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過ちを犯したオメガの猫獣人
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「ああ、ついにやっちまった……」
ガルダは起きて早々、自分の尻に違和感を覚えた。尻たぶを軽く撫でれば明らかに使われた形跡がある。前はおそらく未使用だが、何度か果てた痕が太ももや腹の上に残っている。
この状況で逃げ出さないどころか真っ裸で大の字になって寝ているのだから、昨晩の自分はどうかしていたとしか言いようがない。
しかもよりによってベッドの端で寝ている男はアーノルドーーガルダの親友にして想い人であった。
出会って速攻で恋に落ちた。一目惚れだった。けれどアーノルドは女好きで有名で、夜な夜な女をホテルに連れ込んでは一夜にして彼女達を骨抜きにしてみせた。
本人曰く、一夜限りの約束で抱いているらしい。
けれど抱かれた女は彼を忘れる事はできず、次を求める。ガルダ達の暮らす独身寮まで訪れた女性も数多く存在する。ガルダも何度か追い返す手伝いをさせられたことがある。
その女癖の悪さをどうにかしろと寮長に叱られることもあったが、それでもアーノルドは女遊びを辞めなかった。
ガルダは女性達を追い返しながら、女遊びが好きならオメガである自分も一度だけ抱いてもらえるのではないか? と考えたこともある。
けれど自分の身体を鏡で見て、すぐに諦めた。
確かにガルダはオメガだ。さらに言えば中の具合の良さには定評のある猫獣人。
けれどアルファのアーノルドよりも背は高く、筋肉質でもある。兵士をしているだけあって力は強いし、暴漢を投げ飛ばすのなんて日常茶飯事。
城の規定に従い、発情期には天才魔術師・ライハルが開発したという抑制剤をかかさず飲んでいる。おかげで発情香は全く外に出ないが、出ていたところでアルファが捕まるかどうか怪しいものがある。
過去に猫獣人の英雄・レオンも同じような体格であったと耳にしたが、相手は彼の強さに惚れたと聞く。それにあの時はまだ時代的に猫獣人が珍しかった。
今では城にも街にもオメガや猫獣人はゴロゴロといる。昔はすぐに孕んでいた猫獣人だが、例の抑制剤によって中出ししても薬さえ飲んでいれば孕まなくなった。
大雑把に言ってしまえば子作りをしたいときだけ薬を止め、発情香で相手を誘えというシステムに変わったのだ。
何百年何千年の歴史をたった一人で塗り替えたというのだから、天才とは恐ろしいものである。
おかげで望まぬ妊娠は減ったが、元より性に奔放だった猫獣人はさらに性欲を増加させた。気軽にワンナイトに乗ってくる者も多い。ただし、下手な男は去り際に容赦なく股間を蹴られるらしいが。
噂の真偽はともかくとして、経験豊富なアーノルドが下手であるはずがない。さらに言えば顔のいい男の誘いを猫獣人が断るはずがない。むしろあちらから誘ってくるだろう、とそこまで考えて、はたと思い出す。
「その前にアーノルドは猫獣人がダメだったな……」
少しずつ酔いから覚めていく頭で、彼が「悪いが猫獣人だけは絶対に抱かないと決めている」と宣言していたことを思い出す。直接言われた訳ではない。たまたま友人と飲みに行った帰りに、猫獣人の誘いを断っている彼を度々目にしたのだ。
一度だけならその場から逃げるためだと思えるが、何度も同じ理由で断るくらいだからよほどのことなのだろう。アーノルドの腕に腕を絡ませ、身体を預けていた可愛らしい猫獣人は「ええ~なんでよ~気持ちいいのに……」と不満げな声を漏らしていた。
猫獣人であるガルダと友人関係を築いてくれているところから察するに、性対象として受け入れられないとかなのだろう。
理由までは分からないが、タイプの違う猫獣人に迫られても考えを変えなかったアーノルドのことだ。オメガらしくないガルダをわざわざ相手に選ぶはずがない。
そこから導き出される答えはただ一つーー欲望を抑えきれなくなったガルダがアーノルドを襲った。それ以外考えられない。
「はぁ……こんなことになるなら抱いてばっかいないで適当な男に抱かれときゃよかった」
ガルダとて猫獣人だ。ヒューマの何倍もの性欲がある。けれど抱かれるなら愛した相手が良かった。同じ猫獣人に話したら「ロマンス思考だねぇ~」と笑っていた。だがどんなにからかわれてもガルダは尻を断固として死守した。そして性の発散として男のブツを使用した。
アーノルドのように適当に捕まえた女では猫獣人の欲を受け止められない可能性が高いため、相手は専ら娼婦かオメガの猫獣人。初めは一晩中、欲望を中にだしまくっていたものだが、ここ数年は仲間も手伝ってくれなくなった。
いつからかみんな口を揃えて同じ言葉を吐くようになったのだ。
「相手がいるんだからそっち行きなよ」
何年も致した仲だ。下手になったなら包み隠さず教えてくれるはずだ。なのに彼らはそれ以上は何も言わなかった。ガルダのやる気に満ち溢れたペニスを呆れたようにペチペチと叩いて、部屋を追い出すばかり。
仕方なく週末には高い娼婦を買うことになった。15の時から城勤めで給料はそこそこいいつもりではあるが、毎週高級娼館に通えば財布はギリギリ。飲みにいく回数を減らして何とか金を捻出するほど。それでも娼館を訪れる度に増していくガルダの性欲に、娼婦達は頭を抱えていた。
そして先週ついに三人一気に使い物にならなくしたとして、行きつけの娼館を出禁になってしまったーーと。
次を探そうとは思っていたものの、そう簡単に見つかるはずもなく性欲を持て余したまま過ごした結果がこれだ。
アーノルドに飲みに誘われて断りきれなかったというのも原因の一つではあるのだろう。記憶を飛ばすまで飲むなんて普段のガルダからすれば有り得ない行為である。中に出されてはいるものの、薬は飲んでいる。子を孕むということもない。けれど彼を無理に犯したなんて合わせる顔がない。記憶が残っていればまだマシだが、謝罪しようにも覚えていないのだ。いくら頭を下げたところで口から出るのはどこか真実味にかけるものになってしまうだろう。
それでも謝らないという選択肢はない。
だがあいにくと今のガルダにはアーノルドの目が覚めるまで待っていることは出来なかった。
「なんで俺、よりによって早朝勤務の前日にあんなに飲んだんだ……」
今日から一週間ほど、二ヶ月に一度の早朝勤務が始まる。ガルダと同じタイミングで深夜勤務が始まるアーノルドと顔を合わせる時間はほぼない。報告の際に鍵を渡すくらいなものだ。ものの5分程度で終わってしまう。長話をするような時間だって取れない。
本当に、タイミングが悪い。
「はぁ……」
ガルダは大きなため息を吐いてから、シャワールームへと向かう。そして深い眠りについている彼と部屋代を残してホテルを去った。
出会い頭に数発殴ってくれればいいのだが……。
仕事中、そればかりを考えていた。
けれど翌朝、ほぼ1日ぶりに顔を合わせたアーノルドは、殴りかかってくるどころかガルダの顔を見つけるやいなやスッと顔を背けた。さらに一週間の引き継ぎ業務全てを相棒に任せてガルダを避け続けた。
せめて謝ろうと一歩踏み出せば、脱兎のごとく逃げていく。耳を赤くするアーノルドに、もう親友関係には戻れないのだと悟った。
だから早朝勤務が終わってすぐに辞表を出した。一身上の都合と記せば上司は眉間に皺を寄せていた。けれど「そろそろ身を固めようかと思いまして」と告げればすぐに頬を緩めた。
「おめでとう」
ニコニコと笑いながら肩を叩かれれば、長年よくしてくれた上司に嘘をついている罪悪感が募っていく。けれどこのままアーノルドの前に居続けることへの申し訳なさに比べれば些細なものだ。
「出来れば俺が退職することは誰にも伝えないで欲しいんです」
「ん? 恥ずかしいのか?」
「……まぁ、はい」
「そうか。ガルダは有給が残っているからそれを使うとすると、退職は最短で今度の週末になるな」
「それでお願いします」
「分かった。だが身体が辛かったら言うんだぞ? お前はオメガだから急な退職でも退職金は出る」
「ありがとうございます」
二日で引き継ぎ内容を記した書面を作成し、最終日に上司に預けた。
「元気な子を産めよ!」
