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170㎝のチャラ男

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「遠野は知らなかったんだから仕方がないけどさ、ジュンくんだって軽い気持ちで黒髪に染めるのやめた訳じゃないと思うんだ」
「……」
「ジュンくんはね、遠野が思っている程『チャラ男キャラ』じゃない。すっごく良い面をいっぱい持ってて頼りになる幼馴染のお兄ちゃんの1人でもあるんだよ」
「……」

 つい黙ってしまったズルい私に、田上くんは優しい言葉を掛け続ける。

「俺は幼馴染でジュンくんを子どもの頃からみてきている……けど、会社でのジュンくんの振る舞いについては良く知らない。遠野は俺の真逆の立場だろ? 俺が知らないジュンくんのチャラい面を遠野は見てきた。だからそれだけ俺に簡単に悪口言えちゃうんだよ」

 優しい言葉ではあるけれど、叱られているような気分になった私は

「それは……ごめんなさい」
「謝らなくても良いと俺は思うんだけど。記憶や印象の相違はよくある事だから」

 と、素直に謝ると田上くんはニッコリと微笑みカウンター席を降りてミニブーケの束を優しくほぐし始めた。

「あっ」

 田上くんは、このモーニングコーヒーの帰りがけに持ってきた花を丁寧に生けてくれる。彼の仕草でそれを察した私は、慌ててコーヒードリッパーから水差しへと持ち替え田上くんに差し出すと

「俺はね、今も昔もジュンくんが遠野が思ってるようなチャラ男じゃないって思ってる。『とっても一途で恋にも仕事にもまっすぐなのがジュンくんの一番良いところだ』ってずーっと前から感じているからね♪」

 エプロンのポケットに入れていた仕事道具をサッと取り出すと、店内に散らばっていた簡素なガラス花瓶やアンティーク小物容器に次々とカラフルな潤いを添えていった。

「それからね、人間が、この世で1番大好きな人だと俺は思ってる」

 ミニブーケ2束分の花々を我が店の内装に溶け込ませ、より一層客を呼び込みやすくしてしまえる田上くんの手腕は、魔法使いのようだと私は今日も思った。

「……」
「まぁ、人間が好きなのは俺も遠野も一緒だと思うよ? じゃないと接客業なんてやってらんないから」
「……」
「商店街メンバーにとってもジュンくんのご帰還は6~7年振りだし、遠野もタイミング的にそのくらいかな?
 ……だからさぁ、ジュンくんに対して偏見持たずに仲良くしていこうよ。悪い人では決してないんだから」

 お花の魔法使いはそう言って水差しを私に返却し、「バイバイ」とヒラヒラ手を振ってまた勝手口から出て行ってしまった。


「偏見持たずに……か。確かにチャラ男扱いするのも良くないかもね。父親の急変にいち早く駆けつけて有給取ってしまえる人なんだもん、穂高くんは」

 お花の魔法使いこと田上くんが居なくなった店内で私はポツリとそう呟いたんだけど……
 


「いや~今日は夏みたいに暑いよね! 異常気象?! ヤバくない? 急いで家から夏服引っ張り出してきたんだけど!」

 田上くんとの朝ルーティンを終えた5時間後。
 集会所に派手なアロハシャツと白い綿のハーフパンツ、おまけに素足にアロハと同色の派手色サマーシューズを突っ掛けた姿で、穂高純仁という男は私の前に現れた。

「…………!」
「…………」

 たまたま集会所に足を踏み入れた時間帯に田上くんも居て、私達は隣に並んだ状態でド派手アロハ男と対峙たいじした訳なんだけど

「あれ? どうしたの健人けんと! 珍しく怖い表情かおしちゃってさぁ」
「……」
「あっ♡ 遠野さん昨日ぶり♪ 今日もお仕事お疲れ様っ!」
「……」
「ああっ!遠野さん、昨日つけてたピンクのハートちゃんが無いけどどうしたの? あれ、すっごく可愛くって遠野さんにめちゃくちゃ似合ってるなーって思ってたんだ! もしかして無くしちゃったとか? もしそうなら俺が遠野さんのお耳の寂しさを埋めてあげよっか~? なーんてねっ♪」
「……」
「っていうか、可愛いお耳を手で隠さないでよ~♡ もうすぐ集会始まるんだから、その前に遠野さんの可愛いすっぴんお耳を愛でさせてよ~♡ ねー、いいでしょいいでしょ?」

 私も田上健人たがみけんと氏も無言で顔を見合わせ

(ジュンくん……確かに昔よりチャラくなったかも)
(でしょう? 会社ではいつもあんな感じだったんだから!)
(それはウザいね)
(ウザかったのよマジで!)

 2人同時に両耳を手で押さえつけながら、そんな内容のアイコンタクトを交わし……


(あー……ほんっとうに集会、めんどくさいわーーーーーーー)

 週に一回の木曜日 午後15時。
 わざわざ仕事を抜け出して参加しなければならないこの行事を心底ウザいと嘆いてしまったのだった。








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