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時をとめる7秒
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「飾らないユウちゃんがかっこよくて素敵だったし何より『噂話を吹き飛ばしてユウちゃんのナイトになりたい』って思ったから、俺も髪を黒く染めるの辞めて自然体でいるようにした。
茶色くて天然パーマのクリクリ頭だから最初はお客さんに変な目で見られたりもしたけど、『これが地毛でーす』って明るく笑い飛ばしたらなんとなく上手くいったし社内でもチャラ男系でいくようにしたら誰もユウちゃんに変な事言わなくなって『やった!!』って嬉しくなった」
「うん……」
私は、自分に降り掛かる噂なんてどうでも良くて先輩の原田さんに認めてもらえればそれだけで良かったし『真摯に仕事をして給料をもらえていれば雑音は気にしなくて良い』というつもりでいた。
「ユウちゃんに『ありがとう』って言われなくてもいい。ユウちゃんが毎日心地良くかっこよく仕事してもらえばそれで良かった……けど、やっぱり俺もその頃ガキみたいでさぁ、見返りが欲しかったのかも」
「それは……そうよね。20代だったんだもん」
だからこそ、穂高純仁というチャラさやウザさが私にとって一層際立って見えた。
「今なら思うよ『かっこよくて素敵過ぎるユウちゃんをそっと見守らなきゃいけない』って。
ユウちゃんは俺が想像する以上の高い志を持って生きているんだもん。俺が踏み込んじゃいけなかったんだ……ユウちゃんのそのビカビカーッとした領域に」
「……」
「7年前のあの頃さぁ、事務員用のシステムが大きく変わっただろ?
みんなマニュアル覚えて使いこなすのに必死になってる中、ユウちゃんはあっという間に全部理解して自分のものにしていっただけじゃなくて『誰もが使いやすいように』って更なる修正をシステム部に提案して部長と毎日意見ぶつけ合ってたじゃん?
あれ、本当にかっこいいって思ったしユウちゃんが毎晩遅くまで残業してるのを俺も一緒に手伝ってユウちゃんの頭脳と会社のあれこれの擦り合わせが出来ればいいなって思ってた」
ジュンは7年前の10月17日から18日に切り替わった瞬間の「昔話」をしているのだと……気付いていた。
「俺も外から帰ってきて、ユウちゃんと一緒に考えまとめて……ちゃんとした修正案が完成したーってなって、ユウちゃんにハイタッチ求めて」
「うん」
「ユウちゃんが『仕方ないなぁ』って眉を下げながら俺の手のひらにキレイな指をチョンっとくっつけてくれたら感情が爆発して……そのキレイな指をグッと強く掴んじゃって、キスしちゃった」
ーーー
『遠野さん……』
ーーー
7年前の10月18日。
0時00分00秒から7秒ほど……時が止まったかと、私は思った。
ーーー
『大好きだよ』
ーーー
0時00分00秒だった世界がまた動いたと気付いた瞬間、私の視界に入ったのは白や赤といった鮮やかな色彩だった。
乳「白」色の頬
照明が当たると鮮やかな「赤」みあるオレンジ色に透けるウェーブヘア
それから……紅を引いてない粗雑な私との重なり直後に潤んだ、艶のある薔薇色の唇
全てが眩しくて…………何よりも強かった。
私はその17時間後に会社を去る決心をしていたのに、私の強い意志を薔薇色の唇が強く強く揺さぶってきたんだ。
「俺ね、自分の中では段階を踏んだつもりでいたんだ。
食事に誘っても断られ続けていて『脈なしだよ』って皆に言われてたけど、一緒に仕事するのは楽しかったし一緒に修正案考えてた時なんてデートするなんかよりも楽しくって気持ちが繋がってるような気になって……俺の中で勝手に『仲良く出来てる』って思い込んで、段階を踏んだつもりのキスだったんだ」
「……」
「俺の手のひらに触れた指が……そうしてくれた気持ちが嬉しくて……それでつい、男の強引さを出して独占したくなった」
「……」
「だけど、ユウちゃん……いや、遠野夕紀さんはデスクを片付けずに鞄だけ持ってオフィスから出て行っちゃった」
「俺ね、まだその時も浮かれていたんだ。
『遠野さんは照れただけなんだ』って信じてやまなかった」
「……」
「俺ね、昔から他人の気持ちを読み取るのが上手いって言われてたんだ。
デートや食事を断られてても遠野さんに嫌われてないって確信があったし、あの日のキスも拒否された訳じゃないって感覚があった。
だから、その次の朝に日帰り出張行かなきゃいけなくて遠野さんの顔が見られなくても声が聞けなくてもなんとかなるって思ってた。
……ビックリしたのが、その日の夕方だよ。
