20 / 23
第一章 見習い聖女編
第二十話 王子の事情2
しおりを挟む
「ま、まあまあ、皆さん落ち着いてくださいな! シリウスも突然王位を継承できなくなったと聞き、今は混乱しているのです。どうか、先の発言は己の運命を悲観した若者の心にも無い暴言だとご理解くださいませ」
マリアンヌ王妃が必死の弁明をした。
マリアンヌ王妃はシリウス王子の実母だ。
なにもなければ我が実子である第一王子が王となり、マリアンヌ王妃は王太后として安定した老後を送れるはずだった。
なのに、その未来がなくなった。
エレーナが聖女に選ばれたせいで。
我が子が王位を継ぐこと剥奪されたことに、シリウスと同じかシリウス以上に憤慨しているはずである。
だが今は、王継承どころの離しではない。
このままではシリウス王子の生命が危ないのだ。
罪状は聖女に対する不敬罪。その罰は死罪。
いくらなんでも王より身分の高い聖女に対して〝猿〟発言は無い。
満場一致、一点の曇りもなく純度百の立派な不敬罪だ。
暴言王子は、今この瞬間に首を刎ねられても不思議はない。
ちなみにだが、エルリック第二王子の実母リファ・クルーウェルは、二年前に逝去している。
「当のシリウス王子からの謝罪がありませんな」
サイモン教皇が冷たく言い放つ。
さすがにまずいと気付いたのか、シリウス王子が嫌そうに頭を下げた。
「……気が動転して、心にもないことを言ってしまったようだな。とりあえず謝罪することにしよう」
と、心にもない謝罪をした。
というか、これは謝罪なのだろうか。
――謝罪……なんだろうな。この王子にとっては。
だって、すごく悔しそうな顔をしてるもの。
まぁ平民に頭を下げること自体、彼にとってこれ以上無い屈辱であろうし、罰にはなるのだろう。
ここらが落とし所なのかな、なんて思っていると味方陣営がジッとエレーナの顔を見ている。
――はて?
「エレーナ様、いかがなさいますか?」サイモン教皇が言った。
――ん? いかが? いかがとは?
「エレーナ様、この件に関してはノットエレガントでも構いません」シスター・クレアが言った。
――んん? ノットエレガントでもいい? どゆこと?
「聖女様、我輩はいつでも行けるでありますぞ」ドルーズ騎士団長が言った。
――んんん? 行ける? 行けるって、どこに?
「エレーナ様、早く……、早く抜剣の許可をください」グリッセンが言った。
――んんんん?? ば、抜剣の許可!?
ここへ来てエレーナはようやく状況を理解した。
――ちょ、ちょっと待って?
王子の生命が、この後の私の発言にかかってるってわけ?
重っ!
重すぎる!
責任が重すぎるわ! 十二歳の小娘に王子の命運を握らせないで欲しいんだけど。
肝心の王子はといえば、謝罪したことで禊が済んだと言わんばかりに、呑気にお茶を飲んでいる。
――はぁ。シリウス王子は自分が生命の危機だなんて、想像打にしていないのだろうな。
猿呼ばわりは腹がたったけど、一国の王子を殺すほどか、と言われると首を傾げてしまう。
加えて、エレーナにはシリウス王子の王位継承権を失わせてしまった、って負い目もある。
以上を総合して、エレーナは決断した。
「わかりました。シリウス王子の事情も理解できますし、先の暴言は聞かなかったこととします」
国王陛下と王妃様は安堵の表情を浮かべた。
シリウス王子は椅子の上でふんぞり返り、俺様が頭を下げたんだから当然でしょ、と言わんばかりの態度だ。
――やっぱりムカムカするわ、この王子。
一方、エレーナ陣営は不完全燃焼と言った面持ちである。
――みなさん血の気が多すぎじゃありませんこと?
