【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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イチゴの花は白くて小さい

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 穂高くんだけじゃない。私の入社を受け入れた社長だって彼以上に吸っていてタバコ無しでは居られないくらい依存していたし、彼並みに吸っている社員がとても多い職場だったのだ。
 その中で、結婚し妊娠を望む女性社員がチラホラと現れ「せめてオフィス内での喫煙を控えて欲しい」「分煙して欲しい」「喫煙所を設置して欲しい」という要望が何度か上がったにも拘らず全て社長の一存で突っぱねられていた。

「総務の高橋部長も業務の逢坂おうさか部長も……『女が2人も部長やってるのに申し訳ない』って、要望出した女性社員に頭を下げてて……みんな泣き寝入り状態だったのに」

 だからこそ、穂高くんのその話が信じられなかった。

「本当にね……俺もさぁ『申し訳ないな』とか反省してんだよねー」

 穂高くんも当時を思い起こしているのか、眉を下げていて

「……」
「なんていうかまぁ……やらかし、ちゃったし」

 と、ボソッとそんな言葉を漏らす。

「やらかした?」
「あっ……なんていうか、まぁね。あはは」

 直後、穂高くんは苦笑いをしていたから私はふうぅっと息を吐き

「5年前かぁ……時期的にあの社長が退任した頃ね」

 と、急に禁煙運動が進んだ理由を推理した。

「社長が替わったの、ユウちゃん知ってたんだ?」
「たまたまよ、気まぐれでこの店を開いたくらいの頃に会社のホームページを閲覧したの」
「そっか……」

 この店を開いた頃に会社のホームページを閲覧したのは本当の事で

「禁煙分煙に1番の反対をしていたのは社長だもの。それが急に進んだのなら事でしょ」

 今まで通らなかった要望が通り社員全員の納得がいく方向へと進んだとなったのであれば、それは良い事だと感じた。

「それも……そうだね」
「正直あの社長は老害というか、害悪だったでしょ。考え方が前時代的だし、強引で横柄な部分もあったし」

 実際、私が在籍していた頃も社長は社員の大半から嫌われていたのだけれど……

「でも、だって良いところはあったよ。ユウちゃんを事務員として入社させたのなんて、にしか出来ない事だったんじゃないかな」

 穂高くんが強調して繰り返す「」たる人物は、夜の店でポテトサラダを黙々と作る私に声を掛け真っ当な社会人に引き上げてくれた……私にとっては有難いでもあったのだ。

「7年前に種明かししてあげたでしょ。私のポテトサラダをあの社長が異様に気に入ったから会社に入れてもらえたの。『コネ入社』と呼ぶよりも品の無い採用のされ方だったんだから」

 私が田上くんと朝香ちゃんに「芸は身を助く」と言ったのもある意味私のそのラッキーな部分を表していた。

 母に料理を教わっていなければ……私が社長の目の前でポテトサラダを作っていなければ、ここでこうして自分の夢を叶える事すら出来なかったのだ。

「確かに社員からのウケは良くなかったかもね。俺も今の社長に代替わりして良かったなーって思う事が多いし、今の方が皆楽しそうに仕事してるよ」

 穂高くんは落ち着いたトーンでそこまで言うと、コーヒーをまた一口飲み……それから

「どんなに嫌われ者でも悪人でも良いところはある。やっぱりあの社長がユウちゃんを見つけてくれた事は感謝してるよ。
 ユウちゃんだって5年程度でコーヒーの修行を始められて店も開けたんだし、今俺がユウちゃんと再会出来たのもそのおかげだと感じているから」

 そう付け加えてニッコリと微笑んだ。
 ……本当に、幸せそうな表情で。

「……」
「ユウちゃんと再会出来て本当に嬉しいし、良かったって思ってるよ」

 さっきまでエクスクラメーションマークだらけの喋り方をしていたとは思えないくらい、私のコーヒーを口にしている彼はとても大人っぽく感じられて

「3日前からね、俺、めちゃくちゃ幸せ♡ 昨日ユウちゃんにメッセージで入れた『大好き』に偽りは無いよ。俺はユウちゃんが大好き♡」

 「大好き」などというセリフを躊躇いもなく使えてしまう彼に大して

「やめてよ……もう」

 赤面する事しか出来なかった。

「ユウちゃんほっぺ赤い♡ イチゴみたい♡」
「だからやめてってば、そんな事言うのっ!」
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