【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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ジューシーな部分だけ

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 駅から10分程歩いたところに穂高くんのマンションがあるらしい。

「駅から離れていてるんだけどさぁ、オフィスビル群が目の前だから逆に便利なんだよね」
「逆に便利って、何が?」
「ご飯とか。コンビニやランチする飲食店がいっぱいあるから」
「ああ……なるほど」

 男と女の違いというか……同じ独身であっても彼と私とでは食に対するお金のかけ方が違うのだという事を思い知らされた。

(私の考える「便利」って、24時間営業してるスーパーだとかドラッグストアとか……あとはディスカウント店とかになっちゃうもんなぁ)

 駅から歩き始めて10分弱。

「!!」

 彼は絡めていた私の腕を更にクイッと引き寄せて角をキュッと曲がったので、思わずギョッとする。

(ちょっと待ってちょっと待ってこの方向……! 私の住んでるエリアにすっごく近いんだけど!!)

 待ち合わせた駅がマンションから二駅も離れていたので油断していたのだけれど、意外にもかつて通勤していたこのオフィス街に近かったのだとこの瞬間思い知った。

「どうかした? ユウちゃん」

 そして、「社内一察しが良くて空気が読める男」と称されていた彼が私のそんな表情を見逃す筈がなく、すぐにそこをツッコまれてしまう。

「ああ……いやぁ、オフィス街って家賃高そうだなぁ~なんて思っちゃって」
「えっ? 家賃?」
「そうそう。私、今のところに引っ越してまだ半年経ってなくて……他の地域の家賃の話に敏感っていうか……なんていうか」

 何か言い訳しなければと、ついしどろもどろになる私。

「ふぅん……ユウちゃんってそーゆーのに興味あるのかぁ~」

 私の態度を見透かしているのか、彼は含み笑いをしてニヤついたようなネトッとした口ぶりをしたんだけど、すぐに

「うちのとこは全然っ! 単身用物件で超が付くほどのお得物件だよー♪」

 と、にこやかに人差し指でくうを切るように数字を書き、部屋の家賃を私に示してきた。

「え??! そんなに安いの?!!」
「狭いから。あとは大家との交渉? かな?」
「狭い、んだ?」

(あの値段で「狭い」となるとかなりの狭小スペースなのでは……?)

 そして今からコーヒーを淹れに行く彼の部屋の大きさを妄想する。

(まさか2人で座ったらギュウギュウって事は……ないわよね? 私の身の安全は確保出来るわよね?)

「1人で住むには充分だけど、女の子呼ぶにはギリギリってとこかなぁ♡」

 また私の表情から何かを察したらしい穂高くんは、さっきより私の腕をギュッと抱き寄せて私のイヤリングをくすぐるかのような囁きをほどこした。

「ひぅっ!!」

 駅で待ち合わせの時とはちょっと違う、通常とはギャップ感のある低音の響き。
 普段の明るく軽い話し方と全く異なる所為で私は動揺を隠せないでいる。

(ヤバい! さっきよりも変な反応しちゃった!!)

 穂高くんに何か勘付かれただろうかと彼の表情を確かめてみたんだけど

「ユウちゃん着いたよー。ここの4階だよ」

 至って普通のチャラ男フェイスで斜め上を指差した。

「あ……うん」

(私の動揺に気付いてない……よね?)

「エレベーターはすぐだよー」
「……うん」

 エレベーターの中に入った時も無言だし寧ろ腰に手を回されてしまっているけれど、私の動揺リアクションには反応せず、そのまま彼の部屋へと案内される。

「狭いけどどうぞ入って」
「お邪魔します……」

 彼に促され、玄関で靴を脱ぎ部屋の中へと足を踏み入れる。

(わぁ……意外)

 彼の部屋はとてもシンプルで清潔感があり、私の妄想とは全く外れていた。

「もっと男臭いのかと思ってた?」

 部屋に上がってすぐ、穂高くんに感想を言い当てられてしまい恥ずかしくなる。

「男性の部屋なんて入った事ないけど、確かにイメージとしてはもっと男臭かったり逆にお香の匂いが強かったりするのかと思ったから」

 それに昔の穂高くんは全身から強い香水の匂いがしていた。
 昔はもっとビターで刺激が強い感じの香りがしていて正直少し苦手だった。
 けど、今の香りはふんわりと軽やかで爽やかで……近くに居られても全く苦に感じない。

(香りに関しては禁煙の効果なのかもしれないなぁ)

「疲れたでしょ?何か飲む?」

 穂高くんがゆったりと落ち着いた口調でサラッとそんな事言うから

「なっ何か飲むって……私コーヒー淹れに来たんじゃない!目的と違う事を提案して来ないでよっ!」

 危うくここに来た理由を忘れるところだった。

「冗談なのにぃ~慌てて大声出さなくても良くない?」
「至近距離で冗談言わないでよ!」

 揶揄からかわれた事のに軽くムカついた私は彼に了解もとらずにキッチンへ立つ。
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