上司は完全に寿退職かなにかと勘違いしているようだったが、否定も肯定もせずに笑っておいた。最後まで気を使ってくれる上司には申し訳ないが、子どもどころか相手すらいない。変に取り繕って墓穴を掘ってしまうのが怖かった。
アーノルドの部屋のポストに謝罪の手紙だけ残して、15の時からお世話になっていた寮を後にした。
ずるいなとは思うが、アーノルドからすれば1日でも早く忘れたいことだろう。手紙なら中を読まずに捨ててしまえばいい。一応、謝罪の金も残してきたのでそれだけでも受け取って欲しいが、すでに渡したものだ。
気持ちが悪いと捨てるのもアーノルドの自由だ。
退職金にと握らされた封筒のほとんどをそちらに入れたため、手持ちの金はもう底をつく寸前だ。自業自得以外何でもないのだが、心も懐も冷え切っている。
「この先どこで暮らそうか」
呟いてみたものの、行き先は決まっていない。退職を決めてから数日間考えてはみたものの、具体的な案は浮かばなかったのだ。
大陸中の国を旅してみるのもいいかもしれない。気に入った国で定住するのだ。
娼館で金を使ってしまっているため、手持ちどころか貯金すらほとんどないが、冒険者登録をするくらいの金はある。旅をしながら日銭を稼げばいいだろう。
それにしても荷物が多すぎる。一部はゴミに出したが、それでも手持ちの鞄はパンパン。
「まずはこれを実家に置かせてもらうところからスタートだな」
出だしから躓いているとは思うが、こんなに大量の荷物を持っていては旅にも出られない。手持ちの少ない金はこれで尽きてしまいそうだが仕方がないと、馬車のチケットを取った。
ガルダの実家は王都から5日も離れた田舎の村だ。帰るのはもう4年ぶりになる。その間に兄弟に子供が産まれたらしいので、今回の帰省で顔だけでも見ておこう。途中下車した村で土産物も購入し、再び馬車に揺られた。
いくつかの馬車を乗り継いだガルダは、両手にいっぱいの荷物を抱えて久しぶりの実家のドアを開く。するとぶわっと猫獣人特有の獣臭が鼻をくすぐる。寮にはガルダの他に猫獣人が何人か在籍していたが、何十人と暮らしている実家には敵わない。それに同じ猫獣人でも体臭はまるで違う。今、この場に満ちているのは懐かしの家族のもの。
すぅはぁと深呼吸をすれば、一気に実家に帰ってきた実感が湧く。
玄関に荷物を置けば、玄関が開く音に気づいたらしい兄が裏からやってきた。ズボンは土で汚れており、今も何か作業をしている途中だったのだろう。連絡もなく帰ってきた弟を頭からつま先まで見て、そして肩にポンと手を置いた。
「お前もやっと家を手伝う気になったか! ちょうど手が足りてないんだ! 手伝ってくれ」
「いいけど、今日はちょっと寄っただけだから。明日には帰るよ」
「なんだ、ゆっくりしていけばいいのに」
「荷物置きにきただけだから」
「そうか?」
「ああ」
「あ、ガルダ、ちょうどいいところに帰ってきたわね! うちの三つ子のオムツ替えお願い」
「姉さん、相変わらず人使いが荒いな……」
「終わったら酒屋に酒取りに行ってくれ」
「あ、酒屋さんに行くならついでに魚屋さんから頼んでおいた盛り合わせももらってきてちょうだい」
「え、ガルダ帰ってきたの⁉︎ 今あんたの部屋、荷物置き場になってるんだけど」
「今日はリビングで寝るからいい」
「そう?」
ガルダは10人兄弟の下から3番目。
ガルダ以外の兄弟は全員ベータで、両親もベータだ。家族唯一のオメガがガルダなのだが、見た目がオメガらしくないので他の兄弟と同じように育てられた。
ガルダが王都に出たいと言った時も止めたほど仲がいい。けれど20半ばを越えた頃から、結婚して子どもまでいる兄弟と顔を合わせるのが辛くなっていた。そして実家から足が遠ざかっていたのだが、4年のブランクなんて感じさせないほどに兄弟は相変わらず。それどころか妹までがガルダをパシろうとする。
なぜ帰ってきたのかなんて聞きもしない。
そんな実家が心地よかった。
今日は姪っ子の誕生日だったらしく、土産の一つをプレゼントに回す。とりあえずは甘いものをと選んでいたのが良かった。都会のお菓子だ! と姪はとても喜んでくれた。お礼にと好物のマグロを一切れ分けてくれるほど。ほぼ初対面であるガルダの膝に乗って、最近の話をたくさん聞かせてくれた。
どれも家族らしい話ばかりで、そこに自分が入れないことがなんだか少し悲しく思えた。もしも明日帰らずにここに残るといっても受け入れてくれるだろう。けれど定期的に帰ってこようとは思っても、残ろうという気にはならなかった。
少し豪勢な食事を囲み、膨らんだお腹を上にして床に転がった。少し離れた場所から水音がして、食器同士が当たる音が続く。
立ち上がろうとしたものの、睡魔が勝った。
瞼を閉じる直前、お気に入りの毛布が上から降ってきた。
「今の時期冷えるんだからちゃんと毛布被っときな」
「ん」
姉が持ってきてくれたらしい。
ぼんやりとした視界には懐かしいブルーの毛布がある。ガルダのものだ。取っておいてくれたらしい。それを抱え込むようにして、ガルダは丸くなって眠りについた。
深い眠りについていたようで、起きた時にはリビングには家族が勢ぞろいしていた。くわぁと大きなあくびをし、ボリボリと頭を掻いていると姉の一人が「だらしないわねぇ。すっかりおっさんくさくなって……」とぼやいた。
「ほっといてくれ」
どうせ寝起きを見せる相手すらいないのだ。まだ眠い目をこすりながら流しへと向かう。キンキンに冷えた水で顔を洗い、リビングに戻る。そして声を失った。
「なっ……」
なにせ昨日ガルダが座っていた位置に見覚えのある男がいたのだから。
「本当にあの子でいいの?」
「はい。俺にはあいつ以外いないので」
「あら、本当に男前だわ!」
「なんでいるんだよ、アーノルド!」
「なんでってお前が勝手にいなくなったからだろ。寿退職って相手は誰だ」
アーノルドは目を細め、ガルダを威嚇する。無理にヤッておいて、勝手に誰かと幸せになろうとするのが許せないのだろう。気持ちは分からなくはないが、よりによって家族の前でそれを言うかと頭を抱えたくなる。
今すぐにでも場所を変えたい所だが、ガルダが寝こけている間に家族はアーノルドから話を聞いていたのか、興味津々といった様子だ。ここで逃げたところで追及されるのがオチだろう。子どものいる場で、あの夜の話になりそうな事態は避けたいが、訂正だけでもしておかねばなるまい。
こんなことになると分かっていれば、大荷物だろうと何だろうと他国に向かっていたのに……。そもそも手紙を残したのが間違いだったか。せっかく忘れかけていたのに! と怒っているのかもしれない。
考えの浅い自分に嫌気がさす。ふぅっと短くため息を吐いてから、アーノルドに間違った知識を植え込んだ犯人を問う。まぁ聞かずとも予想はついているのだが。
「誰から聞いたんだ……」
「部隊長」
「それ、隊長の勘違いだから。俺は普通に退職しただけだ」
やはりそうか。頭をボリボリと掻きながら「結婚しようにも相手がいねぇよ」とぼやく。退職するまで隠しておいてくれとしか伝えていないので、隊長に落ち度はない。だがわがままを言うならば、数日間くらいは黙っていて欲しかった。
明らかに残念がって肩を落とす兄と、なぜか目を爛々と輝かせる姉と兄嫁達。
「俺だって無職になったから帰ってきたわけじゃない。荷物置きにきただけだ。予定通り、飯食ったら出るから」
ガルダの席はアーノルドに取られてしまっているため、立ちながらおかずをつまむ。素手でポンポンと口に入れていけば、姉は行儀が悪いと眉間にしわを寄せた。けれど席を空けてくれる様子はない。代わりに牛乳の入ったコップを無言で差し出してくれる。ありがたくそれを受け取って、一気に喉に流し込む。
「ご馳走さま」
短く告げて、荷物に手をかけた。
玄関で靴紐を結んでいると、食事の手を止めたらしいアーノルドはガルダの背後に立った。
「どこに行くんだ」
「とりあえず隣国からスタートしようと思ってる」
「聞いてない」
「言ってないからな」
「お前は、俺を好きだと言ったじゃないか……。なんで何も言わずに行っちまうんだよ!」
「そんなことどこで言った?」
「……ベッドで」
「ベッドの中の言葉なんて信じるなよ。お前らしくもない」
「……っ!」
アーノルドは言葉に詰まった。
それは彼自身が何度となく女達に投げつけた言葉だったのだから。
ガルダは振り返り、アーノルドの耳元で「悪かったな」と短い謝罪を告げた。彼は目を見開いたまま動こうとはしない。だからガルダは今度こそ彼と別れを告げた。
