5 / 13
5.
しおりを挟む 一体何がどうなっている? あの星の使徒は何故このタイミングでこの場所に現れた?
携帯に連絡が来ていないということは、星の使徒が発生する際の微弱な電磁波は出ていないということになる。それに厳正を崩壊させた後、どうして俺達に向ってこない? 最近の奴らの行動パターンだったら、一番近くの人間に襲い掛かるはずだ。
「真姫、体はなんともないのか?」
俺は前を滑るように進んでいく星の使徒を追いかけながら、真姫に確認する。とにかく助かって良かったが、何が起きたのか理解できない。人間が自力で蘇り、平然と走っているなどあり得ない。あってはならない。
「私はなんともないよ! それより今はアイツを……」
真姫は息を切らしながら答える。
途中で窓ガラスを透過してビルの外に飛び出した星の使徒は、そのまま岬町のビル群の間を縫って進んでいく。
俺達は途中で待機室に戻り、それぞれ拳銃を装備してビルの外へ出る。
目視できる距離ではないが、今頃になって携帯に移動中の目的地が表示されている。マップで示されている場所は、岬町からやや外れた郊外にある岬山脈に向かって進んでいる。
「なんで山?」
「良いから行きましょう!」
俺の疑問を遮ると、真姫は運転席の隣に座る。
俺も運転席に乗って、制星教会のビルを眺める。
この建物を視界に収めるのは、これが最後な気がした。
もうここには戻ってこれないだろう。状況だけ見たら、星の使徒と何かしらのつながりがあると思われている俺達が捕まっていた場所に、制星教会の会長が崩壊病で死んでいるのだ。しかも中に捕まっていたはずの二人は脱走。これだけ見てしまえば、完全にクロだ。疑われても仕方がない。
「飛ばすぞ」
俺はアクセルを力一杯踏む。車が一気に加速する。俺は岬町のビルの間をグングン進んでいく。制星教会から追われる身になるのだ。この風景ともお別れだ。俺達はこの町を離れる決意をしなくてはならない。下手したらずっと追われる生活になるのだから。
「暮人。私がいるから……」
激しいエンジン音に紛れて、真姫の言葉が耳に届く。
そうだ。真姫だって分かっているはずだ。もうこれっきりこの場所とはお別れだと。
「しっかり目に焼き付けておこう」
俺はスピードをさらに上げながら、そう呟いた。
「もう二時間以上走ってるな」
俺はそう呟く。
俺達が制星教会を出発してから、すでにそれぐらい経っている。その間、星の使徒は車とほとんど同じ速度で止まることはない。まるで俺達を誘っているかのような動きだ。今までの星の使徒のメカニズムとは明らかに違う動きをしている。
ここまでの道中、アイツは誰も崩壊させていない。俺が想像していた最悪のケースは、車と同じだけの機動力を持ちながら、通りがかりで無差別に人々を崩壊病にしていくことだったが、それはしないらしい。しないのか出来ないのかは定かではないが。
「ラジオでもつけない?」
真姫はそう言ってラジオをつけ、夕方のニュースに合わせる。彼女も、星の使徒の目的が俺達の誘導であると分かったからか、幾分と気を抜いている。
ラジオでは政治家の汚職の話や、芸能人の離婚の話題に紛れて、崩壊病の特集が組まれていた。
「ついに特集を組まれるくらいになったのか」
「前よりも被害者が増えてるもんね……」
俺の何気ない一言に真姫の声は沈む。
ラジオの特集では、近頃崩壊病で亡くなった人の近くにいた人までが、崩壊病で亡くなっているという事実にスポットを当てていた。星の使徒の行動パターンの変化によって生じたことだった。特集ではその事実を踏まえ、専門家を名乗る人にインタビューをし、今まで感染しないとされていた崩壊病が、実は感染するのではないかと騒いでいた。
「確かに最近、ネットニュースでも崩壊病をより多く見るようになったな」
「ええ」
確実に崩壊病に対する世間のイメージが変わりつつある。今までは、滅多に発生しない恐ろしい病気。だけど人から人へ感染しないし、自身の周りに崩壊病に感染した人がいないため、怖いけどどこか他人事のようなイメージだった。
それが最近の被害者数の増加。近くにいた人までもが崩壊病で亡くなるという、感染するのではないかと思われるような被害の広がり方によって、より恐ろしい物と認識されるようになってしまった。
