【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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10回目の帰省

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 「双子のきょうだいごっこを辞める」と田上くんから言われるのは想定内というか、いつかはその脳内家族を卒業していかなきゃいけないなと以前より考えていた。

 ……のに

「ごめんなさい長沢さんっ!岩瀬さんっ!! コーヒーが入れ違いになってました!!!」

 開店スタートと共に私はミスをたくさんおかしてしまった。

「いやいや、今日は私が早く来すぎてしまったからね。気にしないでいいよ夕紀ちゃん」
「確かにいつもより酸っぱいなぁとは思っていたけど、これも美味しいから大丈夫」

 常連の長沢さん岩瀬さんは笑顔で受け流してくれたんだけど

「ご予約されてました焙煎豆ですね! ご用意し忘れてしまい申し訳ありません!!」

 予約を受けていた焙煎豆のパッキングを忘れていたり……

「申し訳ありませんお客様! お召し物にかからなかったでしょうか? そちらのお子様のジュースに破片が混入してしまった可能性がございますのでお取り替えさせていただきますね!!」

 淹れたてのコーヒーが注がれた熱々のカップを床に盛大にぶちまけてしまったりと……

「申し訳ありません」

「今代わりのものをすぐにお持ち致します」

 数多くのミスは今日来て下さった全てのお客様にご迷惑をおかけする事になり……

 
「もうやだ…………消えてなくなってしまいたい…………」

 朝香ちゃんがシフトに入る時間に突入した頃にはプロ意識を完全に失っていた。

 幸いランチタイムのお客の入りが本日は少なく(もしかしたら私の多大なミスが影響しているのかもしれないけれど)13時を過ぎると店内はとても静かになった。

「朝香ちゃんが来るまであと少し……でもって15時からは集会かぁ」

 時計に視線を向けながら溜め息をつき

「田上くんもだけど、皆と顔を合わせる気になれないなぁ……なんとなく」

 ガックリと肩を落としながら皿を拭いていると

「ユウちゃんこんにちはー!!」

 茶髪ウェーブのチャラ男が、私とは真逆のテンションで店の扉を開け入ってきた。

「何の用? コーヒー飲みに来たとか?」

 田上くん含めた商店街の皆さんよりも、この男の方が気まずい。

「まぁ~それもいいかなって思ったんだけどさ♪」

 確かに彼には「営業時間外でコーヒーを提供するのは一回だけ」という内容の発言をした。
 今はその飲食の提供時間内であって彼が客として入店してコーヒーを要求するのであればマスターの私だって拒否は出来ないなぁなんて思ったんだけど

「15時からの集会、参加する気持ちになれないなら俺と散歩デートしない?」
「はあぁ??!」

 彼の誘いが斜め上過ぎて思わず大声をあげてしまった。

「なんで集会の時間にジュンと散歩デートしなきゃいけないのよ!」

 確かに私は毎週木曜日の集会に消極的で、リーダーの義雄よしおさんにイヤミを言われたくないからとイヤイヤ参加しているに過ぎない。
 今日は田上くんとの一件で尚更行きたくない気持ちでいたし、集会をサボれるのであればサボりたいんだけど「集会サボってジュンと散歩デート」というのはいくらなんでもやり過ぎなんじゃないだろうか?

「今日は商店街の集まりがあるから有給とって朝からこの辺をウロウロしてるんだけどさぁ、ユウちゃん今日一日ヤバい感じじゃん?」
「うっ……」

 けれど、ジュンのその言葉で私は反論出来なくなった。

「この店の前を3往復くらいしたんだけど、毎回ユウちゃんがペコペコ謝ってたよ?」
「ぐっ……」

 どうやら今朝から昼過ぎまでのこの時間ずっとジュンに私のペコペコ姿を見られていたらしい。

「あと、むねじいを通して聞いたんだけどさぁ~……ユウちゃん、今朝健人と喧嘩したってマジ?」
「……」
「『フラワーショップ田上』に行ってもおくちゃんしか居ないし、健人に電話やメッセージ送ってもスルーされちゃってるから訊けないわけよ。理由が」
「……」
「誰かと喧嘩するのも、ミス連発するのも、ユウちゃんにしては珍しいなーって感じたからさっ。
 朝香ちゃんと交代するこのタイミングで散歩デートに誘ってみたって訳なんだよ~♪♪」
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