【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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170㎝のチャラ男

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「ええっ??! タカパンの弟さんって、夕紀さんの元同僚だったんですか!!???」
「しかも茶髪のウェーブヘアって、昔の俺みたいなヘアスタイル!!」


 その日の19時半過ぎ。
 いつものように、閉店時間を狙って朝香ちゃんを迎えに来てくれた亮輔くんを店内へと招き入れ、私は昨日からの出来事を可愛らしい大学生カップルにつまんで話した。

「そうなのよ! ビックリでしょう? 私が1番ビックリしてるんだけどね」

「それはそれはお姉さんも驚いたでしょうね……しかも、集会にド派手アロハで来ちゃうような凄い人! あり得ない!! 『チャラ男』って言葉だけじゃ片付きませんよ!! しかも俺の昔の頭の茶色バージョンとか!!!!」

 溜め息混じりの私の話に、亮輔くんは怒りを込めて同情してくれる。
 ……というか、穂高くんのヘアスタイルの特徴を口にした途端に憤慨ふんがいする彼がなかなか面白くて口元がニヤけてしまう。

「そんな事言ったらダメだよぉりょーくんっ! タカパンの弟さんは生まれつきその髪色と髪型だったんだから。言わば皐月さんと髪の性質が似てるって事に繋がるでしょう?」

 朝香ちゃんが、憤慨フェイスの亮輔くんにそうやってなだめていたんだけど

「そこがムカつく……っていうか、ジェラシーなんだよっ! 俺は当時皐月さんに近付きたくて髪を染めてパーマかけて170㎝の身長になりたいって望んでたんだ。
 なのにタカパン弟はそのまま俺の理想の見た目になってんじゃん!! しかも、中身チャラいんだろ? 皐月さんと同じ170㎝、茶髪、ウェーブヘアの男がチャラチャラした態度でお姉さんに馴れ馴れしくするとか!! なんかムカつく!! すげームカつく!! なんか分かんないけど、俺タカパン弟の事好きになれない感じ!!!!」

 亮輔くんは珍しく「ムカつく」などという、私と朝香ちゃんに向かって普段使わない言葉を用いながらイラつかせていた。

「それ、りょーくんの個人的な恨みっ! 良くないよぉ」
「そうだけど! もう俺、あーちゃんのおかげで色々変われて1年前に金髪ウェーブヘアをやめたけど! でもやっぱり悔しいしジェラる! なんか! ムカつく!!」

 6年程前、中学生で150㎝程しか身長がなかった亮輔くんは、大学生で身長170㎝の私の妹に憧憬しょうけいの念を抱き恋をしていた。妹が彼氏からDVを受けている事を誰よりも早く知り助けたいと思った。高校入試2日目が済んだ直後、携帯電話に妹からのSOSメッセージが入っている事に気付いた亮輔くんは急いで妹を助けに行き……広島で修行中の私のところまで逃してあげようとして、陸橋の階段で2人は崩れ落ちてしまったのだ。

 亮輔くんは後頭部に大きな一文字いちもんじの切り傷を追ったものの命は助かり
 妹は切られた亮輔くんの名を叫びながら階段から転落し、それから命を失った。

 妹を失った直後の亮輔くんは精神的に不安定になっていたそうだ。
 無意識に妹の影を追い、自らも見た目を妹に近付けたいと願い、髪色を明るくしパーマネントウェーブヘアとなり妹の体の痛みを少しでも感じていようと少しずつ耳に穴を開けていった。
 その姿を、他人は「チャラチャラとした男性だ」と判断し彼を見ていたのだろう。1年ほど前、金髪ウェーブの彼が笠原亮輔かさはらりょうすけくんだとまだ知らなかった私ですらそう感じてしまったのだから。

(初めて金髪ウェーブの亮輔くん会った時、少し不思議に感じてしまったり……朝香ちゃんの彼氏だと知った時に「マジか」とショックを受けたのは、穂高くんの見た目に近かったからなのかもしれないわね。亮輔くんの方が高身長のイケメンさんではあるんだけど)

 だからこそ、現在の亮輔くんが憤慨する気持ちが私には理解し想像する事が出来る。
 要は、穂高くんに同族嫌悪みたいなものと「元から自分の理想としていた姿でいて羨ましい」という妬みみたいなものを彼は持っているのだ。

(亮輔くんが穂高くんに「ムカつく」って思う気持ち……痛いほど分かるんだよなぁ)

 穂高くんも皐月も、生まれつきその性質を持って生まれてきた。
 だから、他人はそれを攻撃してはならないし恨みや妬みを持ってはならない。寧ろ彼らを思い遣らないといけない……けど、ついつい黒い感情を抱いてしまうのもやはり人間なのだ。

「まあまあ朝香ちゃん、亮輔くんの事を怒らないであげて。実際にタカパン弟の『ジュン坊』とやらはれっきとしたチャラ男なんだから、亮輔くんみたいな子が『ムカつく』と言ったってバチが当たらないわよ、大丈夫大丈夫」

 私は自らくすぶせている黒い感情を彼らに見せないように笑顔を作ってそう言ってあげた。

「でもぉ……」

 亮輔くんの考えも分かるが、朝香ちゃんの考えも分かる。
 「皐月と同じ、色素薄めかつ天然パーマの性質を持った人物に黒い感情を勝手に抱いてはならない」「きっと本人もその性質を持ちたくて生まれたわけではないのだから」と言いたいのだ。

「あっ、俺っ! 今はあーちゃんが1番大好きですから別にもう皐月さんの姿になりたいって思っている訳じゃないんです。
 多少は恨み妬みはありますが、今はその『茶髪ウェーブのチャラ男がお姉さんにチャラチャラした態度でナンパでもしてきてるんじゃないか』って心配の方が強いんです! そもそもお姉さんにはそんなチャラ男を近付けたくありませんから!」

 そしてやっぱり亮輔くんは黒い感情だけを持つ子ではなく、とっても可愛らしくて良い子だと今夜も思った。
 朝香ちゃん、皐月、私の順番で自分の命と同じくらい大切にしてくれているのだ。

 
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