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――だがすでにフランシスカが消えてから3ヶ月が経った今も、フランシスカが屋敷に戻ってくることはなかった。それどころか彼女の足跡一つ見つからないのだ。
想像以上に長期化してしまったせいで、隠し通すことも困難になり、社交界ではいなくなったのは『ジャック』ということになっている。父からはあふれんばかりの愛情を注がれているジャックだが次男であるため、兄ほど家にとっての重要性も高くはない。それに決まった婚約者だってまだいない。つまりフランシスカがいなくなったとウワサされるよりも家のイメージにつくダメージは少なくて済むという訳だ。
まさか弟の方がフランシスカに成り代わっているなどとは露ほども考えていないのだろう。初めこそ「まさかあのまじめなジャックが……。ついに姉の世話がイヤになって逃げ出したのだろう……」なんてウワサがたったものだ。ウワサの9割以上がシザー家への不信感ではなく、ジャックへの同情だった。フランシスカの耳には届かぬようにと配慮していても結構耳に届いてしまうからよほど広がっていたのだろう。だがそれすらも次第に薄れていった。ジャック=シザーという人間はそれほど社交界で重要な役目を担っていた訳でも、将来を期待されていた訳でもないのだ。
所詮、貴族なんて、社交界なんてそんなものだ。
時が経てばすぐに鮮度の高いものを仕入れて来てはウワサに花を咲かせる。
初めは表面的であってもフランシスカを心配していたご令嬢たちも最近では『フランシスカ様は学園に入学してからすっかり大人になられて』なんて笑みを浮かべるようになった。
フランシスカがいたころとは違う、どこか安心したような和やかな笑みだ。
それだけジャックのお茶姿が堂に入っているということだろうか。バレてほしくはないが、ここまで疑われないと複雑な気持ちになってしまう。
けれど問題は「こちらも美味しいですから是非」とジャムがたっぷり乗ったスコーンを勧めてくるご令嬢達ではない。
「フランシスカ!」
「……ウィリアム王子」
ワガママ放題のフランシスカを毛嫌いして、必要時以外手紙さえ寄越さなかった婚約者がこうして頻繁に声をかけてくるようになったことだ。
ウィリアムいわく、学園入学を機に今まで以上に距離を縮めたいとのことだが、それを鵜呑みすることは難しい。初めは入学式の日から何かと付きまとってくる庶民の女子生徒をやっかい払いするためかと思っていた。だがどうやらそうではないらしいのだ。
「今日はどうされたのですか?」
ジャックはいつものようにご令嬢スマイルを浮かべながら遠回しに用がないなら帰ってくれ、と先制攻撃をしかける。けれどウィリアム王子はジャックのへぼいパンチなんて全く気にすることはない。
「愛しい婚約者に会いに来るのに理由なんて必要ないだろう」
それどころかカクザトウのように甘ったるい言葉を吐きながら、朗らかな笑みを広げるのだ。
お茶会メンバーのご令嬢はすっかり王子の笑みの虜。口元を押さえながらきゃっきゃと胸をトキめかせる。何も知らなければ言葉通りにとれるのだろう。のんきでうらやましいことだ。けれどジャックには後ろ暗いことがある。
それに数ヶ月で簡単に人が変わってたまるものか。
おそらく、この王子は何かの切っ掛けでジャックがフランシスカの身代わりになっていることを知ったのだろう。
それを分かっていて、けれど最強のカードとして今後利用するために残しているのだろう。定期的にジャックの様子を見に来るのはきっと監視するためなのだろう。
いつでもバラせるのだぞとプレッシャーをかけられているようで気分が悪い。
けれど悪いのはシザー家。もっといえば姉のフランシスカである。
だからジャックは弱々しい攻撃だけしか繰り出すことは出来ず、日々神経をすり減らしていくのだった。
想像以上に長期化してしまったせいで、隠し通すことも困難になり、社交界ではいなくなったのは『ジャック』ということになっている。父からはあふれんばかりの愛情を注がれているジャックだが次男であるため、兄ほど家にとっての重要性も高くはない。それに決まった婚約者だってまだいない。つまりフランシスカがいなくなったとウワサされるよりも家のイメージにつくダメージは少なくて済むという訳だ。
まさか弟の方がフランシスカに成り代わっているなどとは露ほども考えていないのだろう。初めこそ「まさかあのまじめなジャックが……。ついに姉の世話がイヤになって逃げ出したのだろう……」なんてウワサがたったものだ。ウワサの9割以上がシザー家への不信感ではなく、ジャックへの同情だった。フランシスカの耳には届かぬようにと配慮していても結構耳に届いてしまうからよほど広がっていたのだろう。だがそれすらも次第に薄れていった。ジャック=シザーという人間はそれほど社交界で重要な役目を担っていた訳でも、将来を期待されていた訳でもないのだ。
所詮、貴族なんて、社交界なんてそんなものだ。
時が経てばすぐに鮮度の高いものを仕入れて来てはウワサに花を咲かせる。
初めは表面的であってもフランシスカを心配していたご令嬢たちも最近では『フランシスカ様は学園に入学してからすっかり大人になられて』なんて笑みを浮かべるようになった。
フランシスカがいたころとは違う、どこか安心したような和やかな笑みだ。
それだけジャックのお茶姿が堂に入っているということだろうか。バレてほしくはないが、ここまで疑われないと複雑な気持ちになってしまう。
けれど問題は「こちらも美味しいですから是非」とジャムがたっぷり乗ったスコーンを勧めてくるご令嬢達ではない。
「フランシスカ!」
「……ウィリアム王子」
ワガママ放題のフランシスカを毛嫌いして、必要時以外手紙さえ寄越さなかった婚約者がこうして頻繁に声をかけてくるようになったことだ。
ウィリアムいわく、学園入学を機に今まで以上に距離を縮めたいとのことだが、それを鵜呑みすることは難しい。初めは入学式の日から何かと付きまとってくる庶民の女子生徒をやっかい払いするためかと思っていた。だがどうやらそうではないらしいのだ。
「今日はどうされたのですか?」
ジャックはいつものようにご令嬢スマイルを浮かべながら遠回しに用がないなら帰ってくれ、と先制攻撃をしかける。けれどウィリアム王子はジャックのへぼいパンチなんて全く気にすることはない。
「愛しい婚約者に会いに来るのに理由なんて必要ないだろう」
それどころかカクザトウのように甘ったるい言葉を吐きながら、朗らかな笑みを広げるのだ。
お茶会メンバーのご令嬢はすっかり王子の笑みの虜。口元を押さえながらきゃっきゃと胸をトキめかせる。何も知らなければ言葉通りにとれるのだろう。のんきでうらやましいことだ。けれどジャックには後ろ暗いことがある。
それに数ヶ月で簡単に人が変わってたまるものか。
おそらく、この王子は何かの切っ掛けでジャックがフランシスカの身代わりになっていることを知ったのだろう。
それを分かっていて、けれど最強のカードとして今後利用するために残しているのだろう。定期的にジャックの様子を見に来るのはきっと監視するためなのだろう。
いつでもバラせるのだぞとプレッシャーをかけられているようで気分が悪い。
けれど悪いのはシザー家。もっといえば姉のフランシスカである。
だからジャックは弱々しい攻撃だけしか繰り出すことは出来ず、日々神経をすり減らしていくのだった。
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