こうなってしまうと、どこまで政府が隠しきれるかがポイントとなる。仮に星の寿命の話、星の使徒の存在、制星教会という組織が明るみになれば、世界はどうなるのだろう。
星の使徒といういまだかつて人類が体験したことが無い恐怖に対して、俺達人間はどういう反応を示すのだろう? 何もかも分からないが、一つだけ確かなことは大パニックは避けられないという事。そして星の使徒や崩壊病の起源についての追及が始まった時、俺と真姫は世界中から石を投げられる。
政府も、国民の怒りの捌け口として俺達を利用するだろう。
アイツらさえ死ねばと……
大衆をコントロールする時のもっとも簡単な手段は、共通の敵を作ること。これはかなり有効だと分かっているからこそ、その標的に俺達がされる可能性は高い。
「何処に向かってるの?」
俺は携帯と睨めっこしている真姫に尋ねた。
「ここから六十キロ先の山の中」
真姫は簡潔に答える。
今走っている所だって結構な田舎道だ。
岬町を出発してすでに二時間以上走っている。法定速度を無視して進んでいるため、距離にしておよそ二百キロほどだ。岬町はビルが立ち並ぶ栄えた街だが、少し郊外に抜けてしまえば田舎道が続く。
今走っているここなんて田んぼ道に毛が生えた程度の場所だ。もう少し西に舵を切れば、海が見られる。
星の使徒はこの先の山の中。
もう周囲にひとけはなく、家もほとんどない。それどころか建造物など電信柱ぐらいのもので、スーパーやコンビニすらない。完全なる田舎。窓を開けると、コンクリートジャングルでは味わえない新鮮な空気が肺を一杯にする。
「長閑な場所だね」
真姫は少し嬉しそうにはにかむ。
俺も真姫もそれどころではないのは分かっているのだが、久しぶりに訪れた平穏な時間に思わず笑みがこぼれる。
「この先か」
俺達が田舎道のドライブを満喫していると、前方には大きな山。しかし道はなく、ここから車で進むのは不可能だった。
「ええ。反応はここから五キロ先」
真姫は絶望的な声色だ。
たかが五キロされど五キロだ。
普段から山登りに勤しんでいるならいざ知らず、普段町中で生活している身からすると、なんの舗装もされていない山道を五キロ進むのはかなりの重労働だ。
それもマップでは直線距離で五キロなのだから、実際に歩く距離としてはもっと多いだろう。
「夜の山は危ないな」
「でも夜明けを待つわけにもいかないでしょう?」
「そうなんだよな。ここの情報は制星教会の連中だって掴んでるんだ。追いつかれたら、俺達もどうなるか……」
「じゃあ逃げる?」
真姫はふざけて笑う。勿論分かってる。逃げられない。俺達を誘うようにここまで飛んできた星の使徒の意図は知っておきたい。
「どこに逃げるんだ?」
俺は真姫にそう答えた。
俺達は国のバックアップを受けている組織、制星教会から追われている身だ。当然、なんで追われているのかは言えないため、普通の犯罪者の指名手配のようにはいかないが、隠れるにしろもう居場所が無い。
ここまで来てしまえば、物事を先に進めるしかないのだ。
携帯に連絡が来ていないということは、星の使徒が発生する際の微弱な電磁波は出ていないということになる。それに厳正を崩壊させた後、どうして俺達に向ってこない? 最近の奴らの行動パターンだったら、一番近くの人間に襲い掛かるはずだ。
「真姫、体はなんともないのか?」
俺は前を滑るように進んでいく星の使徒を追いかけながら、真姫に確認する。とにかく助かって良かったが、何が起きたのか理解できない。人間が自力で蘇り、平然と走っているなどあり得ない。あってはならない。
「私はなんともないよ! それより今はアイツを……」
真姫は息を切らしながら答える。
途中で窓ガラスを透過してビルの外に飛び出した星の使徒は、そのまま岬町のビル群の間を縫って進んでいく。
俺達は途中で待機室に戻り、それぞれ拳銃を装備してビルの外へ出る。
目視できる距離ではないが、今頃になって携帯に移動中の目的地が表示されている。マップで示されている場所は、岬町からやや外れた郊外にある岬山脈に向かって進んでいる。
「なんで山?」
「良いから行きましょう!」
俺の疑問を遮ると、真姫は運転席の隣に座る。
俺も運転席に乗って、制星教会のビルを眺める。
この建物を視界に収めるのは、これが最後な気がした。
