【完結】この花言葉を、君に

チャフ

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10月18日

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[もう時間も遅いし、やり取りは終わりにしましょ。
 いくら有給取ったからとはいえ、入院した清さんの手伝いだったり集会だったり……流石の穂高くんも今日一日の出来事で疲れているだろうし]

 私は親切でもなんでもなく、ごく一般的な考えとしてその提案をした。

[確かにそうだね。そろそろ寝ないと]

[私だって明日仕事あるし。貴方といつまでもこんなやり取りしていられないもの]

 ちゃんと彼に「親切ではない」という印象付けも忘れない。私はまだ彼に優しく出来ないのだから。

[遠野さんの言う通りだよね。もしかして遠野さん、俺とのやり取りの所為でご飯食べれてないとかお風呂入れなかったとか迷惑かかってない?]

「……」

 一応私は冷たくあしらったつもりでいたんだけど、彼はそう受け取らなかったらしい。

[ご飯も食べたし、お風呂はこのやり取りの前に済ませたの]

[それなら良かった♪安心した♪]

 しかも彼の文字からはワンコみたいな可愛らしささえ感じられる。
 そういえば穂高くんは基本的に人をけなさない。年代性別を問わず社員やお客さんに好かれていた理由も頷ける。
 多分今だって、私以外の人間全てに対してもこういう態度をとっているのだろう。

[おやすみ]

 私は完全にこのやり取りを終わらせようとしたんだけど

[明日の集会も出るよね?]

 ほぼ同時に彼から質問される。

[出ます]

[明日も会いたいです]

[おやすみ]

[俺も行くから、集会」

[分かってます。おやすみなさい]

[遠野さん、怒ってる?]

 そしていつまで経ってもやり取りが終了してくれない。

[しつこい。さっきからおやすみって言ってるよね?]

[ごめんなさい。また明日]

[おやすみなさい」

[おやすみなさい遠野さん]


「もうっ……本当にしつこいんだから」

 長く続けられていたメッセージアプリから解放され、寝室の扉を開けるなりベッドへダイブする。

「結局朝香ちゃんにドラマの事聞けなかったし。2話もほとんど観れなかったし! 楽しみのドラマに割く時間が作れなかったのは穂高くんのせいなんだから!」

 お気に入りのクッションに顔を埋めて憤慨していても、何故かスマホが手から離れなくて

「もう7年も経つのか……」

 頭の中で繰り返し浮かばせていた言葉を呟く。


 12年前、私と同期入社した穂高くんの印象は、一言で述べると「チャラ男」。
 営業もノリの軽さで乗り切ってたイメージしかなく、ほぼ毎日のように日帰り出張をしてて直帰ばかりしていたから、私は彼のサポートをしょっちゅう任されていた。
 女性の扱いにも慣れていそうなイケメンだからかなりモテていたと思う。彼とデートしたという社員の話も耳にしていたし、それなのに洒落っ気もないすっぴんの私に好き好きアピールも怠らないという、節操の無さも鼻についた。

 当時の私は仕事一徹で妹の皐月との生活や叶えたい夢の為だけに働いていた。
 恋愛する余裕もなく、あの夜一度だけ触れ合った彼の唇の感触しか経験していない。

「はぁ……」

 ため息と共に、またあの唇のやわらかさと幸せそうに微笑みながら「大好き」と声を掛けてくれた彼の事を思い出してしまって……

「どうしたらいいのよ、もう……」

 完全に廃棄出来なかった自分の不甲斐なさを後悔していた。








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