ーーはずだった。
「今日はどのクエストにするんだ?」
「……今日も付いてくるつもりか?」
アーノルドを実家に置き去りにしてから一ヶ月後。彼はガルダの前に現れた。兵士の職は辞めてきたようだ。それからずっと後をついて回っている。
ガルダの太い腕に、数多くの女を抱いてきた腕を絡め、身体をピタリとくっつける。彼を魅了してきた女の真似をしているのだろう。未だ恋心が残るガルダには目の毒だ。スッと目を逸らしたところですでに尻はじっとりと濡れている。
本音を言えば、今すぐ路地裏に連れ込んでソイツを尻の穴にぶち込んで欲しい。けれどまたあの夜と同じ過ちを犯すつもりはない。
ガルダが手を出せないことを知っていながら、アーノルドは「なぁどうすんだ?」と股間を擦り付けてくる。
一体何の嫌がらせか。
渡した金が全てだ。冒険者になりたてのガルダには貯金などほぼない。その日暮らす分にプラスしてささやかな金額が残るほどだ。その金だって防具やアイテムを買い揃えればほとんど残らない。かすかに残った金はアーノルドに酒を奢るのに使ってしまっている。他国に移動する金だってろくに貯まりはしない。1日でも休めば寝床を失うようなカツカツの生活を送っている。
ガルダだけなら数日ほど野宿をしてもいい。何年も兵士をやっていたのだ。そんなに柔な身体ではない。だがガルダが野宿をすればアーノルドもその隣で身を寄せて眠ろうとするのだ。
一度体験したが、あれは地獄だった。
一晩中眠れないわ、下着だけではなくズボンまでビショビショに濡れるわ、そのあと数日間はまるで仕事に集中できないわ……思い出してゾッとした。
襲わなかった自分を褒めてやりたい。
「離れてくれ」
「離れているうちに他の奴に取られたくない」
「俺みたいなのに声かけてくる奴いねぇよ」
「ガルダが鈍感だから気づいてないだけで、ここにはお前を狙う奴らが男女問わずいるんだ!」
「パーティーを組めるならありがたいな」
「性的に狙われてるんだよ! 誘われたらお前、俺を置いて行くだろ……」
ガルダだって、自分が性的に狙われるほどの魅力を持ち合わせていないことくらい自覚している。だから狙われているとすればそれはアーノルドの方だ。
大男にアピールまがいのことをしてくる彼は筋肉はついているものの、スラッとしている。細く長い指が依頼書を撫でるたび、腰まで伸びた銀色の髪が揺れるたび、男女問わず彼へ欲望を募らせていくのだ。
置いていったところで手慣れたアーノルドなら一人で対処できそうなものだが、何か勘違いをしているらしい彼が外出中にガルダから離れることはない。
快楽に溺れることも許されていないのだ。
どうやらガルダはこの先、一人で性処理しなければいけないらしい。
とはいえ、宿では壁が薄くてろくに処理もできない。しばらく宿の質を下げて金を貯めるというのも手だが、金を貯めたところで相手をしてくれる娼婦が見つかる可能性は低い。ただでさえ性欲の強い猫獣人を相手にしてくれる娼婦は限られているのだ。その上、数日かけても発散できるか分からない欲を貯めている猫獣人の相手など請け負ってくれるはずがない。万が一見つけられたとしても、ガルダの今の手持ちでは到底手が届かない。
だからといってそろそろ発散しておかないと非常にマズイ自体になりそうだ。猫獣人にとって性欲を制限されること以上に辛いことはないのだから。
実家には置いておけずに持ってきていた張型は初めの一ヶ月以降ずっとバッグの底で息を潜めている。少し高めの宿に泊まってアレに活躍してもらう必要がありそうだ。この罪は一生付きまとうのだろう。カウンターに依頼書を提出しながら、はぁ……と小さくため息を吐いた。
「……今日は魔物討伐に行く」
「へぇ珍しいな」
「金がいるからな」
「ふーん、欲しいものでもあるのか?」
「ああ」
「あ、お前そろそろ誕生日だっただろ。俺が買ってやるよ」
「……いやいい」
プレゼントを寄越すくらいだったら、数日でもいいから離れていてくれとは言えず、口をつぐむ。
たった一夜の過ちでガルダは地獄へと叩き落とされた。罪を犯す前にはもう、戻ることはできないのだ。
森へ向かうと依頼に書かれた内容よりも多くの魔物に遭遇したが、そのおかげで短い間だけでも性欲を忘れることができた。獣の血で汚れながらもなんとか依頼を達成し、依頼書に書かれていたよりも多くの報酬を獲得した。これならホテルにも十分泊まれる。夕食は無理でも朝食くらいはつけれそうだ。
尻によく馴染む張型で一晩楽しんだ後の食事は大層美味いに違いない。
久しぶりの自慰と美味い食事に頬が緩んだ。
「ガルダ、どうかしたのか?」
報酬片手にニヤつくガルダをアーノルドは不思議そうに覗き込む。慌ててフルフルと首を振り、取り繕うように彼の分の報酬を取り出して「今日は高い宿に泊まろうと思ってな」と告げる。
「この街で高い宿、っていうと門の近くにあるホテルか?」
「ああ。けどあそこは高いし、アーノルドも俺に合わせることは……」
「そこなら俺知り合いいるし安く泊まれると思う」
「知り合い?」
「ああ。先行って部屋とってくる」
「あ、おい!」
アーノルドはそう告げると宿に向かって駆け出した。つい先ほど魔物の群を倒したばかりだというのに、一体どこにそんな体力が残っているのだろうか。出来れば別々の宿に泊まって、彼の影を気にせずヤりたかったが仕方ない。安く済むだけよしとするか。
ガルダもアーノルドに遅れて今日の宿を目指す。入り口付近で待っていた彼から鍵を受け取り、札に書かれた番号の部屋を目指す。
けれどガルダは部屋に入ることなく足を止めた。目的の部屋の前まで来てようやく異変に気付いたのだ。
「この階、一つしか部屋がないんだが?」
アーノルドが取った部屋はよりによって最上階の部屋だった。いくら金が多めに入ったからと言って高級ホテルの最上階に泊まれる訳がない。エレベーター、なかなか止まらないな~なんて悠長に思っている場合ではなかったのだ。今からでも事情を話して部屋を変えてもらおうと踵を返す。けれどエレベーターへと向かうガルダの腕はアーノルドによってガッチリと掴まれた。
「どこいくんだよ」
「受付だよ。部屋を変えてもらう」
「なんで? 気に入らなかった?」
「こんな高い部屋泊まれない」
財布的にも精神的にも安心できない。
このホテル内で自慰に浸ろうとしたことは事実だ。けれど最上級の部屋では物を汚してしまったらという恐怖で欲情なんて吹き飛んでしまう。そしてブーメランのように、ホテルから出れば性欲が戻ってくるところまで簡単に予想がつく。
けれど力の強いアーノルドの手を振り払うことは敵わなかった。代わりに引きずるようにエレベーターへと向かい、ボタンを押す。
ここに来るまでにそこそこの時間がかかっただけあって、迎えのエレベーターもなかなか来やしない。ソワソワとする尻をキュッと締めながら、早く早くと到着を願った。
そんなガルダの気持ちを知ってか知らずか、アーノルドはカラカラと笑った。
「安心しろ、ここは俺の兄貴が経営してるホテルだ。少しまけてもらった」
「そういう問題じゃ……」
知り合いって兄だったのか。
そういえばアーノルドは良いところの出だと猫獣人仲間が話していたような気がする。国でも有数のお金持ちがなぜ兵士なんてやってるんだろう? 種、分けてくれないかな~なんて酒を飲みながら話していた。その頃にはすでにガルダはアーノルドに惚れていて、けれど猫獣人が苦手だと知る前だった。だから可愛らしい見た目の彼らなら抱いてもらえるんだろうな~と想像しながら、ろくに話を聞かずに酒を飲みまくっていた。
あの時、もう少しちゃんと話を聞いておけばアーノルドのことを知れたのだろうか、と考えたところでもう遅い。
それに今はアーノルドの家のことは関係ない。金銭的負担は少し軽くなったにしても、やはり最上級の部屋となると相当な金額になるわけで。泊まるのならばアーノルドだけ泊まればいい。ガルダはこんな高い部屋ではなく、正規の金額で壁が薄くない部屋に泊まれれば十分なのだ。
なかなか来ないエレベーターに苛立ち、カウントを取るように太ももを右の指先で叩く。すると背後から掬うように手のひらを包まれた。温かい。この数ヶ月で慣れたアーノルドの体温だ。意識すれば下半身に熱が溜まっていく。
早く処理しないとヤバイ!
