出来損ないΩの猫獣人、スパダリαの愛に溺れる

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

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【書籍化記念】番外編

経験者は語る

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『レオン』と『ミューラン』の間の話です。

――――――――――――――――――――――――――――――

「いいか、お前達。剣術でも体術でも勉強でも人脈でも何でもいい。自分と大切な誰かを守るための方法を身に付けろ」
「お前達の成長のためなら俺達は協力を惜しまない。立派な大人になれとは言わないが、何かあった時には踏ん張って手を伸ばせるようになれ。後悔してからじゃ遅いんだ。手放したものはもう二度と手に入らないと思え」
「はーい」

 レオンとギルハザールは我が子達にそう言い聞かせる。
 生まれた時からことあるごとに何度も聞かせてきたセリフだが、子供達はいつも元気に返事をする。

「レオンさんもギルハザールさんも厳しすぎやしませんか? まだ子供ですよ?」
「ジャスティンも知っての通り、社交界デビュー前の事故は多い。俺とレオンの子だ。当然事故を装って狙われるだろうな」
「俺はもうこのくらいの年から剣を振ってたぞ?」

 ジャスティンの言葉に、ギルハザールは苦々しい表情を浮かべる。一方で、レオンはきょとんとした表情だ。

 猫獣人の中でもかなり特殊な例であろうレオンはともかく、ギルハザールの心配は『優秀な子供』を持つ貴族なら誰しもが抱くものなのだろう。

 ジャスティンの婚約者がかなり早い段階から決まっていたのも、おそらくは『オメガの標的』にされないため。

 多くのオメガから標的にされたギルハザール曰く、それはもう散々なものだったという。相手に強く出られない立場であれば確実にトラウマになっている。真剣な目で断言された時はゾッとしたものだ。

 そんな経験をしたからこそ、彼は『別の事故』に巻き込まれたジャスティンに親切にしてくれるのである。

 ギルハザールの幼少期を思うと、彼らの教育方針に納得してしまう。
 なにより、子供達は一人として嫌がっているようには見えないというのも大きい。遊び感覚なのかもしれない。

「きょうはなにするの?」
「じかんくらべする?」

 鍛錬場を駆け回って汗だくになった子供達はジャスティンの足に引っ付き、上ってこようとしている。

「先に汗を拭いてからな。このままだと風邪ひくぞ」
 ジャスティンは子供の頭をポンポンと叩きながら言い聞かせる。
 だがまだまだ体力が有り余っている子供達の心には全く響かない。

「ええ~」
「このくらいだいじょぶだよ?」
「ちゃんと汗拭いて着替えた者からおやつを与える!」

 レオンが高らかに宣言すると、子供達がピタッと動きを止めた。

「ほんと!?」
「おやつ!」
「おやつたべる!」

 さすがはレオン。子供達のツボを理解している。子供達の背中を押しながら自室へと戻っていく。

 ジャスティンは彼らの背中を微笑ましく眺めると、自らもこの場を後にしようと踵を返す。レオンが子供を着替えさせている間に、彼らを迎え入れるための準備をしてしまおうと思ったのだ。

「いつも子供達の面倒を見てもらって悪いな。子供達用の問題も全部ジャスティンが作ってくれていると、レオンから聞いた」

 ギルハザールがその隣を歩くことは予想外だったが。
 てっきり彼は自分の仕事に戻るのだとばかり思っていたのだ。こうして二人で話すのも久々だ。

 彼と話す時はいつもレオンが共にいた。信頼してもらってはいるものの、やはり番を他のアルファと二人きりにはしたくないのだろう。

 アルファとしての感覚が薄いジャスティンだが彼の行動理由はなんとなく理解できた。

「簡単な計算と時計の読み方、時間の計り方程度ですけどね」
「謙遜するな。買い物ができるのも、時計が読めるのも、きっちり時間のカウントができるようになったのも、ジャスティンのおかげだ」
「最後のは俺が教えたものとは別物の気がするんですが……」
「時間比べというもののおかげだろう? 競う形式にすることで遊び感覚で楽しめる上に正確な時間感覚まで身につけられる。騎士向けの報告書マニュアルといい、ジャスティンの作るものにはいつも助けられているな」
「助けられたのは俺の方ですよ。それに騎士として働いていた経験は俺にとっての強みでもありますから。活かさない手はありません」
「チャンスを与えられてもそれを物にできるかどうかは本人次第。ジャスティンは自らの手で掴んだ。だから俺もレオンもお前が気に入っている。安心して子供を任せられるのもジャスティンだからこそだ」
「ありがとうございます」

 レオンとギルハザールの子供達は王城を自由に歩き回り、日々多くの大人達と交流を重ねている。

 王城という場所は権力目当ての者が集まる場所ではあるものの、騎士団二大トップの実力は周知されている。下心や野心があったとしても、歴代最強と謳われた彼らの子供を標的にするような愚か者はいないのだ。

 だからこそ多くの才能が集まった場所で、多くの分野に触れさせることができる。子供達が育つにつれ、人脈を広げる場所にもなり得るのだろう。

 それも二人の目が完全に行き届いているからこそできる技。
 二人が目を離している間も、ジャスティンのような、子供を見守る目となり彼らに差し伸べる手となる存在が側にいる。

 子供達もレオンも無自覚なのだろうが、幼いうちから接することで子供達への愛着も芽生える。

 実際、特別子供が好きだったわけではないジャスティンでさえもちょこちょこと寄ってくる彼らが可愛くて仕方ない。仕事の合間にテスト問題を作るのも、城下町に繰り出した際に菓子類を買い込むようになったのも、彼らのためを思ってのことだ。

「ジャスティンも何か困ったことがあれば、遠慮なく俺達を頼るといい」
「すでに何度も頼らせてもらってますよ」
「これから先も、だ。俺達は可能な限りお前を助ける手になろう」
「その時は全力でしがみつかせてもらいますね」
「ああ、絶対に遠慮だけはするな。一人で抱え込むな。仲間がいることを忘れるな」
「? はい」

 ギルハザールはジャスティンの肩をガッと掴み、目を見つめる。
 レオンや子供達に向けるような柔らかい雰囲気はない。戦地に赴く部下にでも言い聞かせるような言葉だ。

 子供達への言葉といい、彼は何か手放した経験があるのだろうか。疑問に思いながらも、そこに踏み込んでいいものか迷ってしまう。

 そうこうしているうちに、子供達がやってきた。

「あ~そ~ぼ~」
「おやつもってきた!」
「いっしょにたべよ~」

 ジャスティンの服の裾を引き、いつも勉強に使っているソファへと向かう。

「では俺は仕事に戻る。ジャスティン、子供達のことを頼んだぞ」
「あ、はい」
「いってらっしゃ~い。おしごとがんばってねぇ」

 子供達に見送られながらギルハザールは部屋を後にする。

 ジャスティンが、レオンとギルハザールが子供達に繰り返し伝える『後悔してからじゃ遅い』という言葉の本当の意味を身を以て理解するのはまだ先のことである。


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