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 休憩を取りながら何日も何日も馬車を走らせ、ようやく見慣れた景色が広がる場所へと戻ってきた。戻ってきてしまった。

 城門をくぐり、教会エリアへと馬車を走らせる。
 そしてピタリと止まった場所で待っていたのは睨み合うフィリスとアレックスだった。

 二人ともリヒターが帰ってきたことに気づかず、言い争っている。

「なぜあなたがここにいるのよ」
「リヒターが帰ってくると聞いたものですから」
「負け犬は尻尾を巻いて帰りなさい!」
「手紙一つで別れを済まされた聖女様に言われたくないですね」

 フィリスがここまで声を荒げるとは珍しい。馬車のドアを閉めていてもしっかりと聞こえる。

 それほどまでにリヒターを重宝してくれていたのだろう。嬉しくなると同時に、忙しいだろうと手紙で済ませてしまったことに申し訳なさを覚える。

 それに同じ教会に勤めるフィリスはともかくとして、なぜアレックスがこんなところにいるのか。

 まだ仕事中のはず。しかも立場上、聖女と争っていいはずがない。
 けれど二人とも立場を忘れているようだった。

「あの子は気を遣ってくれただけ。それに別れじゃないわ。帰ってくるって分かっていたもの」
「俺だって捨てられた訳じゃない!」
「第一、あの子が急に辺境へ行ったのもあなたと一緒になるのが嫌だったのではなくて?」
「そんな訳ないでしょう!? 帰ってきたらプロポーズするつもりだったんだから」
「あなたが今まで散々遊んでいたのを知って、寛大な心のリヒターだって嫌になったんでしょうよ」
「過去のことは、俺だって消せるものなら消したいくらいだ……」
「あなた自身に刻み込まれたものだもの。神に祈っても消せないわ」

 話だけ聞けば、アレックスのプロポーズ相手はリヒターかのよう。だが神官一人を妻とするのに寄付金など必要ない。

 性に奔放だと困るが、貞操面も重要視されない。ましてや処女性など……。


 リヒターが去った後に本命の聖女にプロポーズしたものの撃沈してしまい、適当な言い訳としてリヒターを使っていると言われた方がしっくりとくる。

 期待なんてしたくない。自分が惨めになるだけだから。

 このまま耳をそば立てているのもフィリスに悪いと、馬車から降りることにした。
 スタスタと目の前まで近づいて、ようやく二人はリヒターの帰りに気づいたらしい。

「フィリス様、アレックス様、ただいま戻りました」
「リヒター! ああ、長旅で疲れているわよね。荷物持つわよ」
「そんなフィリス様に荷物なんて持たせられませんよ」
「いいのよ、このくらいさせてちょうだい。あなたが戻ってきてくれて本当に嬉しいわ」

 フィリスはリヒターの手からバッグを奪い取る。そしてリヒターの腰をホールドする形で教会へと導こうとする。

「リヒター!」

 だが色気などはない。
 彼女はただ、アレックスからリヒターを遠ざけたいだけ。リヒターも彼から離れたくて「失礼します」と軽く頭を下げてからその場を後にするのだった。
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