そう思った次の瞬間、背筋が凍るような寒気に襲われた。
「誰と約束してたんだ?」
「は?」
「前は一週間で限界を迎えたのに、もう半年だぜ? そろそろ我慢もキツくなってきてんだろ」
「何を…….」
「ここ、使いたいんじゃないか?」
アーノルドは耳元で囁くと、尻をなぞるように撫でた。そして付け根に到達するとその手は尻尾に伸び、指先で弄ばれる。チュッと軽いリップ音が聞こえ、尻はなにかを搾り取るようにギュッと締まった。中には何もないというのに、オメガの性質というものなのだろう。
「お、おい! アーノルド止めろ」
口では抵抗しようとするガルダだが、尻尾を撫でられてはどうにも力が抜けてしまう。もうとうに限界を迎えているからなおのこと。
アーノルドは腰が抜けそうになるガルダの腰を支え、素早く部屋の鍵を開ける。
さすが、遊び慣れている奴は違うな……。
そのままベッドに押し込まれて、また性欲を溜め込んで眠ることになるのだろう。それがあの夜の代償だから。諦めて瞼を閉じれば、床に押し倒される。背中に手を入れてくれたため、痛くはない。代わりにアーノルドの顔が近距離にあった。両手を上で固められた状態で仰向けにされているため、顔だけ横に背けても彼から距離を置くことはできない。
無駄な抵抗だと知りながらもがけば、ハッと嘲笑うかのような声が耳を刺激する。そして刺激はすぐに尻の穴にも伸びていく。容赦なくズボッと突っ込まれ、蹂躙するかのように指を動かされる。それだけで軽くイッてしまう。前からは勢いよく発射した白濁が腹を汚した。簡単に反応してしまう自分が恥ずかしくて、ガルダは唇に歯を立てる。
「ほぐすまでもないくらいぐしょぐしょにしといて逃げれるはずないだろ」
「アーノルド……」
「本気の奴が面倒臭いってことくらい分かってるけどさ、俺しかいないんだから大人しく犯されとけよ」
「……っ」
なぜそんなことを言うのか。
視線を戻して彼の顔を覗けば、色男が台無しになる程ひどく歪んでいた。
やっぱり猫獣人は無理なんじゃないか。
無理に抱く必要などない。ガルダが無様に欲に溺れる姿が見たいのならば、それこそ冒険者達に金でも渡して犯させればいいものを……。アーノルドの真意が分からない。
けれどこの行為が気持ちいいことは知っている。好きな男がどんなに苦しい想いをしていようが、猫獣人の本能に抗うことなど出来るはずもない。服が擦れる音が聞こえれば、ガルダの喉仏が大きく上下した。
「…………っがぁ」
指と同様に遠慮なくアーノルドの雄が押し込まれる。臓器を持ち上げるように勢いよく。人間の女だったらきっと壊れてしまうほど力強い。けれどガルダはオメガの猫獣人だ。無理矢理犯すような行為でさえも快楽に変わる。
強引な欲は受け入れられる代わりに、ガルダに女のような高い声は出せない。喉から迫り上がる嬌声は野太く男らしいものでしかない。本当は自分の腕にでも噛みつければいいのだが、この体勢ではそれも叶わない。
「……っは…………ん」
何かを堪えるように腰を振っているアーノルド。だがこいつも男の顔なんて見てヤりたくないだろう。眉間に皺を寄せながらグッと目を閉じるくらいだったら、ひっくり返してくれればいいのに。
彼の欲を受け止め、溢れそうになる声を耐えるので精一杯で、提案をするところまで頭は回らない。
アーノルドもまたこの半年で溜め込んでいたのか、せっかく高級ホテルの高い部屋を取ったというのに、ずっとドア付近でガルダを犯し続けた。
床の次は壁に、最後はドアだった。
体勢を変えても変わらず押さえつけられて。
最後はガルダの身体を全身で押さえ込んで眠りについた。支配欲でもあるのだろうか。少なくとも愛のある行為ではない。
ガルダの唇は血まみれになり、一晩中雄を求め続けて鳴いて枯れた喉は自らの血で濡れていく。
「気持ち悪りぃ」
口いっぱいに広がる血の味にガルダは顔を歪めた。そしてアーノルドのホールドから抜け出し、彼をベッドへと運ぶ。半日近く滞在していてやっと部屋の全貌を見ることができた。高そうな調度品ばかりが並び、ガラス張りの窓からは街を見下ろすことができる。恋人同士で来ればロマンチックな夜が過ごせるのだろう。
少なくとも固い床で盛ることはない。
使われなかったベッドにアーノルドを寝かせ、シャワールームへと向かった。
悲しいことに、万年金欠なガルダは好きな男に抱かれた翌日だろうと稼がねばならないのだ。
アーノルドは払ってくれると言ったが、こんな高いところを払わせるわけには行かない。前払い制だから後で半分払うとして……。
手持ちにはいくら残るんだろうか? そもそも今の手持ちで足りるのだろうか?
働かねば、昨夜無理をして泊まったホテルに連泊するどころか、普段泊まっている宿賃さえ払えない。
濡れた頭をタオルでガシガシと吹きながら、冷蔵庫から飲み物を取り出した。一番安そうなものを選んだが、容器の装飾からして値段が張るものだろう。
これからひと月はひもじい生活が待っていそうだが、仕方ない。
とりあえず手元にギリギリの金だけ残してベッドサイドに宿賃を置いておく。もちろん足りない分は今度払うとのメモも添えて。
起こそうとも考えたが、アーノルドも寝起きに男の顔なんて見たくもないだろう。幸いベッドサイドには電話が置かれており、チェックアウトが近くなると鳴らしてくれるらしい。
ガルダは空き瓶を机の上に残し、部屋を後にした。
それからギルドで報酬の高い依頼を見繕って受けていく。どれも魔物の討伐ばかり。話を聞けば、最近増えているらしい。騎士団に依頼するほどの被害はないが、増える前に退治して欲しいとのことだった。
街から少し離れているものもあったが、このくらいなら夜までには帰って来られるだろうと三枚の依頼書を手にした。
予想以上に時間はかかったが、無事に依頼を達成することができた。形はどうあれ、性欲を発散できたというのが大きい。身体は軽いし、剣の切り口も心なしか綺麗に思える。サクサクと討伐していき、売れそうなものを剥ぎ取っていく。肉などは重くなりそうなので、近くの村で売ってきた。大量に持ち込んだのでキロ単位の値が落ちてしまったが、全部買い取ってもらったので懐は潤った。何より今回の収穫といえばウルフの毛皮だ。しかもただのウルフではない。貴族たちが好むゴールドウルフの毛皮を質のいい状態で剥ぎ取れたのだ。
やはり性欲を溜め込むのは良くない。明らかにパフォーマンスが低下する。今度から少し多めに仕事を受けて、娼婦を買うのが一番だな。きっとその方が金が貯まる。
「しばらく宿賃には困らないな」
ホテル代の支払いのことも忘れて、上機嫌でギルドへと戻った。けれど入り口付近で腕を組んで待っているアーノルドの姿に幸福感が霧散した。
「アーノルド!」
女性に話しかけられてもガン無視を決め込む彼は不機嫌そのもの。待たされていることに怒っているのか、一向に引く様子のない女性陣に苛立っているのか。
ガルダはその場から救い出すように彼の手を引いた。
「遅い」
「すまん。だが結構報酬入りそうなんだ。不足分はいくらだ? 達成報告して、これ買取に出したら払うからもう少し待っててくれ」
「それなら俺が払うって言ったじゃないか。なのに起きたらまたいないし……」
こんな大男でもいないと寂しかったのだろうか。娼婦を呼んでおくくらい気をきかせるべきだったのかもしれない。次なんてものはどうせないので今さら考えついたところでもう遅いのだが。
「悪い」
「ん」
頭を下げれば、アーノルドは不機嫌な声で謝罪を受け取ってくれた。そして謝罪の気持ちを込めて今日の宿賃は彼の分も払おうと心に決めていた。
だがアーノルドに手を引かれ、辿り着いたのは昨晩のホテルだった。
「えっと、アーノルド? 今日はいつもの宿に……」
「今日の分も取ってあるから」
「いや、あの俺はいつもの宿に」
「もう取ってあるから」
「……わかった」
それ以上は語ろうとはしないアーノルドに手を引かれ、昨日と同じ部屋に足を踏み入れる。けれど今日は入った途端に尻を犯されることはなかった。
代わりにベッドの上に押し倒されーー身体の上で爆睡された。
どうやら今日は寝たかっただけらしい。
ガルダをベッドにして寝るのならいつもの宿でもいいような気がするが、それを告げればまた機嫌が悪くなるだけだろう。
どうせ寝てしまっているのだ。
財布が空っぽになるかもしれないが、仕方ない。
「明日もまた働くか」
ガルダは呟いて、ゆっくりとまぶたを閉じた。
それがいけなかった。
ちゃんと断るべきだった。
それから毎日ガルダはその部屋に連れ込まれるようになった。
娼婦を呼べば怒られ。
金を残して仕事に向かえば怒られ。
