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13年目の「好き」
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「ジュンくんは普段から明るくて元気で悩みなさそうって雰囲気を昔から振り撒いているから、清さんとかタカくんとかは勘違いしてるっていうか……『馬鹿息子』とか『自由な弟』とか言うんだよジュンくんの事。勿論本気で言ってるんじゃなくて愛情持った言い方ではあるんだけど」
「まぁ、そうでしょうね」
「俺ね、清さんタカくんよりもジュンくんの中身を知ってるって自信があるんだよ。俺はジュンくんの家族ではないけど昔から仲良くしてたし、ジュンくんがこっちに帰って来なくなった時期にだって連絡取り合っていたし、今なんかほぼ毎日だよ。ガチ友だと思っているわけよ」
「ガチ友ね……」
田上くんが今から何を言わんとしているか、なんとなく察していた。
「ジュンくんは明るい態度を振り撒いているが中身は繊細なヤツ」とでも言いたいのだろう。
田上くんなりに「脳内の双子の姉」と「ガチ友」との仲を取り持ちたい……そんな、前時代的なお節介を焼きたくて仕方がないのだろう。と私の脳で既に答えが出ていた。
ふと、勝手口の扉が開きパタパタと可愛らしい足音が背後を掠める。
「朝香ちゃんが来たみたい。店のシャッターを開けてもらうよう言ってくるわ」
私は田上くんに出来上がったコーヒーを差し出すと、バックヤードへ顔を出しにいった。
「おはよう朝香ちゃん」
「おはようございます夕紀さん。今日は9時半ギリギリになってすみません」
田上くんのお節介から逃れたかっただけの為にした朝香ちゃんへの声掛けが、彼女にとっては軽いプレッシャーになったようで申し訳ない気持ちになる。
「いいのいいの。朝香ちゃんは学生さんなんだし9時半出勤も努力目標みたいに感じてくれればいいんだから♪」
私の言葉に朝香ちゃんはやわらかく微笑むも、辛そうに腰をさすっていた。
「……随分とお疲れみたいね、朝香ちゃん♡」
朝香ちゃんは可愛い。
「脳内妹」を抜きにしても、本当に可愛いと思うし
「それは……ちょっと、何といいますか……」
「大丈夫よ! 『亮輔くんとラブラブ』って事でしょ? わかるわかるっ!!」
こういう感じの子こそ、現実的かつ甘い恋を楽しむべきだと考える。
しかも朝香ちゃんのお相手はかつて皐月に恋心を寄せていた亮輔くんだ。実の妹との恋が叶わなかった分脳内妹と彼が仲良くして愛を深めてくれているのは嬉しく思うし皐月も喜んでいるに違いない。
「朝香ちゃんは亮輔くんと相変わらずラブラブだし、せめて目の保養になるイケメンが近くに居てくれたらいいのに。そしたら妄想して楽しめるんだけどなぁ~」
けれど……私は、やっぱり。
恋とか好きとか、そういうのはいいやって気持ちの方が強いのだ。
(タイミングが悪過ぎるのよ。1ヶ月のうちで1番ナーバスになりやすい日に限って田上くんが余計なお節介をかけようっていうんだから)
「えっ? 妄想?? それって、上原さんみたいな感じのハンサムさんって事ですか?」
だから余計に、この時ばかりは道化を演じてみせたのだ。可愛くてたまらない脳内妹に。
「上原さん? ……まぁ、そうねぇ……。
でも上原さんって彼女いるんでしょう? 相手が見えちゃうと妄想にならないのよ。なんか萎えちゃうっていうか」
田上くんはさっき、穂高くんに対して今の私と似たような事を実の家族にしているという内容の話を私に語ろうとしていた。
「そういえばこの前、上原さんのご友人とお話する機会があったんですけど、彼もイケメンでしたよ」
「へぇ~どんな感じの人?」
「すごくお洒落でかっこいいんですよ。
アクセサリーを扱うお仕事してる方で、この近辺もほぼ毎朝通るみたいですよ」
「えっ? 毎朝うちの店の前を通ってんの? お洒落でかっこいい人がぁ?」
そんなの、私にだって出来る。
大人なんだから。
「そうなんですよ。毎朝『タカパン』に買いに行くらしくて」
「えっ!? 嘘!! 『タカパン』のお客さんにお洒落イケメンが居るの??!!
へー! どんな人なんだろ! 私も会えるかなぁ?」
ちょっと道化が過ぎて朝香ちゃんをビビらせてしまったけれど、気分が落ち込みかけていた自分を鼓舞するにはこの無駄なテンションのアゲっぷりは痛々しく……かつ、ちょうど良かった。
「お店の観葉植物にお水あげてきますね!」
「うん、お願いね」
朝香ちゃんと言葉を交わし終え、私は再び田上くんの前に立つなり塩対応で彼を勝手口へ追い払おうと試みた。
「コーヒーもポテサラも食べ終えたからもう帰ってよ」
「えっ?! 帰れって、塩過ぎない?? 俺まだ話終えたつもりないし店内の花の入れ替えも……」
「花の入れ替えくらいは私にだって出来るもの。早く帰らないと奥さんに怒られちゃうんじゃない?」
「いや……この時間遠野と喋るのは日常茶飯事なんだから怒られるわけないじゃん」
「いいからっ!! 早く帰って次の配達行ってきなさいよっ!!」
大事な仲間……大事な脳内双子にはいつになく冷たい態度を取ってしまった後悔はあるけれど、これ以上田上くんの口から「ジュンくんはいいヤツ」とか「ジュンくんなら遠野とどうこう」みたいな内容は聞きたくなかったのだ。
(確かに昨夜はちょっと心が動いちゃったけど……今日は皐月の月命日前だし! 明日は朝早くちゃんと命日参りするつもりでいるし!)
