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10月18日
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[イジワルって言われる筋合いはないわね。私、嘘をついてないんだもの]
[実際朝香ちゃんは商店街の皆様から好かれてる頑張り屋さんでね、私にとってはとても大事なパートナーだから]
[ビックリした。本当に男かと思ってヒヤヒヤしたぁ]
[そもそもうちの店は男性を雇った事がないし、新たにバイト入れる余裕はないから]
[朝香ちゃんは良い子らしいね。彼氏とラブラブみたいだし♡]
パンとコーヒーを交互に口に入れながらゆったりとした気持ちで文字入力していく私に対し、穂高くんは入力するスピードが速いのか私の送信から間髪入れずにスタンプ画像や返事が来る。
[あらよくご存知で]
[親にも兄貴からも聞いてる]
[朝香ちゃんの彼氏もすっごく良い子なのよ]
[知ってる。亮輔くんっていうんでしょ? 『商店街に突如舞い降りたアイドル』って、うちの従業員さん皆口揃えて言ってたんだよ]
(商店街に突如舞い降りたアイドル……タカパンの従業員さん方はナイスな喩えをするものねぇ)
イマドキ「彗星の如く」みたいな表現をするのかどうか分からないのだけれど、穂高くんからの文字表記を目にした私の脳内では「彗星に乗って我が商店街にやってきたキラキラ星の王子様」のような妄想を繰り広げる。
(亮輔くんは高身長でスタイル良いし優しい系のイケメンさんだし、表現的にあながち間違いじゃないのかも?)
[そうそう。オシャレなイケメン大学生でね、気取った感じもないし真面目できっちりした男の子なの。朝香ちゃんの事をとっても大切にしてくれてるみたいで、この前なんか朝香ちゃんのご実家へご挨拶に行ったんだから!]
[それは凄いね!亮輔くん律儀だ」
確かに、亮輔くんと古くから関わっていない人物にはキラキラ星の王子様に見えてしまうだろう。
[でも昔にね、私、彼に悪い事してしまったの]
けれども私にとってその妄想は烏滸がましいと感じてしまうものでもあった。
[悪い事? 遠野さんが?]
[うん]
[でも未だに私を『お姉さん』って呼んでくれて朝香ちゃんと同じくらい優しくしてくれる、すごく良い子なの。まさに『私の弟』って感じね]
[そうなんだ]
[亮輔くんは毎晩朝香ちゃんを店まで迎えにきて、私に『お姉さんおやすみなさい』って手を振って、それから2人ラブラブな雰囲気で帰宅していくの。微笑ましくて2人の恋を応援したくなっちゃうっていうか]
朝香ちゃんの彼氏である笠原亮輔くんは、私の妹皐月の死に巻き込まれた人物だ。
言わば彼も皐月と同じく被害者の立場だというのに……「彼が加害者である」と勘違いした私は皐月の葬儀の場で、彼が生涯抱えるであろうトラウマを植え付けてしまった。
その言葉の暴力はたとえ第三者が「時効」という判を押してくれたとしても、私にとっては死ぬまで背負わなければならない罪だと思っている。
亮輔くんが加害者であると決めつけ、衝動的に発言した私が100%悪い。
本当は被害者だという事を知ったのは私の発言から少し経ってからだったのに、最近までそれを謝罪する勇気を持てず……ずっと彼を苦しめてしまっていた。それなのに私と顔を合わすと必ず笑顔で「お姉さん」と呼びかけてくれるんだから、亮輔くんには本当に頭が下がる。
[なるほど。ところで遠野さんは……]
[何?]
[誰かいるの?]
[誰かって?]
[彼氏とか]
「彼氏……」
その文字は、画面を触っていた私の指を止める。
[仕事のパートナーじゃなくて、プライベートでのパートナーとか]
尚もそう続ける穂高くんに、私はこう返信した。
[彼氏は居ないけど]
私は32歳……あと16日で33歳を迎える。
彼は……確か1月生まれだったから、現時点では34歳。結婚相手が居てもおかしくない年齢だ。
「…………」
私は当然そういう相手が出来た試しはないんだけれど、彼はどうだろうか?
見た目も良く、明るく話も上手で 女性受けの良かった彼のことだ。この7年の間に私の事なんて簡単に忘れてしまえるような彼女や奥さんの存在が居たに違いないし現時点で「居る」可能性の方が高い。
[でも夫はいる]
「見栄」と「悪戯」。
下らないカマかけをしてしまえる私の感情を言葉で表すとしたら恐らくその2語なんじゃないかと思った。
[彼氏居ないの?]
[やった!]
その文字を打って送信した直後、タイムラグが発生したのかザザッと文字が流れてきた。
[え?夫?]
[嘘、遠野さん結婚してたの?]
