【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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イチゴの花は白くて小さい

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 穂高くんはやっぱり7年前と変わらず常にポジティブシンキングであるようだった。
 そして彼の弾けるような快活な笑顔は、私にとってやはり眩しい。

「34歳なんだからもう少し落ち着いたトーンで喋りなさいよ……全く」

 エクスクラメーションマークが語尾についていそうなくらいテンションを高めている彼を注意し、私まで伝播してしまいそうになるその感情をガードした。

「でもさぁ♪ やっぱり嬉しいよ! イヤリング着けてくれてるのも嬉しいし、ネルドリップだっけ? それでコーヒーを淹れてくれるっていうのも嬉しいんだから♪」
「…………」
「イヤリング、似合ってるよ本当に♡ それを選んで本当に良かった♡」

 なのに彼の言葉の威力は強くてグッと引き込まれそうになる。

(落ち着け自分……今はコーヒーを淹れる事だけに集中しなきゃいけないんだから)

 営業時間外でサービス的なコーヒーであってもプロ意識を持っておかなくてはならない。
 
「ドリップの動きっていうのかな? ユウちゃんは所作がとにかく美しいね! 宗じいや健人の言ってた通りだ!」

 彼がどんなに私を褒めようとも

(落ち着いて……とにかく落ち着いて。この珈琲豆は、私にとって大事なものなんだから)

 この豆を扱う様々な工程を頭に思い浮かべながら、手元がブレないようなるべく丁寧に抽出する……それだけを考えてコーヒーを淹れていった。


「このカップもいいね♪ 温かみがあるブルーだ!」

 彼に一杯のコーヒーを差し出すと、彼は食器を褒め……

「いい香り♪」

 スッと伸びた乳白色の鼻にカップの縁を近付けて静かに蒸気を吸い込み……

「クリアな飲み口だから、色んな味や香りがハッキリと際立ってる! 凄く良いコーヒーだ!」

 一口飲むなり分かったようなコメントを述べて幸せそうな表情を私に向けてきた。

「……味なんか、分かんない癖に」

 だからこそ、ついそんな口をついてしまう。

「えっ?」
「どうせ長沢さん……『宗じい』の受け売りでしょ」

 彼が、コーヒーの違いも分からないような、大雑把な舌を持つ人物だという事を私は熟知している。
 だから彼の褒め方や丁寧なコメントをそっくりそのまま受け取ってはいけない……私の心のガードは7年前と変わらず強固である事をしっかりとここで示さなくてはならなかった。

「受け売り?」
「だって穂高くん『コーヒーの種類なんか全然分からない』って昔言ってたじゃない。タバコだって1日2箱以上吸ってるヘビースモーカーだしっ! 『女の子が居ない食事なんて腹に溜まりゃ何だって良い』って酷いセクハラ発言もしてたし!」
「……」
「なんか、見え見えなのよそういうの。軽い言葉で私が喜ぶと思ってたら大間違いっ!」
「……」
「昔と全く変わらないんだからっ! 穂高くんのチャラ男っぷりはっ!!」

 穂高くんは軽い。
 明るい髪色やウェーブヘアが地毛だと田上くんから聞かされていたって、やっぱり中身がチャラ男であるのは間違いなかった。

(味が分からない癖に分かったような事を言って私の気を惹こうったって、そうは問屋が卸さないっての!!)

 昨夜のメッセージに「大好き」って言葉が入っていようが、イヤリングをプレゼントしてこようが私のコーヒーを褒めようが、私はちゃんと「私」というものを持っていなくてはならないし、彼に惑わされてはならない。
 そう思って、語気を強めながら言い放ってやったんだけど……

「ユウちゃん凄いなぁ! ちゃんとを覚えていてくれていたんだね!!」

 彼の幸せな表情は私の言葉にビクともしなくって……

「でもユウちゃんハズレー♪ さっきの俺の感想は宗じいの受け売りでも何でもないよーだ♪」

 おちゃらけた変顔を見せて私を揶揄からかった。

「えっ?」
「朝香ちゃんが帰ってく直前まで長沢金物で宗じいと喋っていたのは本当だし、グアテマラの話を聞いたのも本当。
 だけど、その『特別に焙煎されたグアテマラ』の味や特徴については宗じいから聞いてないんだよ」
「嘘……?」

 直後、彼から告げられた真実に私は目を見開かせる。

「嘘じゃないよ、ちなみに健人からも聞いてない」
「長沢さんだけじゃなくて、田上くんからも?」
「うん」
「……まさか初恵さんから聞いたとか?」
「してないしてない」

 私のいぶかしげな表情に穂高くんはケラケラと笑う。

「じゃあなんでそんな食レポみたいなのが出来ちゃうのよ? 『コーヒーの味なんてどれも一緒』って、昔あんなに言ってたのに……!!」

 つい感情が昂ってしまう私に対して、彼はにこやかに微笑んで

「だってとは変わったから。
 タバコ、吸ってないんだよ今は。一本も」

 驚くような事を私にサラリと言ったのだった。

「っえええ……っ!!」

 本当にビックリし、瞬間的に手で口を覆いギュッと押し付ける。

「ホントホント。辞めたんだよマジで。禁煙して5年になる」
「??!」

 それでもやはり彼の言葉が信じられない。

(嘘でしょ?! 社内で何度もオフィス内禁煙の話が持ち上がってもめちゃくちゃ嫌がって反論してたのに!!)

 そのくらいの愛煙家だった筈だ。穂高純仁という男は。

「ちなみに、その5年前に第一と本社2つのフロアが完全禁煙になったんだ。喫煙所すら設置されてないし、タバコを外で吸った後は30分経たないとオフィスに入れないっていう厳しいルール付きになった」
「嘘……」
「嘘じゃないよ。マジでそうなっちゃったから、俺みたいにタバコそのものを辞めてしまう社員も増えたんだ」
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