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3、陽射しが注ぐその先に

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 顔をぼこぼこに腫らして絆創膏だらけの俺が教室に入ると、クラスメートたちは騒然として、ひそひそと話し始めた。俺をこんな目にあわせた山本たちは、にやにやしながら俺を見ていた。

 勝手な想像でも噂でも勝手に立ててくれ。俺が用事があるのは……。

「おい。ちょっといいか?」

 俺に声をかけられた山本は、少し驚いたように呆然としている。そりゃそうだろう。昨日リンチしたばかりの男が、気にする風でもなく、平然と話しかけてきたんだ。少なからず面食らうのは当然だ。

「んだテメェ!? ナメてんのか!?」

 クラスメートの取り巻きA(名前は忘れた)が詰め寄るが、こんなザコに用は無い。

「山本。お前に話があるんだよ。ちょっと来いよ」
「……なんで俺がわざわざ行かなきゃなんねーんだよ。用事があるならここで話せ」
「お前とふたりで話がしたい」
「そりゃお前の都合だろ。俺がそれに付き合う義理はねーな」
「俺をボコボコにしといてそれはねーだろ。それともなんだ? こんなボロボロの俺でも、取り巻きが一緒じゃねーとふたりになるのは怖いか?」

 俺に掴みかかろうとした取り巻きAを手で制した山本は、ゆっくりと立ち上がった。
 背は山本のほうが10センチほど高い。俺を見下ろす眼光は怒りと静けさを兼ね備えているようで、背筋がゾッとした。

「……一緒に行ってやろうじゃねーか。あまり手間は取らすなよ」
「で、でも、山本さん」
「ガタガタ言ってんじゃねーよ。すぐ戻る」

 ざわつく教室を置き去りに、俺は山本とふたり出て行った。自分の心にケリをつけるために。







 やってきたのは屋上。気持ちの良い陽射しが出迎えてくれた。
 もう授業も始まる。ここなら邪魔も入らないだろう。

「で、用事ってのはなんだ?」
「分かってるだろ? 貴仁のことだよ」
「……アイツのことなら、俺たちとアイツの問題だ。部外者が口出すんじゃねーよ」
「部外者じゃねーよ、俺は貴仁の――」

 その先の言葉が出てこなかった。俺は……貴仁の――なんなんだ……?

 幼馴染? 友達? 親友?
 いや……俺は……。

「なんだ? 言いたいことがあるならハッキリ言えよ」
「……なんで貴仁なんだよ。お前の周りにはいくらでも人がいるじゃねーか。なんでわざわざ貴仁を近くに置いて、イジメなんかしてるんだよ。パシリなんか取り巻き連中にやらせりゃいいだろ」
「あ……? 新堂、お前、誤解してねーか? 俺はアイツに強制したことなんか一回もねーぞ」
「誤解……?」

 どういうことだ?
 だって、貴仁はコイツらにイジメられてて……。

「……ああ。子どもの頃のアイツしか知らねーんだもんな。いいか、アイツが俺たちと一緒にいるのは――」

 そのとき、屋上のドアが勢いよく開けられ、そこに立っていたのは――

「……貴仁」

 息を切らせた貴仁の姿だった。


続く

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