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ジャックが抵抗することを止めてからどのくらいの時間が経ったことだろう。時計どころか外の光さえも見えないこの状況では予想すらつく訳がなかった。あれからウィリアム王子は気が済むまでジャックの身体を弄び続けた。
「フランシスカ、フランシスカ」
ソファに座ると膝の上にジャックを乗せて、その名前を何度と耳元で繰り返す。
触れられた足や腕さえもすでに性感帯となってしまったジャックは、その途中で何度となく果てる。声も、白濁すらも出ずに。頭を白で犯され続けた。
そんなジャックのドレスの裾をめくりあげ、股を自らの膝にひっかけて開かせると、再びジャックのイチモツの先端部分をいじり始める。ぐっちょりと濡れ、もう出すものすらないというのに、一体何が楽しいのか。爪を立てて撫でてはジャックの身体がピクッと跳ねるのを確認して、ふふふと小さな声を漏らしては上機嫌で竿全体をいい子いい子と撫でまわした。
けれどやがてお茶に含まれた何かの効果が切れたのか、それともジャックの感覚がマヒし始めたのか、身体すらも反応しなくなる。
するとウィリアム王子は諦めたらしく、おもむろにジャックを横抱きにして、ソファから立ち上がった。ジャックの体内から放たれた水分は既に吸収と排出を止めたようで、宙に浮いたところで床に新たな水たまりを作ることはない。もちろん、ドレス自体はまだ相当な重みを含んでいるのだろうが。けれどここまで好き勝手やった相手を気遣うつもりはないし、そこまで回る気など今のジャックは持ち合わせていなかった。
「そろそろお風呂に入ろうか。それに……着替えないと。実は君のためにドレスを仕立ててあるんだ。ずっと、ずっと渡す勇気を出せずに溜まり続けたものがたくさん。………………………………やっと。やっとフランシスカの腕が通るのかと思うと私は嬉しくてたまらないよ」
だからウィリアム王子が何やら意味深なことを呟いていようとも知ったことではないのだ。
それから大きな浴室へと連れられ、ドレスを完全にはぎとられた上で、使用人の手に渡された。
「私はフランシスカのドレスを選んでくる。くれぐれも丁重に扱うように」
「かしこまりました」
浴室の中で控えていたのはたった一人。それも男性だ。『フランシスカ』と明らかに女性の名前を告げられていながら、彼は驚く素振りを一つたりとも見せはしない。今のフランシスカがジャックだと知っているのだろうか。ウィリアム王子ですら、男性器を目にし、いじりつくしてもまだなお認めようとしなかったというのに。
もしや初めから『フランシスカ=シザー』という人間を男性であったということで処理しているのかもしれない。ならば婚約を解消されても不思議ではない。
これも嫌がらせの一環だったのだろうか。これ以上ない恥を晒したのだから、もう十分だろう。それが『フランシスカ』の名前でかいた恥だということに申しわけなさを覚えてしまう。けれどモコモコの泡で身体中を洗われ、綺麗に流される頃には、今日ここに来たのがフランシスカ本人でなくて良かったと思えてくる。確かに恥ずかしかった。消えたくなったし、死にたくなった。けれどフランシスカだったら、女性であったらそれだけでは済まないのだ。王子から婚約破棄されたという烙印を背負うだけでも重すぎるのに、子を孕みでもしたらそれこそ一大事だ。外見に王族特有の特徴が出たとしても王族サイドは決してその事実を認めないだろうし、その訴えすらも不敬として断罪されてしまうかもしれない。けれど未婚で子持ち、つまり婚前に男に股を開いた令嬢を誰が娶るというのだろうか。家に残るにしても、フランシスカに貼られたレッテルは二度と消えることはない。ずっと『フランシスカ=シザー』という人物の尊厳を蝕み続けることだろう。
なら、やはりここに来たのが私で良かった――そう思うことでジャックの意識はどん底から少しずつ浮上していく。
「フランシスカ、君のためのドレスだ」
タオルで包み込まれながら、王子の登場を目にした瞬間にガタッと一段階ほど落ちたが。
それでもマシにはなったといっていいだろう。彼が持ってきたのは、ウィリアム王子の瞳と同じ色をした真っ青なドレスだ。『君のため』なんて大層なことを言うだけあって、確かにフランシスカの好きそうなデザインだ。少々こぶりの胸を強調もせず、けれど隠すこともせず、全体をシャープなイメージで揃えたドレス。ジャックの好みとは真逆だ。ジャックはフランシスカとは違い、どちらかといえば、足のラインを隠せそうな裾がふわっとしたAラインのドレスを好いている。この数か月間、『フランシスカ』が来ていたドレスはそのような物だった。けれどウィリアムが用意したのは正真正銘、フランシスカ好みのドレス。
変わったフランシスカを求めていたのではなかったのか。――そう、感じてしまった自分にジャックは嫌気が差した。
いつから王子はフランシスカと呼びながら、その反面で自分を求めていてくれると錯覚していたのだろうか?