もうここには戻ってこれないだろう。状況だけ見たら、星の使徒と何かしらのつながりがあると思われている俺達が捕まっていた場所に、制星教会の会長が崩壊病で死んでいるのだ。しかも中に捕まっていたはずの二人は脱走。これだけ見てしまえば、完全にクロだ。疑われても仕方がない。
「飛ばすぞ」
俺はアクセルを力一杯踏む。車が一気に加速する。俺は岬町のビルの間をグングン進んでいく。制星教会から追われる身になるのだ。この風景ともお別れだ。俺達はこの町を離れる決意をしなくてはならない。下手したらずっと追われる生活になるのだから。
「暮人。私がいるから……」
激しいエンジン音に紛れて、真姫の言葉が耳に届く。
そうだ。真姫だって分かっているはずだ。もうこれっきりこの場所とはお別れだと。
「しっかり目に焼き付けておこう」
俺はスピードをさらに上げながら、そう呟いた。
「もう二時間以上走ってるな」
俺はそう呟く。
俺達が制星教会を出発してから、すでにそれぐらい経っている。その間、星の使徒は車とほとんど同じ速度で止まることはない。まるで俺達を誘っているかのような動きだ。今までの星の使徒のメカニズムとは明らかに違う動きをしている。
ここまでの道中、アイツは誰も崩壊させていない。俺が想像していた最悪のケースは、車と同じだけの機動力を持ちながら、通りがかりで無差別に人々を崩壊病にしていくことだったが、それはしないらしい。しないのか出来ないのかは定かではないが。
「ラジオでもつけない?」
真姫はそう言ってラジオをつけ、夕方のニュースに合わせる。彼女も、星の使徒の目的が俺達の誘導であると分かったからか、幾分と気を抜いている。
ラジオでは政治家の汚職の話や、芸能人の離婚の話題に紛れて、崩壊病の特集が組まれていた。
「ついに特集を組まれるくらいになったのか」
「前よりも被害者が増えてるもんね……」
俺の何気ない一言に真姫の声は沈む。
ラジオの特集では、近頃崩壊病で亡くなった人の近くにいた人までが、崩壊病で亡くなっているという事実にスポットを当てていた。星の使徒の行動パターンの変化によって生じたことだった。特集ではその事実を踏まえ、専門家を名乗る人にインタビューをし、今まで感染しないとされていた崩壊病が、実は感染するのではないかと騒いでいた。
「確かに最近、ネットニュースでも崩壊病をより多く見るようになったな」
「ええ」
確実に崩壊病に対する世間のイメージが変わりつつある。今までは、滅多に発生しない恐ろしい病気。だけど人から人へ感染しないし、自身の周りに崩壊病に感染した人がいないため、怖いけどどこか他人事のようなイメージだった。
それが最近の被害者数の増加。近くにいた人までもが崩壊病で亡くなるという、感染するのではないかと思われるような被害の広がり方によって、より恐ろしい物と認識されるようになってしまった。
こうなってしまうと、どこまで政府が隠しきれるかがポイントとなる。仮に星の寿命の話、星の使徒の存在、制星教会という組織が明るみになれば、世界はどうなるのだろう。
星の使徒といういまだかつて人類が体験したことが無い恐怖に対して、俺達人間はどういう反応を示すのだろう? 何もかも分からないが、一つだけ確かなことは大パニックは避けられないという事。そして星の使徒や崩壊病の起源についての追及が始まった時、俺と真姫は世界中から石を投げられる。
政府も、国民の怒りの捌け口として俺達を利用するだろう。
アイツらさえ死ねばと……
大衆をコントロールする時のもっとも簡単な手段は、共通の敵を作ること。これはかなり有効だと分かっているからこそ、その標的に俺達がされる可能性は高い。
「何処に向かってるの?」
俺は携帯と睨めっこしている真姫に尋ねた。
「ここから六十キロ先の山の中」
真姫は簡潔に答える。
今走っている所だって結構な田舎道だ。
岬町を出発してすでに二時間以上走っている。法定速度を無視して進んでいるため、距離にしておよそ二百キロほどだ。岬町はビルが立ち並ぶ栄えた街だが、少し郊外に抜けてしまえば田舎道が続く。
今走っているここなんて田んぼ道に毛が生えた程度の場所だ。もう少し西に舵を切れば、海が見られる。
星の使徒はこの先の山の中。
もう周囲にひとけはなく、家もほとんどない。それどころか建造物など電信柱ぐらいのもので、スーパーやコンビニすらない。完全なる田舎。窓を開けると、コンクリートジャングルでは味わえない新鮮な空気が肺を一杯にする。
