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オクトーバーの祭を抜けて
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しおりを挟む「着いたよ、ユウちゃん」
0時を回ってようやく、ジュンは車のエンジンを切った。
「ここってサービスエリア?」
車を降りて辺りを見渡す私にジュンはスッと隣に寄り添い
「そう。この時間に食べる坦々麺は背徳の味がするんだ♪ ユウちゃんは来た事ない?」
ニコニコ顔で「美味しいラーメン」の種明かしをする。
「初めて来た……確かに」
ここは、関東圏で有数のサービスエリアで真夜中だというのに建物の照明で視界がとても明るい。
「1時間くらいで来れちゃうんだよ。結構近いでしょ」
「うん……」
私は建物をまじまじと見上げる。
(車で1時間……なんか、父とドライブしてオムライスを食べた頃を思い出すなぁ)
「せっかく車を持ってるんだもん、たくさんドライブしてあげなくちゃ車にもユウちゃんにも悪いと思わない?」
さっき私が「東京を離れる」と焦りのワードを言ったから、ジュンにも「私は普段ドライブをしない」という意味が伝わったのだと思う。
「私にも……?」
けど、「悪い」の言葉が「車」の他に「私」にもかかっている事に違和感を持つ。
「そうだよ。車はね、必要な移動ばっかりし過ぎるのも良くないんだ。短距離ばっかりだと負担がかかるの」
「それは知識として知ってるけど」
「人間も一緒だよ。必要な移動必要な行動ばっかりとってると息が詰まるからね♪ たまにはちょっと悪い事をして力を抜いてあげるのも大事なんだ」
「悪い事……」
そしてジュンの言葉の意味を知り、逆に肩の力が強張ったのだけど
「寒いから中に入っちゃおうかっ!ほら、俺の手に捕まって♪」
また強いニコニコ顔が私の体をトンッと前傾させた。
「あっ」
「階段、気をつけて」
「う、うん……」
深夜の冷たい風が吹き荒れる……けれど、ジュンの熱い手のおかげで寒く感じない。
(ちょっとだけ悪い事……背徳の坦々麺、かぁ……)
ジュンが口にした言葉を反芻して、胸を更にときめかせ躍らせる。
(確かにハロウィンイベントの喧騒に巻き込まれるよりも、断然良い選択かも)
「俺は断然坦々麺を推すんだけど、ユウちゃんはどうする?」
ジュンは私と手を繋いだままフードコートの中に入り、食券機の前で足を止める。
「あ……同じのでいいよ」
「ホント? 冒険しなくていい?」
「冒険?」
「そうだよ。初めてここに来たんだもん、俺の推しを食べるのも良いけど普段食べないようなものも頼んじゃいなよ。俺奢るし」
ジュンと夕食を食べる時はいつも彼のオススメをそのまま注文する事にしていた。
毎回連れてってくれる店はどれも初のところばかりで、ジュンの推すメニューに間違いはなかったから。
でも、今日ばかりは「冒険」なんて言葉が出てきたからそれだけで胸が高鳴る。
「じゃあ……坦々麺の後でいいから、あのソフトクリームが食べたい」
私はドキドキしながら向こう側を指差すと
「だよね♡ 食べたいよね、あのソフトクリーム♡」
まるで「同じ事を考えていた」とばかりにジュンの目が細くニンマリとなって嬉しくなった。
真夜中だし、仕事疲れでフラフラでお腹もグーグー鳴ってて正直恥ずかしいんだけど
「さっ、坦々麺2つ注文したからねっ!ソファで座って待ってよっか♪」
「うん」
ジュンは私のグーグーに気付かないフリをしてくれ、ニコニコ明るい表情を向けてくれる。
「すぐ出来ると思うよ」
「うん」
「マジで美味しいから♪ めちゃくちゃオススメだから♪」
「うん」
「ユウちゃんと食べれるなんて最高だよ」
「……そうね」
「お腹いっぱいになったらさぁ、その辺散歩してみようよ。夜景も見どころの一つだから♡」
「……うん、見てみたい。夜景も」
なんか、デートみたいだなぁって……そんな夢みたいな事を思った。
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