[ショック]
穂高くんのメッセージからは「彼氏はいないけど」に対する喜びと「でも夫はいる」に対する落胆がストレートに表されていたので、私は思わず笑ってしまった。
[実際朝香ちゃんは商店街の皆様から好かれてる頑張り屋さんでね、私にとってはとても大事なパートナーだから]
[ビックリした。本当に男かと思ってヒヤヒヤしたぁ]
[そもそもうちの店は男性を雇った事がないし、新たにバイト入れる余裕はないから]
[朝香ちゃんは良い子らしいね。彼氏とラブラブみたいだし♡]
パンとコーヒーを交互に口に入れながらゆったりとした気持ちで文字入力していく私に対し、穂高くんは入力するスピードが速いのか私の送信から間髪入れずにスタンプ画像や返事が来る。
[あらよくご存知で]
[親にも兄貴からも聞いてる]
[朝香ちゃんの彼氏もすっごく良い子なのよ]
[知ってる。亮輔くんっていうんでしょ? 『商店街に突如舞い降りたアイドル』って、うちの従業員さん皆口揃えて言ってたんだよ]
(商店街に突如舞い降りたアイドル……タカパンの従業員さん方はナイスな喩えをするものねぇ)
イマドキ「彗星の如く」みたいな表現をするのかどうか分からないのだけれど、穂高くんからの文字表記を目にした私の脳内では「彗星に乗って我が商店街にやってきたキラキラ星の王子様」のような妄想を繰り広げる。
(亮輔くんは高身長でスタイル良いし優しい系のイケメンさんだし、表現的にあながち間違いじゃないのかも?)
[そうそう。オシャレなイケメン大学生でね、気取った感じもないし真面目できっちりした男の子なの。朝香ちゃんの事をとっても大切にしてくれてるみたいで、この前なんか朝香ちゃんのご実家へご挨拶に行ったんだから!]
[それは凄いね!亮輔くん律儀だ」
確かに、亮輔くんと古くから関わっていない人物にはキラキラ星の王子様に見えてしまうだろう。
[でも昔にね、私、彼に悪い事してしまったの]
けれども私にとってその妄想は烏滸がましいと感じてしまうものでもあった。
[悪い事? 遠野さんが?]
[うん]
[でも未だに私を『お姉さん』って呼んでくれて朝香ちゃんと同じくらい優しくしてくれる、すごく良い子なの。まさに『私の弟』って感じね]
[そうなんだ]
[亮輔くんは毎晩朝香ちゃんを店まで迎えにきて、私に『お姉さんおやすみなさい』って手を振って、それから2人ラブラブな雰囲気で帰宅していくの。微笑ましくて2人の恋を応援したくなっちゃうっていうか]
朝香ちゃんの彼氏である笠原亮輔くんは、私の妹皐月の死に巻き込まれた人物だ。
言わば彼も皐月と同じく被害者の立場だというのに……「彼が加害者である」と勘違いした私は皐月の葬儀の場で、彼が生涯抱えるであろうトラウマを植え付けてしまった。
その言葉の暴力はたとえ第三者が「時効」という判を押してくれたとしても、私にとっては死ぬまで背負わなければならない罪だと思っている。
亮輔くんが加害者であると決めつけ、衝動的に発言した私が100%悪い。
本当は被害者だという事を知ったのは私の発言から少し経ってからだったのに、最近までそれを謝罪する勇気を持てず……ずっと彼を苦しめてしまっていた。それなのに私と顔を合わすと必ず笑顔で「お姉さん」と呼びかけてくれるんだから、亮輔くんには本当に頭が下がる。
[なるほど。ところで遠野さんは……]
[何?]
[誰かいるの?]
[誰かって?]
[彼氏とか]
「彼氏……」
その文字は、画面を触っていた私の指を止める。
[仕事のパートナーじゃなくて、プライベートでのパートナーとか]
尚もそう続ける穂高くんに、私はこう返信した。
[彼氏は居ないけど]
私は32歳……あと16日で33歳を迎える。
彼は……確か1月生まれだったから、現時点では34歳。結婚相手が居てもおかしくない年齢だ。
「…………」
私は当然そういう相手が出来た試しはないんだけれど、彼はどうだろうか?
見た目も良く、明るく話も上手で 女性受けの良かった彼のことだ。この7年の間に私の事なんて簡単に忘れてしまえるような彼女や奥さんの存在が居たに違いないし現時点で「居る」可能性の方が高い。
[でも夫はいる]
「見栄」と「悪戯」。
下らないカマかけをしてしまえる私の感情を言葉で表すとしたら恐らくその2語なんじゃないかと思った。
[彼氏居ないの?]
[やった!]
その文字を打って送信した直後、タイムラグが発生したのかザザッと文字が流れてきた。
[え?夫?]
[嘘、遠野さん結婚してたの?]
[ショック]
穂高くんのメッセージからは「彼氏はいないけど」に対する喜びと「でも夫はいる」に対する落胆がストレートに表されていたので、私は思わず笑ってしまった。
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