくいかなかったから」
「……医学部の、彼氏かぁ」
「それと、亮輔くんとも。亮輔くんは朝香ちゃんとの縁が繋がって幸せだから良いんだけど」

 皐月はある意味、恋愛ごとに縁がなかったのかもしれない。
 私の前では「彼にたくさんプレゼントをもらえて幸せ」「今まで食べた事ないような豪華なお食事が出来て幸せ」って顔をしていたけれど、心では泣いていたんだろうと思う。

 何も知らない私は、単純に皐月を妬んだ。私が居ない間に2人の男を家に呼んでいたと知った時も「自由に恋愛出来たならいいじゃないか」と良くも悪くも思った。

 けれどもその思いは「罪」だった。
 皐月は皐月なりに目の前の藁を掴んだだけだったのだ。

 だから……いや、その代償として、今私が掴んだジュンという名の藁に実感が持てないのだろう。
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