猫獣人が抱けるようになったのならと、見た目が綺麗な仲間を紹介しようとすれば泣かれてしまった。
一体何が悪いのか、ガルダにはてんで分からない。とりあえずアーノルドのしたいようにさせておけば機嫌がいいのは確かだ。
「なぁガルダ、俺のこと好きか?」
「ああ、好きだ」
そう告げるとアーノルドは嬉しそうに、女に見せるみたいな顔で微笑んでくれる。
この関係はベッドの上でだけ。
柔らかいベッドを降りれば微睡みの中から覚めてしまう。同時に夜中だけのごっこ遊びは終わりを告げる。
毎晩訪れる数刻だけ、ガルダは素直な言葉を口にする。
受け取ってもらえない宿賃と、日に日に増していくアーノルドへの気持ちは募る一方。だが性欲を発散できるおかげか、効率的に金が貯まるようになった。
女好きのアーノルドがガルダでこのまま妥協し続けられるはずがない。これは気まぐれでしかないのだ。
だからガルダはいつアーノルドに飽きられてもいいようにとチマチマと旅費を貯めている。
旅立ちの日はそう遠くはない気がした。
※※※
「例えそれがベッドの中の偽りであっても、その言葉をもう一度欲せずにはいられないんだ」
ガルダは起きて早々、自分の尻に違和感を覚えた。尻たぶを軽く撫でれば明らかに使われた形跡がある。前はおそらく未使用だが、何度か果てた痕が太ももや腹の上に残っている。
この状況で逃げ出さないどころか真っ裸で大の字になって寝ているのだから、昨晩の自分はどうかしていたとしか言いようがない。
しかもよりによってベッドの端で寝ている男はアーノルドーーガルダの親友にして想い人であった。
出会って速攻で恋に落ちた。一目惚れだった。けれどアーノルドは女好きで有名で、夜な夜な女をホテルに連れ込んでは一夜にして彼女達を骨抜きにしてみせた。
本人曰く、一夜限りの約束で抱いているらしい。
けれど抱かれた女は彼を忘れる事はできず、次を求める。ガルダ達の暮らす独身寮まで訪れた女性も数多く存在する。ガルダも何度か追い返す手伝いをさせられたことがある。
その女癖の悪さをどうにかしろと寮長に叱られることもあったが、それでもアーノルドは女遊びを辞めなかった。
ガルダは女性達を追い返しながら、女遊びが好きならオメガである自分も一度だけ抱いてもらえるのではないか? と考えたこともある。
けれど自分の身体を鏡で見て、すぐに諦めた。
確かにガルダはオメガだ。さらに言えば中の具合の良さには定評のある猫獣人。
けれどアルファのアーノルドよりも背は高く、筋肉質でもある。兵士をしているだけあって力は強いし、暴漢を投げ飛ばすのなんて日常茶飯事。
城の規定に従い、発情期には天才魔術師・ライハルが開発したという抑制剤をかかさず飲んでいる。おかげで発情香は全く外に出ないが、出ていたところでアルファが捕まるかどうか怪しいものがある。
過去に猫獣人の英雄・レオンも同じような体格であったと耳にしたが、相手は彼の強さに惚れたと聞く。それにあの時はまだ時代的に猫獣人が珍しかった。
今では城にも街にもオメガや猫獣人はゴロゴロといる。昔はすぐに孕んでいた猫獣人だが、例の抑制剤によって中出ししても薬さえ飲んでいれば孕まなくなった。
大雑把に言ってしまえば子作りをしたいときだけ薬を止め、発情香で相手を誘えというシステムに変わったのだ。
何百年何千年の歴史をたった一人で塗り替えたというのだから、天才とは恐ろしいものである。
おかげで望まぬ妊娠は減ったが、元より性に奔放だった猫獣人はさらに性欲を増加させた。気軽にワンナイトに乗ってくる者も多い。ただし、下手な男は去り際に容赦なく股間を蹴られるらしいが。
噂の真偽はともかくとして、経験豊富なアーノルドが下手であるはずがない。さらに言えば顔のいい男の誘いを猫獣人が断るはずがない。むしろあちらから誘ってくるだろう、とそこまで考えて、はたと思い出す。
「その前にアーノルドは猫獣人がダメだったな……」
少しずつ酔いから覚めていく頭で、彼が「悪いが猫獣人だけは絶対に抱かないと決めている」と宣言していたことを思い出す。直接言われた訳ではない。たまたま友人と飲みに行った帰りに、猫獣人の誘いを断っている彼を度々目にしたのだ。
一度だけならその場から逃げるためだと思えるが、何度も同じ理由で断るくらいだからよほどのことなのだろう。アーノルドの腕に腕を絡ませ、身体を預けていた可愛らしい猫獣人は「ええ~なんでよ~気持ちいいのに……」と不満げな声を漏らしていた。
猫獣人であるガルダと友人関係を築いてくれているところから察するに、性対象として受け入れられないとかなのだろう。
理由までは分からないが、タイプの違う猫獣人に迫られても考えを変えなかったアーノルドのことだ。オメガらしくないガルダをわざわざ相手に選ぶはずがない。
そこから導き出される答えはただ一つーー欲望を抑えきれなくなったガルダがアーノルドを襲った。それ以外考えられない。
「はぁ……こんなことになるなら抱いてばっかいないで適当な男に抱かれときゃよかった」
ガルダとて猫獣人だ。ヒューマの何倍もの性欲がある。けれど抱かれるなら愛した相手が良かった。同じ猫獣人に話したら「ロマンス思考だねぇ~」と笑っていた。だがどんなにからかわれてもガルダは尻を断固として死守した。そして性の発散として男のブツを使用した。
アーノルドのように適当に捕まえた女では猫獣人の欲を受け止められない可能性が高いため、相手は専ら娼婦かオメガの猫獣人。初めは一晩中、欲望を中にだしまくっていたものだが、ここ数年は仲間も手伝ってくれなくなった。
いつからかみんな口を揃えて同じ言葉を吐くようになったのだ。
「相手がいるんだからそっち行きなよ」
何年も致した仲だ。下手になったなら包み隠さず教えてくれるはずだ。なのに彼らはそれ以上は何も言わなかった。ガルダのやる気に満ち溢れたペニスを呆れたようにペチペチと叩いて、部屋を追い出すばかり。
仕方なく週末には高い娼婦を買うことになった。15の時から城勤めで給料はそこそこいいつもりではあるが、毎週高級娼館に通えば財布はギリギリ。飲みにいく回数を減らして何とか金を捻出するほど。それでも娼館を訪れる度に増していくガルダの性欲に、娼婦達は頭を抱えていた。
そして先週ついに三人一気に使い物にならなくしたとして、行きつけの娼館を出禁になってしまったーーと。
次を探そうとは思っていたものの、そう簡単に見つかるはずもなく性欲を持て余したまま過ごした結果がこれだ。
アーノルドに飲みに誘われて断りきれなかったというのも原因の一つではあるのだろう。記憶を飛ばすまで飲むなんて普段のガルダからすれば有り得ない行為である。中に出されてはいるものの、薬は飲んでいる。子を孕むということもない。けれど彼を無理に犯したなんて合わせる顔がない。記憶が残っていればまだマシだが、謝罪しようにも覚えていないのだ。いくら頭を下げたところで口から出るのはどこか真実味にかけるものになってしまうだろう。
それでも謝らないという選択肢はない。
だがあいにくと今のガルダにはアーノルドの目が覚めるまで待っていることは出来なかった。
「なんで俺、よりによって早朝勤務の前日にあんなに飲んだんだ……」
今日から一週間ほど、二ヶ月に一度の早朝勤務が始まる。ガルダと同じタイミングで深夜勤務が始まるアーノルドと顔を合わせる時間はほぼない。報告の際に鍵を渡すくらいなものだ。ものの5分程度で終わってしまう。長話をするような時間だって取れない。
本当に、タイミングが悪い。
「はぁ……」
ガルダは大きなため息を吐いてから、シャワールームへと向かう。そして深い眠りについている彼と部屋代を残してホテルを去った。
出会い頭に数発殴ってくれればいいのだが……。
仕事中、そればかりを考えていた。
けれど翌朝、ほぼ1日ぶりに顔を合わせたアーノルドは、殴りかかってくるどころかガルダの顔を見つけるやいなやスッと顔を背けた。さらに一週間の引き継ぎ業務全てを相棒に任せてガルダを避け続けた。
せめて謝ろうと一歩踏み出せば、脱兎のごとく逃げていく。耳を赤くするアーノルドに、もう親友関係には戻れないのだと悟った。
だから早朝勤務が終わってすぐに辞表を出した。一身上の都合と記せば上司は眉間に皺を寄せていた。けれど「そろそろ身を固めようかと思いまして」と告げればすぐに頬を緩めた。
「おめでとう」
ニコニコと笑いながら肩を叩かれれば、長年よくしてくれた上司に嘘をついている罪悪感が募っていく。けれどこのままアーノルドの前に居続けることへの申し訳なさに比べれば些細なものだ。
「出来れば俺が退職することは誰にも伝えないで欲しいんです」