何より私は、目覚め前に見たあの夢の変化にまだ動揺していたのかもしれなかった。
「まぁ、そうでしょうね」
「俺ね、清さんタカくんよりもジュンくんの中身を知ってるって自信があるんだよ。俺はジュンくんの家族ではないけど昔から仲良くしてたし、ジュンくんがこっちに帰って来なくなった時期にだって連絡取り合っていたし、今なんかほぼ毎日だよ。ガチ友だと思っているわけよ」
「ガチ友ね……」
田上くんが今から何を言わんとしているか、なんとなく察していた。
「ジュンくんは明るい態度を振り撒いているが中身は繊細なヤツ」とでも言いたいのだろう。
田上くんなりに「脳内の双子の姉」と「ガチ友」との仲を取り持ちたい……そんな、前時代的なお節介を焼きたくて仕方がないのだろう。と私の脳で既に答えが出ていた。
ふと、勝手口の扉が開きパタパタと可愛らしい足音が背後を掠める。
「朝香ちゃんが来たみたい。店のシャッターを開けてもらうよう言ってくるわ」
私は田上くんに出来上がったコーヒーを差し出すと、バックヤードへ顔を出しにいった。
「おはよう朝香ちゃん」
「おはようございます夕紀さん。今日は9時半ギリギリになってすみません」
田上くんのお節介から逃れたかっただけの為にした朝香ちゃんへの声掛けが、彼女にとっては軽いプレッシャーになったようで申し訳ない気持ちになる。
「いいのいいの。朝香ちゃんは学生さんなんだし9時半出勤も努力目標みたいに感じてくれればいいんだから♪」
私の言葉に朝香ちゃんはやわらかく微笑むも、辛そうに腰をさすっていた。
「……随分とお疲れみたいね、朝香ちゃん♡」
朝香ちゃんは可愛い。
「脳内妹」を抜きにしても、本当に可愛いと思うし
「それは……ちょっと、何といいますか……」
「大丈夫よ! 『亮輔くんとラブラブ』って事でしょ? わかるわかるっ!!」
こういう感じの子こそ、現実的かつ甘い恋を楽しむべきだと考える。
しかも朝香ちゃんのお相手はかつて皐月に恋心を寄せていた亮輔くんだ。実の妹との恋が叶わなかった分脳内妹と彼が仲良くして愛を深めてくれているのは嬉しく思うし皐月も喜んでいるに違いない。
「朝香ちゃんは亮輔くんと相変わらずラブラブだし、せめて目の保養になるイケメンが近くに居てくれたらいいのに。そしたら妄想して楽しめるんだけどなぁ~」
けれど……私は、やっぱり。
恋とか好きとか、そういうのはいいやって気持ちの方が強いのだ。
(タイミングが悪過ぎるのよ。1ヶ月のうちで1番ナーバスになりやすい日に限って田上くんが余計なお節介をかけようっていうんだから)
「えっ? 妄想?? それって、上原さんみたいな感じのハンサムさんって事ですか?」
だから余計に、この時ばかりは道化を演じてみせたのだ。可愛くてたまらない脳内妹に。
「上原さん? ……まぁ、そうねぇ……。
でも上原さんって彼女いるんでしょう? 相手が見えちゃうと妄想にならないのよ。なんか萎えちゃうっていうか」
田上くんはさっき、穂高くんに対して今の私と似たような事を実の家族にしているという内容の話を私に語ろうとしていた。
「そういえばこの前、上原さんのご友人とお話する機会があったんですけど、彼もイケメンでしたよ」
「へぇ~どんな感じの人?」
「すごくお洒落でかっこいいんですよ。
アクセサリーを扱うお仕事してる方で、この近辺もほぼ毎朝通るみたいですよ」
「えっ? 毎朝うちの店の前を通ってんの? お洒落でかっこいい人がぁ?」
そんなの、私にだって出来る。
大人なんだから。
「そうなんですよ。毎朝『タカパン』に買いに行くらしくて」
「えっ!? 嘘!! 『タカパン』のお客さんにお洒落イケメンが居るの??!!
へー! どんな人なんだろ! 私も会えるかなぁ?」
ちょっと道化が過ぎて朝香ちゃんをビビらせてしまったけれど、気分が落ち込みかけていた自分を鼓舞するにはこの無駄なテンションのアゲっぷりは痛々しく……かつ、ちょうど良かった。
「お店の観葉植物にお水あげてきますね!」
「うん、お願いね」
朝香ちゃんと言葉を交わし終え、私は再び田上くんの前に立つなり塩対応で彼を勝手口へ追い払おうと試みた。
「コーヒーもポテサラも食べ終えたからもう帰ってよ」
「えっ?! 帰れって、塩過ぎない?? 俺まだ話終えたつもりないし店内の花の入れ替えも……」
「花の入れ替えくらいは私にだって出来るもの。早く帰らないと奥さんに怒られちゃうんじゃない?」
「いや……この時間遠野と喋るのは日常茶飯事なんだから怒られるわけないじゃん」
「いいからっ!! 早く帰って次の配達行ってきなさいよっ!!」
大事な仲間……大事な脳内双子にはいつになく冷たい態度を取ってしまった後悔はあるけれど、これ以上田上くんの口から「ジュンくんはいいヤツ」とか「ジュンくんなら遠野とどうこう」みたいな内容は聞きたくなかったのだ。
(確かに昨夜はちょっと心が動いちゃったけど……今日は皐月の月命日前だし! 明日は朝早くちゃんと命日参りするつもりでいるし!)
何より私は、目覚め前に見たあの夢の変化にまだ動揺していたのかもしれなかった。
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