嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

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「なんだ、他に欲しいものでもあるのか? 君には協力してもらったからな。多少のものなら買ってやるぞ」
「……じゃあドライヤー。髪に良いやつ」
「分かった。俺のお気に入りのタオルも付けよう」

 翌日。
 大量のサンプルを入れた袋と髪に良いドライヤーと、大柴さんのお気に入りのタオルと共に施設へと戻っていった。送ってくれたのは大柴さんの会社のベータ男性で、大柴さんは会社の前までほくほく顔で見送ってくれた。しばらく研究室に篭もるのだろう。

 送ってくれた人からは何度も「ありがとう」と繰り返された。

 なんだか良いことをした気分だ。いつもかっちゃんはこんな気持ちだったのだろうか。でも少しだけ不完全燃焼で、今になって腹が疼いている気がする。

「ユイさんは誰を選んだんだろう……」

 持たせてもらったお土産を部屋に運んでもらいながら、ぼんやりと考える。
 知りたいような知りたくないような。知ってしまったら僕は嫉妬でどうにかなってしまいそうだ。

 こんな顔、誰にも見せられない。もらってきたサンプルの洗顔を開けて、ふわふわの泡で顔を洗う。そしていつもよりも念入りに化粧水を叩いてなんとか気持ちを落ち着かせる。

 するとドアをノックされた。

「よっちゃん、かっちゃんが探してるよ」
「かっちゃんが?」
「うん。沢山おやつを持って帰ってきたからよっちゃんにも渡したいのかも」
「そっかありがとう」

 どうやらそれを伝えに来てくれたらしい。
 かっちゃんの元へ向かうと、確かに手の中の紙袋には大量のおやつが入っていた。それも高そうなものばかり。かっちゃんは今年もいい人に選ばれたことを理解した。

「よっちゃん、その肌どうしたの?」
「今年の相手は美容系の研究者だったの。オメガ相手に売り出したいものがあるから試して欲しいって。この数日、ひたすらスキンケアされてた」
「なるほど……」

 口にして、ユイさんから選ばれなかったことを再認識する。忘れなきゃ。どうせ来年も選ばれない。大柴さんみたいな人に当たるとも限らない。

 来年こそ、ユイさんとは違う人に抱かれてしまうのだ。
 そう思うと悲しくて、けれどもそれがオメガに生まれた定めなのであると。かっちゃんの持っているおやつみたいに消費されることこそ、アルファに選ばれずにここまで来た自分の役目なのだと理解している。

 暗い気持ちを切り替えたくて、俯いていた顔を上げる。

「ところで今回は美味しいおやつを大量に持ち帰ったって聞いたけど、かっちゃんの相手はどんな人だったの?」

 すると今度はかっちゃんの顔が少しだけ強ばった。なんでも今年のアルファは今までかっちゃんを選んだアルファとは少し違う訳ありだったそうだ。

 とあるオメガを探しているのだと。

 そのオメガについて持っている情報のうちで確定しているのは『ユキ』が名前に含まれていること・途中入所であること・公園で出会ったこと。

 たったそれだけ。他の情報は確信が得られないと。
 よくそんな少ない情報で探そうと思ったなと呆れてしまう。話を持ってきたのがかっちゃんでなければ、諦めた方がいいよと一蹴したことだろう。

 その『ユキちゃん』候補だと言われたからなおのこと。僕にそんなキラキラとした思い出なんてない。

「そんな男の子に会った覚えなんてないけどなぁ。公園に行ったのだって数えるほどだし」
「そうなの?」
「ほら僕、小さい頃は長く生きられないって言われてたから。お父様とお母様は生きている間だけは自分達の手で育てたいって言ってたんだ。……完治した途端、施設に入れられたけど」
「オメガが外で生きるのは大変だって聞くから」
「元気になったのは両親のおかげだし、恨んではいないよ。施設に入ったら友達もたくさん出来たし……」

 楽しい思い出が出来たのは施設に入って、かっちゃん達と出会ってからだ。

 それより以前の記憶のほとんどがベッドの中で過ごしたもので、食べ物だってお粥とゼリーばっかりだった。持っている服もほとんどパジャマで、話し相手は枕と一緒に並んでいるぬいぐるみだけだった。

 公園に連れて行ってもらえた時は本当に嬉しくて。ベンチに座ってりんごジュースを飲みながら、元気に駆け回る子ども達を眺めていた。

 施設に入る前までの記憶で一番楽しかったのは? と聞かれたら僕は迷わずこの時の話をする。

 後に施設に入所に耐えられるだけの体力があるかどうかの確認だったと知った。それでもやっぱり綺麗な記憶は色あせなかった。

 ランドセルを買ってもらっていたかっちゃんとは違って、僕は小学校の入学までは持たないと言われていたから。今こうして生きているのも正直奇跡だと思っている。

 年に数回面会に来てくれるお父様とお母様も多分そうだ。いつも開口一番元気かどうかを聞かれる。沢山の友人と出会わせてくれた両親を、いつ死ぬか分からなかった僕の面倒を見てくれた彼らを恨めるはずもなかった。
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