原田さんから仕事中なのに電話きて何だろうって思ってとったらそれが『遠野さんが会社を辞めた』って報せでさ。『嘘だろ』って思った」
茶色くて天然パーマのクリクリ頭だから最初はお客さんに変な目で見られたりもしたけど、『これが地毛でーす』って明るく笑い飛ばしたらなんとなく上手くいったし社内でもチャラ男系でいくようにしたら誰もユウちゃんに変な事言わなくなって『やった!!』って嬉しくなった」
「うん……」
私は、自分に降り掛かる噂なんてどうでも良くて先輩の原田さんに認めてもらえればそれだけで良かったし『真摯に仕事をして給料をもらえていれば雑音は気にしなくて良い』というつもりでいた。
「ユウちゃんに『ありがとう』って言われなくてもいい。ユウちゃんが毎日心地良くかっこよく仕事してもらえばそれで良かった……けど、やっぱり俺もその頃ガキみたいでさぁ、見返りが欲しかったのかも」
「それは……そうよね。20代だったんだもん」
だからこそ、穂高純仁というチャラさやウザさが私にとって一層際立って見えた。
「今なら思うよ『かっこよくて素敵過ぎるユウちゃんをそっと見守らなきゃいけない』って。
ユウちゃんは俺が想像する以上の高い志を持って生きているんだもん。俺が踏み込んじゃいけなかったんだ……ユウちゃんのそのビカビカーッとした領域に」
「……」
「7年前のあの頃さぁ、事務員用のシステムが大きく変わっただろ?
みんなマニュアル覚えて使いこなすのに必死になってる中、ユウちゃんはあっという間に全部理解して自分のものにしていっただけじゃなくて『誰もが使いやすいように』って更なる修正をシステム部に提案して部長と毎日意見ぶつけ合ってたじゃん?
あれ、本当にかっこいいって思ったしユウちゃんが毎晩遅くまで残業してるのを俺も一緒に手伝ってユウちゃんの頭脳と会社のあれこれの擦り合わせが出来ればいいなって思ってた」
ジュンは7年前の10月17日から18日に切り替わった瞬間の「昔話」をしているのだと……気付いていた。
「俺も外から帰ってきて、ユウちゃんと一緒に考えまとめて……ちゃんとした修正案が完成したーってなって、ユウちゃんにハイタッチ求めて」
「うん」
「ユウちゃんが『仕方ないなぁ』って眉を下げながら俺の手のひらにキレイな指をチョンっとくっつけてくれたら感情が爆発して……そのキレイな指をグッと強く掴んじゃって、キスしちゃった」
ーーー
『遠野さん……』
ーーー
7年前の10月18日。
0時00分00秒から7秒ほど……時が止まったかと、私は思った。
ーーー
『大好きだよ』
ーーー
0時00分00秒だった世界がまた動いたと気付いた瞬間、私の視界に入ったのは白や赤といった鮮やかな色彩だった。
乳「白」色の頬
照明が当たると鮮やかな「赤」みあるオレンジ色に透けるウェーブヘア
それから……紅を引いてない粗雑な私との重なり直後に潤んだ、艶のある薔薇色の唇
全てが眩しくて…………何よりも強かった。
私はその17時間後に会社を去る決心をしていたのに、私の強い意志を薔薇色の唇が強く強く揺さぶってきたんだ。
「俺ね、自分の中では段階を踏んだつもりでいたんだ。
食事に誘っても断られ続けていて『脈なしだよ』って皆に言われてたけど、一緒に仕事するのは楽しかったし一緒に修正案考えてた時なんてデートするなんかよりも楽しくって気持ちが繋がってるような気になって……俺の中で勝手に『仲良く出来てる』って思い込んで、段階を踏んだつもりのキスだったんだ」
「……」
「俺の手のひらに触れた指が……そうしてくれた気持ちが嬉しくて……それでつい、男の強引さを出して独占したくなった」
「……」
「だけど、ユウちゃん……いや、遠野夕紀さんはデスクを片付けずに鞄だけ持ってオフィスから出て行っちゃった」
「俺ね、まだその時も浮かれていたんだ。
『遠野さんは照れただけなんだ』って信じてやまなかった」
「……」
「俺ね、昔から他人の気持ちを読み取るのが上手いって言われてたんだ。
デートや食事を断られてても遠野さんに嫌われてないって確信があったし、あの日のキスも拒否された訳じゃないって感覚があった。
だから、その次の朝に日帰り出張行かなきゃいけなくて遠野さんの顔が見られなくても声が聞けなくてもなんとかなるって思ってた。
……ビックリしたのが、その日の夕方だよ。
原田さんから仕事中なのに電話きて何だろうって思ってとったらそれが『遠野さんが会社を辞めた』って報せでさ。『嘘だろ』って思った」
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