【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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ジューシーな部分だけ

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 Mサイズのスペシャルなピザが2枚デリバリーされた後で私は持ってきていたグアテマラアンティグアの粉を全部使ってドリップし、何度か2客のカップに継ぎ足しながら会話を再開させた。


「えっ?キヨさんの入院って、大変なご病気じゃなくてギックリ腰だったの??!!!」

 そしてそこで私は初めて清さんの入院理由を知ることとなった。
 突然倒れたとの事だったし、てっきり大病をわずらったのだと思っていたから「ギックリ腰」の答えに拍子抜けする。

「そうなんだよ。俺も一番最初は『親父が店で倒れた』ってしらせだけで会社を早退したから、病院に着いてビックリしたんだよ」
「そりゃあそうでしょ……まぁ、重篤じゅうとくな状況でなくて本当に良かったけど」
「実はね、18日の集会の時に入院理由も説明してたんだ。
 だから今俺はユウちゃんが親父のギックリ腰を知らなかった事に苦笑いっていう」
「ああ……」

 私の今の驚きに彼は確かに首をかしげていた。

(そうだ……私、田上くんと集会に途中参加みたいな感じになったから)

 あの時は木曜日の定例会ではなく、急遽集められたものだった。だからいつものような配布物もなく全て穂高くんの口頭伝達で済まされた。

(多分田上くんはあの後すぐに入院理由を知ったんだ……今日に至るまで何回も穂高くんと連絡取り合っている様子だったんだもの)

「知らないのは私だけだった……というわけね」

 私がそう呟きながら肩を落とすと

「まぁそうなんだけど……まぁ、安心してくれればそれで良いから」

 「知らぬは私1人」の状況を茶化す事なく、やわらかな笑みで気持ちを和ませてくれた。

「ギックリ腰でも入院は2週間もかかっちゃうのねぇ」
「まぁ、親父もなんだかんだで『お年寄り』と世間的には呼ばれちゃう年齢にきちゃったからね。他に支障きたしてないか検査するらしいんだ」
「何もなければ……2週間で退院出来るの?」
「その見込みだよ」
「そっかぁ」
「ユウちゃんの話を聞いていると、親父の存在の偉大さを改めて知るよね。
 俺はユウちゃんと違って『馬鹿息子』『放蕩息子』なんて思われちゃうような次男坊だけどさぁ、こうして倒れて入院ってなると俺も俺で心配になるしお袋や兄貴夫婦も俺を頼ってくれるんだなぁって実感したりするし……家族って大事なんだって、今回の事で実感したよ」

 そして「家族」を語る彼の表情はいつになく真面目で、「馬鹿息子」「放蕩息子」の自虐すらも羨ましく彼の綺麗な瞳含めてきらびやかに私の心へと突き刺さった。

「そうよね……家族ってやっぱり、大事よね」

 脳内家族で満足している……つまりはコーヒーのように果実や種子のジューシーな上澄み部分だけをすすっている私とは大違いだ。と再認識する。




 時刻はいつの間にか20時を回っていた。

「送るよ」

 後片付けを慣れた手つきで終えた彼が、私に手を差し伸べる。

「平気よ。知らない道じゃないし、歩いて帰れる」

 私は当然、首を左右に振って断った。

(私は方向音痴じゃないもの。会社があったビルまでの道のりさえ分かっていれば駅までちゃんと戻れるんだからっ!)

 私にだってそのくらいの記憶力はあるし、なんたって今はスマホという文明の利器りきがあるのだ。

「そう? 駅を経由すると遠回りになるんじゃない?」

 けれども彼はにこやかにさらりとそう言って私へに伸ばす手を引っ込めない。

「確かに駅まで歩いて電車使うと遠回りだけど確実だし」
「遠回りなら、ここからユウちゃんの家まで真っ直ぐ歩けば良いだろ?」
「真っ直ぐ……って、へ??!」

 ……そう。穂高くんはさらりと言い過ぎていた。だから私もつられてさらりと「電車利用したら遠回り」と口から漏らしてしまって

「!!!!」
「やーっぱり!ユウちゃんの住んでるマンション、ここから近いんだね♪」

 彼の口車に乗ってしまったのだという事に気付く。

「ちょっ!! なんでよっ!!! そうとは限らないかもしれないじゃないっ!」
「ユウちゃんは本当に可愛いなぁ♡上擦り声を出したらバレちゃうよ?」
「!!」
「ほら、ここへ案内する前に家賃の話をユウちゃんが持ちかけただろ? あれでなんとなく察しちゃったんだよねー『ここからそんなに離れてないマンションに住んでるんじゃないかなぁ』って。俺の部屋の家賃の安さにめちゃくちゃ驚いていたし」
「……」
「ユウちゃんは可愛いんだよ♪ めちゃくちゃ可愛い♡
 だからちゃんと送らせて? 部屋の前までだなんてワガママ言わないから。純粋に『こんな可愛いユウちゃんを優しく守りながらきちんと送り届けてあげたい』っていう親切心で言ってるだけなんだよ」
「…………」
「警戒しないでよユウちゃぁん」

 警戒するし、怪訝けげんな表情になるに決まっている。
 だって、私の口からしっかりと「ご近所です」なんて言っていないのにマジシャンのように当てたのだから。

(いや……マジックっていうか、心理学?
 穂高くんの察しが良すぎるところって厄介っていうか……本当に迷惑なのよね)

 憤慨ふんがいしたいところではあるけれど、それをしたところでどうにもならない事だって理解している。

(今ここで私が断ったとしても、穂高くんには商店街メンバーという強い繋がりがあるんだもの。私の住まいを知られるのも時間の問題ってヤツなんだわ)

「分かった……じゃあ、マンションのエントランスまで。送って下さい」

 渋々私がそう呟くと

「やったあぁ♪」

 穂高くんは今日イチの喜び声をあげていた。
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