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第一章
金砂とスパイスの交易宮殿 7
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イレス国の王子という地位を無くした僕は持っているものなど何もない。
あるのは、17年という短い年月で得たわずかな知識と、なけなしの経験だけだ。
ラムダレイドの言う通り、自分の腕一本ではあまりに頼りない。
そうだ。
僕は、自分一人では何もできない。
「――そうですね。今の僕には、何もできません」
色鮮やかな絨毯に視線を落としたまま、ぽつぽつと言葉をつむぎ始めた。
「何だと?」
有り体な返答にラムダレイドは目を瞠る。
「本当、その通りです。僕は自分ひとりの力では何もできない。だから僕は、優れた人たちに力を貸してもらうんです」
スユイはうつむいていた顔を勢いよく上げた。
「カゲツが側にいてくれたからここまで来られて、ファナシュドさんに大変な思いをして探してもらって。そして、ラムダレイド総統。あなたと出会えた」
緊張の解かれた頬や唇に熱が戻り、難題を解いたように瞳が輝く。
皆、口を挟むことなくスユイの言葉の続きを待っている。
「僕は、才に恵まれた人と出会う才能なら持っているみたいです」
ラムダレイドへの感謝を込め、問いに対する答えを笑顔で締めくくった。
すると、ラムダレイドの口から聞き慣れない言葉がこぼれた。
「背龍の器」
「はいりゅうのうつわ?」
何かの呪文のようだとスユイは首を傾げる。
「――龍を背負う器。王としての器を持つ者という意味だ」
言葉の由来を知っていたらしいカゲツが付け加えるように呟いた。
「ああ、それだ。俺は今、王子さんの後ろに龍を見た」
ラムダレイドが眩しそうに目を細めるので、スユイは思わず自分の背中をちらりと確かめた。
「いや、僕は剣の才もないし知略に長けているわけでもないしそんなもの……」
「王ってのは敵陣へ突っ込む役じゃない。必要なのは、そういう才を持つ人間を引き付ける才だ。それを持ってると今さっき自分で言ったよな?」
「い、言いましたね」
「気に入ったぜ。巻き込まれてみるのも悪くない」
ラムダレイドはイレス国の礼の仕草を取った。
「力添えさせてもらおう。スユイ王子」
引き締めた頬で返答を待っていたスユイは「ラムダさん」とはじけるように微笑んだ。
あるのは、17年という短い年月で得たわずかな知識と、なけなしの経験だけだ。
ラムダレイドの言う通り、自分の腕一本ではあまりに頼りない。
そうだ。
僕は、自分一人では何もできない。
「――そうですね。今の僕には、何もできません」
色鮮やかな絨毯に視線を落としたまま、ぽつぽつと言葉をつむぎ始めた。
「何だと?」
有り体な返答にラムダレイドは目を瞠る。
「本当、その通りです。僕は自分ひとりの力では何もできない。だから僕は、優れた人たちに力を貸してもらうんです」
スユイはうつむいていた顔を勢いよく上げた。
「カゲツが側にいてくれたからここまで来られて、ファナシュドさんに大変な思いをして探してもらって。そして、ラムダレイド総統。あなたと出会えた」
緊張の解かれた頬や唇に熱が戻り、難題を解いたように瞳が輝く。
皆、口を挟むことなくスユイの言葉の続きを待っている。
「僕は、才に恵まれた人と出会う才能なら持っているみたいです」
ラムダレイドへの感謝を込め、問いに対する答えを笑顔で締めくくった。
すると、ラムダレイドの口から聞き慣れない言葉がこぼれた。
「背龍の器」
「はいりゅうのうつわ?」
何かの呪文のようだとスユイは首を傾げる。
「――龍を背負う器。王としての器を持つ者という意味だ」
言葉の由来を知っていたらしいカゲツが付け加えるように呟いた。
「ああ、それだ。俺は今、王子さんの後ろに龍を見た」
ラムダレイドが眩しそうに目を細めるので、スユイは思わず自分の背中をちらりと確かめた。
「いや、僕は剣の才もないし知略に長けているわけでもないしそんなもの……」
「王ってのは敵陣へ突っ込む役じゃない。必要なのは、そういう才を持つ人間を引き付ける才だ。それを持ってると今さっき自分で言ったよな?」
「い、言いましたね」
「気に入ったぜ。巻き込まれてみるのも悪くない」
ラムダレイドはイレス国の礼の仕草を取った。
「力添えさせてもらおう。スユイ王子」
引き締めた頬で返答を待っていたスユイは「ラムダさん」とはじけるように微笑んだ。
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