「長閑な場所だね」
真姫は少し嬉しそうにはにかむ。
俺も真姫もそれどころではないのは分かっているのだが、久しぶりに訪れた平穏な時間に思わず笑みがこぼれる。
「この先か」
俺達が田舎道のドライブを満喫していると、前方には大きな山。しかし道はなく、ここから車で進むのは不可能だった。
「ええ。反応はここから五キロ先」
真姫は絶望的な声色だ。
たかが五キロされど五キロだ。
普段から山登りに勤しんでいるならいざ知らず、普段町中で生活している身からすると、なんの舗装もされていない山道を五キロ進むのはかなりの重労働だ。
それもマップでは直線距離で五キロなのだから、実際に歩く距離としてはもっと多いだろう。
「夜の山は危ないな」
「でも夜明けを待つわけにもいかないでしょう?」
「そうなんだよな。ここの情報は制星教会の連中だって掴んでるんだ。追いつかれたら、俺達もどうなるか……」
「じゃあ逃げる?」
真姫はふざけて笑う。勿論分かってる。逃げられない。俺達を誘うようにここまで飛んできた星の使徒の意図は知っておきたい。
「どこに逃げるんだ?」
俺は真姫にそう答えた。
俺達は国のバックアップを受けている組織、制星教会から追われている身だ。当然、なんで追われているのかは言えないため、普通の犯罪者の指名手配のようにはいかないが、隠れるにしろもう居場所が無い。
ここまで来てしまえば、物事を先に進めるしかないのだ。
28
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
【BL】こんな恋、したくなかった
のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】
人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。
ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。
※ご都合主義、ハッピーエンド

君の足跡すら
のらねことすていぬ
BL
駅で助けてくれた鹿島鳴守君に一目惚れした僕は、ずっと彼のストーカーをしている。伝えるつもりなんてなくて、ただ彼が穏やかに暮らしているところを見れればそれでいい。
そう思っていたのに、ある日彼が風邪だという噂を聞いて家まで行くと、なにやら彼は勘違いしているようで……。
不良高校生×ストーカー気味まじめ君
酔った俺は、美味しく頂かれてました
雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……?
両片思い(?)の男子大学生達の夜。
2話完結の短編です。
長いので2話にわけました。
他サイトにも掲載しています。

鬼の愛人
のらねことすていぬ
BL
ヤクザの組長の息子である俺は、ずっと護衛かつ教育係だった逆原に恋をしていた。だが男である俺に彼は見向きもしようとしない。しかも彼は近々出世して教育係から外れてしまうらしい。叶わない恋心に苦しくなった俺は、ある日計画を企てて……。ヤクザ若頭×跡取り


幸せの温度
本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。
まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。
俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。
陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。
俺にあんまり触らないで。
俺の気持ちに気付かないで。
……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。
俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。
家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。
そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる