ぷりん

赤沼

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ぷりん

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 プリン。

 魅惑的な黄色のボディーに、ビターなアクセントを与えるカラメルソース。
 それがプリン。俺の大好物だ。

「あらあら。 ゆうちゃんは本当にプリンが好きね。でも、食べすぎには気を付けてね」

 母は毎日3時のおやつにプリンを用意してくれた。
 人生で最も幸福な時間だった。


 だが



 悲劇は



 訪れた




 俺はプリンの食べすぎで、尋常じゃなく太ってしまったのだ!!

 そして発令された【プリン禁止令】
 俺にとっては、死刑宣告と同じだった。

 プリンが食べられない地獄のような毎日。3時のおやつに用意されているのは小魚とスルメイカ。
 この地獄を抜け出す方法はたったひとつだけ。


 痩せる。

 それだけだ。

 必死になって運動した。ガムシャラに動きまくった。体力の限界を超えて走った。


 結果……。

 ダイエットは見事に成功した。
 俺は細くなった。モヤシのような細さじゃない。贅肉を筋肉にチェンジした細マッチョ。

 これで文句はあるまい。
 俺は誰の妨害もなく、心ゆくまでプリンを食べまくれる……はず、だった……。
 俺は自らの事を誤解していたのだ。それがだった!!

 俺がダイエットにと選んだスポーツは長距離走。長時間のマラソンは、思惑通りに贅肉を燃やしてくれた。
 だが、それと同時に、贅肉の下に隠れた俺の才能までも呼び覚ましてしまったのだ!!


 タイムはみるみる縮んだ。縮みすぎた……。
 高校に入学した年、俺は非公式ながら、日本記録を叩き出してしまったのだ!!



 世界の俺を見る目が一変した。




 周囲は俺に期待を寄せた。
 『次期オリンピックの最有力候補』だと。

 世間のプレッシャーというものは、競技中だけではなく、私生活にまで完璧なアスリートを求め始めた。
 学校での振舞いも、食生活も、家での生活スタイルにさえ干渉してきたのだ!

 特に問題なのは食生活だ。常に、身体にいいものしか認められなかった。
 ジャンクフードなんて論外。プリンを食べたいなんて口にしようものなら戦犯扱い。

 プリンを食べたいために始めたスポーツが、結果として俺をプリンから遠く引き離してしまった。
 ああ。なんという神のイタズラだろうか……。



 俺は、すべてに絶望した。



…………

……




 抜け殻のように走る日々。
 俺の沈んだ心情とは裏腹に、タイムは順調に伸びていった。 

 日に日に増える報道陣の数と黄色い声援。
 代償に失ったものはプリン。あまりに大きな代償だ。


 人気が出ればモテもする。正直、俺はとてつもなくモテた。
 でも、いくらモテても、想いに応えるわけにはいかない。この状況でスキャンダルなんて起こせば、あっという間に国中に広がってしまう。

 それに、長い禁プリン生活が俺の性癖までも歪めてしまったのか、女にまったく興味を持てなくなってしまった。女の柔らかい身体つきからプリンを連想して、悲しい気持ちになるのが原因かもしれない。

 それよりも、プリンとかけ離れたゴツゴツのほうがいい。鍛えられた肉体のほうがそそられる。

 そう……。
 スポーツマン(男)の肉体最高なんだーーー!!


 そう自覚したとき、グラウンドは俺の楽園になった。
 どこを見ても運動部の面々が汗を流してうほっ。となっている。時々女も視界に入るけど、ぶっちゃけ邪魔だ。

 俺が特に気に入っているのは尻。どんなに鍛えても、尻のぷりんぷりんは鍛えきれない。
 ガチムチマッチョの中のオアシス。癒しの空間。


 それがSIRIなのだ!!


 最近はプリンにそれほど執着もなくなってきた。それよりもぷりんぷりんに興味津々だ。
 むしゃぶりつきたい。舐め回したい。思う存分堪能したい。でもガマンだ。見るだけにとどめよう。

 こんな性癖が露見したら、スキャンダルなんてものじゃ済まされない。この国に住めなくない。それはごめんだ。俺はこのままオリンピックに出場して、世界のアスリートのぷりんぷりんを視姦するという夢があるのだから!!

 そのためなら、どんなキツイ練習にも耐えてみせる。プリンへの欲望を、ぷりんぷりんへの欲望へと変えて、俺は世界を獲ってみせる!!

 そして、富と名声を手に入れて、引退後は、俺好みのぷりんぷりんをはべらせて、尻を自由に……。





●○●○●



「以上が、今回の犯行に関連があると思える『杉山勇人』被告の日記の抜粋です」
「……プリンとぷりんぷりんを原動力に世界を獲ったか。いや、うん、大したもんだよね……」
「……こんな不祥事を起こさなきゃ国の英雄だったのに……バカなことしたものですね……」
「俺も応援してたんだがな……。俺だけじゃない。国中が彼の走りに熱狂した。……こりゃ国民には公表できないな……」
「……同感です」


 頭を抱える刑事たちを尻目に、取調室の中の杉山勇人は、刑事たちのぷりんを思い返しながら薄ら笑いを浮かべていた。

「ああ……ぷりん……食べたい……」



END
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