「そ、それでは改めまして、婚約の話を進めましょう」
マリアンヌ王妃の仕切り直しに、エレーナはふと思いついたことを口にした。
「あの、一つ提案があるのですが」
これには両陣営が意表を突かれたようだ。
すべての視線がエレーナに集中する。
「シリウス王子はこの婚姻に乗り気ではないようですし、フィリップ第二王子と私が婚姻を結ぶのはどうでしょう?」
当事者以外の全員が目を輝かせた。
一番大きな声で賛同したのは王妃マリアンヌだった。
それはそうだろう。
実子が王になるという夢が、また実現することになるのだ。
エレーナは自身の提案の理由について以下のように説明した。
初代聖女様からの言いつけは〝王家で一番優秀なものを聖女の夫にしろ〟である。
つまり何の種目で一番優秀なのかを指定していないのだ。
これが盲点だ。
シリウス第一王子は確かに、学業でも、剣術でも、フィリップ第二王子より優秀なのかもしれない。
だが見たところ、対人関係の構築は苦手そうだ。
つまり、〝王家の中で(対人関係構築が)一番優秀なフィリップ第二王子を聖女の夫にすること〟に、何の問題もないのである。
と、いうことをエレーナは説明した。
エレーナの提案に全員が大きく賛同した。
ただ一人、シリウス王子を除いて。
「断る! 俺は全てにおいてフィリップより優秀だ! それに、もしフィリップがさ……聖女と結婚したら、俺は〝フィリップより無能だから聖女にえらばれなかった〟と言われ続けるだろう! そんなことは耐えられないし、許されない!」
話し合いは振り出しに戻った。
――もうやだ、こいつ、誰かなんとかして。
あと、私のことをまた猿と言おうとしたよね?
マリアンヌ王妃が必死の弁明をした。
マリアンヌ王妃はシリウス王子の実母だ。
なにもなければ我が実子である第一王子が王となり、マリアンヌ王妃は王太后として安定した老後を送れるはずだった。
なのに、その未来がなくなった。
エレーナが聖女に選ばれたせいで。
我が子が王位を継ぐこと剥奪されたことに、シリウスと同じかシリウス以上に憤慨しているはずである。
だが今は、王継承どころの離しではない。
このままではシリウス王子の生命が危ないのだ。
罪状は聖女に対する不敬罪。その罰は死罪。
いくらなんでも王より身分の高い聖女に対して〝猿〟発言は無い。
満場一致、一点の曇りもなく純度百の立派な不敬罪だ。
暴言王子は、今この瞬間に首を刎ねられても不思議はない。
ちなみにだが、エルリック第二王子の実母リファ・クルーウェルは、二年前に逝去している。
「当のシリウス王子からの謝罪がありませんな」
サイモン教皇が冷たく言い放つ。
さすがにまずいと気付いたのか、シリウス王子が嫌そうに頭を下げた。
「……気が動転して、心にもないことを言ってしまったようだな。とりあえず謝罪することにしよう」
と、心にもない謝罪をした。
というか、これは謝罪なのだろうか。
――謝罪……なんだろうな。この王子にとっては。
だって、すごく悔しそうな顔をしてるもの。
まぁ平民に頭を下げること自体、彼にとってこれ以上無い屈辱であろうし、罰にはなるのだろう。
ここらが落とし所なのかな、なんて思っていると味方陣営がジッとエレーナの顔を見ている。
――はて?
「エレーナ様、いかがなさいますか?」サイモン教皇が言った。
――ん? いかが? いかがとは?
「エレーナ様、この件に関してはノットエレガントでも構いません」シスター・クレアが言った。
――んん? ノットエレガントでもいい? どゆこと?
「聖女様、我輩はいつでも行けるでありますぞ」ドルーズ騎士団長が言った。
――んんん? 行ける? 行けるって、どこに?
「エレーナ様、早く……、早く抜剣の許可をください」グリッセンが言った。
――んんんん?? ば、抜剣の許可!?
ここへ来てエレーナはようやく状況を理解した。
――ちょ、ちょっと待って?
王子の生命が、この後の私の発言にかかってるってわけ?
重っ!
重すぎる!
責任が重すぎるわ! 十二歳の小娘に王子の命運を握らせないで欲しいんだけど。
肝心の王子はといえば、謝罪したことで禊が済んだと言わんばかりに、呑気にお茶を飲んでいる。
――はぁ。シリウス王子は自分が生命の危機だなんて、想像打にしていないのだろうな。
猿呼ばわりは腹がたったけど、一国の王子を殺すほどか、と言われると首を傾げてしまう。
加えて、エレーナにはシリウス王子の王位継承権を失わせてしまった、って負い目もある。
以上を総合して、エレーナは決断した。
「わかりました。シリウス王子の事情も理解できますし、先の暴言は聞かなかったこととします」
国王陛下と王妃様は安堵の表情を浮かべた。
シリウス王子は椅子の上でふんぞり返り、俺様が頭を下げたんだから当然でしょ、と言わんばかりの態度だ。
――やっぱりムカムカするわ、この王子。
一方、エレーナ陣営は不完全燃焼と言った面持ちである。
――みなさん血の気が多すぎじゃありませんこと?
