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「胸が弾むだけならきっと、オメガを抱くだけだって出来る。だから、けじめの一環として俺を抱きませんか?」
「いきなり何を」
「あなたも知っての通り、俺はこんな体質だから八年間、一度も抱かれたことがない。良い人にばかり選ばれていたけれど、ずっとそうとも限らない。いつかどんな人かも分からぬ誰かに抱かれる時が来る。このままでいいとは思わないから、経験が欲しい。あなただってずっと同じ人を探し続けて経験があるとは思えない」
「今まで何の問題もなかったんだ。この先だって経験なんてなくてもどうだってなる」
「でもそれはユキちゃんのことを追ってきたからでしょう? 変わるなら、今までしてこなかったことをした方が良い」
「それは……。君は、俺でいいのか?」
「あなたの一番になれないことは理解しているから。どんなに優しくされても好きにならずに済むし、痛くてもこれがあなたの痛みだと思える。だから初めに抱かれるならあなたがいい」
そんなの言い訳だ。
俺はただ、ダイチに抱かれたいだけ。
何年もずっと胸に秘めてきた初恋が叶わないと理解している。再会してもすぐに気づけなかったくらい、自分が薄情なやつなのも。
それでも一度だけでもいいから彼の熱が知りたかった。
土のお山で手を触れたのはユキちゃんだけじゃないんだよ。その場に俺もいたんだ。思い出して欲しいだなんて言えやしない。
キラキラで可愛い思い出に傷をつけたくないから。
ダイチの手の甲を軽く指先でなぞる。
「俺じゃ駄目、ですか?」
弱々しくそう尋ねる。
俺は他のオメガのような可愛げもないし、こんな時だって発情香一つ出せないけれど。
ダイチはほんの少しだけ迷ったように視線を彷徨わせ、そして小さく「デザートが食べ終わったら」と恥ずかしそうに溢した。
押せば落ちるタイプだったようだ。
バニラアイスを食べながら、チラチラとこちらに視線をくれる彼が愛おしくて。再会させてくれた神様に心から感謝するのだった。
食事を済ませ、タクシーを頼む。
タクシーが迎えに来るまで、ダイチはいくつものホテルに電話していた。俺と寝るつもりなんてなかった彼はホテルなんて予約していなくて、今からでもと探してくれた。
だがどこも満室だった。嘘の日だから仕方ない。
困っているうちにタクシーは来てしまい、彼は少しだけ迷ってから行き先を告げた。
辿り着いたのは高層マンション。
施設に入る前まで暮らしていたマンションよりも遥かに高い。首が痛くなるまで見上げても頂上は見えなかった。
腰を支えられ、エスコートされたのは下からは見えなかった最上階。
ワンフロアまるまる彼の部屋で、けれどドアの向こうには生活感なんてなかった。最低限のものが置かれているだけ。それでもベッドだけは立派なものが鎮座していた。
「いきなり何を」
「あなたも知っての通り、俺はこんな体質だから八年間、一度も抱かれたことがない。良い人にばかり選ばれていたけれど、ずっとそうとも限らない。いつかどんな人かも分からぬ誰かに抱かれる時が来る。このままでいいとは思わないから、経験が欲しい。あなただってずっと同じ人を探し続けて経験があるとは思えない」
「今まで何の問題もなかったんだ。この先だって経験なんてなくてもどうだってなる」
「でもそれはユキちゃんのことを追ってきたからでしょう? 変わるなら、今までしてこなかったことをした方が良い」
「それは……。君は、俺でいいのか?」
「あなたの一番になれないことは理解しているから。どんなに優しくされても好きにならずに済むし、痛くてもこれがあなたの痛みだと思える。だから初めに抱かれるならあなたがいい」
そんなの言い訳だ。
俺はただ、ダイチに抱かれたいだけ。
何年もずっと胸に秘めてきた初恋が叶わないと理解している。再会してもすぐに気づけなかったくらい、自分が薄情なやつなのも。
それでも一度だけでもいいから彼の熱が知りたかった。
土のお山で手を触れたのはユキちゃんだけじゃないんだよ。その場に俺もいたんだ。思い出して欲しいだなんて言えやしない。
キラキラで可愛い思い出に傷をつけたくないから。
ダイチの手の甲を軽く指先でなぞる。
「俺じゃ駄目、ですか?」
弱々しくそう尋ねる。
俺は他のオメガのような可愛げもないし、こんな時だって発情香一つ出せないけれど。
ダイチはほんの少しだけ迷ったように視線を彷徨わせ、そして小さく「デザートが食べ終わったら」と恥ずかしそうに溢した。
押せば落ちるタイプだったようだ。
バニラアイスを食べながら、チラチラとこちらに視線をくれる彼が愛おしくて。再会させてくれた神様に心から感謝するのだった。
食事を済ませ、タクシーを頼む。
タクシーが迎えに来るまで、ダイチはいくつものホテルに電話していた。俺と寝るつもりなんてなかった彼はホテルなんて予約していなくて、今からでもと探してくれた。
だがどこも満室だった。嘘の日だから仕方ない。
困っているうちにタクシーは来てしまい、彼は少しだけ迷ってから行き先を告げた。
辿り着いたのは高層マンション。
施設に入る前まで暮らしていたマンションよりも遥かに高い。首が痛くなるまで見上げても頂上は見えなかった。
腰を支えられ、エスコートされたのは下からは見えなかった最上階。
ワンフロアまるまる彼の部屋で、けれどドアの向こうには生活感なんてなかった。最低限のものが置かれているだけ。それでもベッドだけは立派なものが鎮座していた。
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