「ん? 恥ずかしいのか?」
「……まぁ、はい」
「そうか。ガルダは有給が残っているからそれを使うとすると、退職は最短で今度の週末になるな」
「それでお願いします」
「分かった。だが身体が辛かったら言うんだぞ? お前はオメガだから急な退職でも退職金は出る」
「ありがとうございます」
二日で引き継ぎ内容を記した書面を作成し、最終日に上司に預けた。
「元気な子を産めよ!」
上司は完全に寿退職かなにかと勘違いしているようだったが、否定も肯定もせずに笑っておいた。最後まで気を使ってくれる上司には申し訳ないが、子どもどころか相手すらいない。変に取り繕って墓穴を掘ってしまうのが怖かった。
アーノルドの部屋のポストに謝罪の手紙だけ残して、15の時からお世話になっていた寮を後にした。
ずるいなとは思うが、アーノルドからすれば1日でも早く忘れたいことだろう。手紙なら中を読まずに捨ててしまえばいい。一応、謝罪の金も残してきたのでそれだけでも受け取って欲しいが、すでに渡したものだ。
気持ちが悪いと捨てるのもアーノルドの自由だ。
退職金にと握らされた封筒のほとんどをそちらに入れたため、手持ちの金はもう底をつく寸前だ。自業自得以外何でもないのだが、心も懐も冷え切っている。
「この先どこで暮らそうか」
呟いてみたものの、行き先は決まっていない。退職を決めてから数日間考えてはみたものの、具体的な案は浮かばなかったのだ。
大陸中の国を旅してみるのもいいかもしれない。気に入った国で定住するのだ。
娼館で金を使ってしまっているため、手持ちどころか貯金すらほとんどないが、冒険者登録をするくらいの金はある。旅をしながら日銭を稼げばいいだろう。
それにしても荷物が多すぎる。一部はゴミに出したが、それでも手持ちの鞄はパンパン。
「まずはこれを実家に置かせてもらうところからスタートだな」
出だしから躓いているとは思うが、こんなに大量の荷物を持っていては旅にも出られない。手持ちの少ない金はこれで尽きてしまいそうだが仕方がないと、馬車のチケットを取った。
ガルダの実家は王都から5日も離れた田舎の村だ。帰るのはもう4年ぶりになる。その間に兄弟に子供が産まれたらしいので、今回の帰省で顔だけでも見ておこう。途中下車した村で土産物も購入し、再び馬車に揺られた。
いくつかの馬車を乗り継いだガルダは、両手にいっぱいの荷物を抱えて久しぶりの実家のドアを開く。するとぶわっと猫獣人特有の獣臭が鼻をくすぐる。寮にはガルダの他に猫獣人が何人か在籍していたが、何十人と暮らしている実家には敵わない。それに同じ猫獣人でも体臭はまるで違う。今、この場に満ちているのは懐かしの家族のもの。
すぅはぁと深呼吸をすれば、一気に実家に帰ってきた実感が湧く。
玄関に荷物を置けば、玄関が開く音に気づいたらしい兄が裏からやってきた。ズボンは土で汚れており、今も何か作業をしている途中だったのだろう。連絡もなく帰ってきた弟を頭からつま先まで見て、そして肩にポンと手を置いた。
「お前もやっと家を手伝う気になったか! ちょうど手が足りてないんだ! 手伝ってくれ」
「いいけど、今日はちょっと寄っただけだから。明日には帰るよ」
「なんだ、ゆっくりしていけばいいのに」
「荷物置きにきただけだから」
「そうか?」
「ああ」
「あ、ガルダ、ちょうどいいところに帰ってきたわね! うちの三つ子のオムツ替えお願い」
「姉さん、相変わらず人使いが荒いな……」
「終わったら酒屋に酒取りに行ってくれ」
「あ、酒屋さんに行くならついでに魚屋さんから頼んでおいた盛り合わせももらってきてちょうだい」
「え、ガルダ帰ってきたの⁉︎ 今あんたの部屋、荷物置き場になってるんだけど」
「今日はリビングで寝るからいい」
「そう?」
ガルダは10人兄弟の下から3番目。
ガルダ以外の兄弟は全員ベータで、両親もベータだ。家族唯一のオメガがガルダなのだが、見た目がオメガらしくないので他の兄弟と同じように育てられた。
ガルダが王都に出たいと言った時も止めたほど仲がいい。けれど20半ばを越えた頃から、結婚して子どもまでいる兄弟と顔を合わせるのが辛くなっていた。そして実家から足が遠ざかっていたのだが、4年のブランクなんて感じさせないほどに兄弟は相変わらず。それどころか妹までがガルダをパシろうとする。
なぜ帰ってきたのかなんて聞きもしない。
そんな実家が心地よかった。
今日は姪っ子の誕生日だったらしく、土産の一つをプレゼントに回す。とりあえずは甘いものをと選んでいたのが良かった。都会のお菓子だ! と姪はとても喜んでくれた。お礼にと好物のマグロを一切れ分けてくれるほど。ほぼ初対面であるガルダの膝に乗って、最近の話をたくさん聞かせてくれた。
どれも家族らしい話ばかりで、そこに自分が入れないことがなんだか少し悲しく思えた。もしも明日帰らずにここに残るといっても受け入れてくれるだろう。けれど定期的に帰ってこようとは思っても、残ろうという気にはならなかった。
少し豪勢な食事を囲み、膨らんだお腹を上にして床に転がった。少し離れた場所から水音がして、食器同士が当たる音が続く。
立ち上がろうとしたものの、睡魔が勝った。
瞼を閉じる直前、お気に入りの毛布が上から降ってきた。
「今の時期冷えるんだからちゃんと毛布被っときな」
「ん」
姉が持ってきてくれたらしい。
ぼんやりとした視界には懐かしいブルーの毛布がある。ガルダのものだ。取っておいてくれたらしい。それを抱え込むようにして、ガルダは丸くなって眠りについた。
深い眠りについていたようで、起きた時にはリビングには家族が勢ぞろいしていた。くわぁと大きなあくびをし、ボリボリと頭を掻いていると姉の一人が「だらしないわねぇ。すっかりおっさんくさくなって……」とぼやいた。
「ほっといてくれ」
どうせ寝起きを見せる相手すらいないのだ。まだ眠い目をこすりながら流しへと向かう。キンキンに冷えた水で顔を洗い、リビングに戻る。そして声を失った。
「なっ……」
なにせ昨日ガルダが座っていた位置に見覚えのある男がいたのだから。
「本当にあの子でいいの?」
「はい。俺にはあいつ以外いないので」
「あら、本当に男前だわ!」
「なんでいるんだよ、アーノルド!」
「なんでってお前が勝手にいなくなったからだろ。寿退職って相手は誰だ」
アーノルドは目を細め、ガルダを威嚇する。無理にヤッておいて、勝手に誰かと幸せになろうとするのが許せないのだろう。気持ちは分からなくはないが、よりによって家族の前でそれを言うかと頭を抱えたくなる。
今すぐにでも場所を変えたい所だが、ガルダが寝こけている間に家族はアーノルドから話を聞いていたのか、興味津々といった様子だ。ここで逃げたところで追及されるのがオチだろう。子どものいる場で、あの夜の話になりそうな事態は避けたいが、訂正だけでもしておかねばなるまい。
こんなことになると分かっていれば、大荷物だろうと何だろうと他国に向かっていたのに……。そもそも手紙を残したのが間違いだったか。せっかく忘れかけていたのに! と怒っているのかもしれない。
考えの浅い自分に嫌気がさす。ふぅっと短くため息を吐いてから、アーノルドに間違った知識を植え込んだ犯人を問う。まぁ聞かずとも予想はついているのだが。
「誰から聞いたんだ……」
「部隊長」
「それ、隊長の勘違いだから。俺は普通に退職しただけだ」
やはりそうか。頭をボリボリと掻きながら「結婚しようにも相手がいねぇよ」とぼやく。退職するまで隠しておいてくれとしか伝えていないので、隊長に落ち度はない。だがわがままを言うならば、数日間くらいは黙っていて欲しかった。
明らかに残念がって肩を落とす兄と、なぜか目を爛々と輝かせる姉と兄嫁達。
「俺だって無職になったから帰ってきたわけじゃない。荷物置きにきただけだ。予定通り、飯食ったら出るから」
ガルダの席はアーノルドに取られてしまっているため、立ちながらおかずをつまむ。素手でポンポンと口に入れていけば、姉は行儀が悪いと眉間にしわを寄せた。けれど席を空けてくれる様子はない。代わりに牛乳の入ったコップを無言で差し出してくれる。ありがたくそれを受け取って、一気に喉に流し込む。
「ご馳走さま」
短く告げて、荷物に手をかけた。
玄関で靴紐を結んでいると、食事の手を止めたらしいアーノルドはガルダの背後に立った。
「どこに行くんだ」
「とりあえず隣国からスタートしようと思ってる」
「聞いてない」
「言ってないからな」
「お前は、俺を好きだと言ったじゃないか……。なんで何も言わずに行っちまうんだよ!」
「そんなことどこで言った?」
「……ベッドで」
