アト

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

文字の大きさ
上 下
2 / 13

2.

しおりを挟む
そんな俺達家族の暮らしは、リーネと俺が出逢ってから十三年が過ぎていた。リーネは二十六(実年齢はたぶん二十五)となり、トーイとイワンもだいたい十四くらい(実年齢はたぶん十三くらい)、カーシャは十(実年齢はたぶん九)になっていた。

そうだ。トーイとイワンももうすぐ<大人>の仲間入りができる年齢なんだよ。

一方でリーネはすっかり<いかず後家>状態だ。でも、それでいい。しかも、イワンはますますリーネのことを真剣に好きになっているようだし。

「僕がリーネを幸せにする!」

堂々とそんなことまで口にするようになって。それに対して彼女は、

「ありがとう。嬉しいよ、イワン」

笑顔で応えてたりもする。

基本的に優男なイワンに比べるとトーイは、鉄を打つ姿もすっかり様になって、体も年齢の割にはがっちりしてきて、<一人前の男>の風格が出てきたな。さらにはトーイが作る品物の質も決して悪くない。まだまだひよっことはいえ、もう立派に<職人>の末席には加われたと思う。

で、カーシャはと言うと、

「リーネ! お鍋が吹きこぼれちゃう!」

竈にかけていた鍋が出す音を聞きつけて、教えてくれた。

「ありがとう! カーシャ!」

礼を口にしながらリーネは鍋を火力の低い方へと移した。

そんな感じで、相変わらず楽しくやってる。そこに、

「あ、マリヤおしっこした」

カーシャが今度は臭いを嗅ぎつけて報せてくれる。

「おお、おお」

俺は慌てて隣の部屋で寝ていたマリヤのところに駆けつける。

マリヤは今年生まれたばかりの赤ん坊だ。麓の村でな。そう。また子供を引き取ってきたんだ。

『男じゃなきゃ要らない』

と言う夫婦の下からな。そこにはもう女の子がいたから、あとは畑仕事に使える男しか要らなかったんだよ。で、

「赤ん坊、要らないかい?」

ってそこの母親が訊いてきたもんだから俺は、

「要らないんなら、貰う」

と、二つ返事で。カーシャも大きくなったし、正直、また子供を育てたくなってたってのもあってな。

ああ、いいよ。子供はいい。こっちのすることがダイレクトに反応として返ってくる。接し方をしくじれば機嫌を損ねるし、逆にハマればすごく喜んでくれる。その上、アントニオ・アークが育てたら、トーイもイワンもカーシャも、ゆかりとはまったく違った子に育ってくれた。特にカーシャは、俺のことが大好きな朗らかな子なんだ。そして彼女がどうしてそんな子に育ってくれたのか、今の俺にはその理由が分かる。

何しろ、彼女には委縮しなきゃならねえ理由がねえんだ。見ず知らずの相手に対しては警戒しても、家族の前では明るくいられてるんだよ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】こんな恋、したくなかった

のらねことすていぬ
BL
【貴族×貴族。明るい人気者×暗め引っ込み思案。】  人付き合いの苦手なルース(受け)は、貴族学校に居た頃からずっと人気者のギルバート(攻め)に恋をしていた。だけど彼はきらきらと輝く人気者で、この恋心はそっと己の中で葬り去るつもりだった。  ある日、彼が成り上がりの令嬢に恋をしていると聞く。苦しい気持ちを抑えつつ、二人の恋を応援しようとするルースだが……。 ※ご都合主義、ハッピーエンド

君の足跡すら

のらねことすていぬ
BL
駅で助けてくれた鹿島鳴守君に一目惚れした僕は、ずっと彼のストーカーをしている。伝えるつもりなんてなくて、ただ彼が穏やかに暮らしているところを見れればそれでいい。 そう思っていたのに、ある日彼が風邪だという噂を聞いて家まで行くと、なにやら彼は勘違いしているようで……。 不良高校生×ストーカー気味まじめ君

酔った俺は、美味しく頂かれてました

雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……? 両片思い(?)の男子大学生達の夜。 2話完結の短編です。 長いので2話にわけました。 他サイトにも掲載しています。

鬼の愛人

のらねことすていぬ
BL
ヤクザの組長の息子である俺は、ずっと護衛かつ教育係だった逆原に恋をしていた。だが男である俺に彼は見向きもしようとしない。しかも彼は近々出世して教育係から外れてしまうらしい。叶わない恋心に苦しくなった俺は、ある日計画を企てて……。ヤクザ若頭×跡取り

宝物

すずかけあおい
BL
同級生の孝則(攻め)が好きな俊季(受け)の話です。

薄明り

のらねことすていぬ
BL
冒険者であるリュドは、同じく冒険者のガイウスに恋をしている。想いを伝えるつもりなんてなかったのに、任務の途中で錯乱したガイウスに抱かれてしまい……。 冒険者×冒険者

【BL】SNSで出会ったイケメンに捕まるまで

久遠院 純
BL
タイトル通りの内容です。 自称平凡モブ顔の主人公が、イケメンに捕まるまでのお話。 他サイトでも公開しています。

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

処理中です...