ウィリアム王子はフランシスカの婚約者なのに。
目の前の男にはフランシスカしか見えていないというのに。
なぜ『ジャック』を求めてもらえるなんてそんなバカなことを、少しでも思ってしまったのだろう。ああ、そうか。ウィリアム王子を姉の身代わりにしたかったのだ。どんなに今の彼女の中にフランシスカが残っていようとも、もうワガママ放題の彼女が帰ってくることはない。だから今後、ジャックは姉がやりたい放題荒らした後の処理をすることはない。次男として産まれ、能力は人並みかそれ以下。家のためになる婚約すらも結べず、姉の残した厄介事を処理するのだけがジャックの役目だったのに、それすらなくなってしまったから。誰にも『ジャック』という人間を求めてもらえないんじゃないかと不安で、その穴をウィリアム王子に埋めさせようとしたのだ。なんて強欲で傲慢な考えなのだろう。気持ち悪い。こんなタイミングでこんな醜い気持ち、気付きたくはなかったなぁ。
ジャックはウィリアム王子から目を逸らし、着せられたドレスに視線を落とす。海のように深い青のドレスにすっかり枯れた思っていたジャックの涙が零れ落ちる。
けれどそこにはシミの跡が残ることはなかった。
「フランシスカ、フランシスカ」
ソファに座ると膝の上にジャックを乗せて、その名前を何度と耳元で繰り返す。
触れられた足や腕さえもすでに性感帯となってしまったジャックは、その途中で何度となく果てる。声も、白濁すらも出ずに。頭を白で犯され続けた。
そんなジャックのドレスの裾をめくりあげ、股を自らの膝にひっかけて開かせると、再びジャックのイチモツの先端部分をいじり始める。ぐっちょりと濡れ、もう出すものすらないというのに、一体何が楽しいのか。爪を立てて撫でてはジャックの身体がピクッと跳ねるのを確認して、ふふふと小さな声を漏らしては上機嫌で竿全体をいい子いい子と撫でまわした。
けれどやがてお茶に含まれた何かの効果が切れたのか、それともジャックの感覚がマヒし始めたのか、身体すらも反応しなくなる。
するとウィリアム王子は諦めたらしく、おもむろにジャックを横抱きにして、ソファから立ち上がった。ジャックの体内から放たれた水分は既に吸収と排出を止めたようで、宙に浮いたところで床に新たな水たまりを作ることはない。もちろん、ドレス自体はまだ相当な重みを含んでいるのだろうが。けれどここまで好き勝手やった相手を気遣うつもりはないし、そこまで回る気など今のジャックは持ち合わせていなかった。
「そろそろお風呂に入ろうか。それに……着替えないと。実は君のためにドレスを仕立ててあるんだ。ずっと、ずっと渡す勇気を出せずに溜まり続けたものがたくさん。………………………………やっと。やっとフランシスカの腕が通るのかと思うと私は嬉しくてたまらないよ」
だからウィリアム王子が何やら意味深なことを呟いていようとも知ったことではないのだ。
それから大きな浴室へと連れられ、ドレスを完全にはぎとられた上で、使用人の手に渡された。
「私はフランシスカのドレスを選んでくる。くれぐれも丁重に扱うように」
「かしこまりました」
浴室の中で控えていたのはたった一人。それも男性だ。『フランシスカ』と明らかに女性の名前を告げられていながら、彼は驚く素振りを一つたりとも見せはしない。今のフランシスカがジャックだと知っているのだろうか。ウィリアム王子ですら、男性器を目にし、いじりつくしてもまだなお認めようとしなかったというのに。
もしや初めから『フランシスカ=シザー』という人間を男性であったということで処理しているのかもしれない。ならば婚約を解消されても不思議ではない。
これも嫌がらせの一環だったのだろうか。これ以上ない恥を晒したのだから、もう十分だろう。それが『フランシスカ』の名前でかいた恥だということに申しわけなさを覚えてしまう。けれどモコモコの泡で身体中を洗われ、綺麗に流される頃には、今日ここに来たのがフランシスカ本人でなくて良かったと思えてくる。確かに恥ずかしかった。消えたくなったし、死にたくなった。けれどフランシスカだったら、女性であったらそれだけでは済まないのだ。王子から婚約破棄されたという烙印を背負うだけでも重すぎるのに、子を孕みでもしたらそれこそ一大事だ。外見に王族特有の特徴が出たとしても王族サイドは決してその事実を認めないだろうし、その訴えすらも不敬として断罪されてしまうかもしれない。けれど未婚で子持ち、つまり婚前に男に股を開いた令嬢を誰が娶るというのだろうか。家に残るにしても、フランシスカに貼られたレッテルは二度と消えることはない。ずっと『フランシスカ=シザー』という人物の尊厳を蝕み続けることだろう。
なら、やはりここに来たのが私で良かった――そう思うことでジャックの意識はどん底から少しずつ浮上していく。
「フランシスカ、君のためのドレスだ」
タオルで包み込まれながら、王子の登場を目にした瞬間にガタッと一段階ほど落ちたが。
それでもマシにはなったといっていいだろう。彼が持ってきたのは、ウィリアム王子の瞳と同じ色をした真っ青なドレスだ。『君のため』なんて大層なことを言うだけあって、確かにフランシスカの好きそうなデザインだ。少々こぶりの胸を強調もせず、けれど隠すこともせず、全体をシャープなイメージで揃えたドレス。ジャックの好みとは真逆だ。ジャックはフランシスカとは違い、どちらかといえば、足のラインを隠せそうな裾がふわっとしたAラインのドレスを好いている。この数か月間、『フランシスカ』が来ていたドレスはそのような物だった。けれどウィリアムが用意したのは正真正銘、フランシスカ好みのドレス。
変わったフランシスカを求めていたのではなかったのか。――そう、感じてしまった自分にジャックは嫌気が差した。
いつから王子はフランシスカと呼びながら、その反面で自分を求めていてくれると錯覚していたのだろうか?
ウィリアム王子はフランシスカの婚約者なのに。
目の前の男にはフランシスカしか見えていないというのに。
なぜ『ジャック』を求めてもらえるなんてそんなバカなことを、少しでも思ってしまったのだろう。ああ、そうか。ウィリアム王子を姉の身代わりにしたかったのだ。どんなに今の彼女の中にフランシスカが残っていようとも、もうワガママ放題の彼女が帰ってくることはない。だから今後、ジャックは姉がやりたい放題荒らした後の処理をすることはない。次男として産まれ、能力は人並みかそれ以下。家のためになる婚約すらも結べず、姉の残した厄介事を処理するのだけがジャックの役目だったのに、それすらなくなってしまったから。誰にも『ジャック』という人間を求めてもらえないんじゃないかと不安で、その穴をウィリアム王子に埋めさせようとしたのだ。なんて強欲で傲慢な考えなのだろう。気持ち悪い。こんなタイミングでこんな醜い気持ち、気付きたくはなかったなぁ。
ジャックはウィリアム王子から目を逸らし、着せられたドレスに視線を落とす。海のように深い青のドレスにすっかり枯れた思っていたジャックの涙が零れ落ちる。
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