74 / 113
ロックミュージックの6連打
1
しおりを挟むサービスエリアからの帰り道、なんとなく無音でいるのが恥ずかしくなって「音楽でも聴く?」という話になった。
「俺ね、音楽のサブスクやってんの。ユウちゃんの車のスピーカーと繋いでいい?」
エンジンをかけてすぐにジュンは自分のスマホ画面を私に見せてくれたんだけど
「まぁ……いいけど、別に」
機械に疎いので生返事で了承すると、サクッと無線で繋いでそのスマホを私に「はい」と渡す。
「ユウちゃん、好きな曲を検索して自由にかけていいよ。
俺は何系の曲でも運転出来るタイプだし、ユウちゃんが好きなアーティストとか知りたいし♪」
ジュンは慣れた雰囲気で発車させて簡単にそんな事言うんだけど
「私、今どきの曲あんまり知らないしなぁ」
音楽アプリのホーム画面を見つめながら首を傾けてしまう。
(サブスク……そっかぁジュンもやってるのかぁ)
メッセージを秒で返してくる辺り、朝香ちゃんや亮輔くんくらいスマホを使いこなしているんだろうなと予想してもいた……けど、音楽のサブスクなんて高度な事を平気でやられてしまうと私が「時代に取り残されたオバさん」と示されているようで悔しい。
「別に今流行ってる曲でなくても良くない?俺もオジサンになっちゃってるから古いのばっかり聴いてるよー♪」
「オジサンって……それって私がオバさんって言ってるみたいじゃないっ」
私の頭じゃ特定のアーティストなんて思い付かなかったから、検索ではなく再生履歴から探してみる事にした。
「あっ」
ジュンはロックミュージックが好きらしく、再生履歴には「アーティスト名だけ知ってるけど曲は知らない」というものばかり。
……けれどもその中で唯一、私の指が止まったものがあった。
「何かいいの見つけた?」
私の小さな息付きにジュンは優しく問い掛ける。
「10年くらい前にラジオで流れてた曲があったから」
「10年前? ……ああ、アレね! 車の中で俺も良く聴いてた!!」
私の声にジュンは一瞬首を傾げたけれどすぐにそれが何かを理解し笑顔を見せる。
「うん、事務所でラジオ流れてたし」
「いいよ♪ それかけても。俺、めちゃくちゃ好きだからそのアーティスト♪」
「うっ、うんっ! 再生するね」
彼の笑顔を見つめながら10年前に事務所でよく聴いていた曲名やアーティストを覚えていて良かったと本気で思ったし、第一営業所の所長が本社や他の営業所と違いFMラジオが大好きな人でラッキーだったと思った。
今までジュンと音楽の話題に触れた事がない。けれども、FMラジオという繋がりがこの瞬間の私達を繋げていると知ると余計に嬉しい。
(良かった……ジュンもこの曲が好きで)
曲が終わると、運転中のジュンからそのアーティストのアルバムをリクエストされた。
「このアルバムを一曲目からかけたら良いの?」
「うんうん。俺ね、そのアルバムの中の1番最後の曲が最高に好きなんだ!
ちょうどその曲がかかる頃にユウちゃんのマンションに到着出来るだろうからね。ちょうど良いと思ってさ♪」
明るい声で私にそう言ってきたので、さっきの曲だけでなく指定してきたこのアルバムもよく聴き込んでいるのだと理解した。
「分かった……」
一曲目から再生させると軽快かつキャッチーなイントロが流れる。
「俺の親父ね、木曜日に退院出来そうなんだよ」
「えっ?」
Aメロの始まりと共に、ジュンは突然清さんの病状について語り始めたので、私はビックリし音量を落とす。
「あはは♪ 音小さくしなくても良いよ。退院日をサラッと教えようと思っただけで重たい話をするつもりじゃないんだから」
「そうだけど……でも清さんの病状の話は重要じゃないっ。
ジュンのお父さんなんだし、何より商店街ではなくてはならない人なんだもの」
「真面目だなぁユウちゃんは♪」
私のリアクションに反してジュンはケラケラと笑う。
「だって……」
「マジでね、心配しなくて大丈夫だから。検査もだいたいの結果が出て問題なかったらしいからね。
今は自宅で出来るケアを自分で学んでいて、親父自身楽しい入院生活を送ってるって感じ」
「そうなんだ……良かった」
「うん、腰以外は元気って感じだよ」
安堵している様子の声色に私もホッとする。
「他に悪いところがなくてジュンも安心したんじゃない?」
「そうだねー怪我の功名ってヤツ? ギックリ腰になって2週間も入院なんて親父本人ショック受けてたんだよね初日は。
だけどお袋も兄貴達も俺もさ『ゆっくりと時間をかけて人間ドッグしてもらってる気でいよう』って話になって」
「なるほど」
清さんは中身が若いって気に私もなっているけれど、年齢でいえばそういうお年になっている……ジュンが以前言っていた言葉で私もハッとしたくらいだ。
「まぁ、重い病気が見つかった訳じゃなく血液検査もオールクリアで本当に良かったよ。そこは息子の俺もホッとしてて」
「そりゃそうよね。商店街メンバーの私だって清さんに元気でいてほしいって思うくらいなんだもの。家族のジュンにとっては尚更でしょ?」
「うん……しばらく帰ってなかった自分を悔やんだからね。これを機に、定期的に顔見せないといけないなーって思ったよ」
ジュンは今、「清さんの息子」としてその発言をしたんだろうけど
ーーー
『フラれる何時間か前に「彼女を紹介する」って清さんに報告してめちゃくちゃ浮かれてて、そっからの盛大フラれだから清さんに合わせる顔がなかったのかも』
ーーー
ふいに田上くんから聞かされた「真相」を思い出したものだから私の頬は一気に熱くなった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
麗しのラシェール
真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」
わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。
ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる?
これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。
…………………………………………………………………………………………
短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる