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4、陽射しの中で輝くモノ

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「新堂くん……なにやってるんだよ!? もう関わらないでって言ったのに!」

 すごい形相で俺に詰め寄ってくる貴仁に、頭の理解が追い付かない。

「僕は……僕が山本くんと一緒にいたいからいるんだ! 邪魔しないでよ!」
「…………は?」
「まあ、そういうことだ」

 にやにやと笑いながら話す山本に、苛立ちが集っていく。

「そういうことってどういうことだよ」
「簡単に言えばな、コイツは俺が好きなんだとよ」

 山本の言葉に、頭が真っ白になる。

「前に告られてな。俺はホモじゃねーから断ったんだけど、どうしても傍にいたいって言うからいさせてやってんだよ。そうだよな森本」

 こくりと頷く貴仁の姿が、目に焼きついた。

 それじゃ、俺がやったことは、ただの迷惑……だった、のか……?

「もう用件は済んだだろ? 俺はもう帰るぞ」

 山本と共に去って行く貴仁を、俺はただ見送ることしかできな――





 いや、違う。


 違う!


「待て!」

 足を止めたふたりが、ゆっくりと俺を振り返る。

「貴仁! 違うだろ!? 本当に山本が好きなら、なんであのとき泣いたんだ!?」

 茜に輝く貴仁の涙が、俺の脳裏に鮮明に映っている。もし本当に現状に満足しているなら、あんな涙をこぼすはずがない。

「そ、それは……」

 目を泳がせ言いよどむ姿に、貴仁の本心を見た気がした。だから俺は止まらない。ここで止まっちゃダメだ。

 手放したくない者に気付いたんだから。

「俺が一緒にいるから……だから、山本から離れて俺と一緒に来い!」
「どうして君が、こんな僕なんかと……」

 頭にはいろんな理由が浮かんだ。でも、結局、答えはシンプルだ。

「俺がお前を好きだから」

 真っ直ぐに、貴仁の瞳を見て告げる。貴仁は、驚いたようにじっと俺を見ていた。

「マジか? お前もホモだったのかよ? 俺の前でそんなこと口にしていいのかよ新堂。噂になって明日から学校に来れなくなるぞ」

 山本のにやけ顔にはもう飽きた。今はそんなことどうでもいい。俺にはもっと大切なことがあるんだ。

「勝手にしろよ。そんなくだらねーこと気にして、本当に大事なモノを手放すほうが、俺はずっと嫌なんだよ」
「……くっさ……。見てるこっちが恥ずかしくなってくるぜ。森本、お前もう俺に関わるなよ。お前が来ると、この周りも見えないバカ野朗も付きまとって来そうだからな」
「え、でも……」
「ホモはホモ同士仲良くやってろ。誰にも言わないでおいてやるから、勝手にな」

 手をひらひらと振って、山本は姿を消した。
 残されたのは、俺と貴仁。そして、焼けるような熱い陽射し。

「……新堂くん……」
「昔みたいに、勇人って呼んでくれ」
「……うん。勇人くん……君はバカだよ。こんな僕なんかのために、学校生活を棒に振ったかもしれないのに……」
「俺がこうしたいからしただけだ。お前が好きだって気付いちまったから、止められなくなった」

 貴仁は目を伏せ、じっと下を向いてしまった。

「……山本くんは、嫌だとか気持ち悪いとか言っても、傍にいるのを拒否しなかったんだ。受け入れてはくれなかったけど、僕の性癖を否定しなかった。だから僕は……」
「山本のことはどうでもいい。過去もどうでもいい。俺が聞きたいのは、今のお前の気持ちだ。俺はお前が好きだ。お前は……俺のこと、どう思ってる?」

 口を震わせながら、小さな、本当に小さな言葉が紡がれる。

「……本気にしてもいい?」

 貴仁の瞳から、大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちた。
 焼けるような陽射しをキラキラと反射させ、流れ続ける。茜に染まった悲しい涙とは正反対の、温かく熱く心の叫びのような涙が。

 そんな貴仁が可愛くて、愛しくて、華奢な身体をそっと抱きしめた。
 夏の陽射しに照らされた影が重なり、くちびるが少しだけ触れ合い、離れていく。

「僕も……僕も……ずっと前から……勇人くんが転校する前からずっと好きで……。でも、もう逢えないって思って……ごめんなさい」
「気付いてやれなくてごめん。でも、まだ遅くないよな。貴仁、俺と……付き合ってください」
「……はい」

 離れたくちびるが、再び重なった。遠く離れた期間を取り戻すように、深く熱く。
 この熱さは陽射しにも負けていない。
 
 不意にチャイムが鳴った。
 まるで、俺たちふたりを祝福する鐘の音のように。



END
 
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