【完結】この花言葉を、君に

チャフ

文字の大きさ
上 下
66 / 113
オクトーバーの祭を抜けて

4

しおりを挟む



「着いたよ、ユウちゃん」

 0時を回ってようやく、ジュンは車のエンジンを切った。

「ここってサービスエリア?」

 車を降りて辺りを見渡す私にジュンはスッと隣に寄り添い

「そう。この時間に食べる坦々麺は背徳の味がするんだ♪ ユウちゃんは来た事ない?」

 ニコニコ顔で「美味しいラーメン」の種明かしをする。

「初めて来た……確かに」

 ここは、関東圏で有数のサービスエリアで真夜中だというのに建物の照明で視界がとても明るい。

「1時間くらいで来れちゃうんだよ。結構近いでしょ」
「うん……」

 私は建物をまじまじと見上げる。

(車で1時間……なんか、父とドライブしてオムライスを食べた頃を思い出すなぁ)

「せっかく車を持ってるんだもん、たくさんドライブしてあげなくちゃ車にもユウちゃんにも悪いと思わない?」

 さっき私が「東京を離れる」と焦りのワードを言ったから、ジュンにも「私は普段ドライブをしない」という意味が伝わったのだと思う。

「私にも……?」

 けど、「悪い」の言葉が「車」の他に「私」にもかかっている事に違和感を持つ。

「そうだよ。車はね、必要な移動ばっかりし過ぎるのも良くないんだ。短距離ばっかりだと負担がかかるの」
「それは知識として知ってるけど」
「人間も一緒だよ。必要な移動必要な行動ばっかりとってると息が詰まるからね♪ たまにはちょっと悪い事をして力を抜いてあげるのも大事なんだ」


「悪い事……」

 そしてジュンの言葉の意味を知り、逆に肩の力が強張ったのだけど

「寒いから中に入っちゃおうかっ!ほら、俺の手に捕まって♪」

 また強いニコニコ顔が私の体をトンッと前傾させた。

「あっ」
「階段、気をつけて」
「う、うん……」

 深夜の冷たい風が吹き荒れる……けれど、ジュンの熱い手のおかげで寒く感じない。

(ちょっとだけ悪い事……背徳の坦々麺、かぁ……)

 ジュンが口にした言葉を反芻はんすうして、胸を更にときめかせおどらせる。

(確かにハロウィンイベントの喧騒に巻き込まれるよりも、断然良い選択かも)

「俺は断然坦々麺を推すんだけど、ユウちゃんはどうする?」

 ジュンは私と手を繋いだままフードコートの中に入り、食券機の前で足を止める。

「あ……同じのでいいよ」
「ホント? 冒険しなくていい?」
「冒険?」
「そうだよ。初めてここに来たんだもん、俺の推しを食べるのも良いけど普段食べないようなものも頼んじゃいなよ。俺奢るし」

 ジュンと夕食を食べる時はいつも彼のオススメをそのまま注文する事にしていた。
 毎回連れてってくれる店はどれも初のところばかりで、ジュンの推すメニューに間違いはなかったから。
 でも、今日ばかりは「冒険」なんて言葉が出てきたからそれだけで胸が高鳴る。

「じゃあ……坦々麺の後でいいから、あのソフトクリームが食べたい」

 私はドキドキしながら向こう側を指差すと

「だよね♡ 食べたいよね、あのソフトクリーム♡」

 まるで「同じ事を考えていた」とばかりにジュンの目が細くニンマリとなって嬉しくなった。

 真夜中だし、仕事疲れでフラフラでお腹もグーグー鳴ってて正直恥ずかしいんだけど

「さっ、坦々麺2つ注文したからねっ!ソファで座って待ってよっか♪」
「うん」

 ジュンは私のグーグーに気付かないフリをしてくれ、ニコニコ明るい表情を向けてくれる。

「すぐ出来ると思うよ」
「うん」
「マジで美味しいから♪ めちゃくちゃオススメだから♪」
「うん」
「ユウちゃんと食べれるなんて最高だよ」
「……そうね」
「お腹いっぱいになったらさぁ、その辺散歩してみようよ。夜景も見どころの一つだから♡」
「……うん、見てみたい。夜景も」


 なんか、デートみたいだなぁって……そんな夢みたいな事を思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

アンコール マリアージュ

葉月 まい
恋愛
理想の恋って、ありますか? ファーストキスは、どんな場所で? プロポーズのシチュエーションは? ウェディングドレスはどんなものを? 誰よりも理想を思い描き、 いつの日かやってくる結婚式を夢見ていたのに、 ある日いきなり全てを奪われてしまい… そこから始まる恋の行方とは? そして本当の恋とはいったい? 古風な女の子の、泣き笑いの恋物語が始まります。 ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ʚ♡ɞ━━ 恋に恋する純情な真菜は、 会ったばかりの見ず知らずの相手と 結婚式を挙げるはめに… 夢に描いていたファーストキス 人生でたった一度の結婚式 憧れていたウェディングドレス 全ての理想を奪われて、落ち込む真菜に 果たして本当の恋はやってくるのか?

初めから離婚ありきの結婚ですよ

ひとみん
恋愛
シュルファ国の王女でもあった、私ベアトリス・シュルファが、ほぼ脅迫同然でアルンゼン国王に嫁いできたのが、半年前。 嫁いできたは良いが、宰相を筆頭に嫌がらせされるものの、やられっぱなしではないのが、私。 ようやく入手した離縁届を手に、反撃を開始するわよ! ご都合主義のザル設定ですが、どうぞ寛大なお心でお読み下さいマセ。

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...