「ベッドの中の言葉なんて信じるなよ。お前らしくもない」
「……っ!」
アーノルドは言葉に詰まった。
それは彼自身が何度となく女達に投げつけた言葉だったのだから。
ガルダは振り返り、アーノルドの耳元で「悪かったな」と短い謝罪を告げた。彼は目を見開いたまま動こうとはしない。だからガルダは今度こそ彼と別れを告げた。
ーーはずだった。
「今日はどのクエストにするんだ?」
「……今日も付いてくるつもりか?」
アーノルドを実家に置き去りにしてから一ヶ月後。彼はガルダの前に現れた。兵士の職は辞めてきたようだ。それからずっと後をついて回っている。
ガルダの太い腕に、数多くの女を抱いてきた腕を絡め、身体をピタリとくっつける。彼を魅了してきた女の真似をしているのだろう。未だ恋心が残るガルダには目の毒だ。スッと目を逸らしたところですでに尻はじっとりと濡れている。
本音を言えば、今すぐ路地裏に連れ込んでソイツを尻の穴にぶち込んで欲しい。けれどまたあの夜と同じ過ちを犯すつもりはない。
ガルダが手を出せないことを知っていながら、アーノルドは「なぁどうすんだ?」と股間を擦り付けてくる。
一体何の嫌がらせか。
渡した金が全てだ。冒険者になりたてのガルダには貯金などほぼない。その日暮らす分にプラスしてささやかな金額が残るほどだ。その金だって防具やアイテムを買い揃えればほとんど残らない。かすかに残った金はアーノルドに酒を奢るのに使ってしまっている。他国に移動する金だってろくに貯まりはしない。1日でも休めば寝床を失うようなカツカツの生活を送っている。
ガルダだけなら数日ほど野宿をしてもいい。何年も兵士をやっていたのだ。そんなに柔な身体ではない。だがガルダが野宿をすればアーノルドもその隣で身を寄せて眠ろうとするのだ。
一度体験したが、あれは地獄だった。
一晩中眠れないわ、下着だけではなくズボンまでビショビショに濡れるわ、そのあと数日間はまるで仕事に集中できないわ……思い出してゾッとした。
襲わなかった自分を褒めてやりたい。
「離れてくれ」
「離れているうちに他の奴に取られたくない」
「俺みたいなのに声かけてくる奴いねぇよ」
「ガルダが鈍感だから気づいてないだけで、ここにはお前を狙う奴らが男女問わずいるんだ!」
「パーティーを組めるならありがたいな」
「性的に狙われてるんだよ! 誘われたらお前、俺を置いて行くだろ……」
ガルダだって、自分が性的に狙われるほどの魅力を持ち合わせていないことくらい自覚している。だから狙われているとすればそれはアーノルドの方だ。
大男にアピールまがいのことをしてくる彼は筋肉はついているものの、スラッとしている。細く長い指が依頼書を撫でるたび、腰まで伸びた銀色の髪が揺れるたび、男女問わず彼へ欲望を募らせていくのだ。
置いていったところで手慣れたアーノルドなら一人で対処できそうなものだが、何か勘違いをしているらしい彼が外出中にガルダから離れることはない。
快楽に溺れることも許されていないのだ。
どうやらガルダはこの先、一人で性処理しなければいけないらしい。
とはいえ、宿では壁が薄くてろくに処理もできない。しばらく宿の質を下げて金を貯めるというのも手だが、金を貯めたところで相手をしてくれる娼婦が見つかる可能性は低い。ただでさえ性欲の強い猫獣人を相手にしてくれる娼婦は限られているのだ。その上、数日かけても発散できるか分からない欲を貯めている猫獣人の相手など請け負ってくれるはずがない。万が一見つけられたとしても、ガルダの今の手持ちでは到底手が届かない。
だからといってそろそろ発散しておかないと非常にマズイ自体になりそうだ。猫獣人にとって性欲を制限されること以上に辛いことはないのだから。
実家には置いておけずに持ってきていた張型は初めの一ヶ月以降ずっとバッグの底で息を潜めている。少し高めの宿に泊まってアレに活躍してもらう必要がありそうだ。この罪は一生付きまとうのだろう。カウンターに依頼書を提出しながら、はぁ……と小さくため息を吐いた。
「……今日は魔物討伐に行く」
「へぇ珍しいな」
「金がいるからな」
「ふーん、欲しいものでもあるのか?」
「ああ」
「あ、お前そろそろ誕生日だっただろ。俺が買ってやるよ」
「……いやいい」
プレゼントを寄越すくらいだったら、数日でもいいから離れていてくれとは言えず、口をつぐむ。
たった一夜の過ちでガルダは地獄へと叩き落とされた。罪を犯す前にはもう、戻ることはできないのだ。
森へ向かうと依頼に書かれた内容よりも多くの魔物に遭遇したが、そのおかげで短い間だけでも性欲を忘れることができた。獣の血で汚れながらもなんとか依頼を達成し、依頼書に書かれていたよりも多くの報酬を獲得した。これならホテルにも十分泊まれる。夕食は無理でも朝食くらいはつけれそうだ。
尻によく馴染む張型で一晩楽しんだ後の食事は大層美味いに違いない。
久しぶりの自慰と美味い食事に頬が緩んだ。
「ガルダ、どうかしたのか?」
報酬片手にニヤつくガルダをアーノルドは不思議そうに覗き込む。慌ててフルフルと首を振り、取り繕うように彼の分の報酬を取り出して「今日は高い宿に泊まろうと思ってな」と告げる。
「この街で高い宿、っていうと門の近くにあるホテルか?」
「ああ。けどあそこは高いし、アーノルドも俺に合わせることは……」
「そこなら俺知り合いいるし安く泊まれると思う」
「知り合い?」
「ああ。先行って部屋とってくる」
「あ、おい!」
アーノルドはそう告げると宿に向かって駆け出した。つい先ほど魔物の群を倒したばかりだというのに、一体どこにそんな体力が残っているのだろうか。出来れば別々の宿に泊まって、彼の影を気にせずヤりたかったが仕方ない。安く済むだけよしとするか。
ガルダもアーノルドに遅れて今日の宿を目指す。入り口付近で待っていた彼から鍵を受け取り、札に書かれた番号の部屋を目指す。
けれどガルダは部屋に入ることなく足を止めた。目的の部屋の前まで来てようやく異変に気付いたのだ。
「この階、一つしか部屋がないんだが?」
アーノルドが取った部屋はよりによって最上階の部屋だった。いくら金が多めに入ったからと言って高級ホテルの最上階に泊まれる訳がない。エレベーター、なかなか止まらないな~なんて悠長に思っている場合ではなかったのだ。今からでも事情を話して部屋を変えてもらおうと踵を返す。けれどエレベーターへと向かうガルダの腕はアーノルドによってガッチリと掴まれた。
「どこいくんだよ」
「受付だよ。部屋を変えてもらう」
「なんで? 気に入らなかった?」
「こんな高い部屋泊まれない」
財布的にも精神的にも安心できない。
このホテル内で自慰に浸ろうとしたことは事実だ。けれど最上級の部屋では物を汚してしまったらという恐怖で欲情なんて吹き飛んでしまう。そしてブーメランのように、ホテルから出れば性欲が戻ってくるところまで簡単に予想がつく。
けれど力の強いアーノルドの手を振り払うことは敵わなかった。代わりに引きずるようにエレベーターへと向かい、ボタンを押す。
ここに来るまでにそこそこの時間がかかっただけあって、迎えのエレベーターもなかなか来やしない。ソワソワとする尻をキュッと締めながら、早く早くと到着を願った。
そんなガルダの気持ちを知ってか知らずか、アーノルドはカラカラと笑った。
「安心しろ、ここは俺の兄貴が経営してるホテルだ。少しまけてもらった」
「そういう問題じゃ……」
知り合いって兄だったのか。
そういえばアーノルドは良いところの出だと猫獣人仲間が話していたような気がする。国でも有数のお金持ちがなぜ兵士なんてやってるんだろう? 種、分けてくれないかな~なんて酒を飲みながら話していた。その頃にはすでにガルダはアーノルドに惚れていて、けれど猫獣人が苦手だと知る前だった。だから可愛らしい見た目の彼らなら抱いてもらえるんだろうな~と想像しながら、ろくに話を聞かずに酒を飲みまくっていた。
あの時、もう少しちゃんと話を聞いておけばアーノルドのことを知れたのだろうか、と考えたところでもう遅い。
それに今はアーノルドの家のことは関係ない。金銭的負担は少し軽くなったにしても、やはり最上級の部屋となると相当な金額になるわけで。泊まるのならばアーノルドだけ泊まればいい。ガルダはこんな高い部屋ではなく、正規の金額で壁が薄くない部屋に泊まれれば十分なのだ。
なかなか来ないエレベーターに苛立ち、カウントを取るように太ももを右の指先で叩く。すると背後から掬うように手のひらを包まれた。温かい。この数ヶ月で慣れたアーノルドの体温だ。意識すれば下半身に熱が溜まっていく。
早く処理しないとヤバイ!