「そ、それでは改めまして、婚約の話を進めましょう」
マリアンヌ王妃の仕切り直しに、エレーナはふと思いついたことを口にした。
「あの、一つ提案があるのですが」
これには両陣営が意表を突かれたようだ。
すべての視線がエレーナに集中する。
「シリウス王子はこの婚姻に乗り気ではないようですし、フィリップ第二王子と私が婚姻を結ぶのはどうでしょう?」
当事者以外の全員が目を輝かせた。
一番大きな声で賛同したのは王妃マリアンヌだった。
それはそうだろう。
実子が王になるという夢が、また実現することになるのだ。
エレーナは自身の提案の理由について以下のように説明した。
初代聖女様からの言いつけは〝王家で一番優秀なものを聖女の夫にしろ〟である。
つまり何の種目で一番優秀なのかを指定していないのだ。
これが盲点だ。
シリウス第一王子は確かに、学業でも、剣術でも、フィリップ第二王子より優秀なのかもしれない。
だが見たところ、対人関係の構築は苦手そうだ。
つまり、〝王家の中で(対人関係構築が)一番優秀なフィリップ第二王子を聖女の夫にすること〟に、何の問題もないのである。
と、いうことをエレーナは説明した。
エレーナの提案に全員が大きく賛同した。
ただ一人、シリウス王子を除いて。
「断る! 俺は全てにおいてフィリップより優秀だ! それに、もしフィリップがさ……聖女と結婚したら、俺は〝フィリップより無能だから聖女にえらばれなかった〟と言われ続けるだろう! そんなことは耐えられないし、許されない!」
話し合いは振り出しに戻った。
――もうやだ、こいつ、誰かなんとかして。
あと、私のことをまた猿と言おうとしたよね?
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
親友に裏切られ聖女の立場を乗っ取られたけど、私はただの聖女じゃないらしい
咲貴
ファンタジー
孤児院で暮らすニーナは、聖女が触れると光る、という聖女判定の石を光らせてしまった。
新しい聖女を捜しに来ていた捜索隊に報告しようとするが、同じ孤児院で姉妹同然に育った、親友イルザに聖女の立場を乗っ取られてしまう。
「私こそが聖女なの。惨めな孤児院生活とはおさらばして、私はお城で良い生活を送るのよ」
イルザは悪びれず私に言い放った。
でも私、どうやらただの聖女じゃないらしいよ?
※こちらの作品は『小説家になろう』にも投稿しています
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
妹に婚約者を奪われ、聖女の座まで譲れと言ってきたので潔く譲る事にしました。〜あなたに聖女が務まるといいですね?〜
雪島 由
恋愛
聖女として国を守ってきたマリア。
だが、突然妹ミアとともに現れた婚約者である第一王子に婚約を破棄され、ミアに聖女の座まで譲れと言われてしまう。
国を頑張って守ってきたことが馬鹿馬鹿しくなったマリアは潔くミアに聖女の座を譲って国を離れることを決意した。
「あ、そういえばミアの魔力量じゃ国を守護するの難しそうだけど……まぁなんとかするよね、きっと」
*この作品はなろうでも連載しています。
『王家の面汚し』と呼ばれ帝国へ売られた王女ですが、普通に歓迎されました……
Ryo-k
ファンタジー
王宮で開かれた側妃主催のパーティーで婚約破棄を告げられたのは、アシュリー・クローネ第一王女。
優秀と言われているラビニア・クローネ第二王女と常に比較され続け、彼女は貴族たちからは『王家の面汚し』と呼ばれ疎まれていた。
そんな彼女は、帝国との交易の条件として、帝国に送られることになる。
しかしこの時は誰も予想していなかった。
この出来事が、王国の滅亡へのカウントダウンの始まりであることを……
アシュリーが帝国で、秘められていた才能を開花するのを……
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。
婚約破棄騒動に巻き込まれたモブですが……
こうじ
ファンタジー
『あ、終わった……』王太子の取り巻きの1人であるシューラは人生が詰んだのを感じた。王太子と公爵令嬢の婚約破棄騒動に巻き込まれた結果、全てを失う事になってしまったシューラ、これは元貴族令息のやり直しの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる