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二章 甘味の恨み
一目連の藍(4)
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「えっ…」
思わぬ誘いに京香は目を瞠った。
まず、兄以外の誰かに誘いを持ちかけられるのが初めてのことかもしれない。
しかも相手はクラスの人気者で、妖怪と交流のある不思議な秘密を持つ人だ。
「私はてっきり、〈大蛇〉の問題が片付いたら妖怪には関わらないものかと…」
「そうなの? それって俺ともこれきりってこと? ちょっと悲しいなあ」
「ええ…?」
本音とも冗談とも判別がつかない発言に京香は困惑するが、真緒の眼差しは衰えない。
「逢坂さんは優秀だ。もう妖力をうまく扱えているし、妖怪に対峙してもひるまない強さがある。何より、仲間が増えたらきっと楽しくなる!」
「楽しい…?」
本気で言っているのだろうかと京香は疑った。
いつも人に囲まれている彼には、教室の端で交流を拒絶している生徒の姿が見えていないのかもしれない。
けれども真緒は、京香の疑問をすぐさま取っ払ってくる。
「楽しいよ。さっきも言ったけど、俺は妖力持ちの人間に会ったのは逢坂さんが初めてなんだ。この世界を共有できる人がいたなら、楽しいし、嬉しい」
「…だけど、突然知らない人間が関わったら上の人が不満に思うんじゃないの?」
「上の人…ああ、長がどうこうって話? たしかに長と繋がりはあるにはあるけど、検非違使部は藍の言うように、俺がごっこ遊びの延長で勝手に始めたことだから。放課後ふらふら動いてる部活だよ。つまりこれは部活勧誘!」
「部活…」
適当を言っているとも捉えられたが、その言葉に京香の心は弱からず揺らいだ。
(正式な部活ではない…けど、誰かと活動しているのは嘘ではない。それなら、兄さんに心配かけずに済む…?)
断る・断らないを京香は天秤にかけてみた。
すると、「断る」に置く利点が見つからなかった。
強いて言うなら「自分なんかが人気者と関わるなんて」という気持ちだったが、それは本意とは違っている。その理由を京香は、妖力に理解がある人と繋がりがあったほうがいいからだろうと考えた。
京香は軽く一呼吸挟み、真緒と視線を合わせる。
「わかった。検非違使部に入る。これから…よろしく」
と言うと、彼の顔はぱあっとみるみる一等星のように明るく輝く。
「うん! よろしく、逢坂さん!」
差し出された手を、京香はそうっと握った。真緒はぎゅっと握り返して、ぶんぶん上下に振り始める。
こうして京香は、妖怪のために動くという非現実的な部活に入ることになった。
信じられないようだが、周囲にある満開の桜並木と大きな月の光の存在は確かに感じられて、この握手も現実のことだと思わされる。
ところで、二人が改めて関係を築く傍らで黙々と縄抜けに奮闘していた藍だが、結局抜け出せずに「オレを解放しろ~!」と情けない叫びをあげるのだった。
思わぬ誘いに京香は目を瞠った。
まず、兄以外の誰かに誘いを持ちかけられるのが初めてのことかもしれない。
しかも相手はクラスの人気者で、妖怪と交流のある不思議な秘密を持つ人だ。
「私はてっきり、〈大蛇〉の問題が片付いたら妖怪には関わらないものかと…」
「そうなの? それって俺ともこれきりってこと? ちょっと悲しいなあ」
「ええ…?」
本音とも冗談とも判別がつかない発言に京香は困惑するが、真緒の眼差しは衰えない。
「逢坂さんは優秀だ。もう妖力をうまく扱えているし、妖怪に対峙してもひるまない強さがある。何より、仲間が増えたらきっと楽しくなる!」
「楽しい…?」
本気で言っているのだろうかと京香は疑った。
いつも人に囲まれている彼には、教室の端で交流を拒絶している生徒の姿が見えていないのかもしれない。
けれども真緒は、京香の疑問をすぐさま取っ払ってくる。
「楽しいよ。さっきも言ったけど、俺は妖力持ちの人間に会ったのは逢坂さんが初めてなんだ。この世界を共有できる人がいたなら、楽しいし、嬉しい」
「…だけど、突然知らない人間が関わったら上の人が不満に思うんじゃないの?」
「上の人…ああ、長がどうこうって話? たしかに長と繋がりはあるにはあるけど、検非違使部は藍の言うように、俺がごっこ遊びの延長で勝手に始めたことだから。放課後ふらふら動いてる部活だよ。つまりこれは部活勧誘!」
「部活…」
適当を言っているとも捉えられたが、その言葉に京香の心は弱からず揺らいだ。
(正式な部活ではない…けど、誰かと活動しているのは嘘ではない。それなら、兄さんに心配かけずに済む…?)
断る・断らないを京香は天秤にかけてみた。
すると、「断る」に置く利点が見つからなかった。
強いて言うなら「自分なんかが人気者と関わるなんて」という気持ちだったが、それは本意とは違っている。その理由を京香は、妖力に理解がある人と繋がりがあったほうがいいからだろうと考えた。
京香は軽く一呼吸挟み、真緒と視線を合わせる。
「わかった。検非違使部に入る。これから…よろしく」
と言うと、彼の顔はぱあっとみるみる一等星のように明るく輝く。
「うん! よろしく、逢坂さん!」
差し出された手を、京香はそうっと握った。真緒はぎゅっと握り返して、ぶんぶん上下に振り始める。
こうして京香は、妖怪のために動くという非現実的な部活に入ることになった。
信じられないようだが、周囲にある満開の桜並木と大きな月の光の存在は確かに感じられて、この握手も現実のことだと思わされる。
ところで、二人が改めて関係を築く傍らで黙々と縄抜けに奮闘していた藍だが、結局抜け出せずに「オレを解放しろ~!」と情けない叫びをあげるのだった。
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