そう思った次の瞬間、背筋が凍るような寒気に襲われた。
「誰と約束してたんだ?」
「は?」
「前は一週間で限界を迎えたのに、もう半年だぜ? そろそろ我慢もキツくなってきてんだろ」
「何を…….」
「ここ、使いたいんじゃないか?」
アーノルドは耳元で囁くと、尻をなぞるように撫でた。そして付け根に到達するとその手は尻尾に伸び、指先で弄ばれる。チュッと軽いリップ音が聞こえ、尻はなにかを搾り取るようにギュッと締まった。中には何もないというのに、オメガの性質というものなのだろう。
「お、おい! アーノルド止めろ」
口では抵抗しようとするガルダだが、尻尾を撫でられてはどうにも力が抜けてしまう。もうとうに限界を迎えているからなおのこと。
アーノルドは腰が抜けそうになるガルダの腰を支え、素早く部屋の鍵を開ける。
さすが、遊び慣れている奴は違うな……。
そのままベッドに押し込まれて、また性欲を溜め込んで眠ることになるのだろう。それがあの夜の代償だから。諦めて瞼を閉じれば、床に押し倒される。背中に手を入れてくれたため、痛くはない。代わりにアーノルドの顔が近距離にあった。両手を上で固められた状態で仰向けにされているため、顔だけ横に背けても彼から距離を置くことはできない。
無駄な抵抗だと知りながらもがけば、ハッと嘲笑うかのような声が耳を刺激する。そして刺激はすぐに尻の穴にも伸びていく。容赦なくズボッと突っ込まれ、蹂躙するかのように指を動かされる。それだけで軽くイッてしまう。前からは勢いよく発射した白濁が腹を汚した。簡単に反応してしまう自分が恥ずかしくて、ガルダは唇に歯を立てる。
「ほぐすまでもないくらいぐしょぐしょにしといて逃げれるはずないだろ」
「アーノルド……」
「本気の奴が面倒臭いってことくらい分かってるけどさ、俺しかいないんだから大人しく犯されとけよ」
「……っ」
なぜそんなことを言うのか。
視線を戻して彼の顔を覗けば、色男が台無しになる程ひどく歪んでいた。
やっぱり猫獣人は無理なんじゃないか。
無理に抱く必要などない。ガルダが無様に欲に溺れる姿が見たいのならば、それこそ冒険者達に金でも渡して犯させればいいものを……。アーノルドの真意が分からない。
けれどこの行為が気持ちいいことは知っている。好きな男がどんなに苦しい想いをしていようが、猫獣人の本能に抗うことなど出来るはずもない。服が擦れる音が聞こえれば、ガルダの喉仏が大きく上下した。
「…………っがぁ」
指と同様に遠慮なくアーノルドの雄が押し込まれる。臓器を持ち上げるように勢いよく。人間の女だったらきっと壊れてしまうほど力強い。けれどガルダはオメガの猫獣人だ。無理矢理犯すような行為でさえも快楽に変わる。
強引な欲は受け入れられる代わりに、ガルダに女のような高い声は出せない。喉から迫り上がる嬌声は野太く男らしいものでしかない。本当は自分の腕にでも噛みつければいいのだが、この体勢ではそれも叶わない。
「……っは…………ん」
何かを堪えるように腰を振っているアーノルド。だがこいつも男の顔なんて見てヤりたくないだろう。眉間に皺を寄せながらグッと目を閉じるくらいだったら、ひっくり返してくれればいいのに。
彼の欲を受け止め、溢れそうになる声を耐えるので精一杯で、提案をするところまで頭は回らない。
アーノルドもまたこの半年で溜め込んでいたのか、せっかく高級ホテルの高い部屋を取ったというのに、ずっとドア付近でガルダを犯し続けた。
床の次は壁に、最後はドアだった。
体勢を変えても変わらず押さえつけられて。
最後はガルダの身体を全身で押さえ込んで眠りについた。支配欲でもあるのだろうか。少なくとも愛のある行為ではない。
ガルダの唇は血まみれになり、一晩中雄を求め続けて鳴いて枯れた喉は自らの血で濡れていく。
「気持ち悪りぃ」
口いっぱいに広がる血の味にガルダは顔を歪めた。そしてアーノルドのホールドから抜け出し、彼をベッドへと運ぶ。半日近く滞在していてやっと部屋の全貌を見ることができた。高そうな調度品ばかりが並び、ガラス張りの窓からは街を見下ろすことができる。恋人同士で来ればロマンチックな夜が過ごせるのだろう。
少なくとも固い床で盛ることはない。
使われなかったベッドにアーノルドを寝かせ、シャワールームへと向かった。
悲しいことに、万年金欠なガルダは好きな男に抱かれた翌日だろうと稼がねばならないのだ。
アーノルドは払ってくれると言ったが、こんな高いところを払わせるわけには行かない。前払い制だから後で半分払うとして……。
手持ちにはいくら残るんだろうか? そもそも今の手持ちで足りるのだろうか?
働かねば、昨夜無理をして泊まったホテルに連泊するどころか、普段泊まっている宿賃さえ払えない。
濡れた頭をタオルでガシガシと吹きながら、冷蔵庫から飲み物を取り出した。一番安そうなものを選んだが、容器の装飾からして値段が張るものだろう。
これからひと月はひもじい生活が待っていそうだが、仕方ない。
とりあえず手元にギリギリの金だけ残してベッドサイドに宿賃を置いておく。もちろん足りない分は今度払うとのメモも添えて。
起こそうとも考えたが、アーノルドも寝起きに男の顔なんて見たくもないだろう。幸いベッドサイドには電話が置かれており、チェックアウトが近くなると鳴らしてくれるらしい。
ガルダは空き瓶を机の上に残し、部屋を後にした。
それからギルドで報酬の高い依頼を見繕って受けていく。どれも魔物の討伐ばかり。話を聞けば、最近増えているらしい。騎士団に依頼するほどの被害はないが、増える前に退治して欲しいとのことだった。
街から少し離れているものもあったが、このくらいなら夜までには帰って来られるだろうと三枚の依頼書を手にした。
予想以上に時間はかかったが、無事に依頼を達成することができた。形はどうあれ、性欲を発散できたというのが大きい。身体は軽いし、剣の切り口も心なしか綺麗に思える。サクサクと討伐していき、売れそうなものを剥ぎ取っていく。肉などは重くなりそうなので、近くの村で売ってきた。大量に持ち込んだのでキロ単位の値が落ちてしまったが、全部買い取ってもらったので懐は潤った。何より今回の収穫といえばウルフの毛皮だ。しかもただのウルフではない。貴族たちが好むゴールドウルフの毛皮を質のいい状態で剥ぎ取れたのだ。
やはり性欲を溜め込むのは良くない。明らかにパフォーマンスが低下する。今度から少し多めに仕事を受けて、娼婦を買うのが一番だな。きっとその方が金が貯まる。
「しばらく宿賃には困らないな」
ホテル代の支払いのことも忘れて、上機嫌でギルドへと戻った。けれど入り口付近で腕を組んで待っているアーノルドの姿に幸福感が霧散した。
「アーノルド!」
女性に話しかけられてもガン無視を決め込む彼は不機嫌そのもの。待たされていることに怒っているのか、一向に引く様子のない女性陣に苛立っているのか。
ガルダはその場から救い出すように彼の手を引いた。
「遅い」
「すまん。だが結構報酬入りそうなんだ。不足分はいくらだ? 達成報告して、これ買取に出したら払うからもう少し待っててくれ」
「それなら俺が払うって言ったじゃないか。なのに起きたらまたいないし……」
こんな大男でもいないと寂しかったのだろうか。娼婦を呼んでおくくらい気をきかせるべきだったのかもしれない。次なんてものはどうせないので今さら考えついたところでもう遅いのだが。
「悪い」
「ん」
頭を下げれば、アーノルドは不機嫌な声で謝罪を受け取ってくれた。そして謝罪の気持ちを込めて今日の宿賃は彼の分も払おうと心に決めていた。
だがアーノルドに手を引かれ、辿り着いたのは昨晩のホテルだった。
「えっと、アーノルド? 今日はいつもの宿に……」
「今日の分も取ってあるから」
「いや、あの俺はいつもの宿に」
「もう取ってあるから」
「……わかった」
それ以上は語ろうとはしないアーノルドに手を引かれ、昨日と同じ部屋に足を踏み入れる。けれど今日は入った途端に尻を犯されることはなかった。
代わりにベッドの上に押し倒されーー身体の上で爆睡された。
どうやら今日は寝たかっただけらしい。
ガルダをベッドにして寝るのならいつもの宿でもいいような気がするが、それを告げればまた機嫌が悪くなるだけだろう。
どうせ寝てしまっているのだ。
財布が空っぽになるかもしれないが、仕方ない。
「明日もまた働くか」
ガルダは呟いて、ゆっくりとまぶたを閉じた。
それがいけなかった。
ちゃんと断るべきだった。
それから毎日ガルダはその部屋に連れ込まれるようになった。
娼婦を呼べば怒られ。
金を残して仕事に向かえば怒られ。
猫獣人が抱けるようになったのならと、見た目が綺麗な仲間を紹介しようとすれば泣かれてしまった。
一体何が悪いのか、ガルダにはてんで分からない。とりあえずアーノルドのしたいようにさせておけば機嫌がいいのは確かだ。
「なぁガルダ、俺のこと好きか?」
「ああ、好きだ」
そう告げるとアーノルドは嬉しそうに、女に見せるみたいな顔で微笑んでくれる。
この関係はベッドの上でだけ。
柔らかいベッドを降りれば微睡みの中から覚めてしまう。同時に夜中だけのごっこ遊びは終わりを告げる。
毎晩訪れる数刻だけ、ガルダは素直な言葉を口にする。
受け取ってもらえない宿賃と、日に日に増していくアーノルドへの気持ちは募る一方。だが性欲を発散できるおかげか、効率的に金が貯まるようになった。
女好きのアーノルドがガルダでこのまま妥協し続けられるはずがない。これは気まぐれでしかないのだ。
だからガルダはいつアーノルドに飽きられてもいいようにとチマチマと旅費を貯めている。
旅立ちの日はそう遠くはない気がした。
※※※
「例えそれがベッドの中の偽りであっても、その言葉をもう一度欲せずにはいられないんだ」
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