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ロックミュージックの6連打

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 サービスエリアからの帰り道、なんとなく無音でいるのが恥ずかしくなって「音楽でも聴く?」という話になった。

「俺ね、音楽のサブスクやってんの。ユウちゃんの車のスピーカーと繋いでいい?」

 エンジンをかけてすぐにジュンは自分のスマホ画面を私に見せてくれたんだけど

「まぁ……いいけど、別に」

 機械に疎いので生返事で了承すると、サクッと無線で繋いでそのスマホを私に「はい」と渡す。

「ユウちゃん、好きな曲を検索して自由にかけていいよ。
 俺は何系の曲でも運転出来るタイプだし、ユウちゃんが好きなアーティストとか知りたいし♪」

 ジュンは慣れた雰囲気で発車させて簡単にそんな事言うんだけど

「私、今どきの曲あんまり知らないしなぁ」

 音楽アプリのホーム画面を見つめながら首を傾けてしまう。

(サブスク……そっかぁジュンもやってるのかぁ)

 メッセージを秒で返してくる辺り、朝香ちゃんや亮輔くんくらいスマホを使いこなしているんだろうなと予想してもいた……けど、音楽のサブスクなんて高度な事を平気でやられてしまうと私が「時代に取り残されたオバさん」と示されているようで悔しい。

「別に今流行ってる曲でなくても良くない?俺もオジサンになっちゃってるから古いのばっかり聴いてるよー♪」
「オジサンって……それって私がオバさんって言ってるみたいじゃないっ」

 私の頭じゃ特定のアーティストなんて思い付かなかったから、検索ではなく再生履歴から探してみる事にした。


「あっ」

 ジュンはロックミュージックが好きらしく、再生履歴には「アーティスト名だけ知ってるけど曲は知らない」というものばかり。
 ……けれどもその中で唯一、私の指が止まったものがあった。

「何かいいの見つけた?」

 私の小さな息付きにジュンは優しく問い掛ける。

「10年くらい前にラジオで流れてた曲があったから」
「10年前? ……ああ、アレね! 車の中で俺も良く聴いてた!!」

 私の声にジュンは一瞬首を傾げたけれどすぐにそれが何かを理解し笑顔を見せる。

「うん、事務所でラジオ流れてたし」
「いいよ♪ それかけても。俺、めちゃくちゃ好きだからそのアーティスト♪」
「うっ、うんっ! 再生するね」

 彼の笑顔を見つめながら10年前に事務所でよく聴いていた曲名やアーティストを覚えていて良かったと本気で思ったし、第一営業所の所長が本社や他の営業所と違いFMラジオが大好きな人でラッキーだったと思った。
 今までジュンと音楽の話題に触れた事がない。けれども、FMラジオという繋がりがこの瞬間の私達を繋げていると知ると余計に嬉しい。

(良かった……ジュンもこの曲が好きで)


 曲が終わると、運転中のジュンからそのアーティストのアルバムをリクエストされた。

「このアルバムを一曲目からかけたら良いの?」
「うんうん。俺ね、そのアルバムの中の1番最後の曲が最高に好きなんだ!
 ちょうどその曲がかかる頃にユウちゃんのマンションに到着出来るだろうからね。ちょうど良いと思ってさ♪」

 明るい声で私にそう言ってきたので、さっきの曲だけでなく指定してきたこのアルバムもよく聴き込んでいるのだと理解した。

「分かった……」

 一曲目から再生させると軽快かつキャッチーなイントロが流れる。

「俺の親父ね、木曜日に退院出来そうなんだよ」
「えっ?」

 Aメロの始まりと共に、ジュンは突然キヨさんの病状について語り始めたので、私はビックリし音量を落とす。

「あはは♪ 音小さくしなくても良いよ。退院日をサラッと教えようと思っただけで重たい話をするつもりじゃないんだから」
「そうだけど……でも清さんの病状の話は重要じゃないっ。
 ジュンのお父さんなんだし、何より商店街ではなくてはならない人なんだもの」
「真面目だなぁユウちゃんは♪」

 私のリアクションに反してジュンはケラケラと笑う。

「だって……」
「マジでね、心配しなくて大丈夫だから。検査もだいたいの結果が出て問題なかったらしいからね。
 今は自宅で出来るケアを自分で学んでいて、親父自身楽しい入院生活を送ってるって感じ」

「そうなんだ……良かった」
「うん、腰以外は元気って感じだよ」

 安堵している様子の声色に私もホッとする。

「他に悪いところがなくてジュンも安心したんじゃない?」
「そうだねー怪我の功名ってヤツ? ギックリ腰になって2週間も入院なんて親父本人ショック受けてたんだよね初日は。
 だけどお袋も兄貴達も俺もさ『ゆっくりと時間をかけて人間ドッグしてもらってる気でいよう』って話になって」
「なるほど」

 キヨさんは中身が若いって気に私もなっているけれど、年齢でいえばになっている……ジュンが以前言っていた言葉で私もハッとしたくらいだ。

「まぁ、重い病気が見つかった訳じゃなく血液検査もオールクリアで本当に良かったよ。そこは息子の俺もホッとしてて」
「そりゃそうよね。商店街メンバーの私だって清さんに元気でいてほしいって思うくらいなんだもの。家族のジュンにとっては尚更でしょ?」
「うん……しばらく帰ってなかった自分を悔やんだからね。これを機に、定期的に顔見せないといけないなーって思ったよ」

 ジュンは今、「清さんの息子」としてその発言をしたんだろうけど


ーーー

『フラれる何時間か前に「彼女を紹介する」って清さんに報告してめちゃくちゃ浮かれてて、そっからの盛大フラれだから清さんに合わせる顔がなかったのかも』

ーーー


 ふいに田上くんから聞かされた「真相」を思い出したものだから私の頬は一気に熱くなった。

 
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