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「帰りたくないなぁ」
神官長の回復が進むにつれ、リヒターの気持ちは重くなっていく。
ここでも王都でもない別の場所で神官をすれば、とも考えた。けれど神官長の回復の知らせを聞いた王都の教会から手紙が届いた。
『来月には帰還せよ』
短い文だが、リヒターに選択肢は与えられていない。別の道を歩くのなら王都に帰り、ある程度仕事をこなした後で選ばなければならない。
辺境を去る日、教会総出で見送りをしてくれることとなった。
「お世話になりました」
「世話になったのはこっちの方だよ。神官長の仕事だけじゃなくてガキの世話ばかりさせて悪いね」
「いえ、みんな良い子たちでしたから。それより神官長のお身体は」
「十分休ませてもらったおかげで前より元気になったくらいだ」
「それは良かったです」
「先生、俺達立派な神官になるよ!」
「神紐だって上手に結べるようになるから」
「応援してるね」
一人一人と握手を交わし、王都から来た迎えの馬車に乗り込む。
行きには乗合馬車を使ったが、神官長達が評価してくれたのだろうか。座席のクッションも柔らかい。ガタゴトと揺られながら気付けば眠りについていた。
『リヒター、愛してる。俺だけのものになってくれ』
唇を塞がれ、これは夢だと気づいた。
アレックスを遠くから見つめていた時にも似たような夢を見たことがある。
無理だと理解していながらも彼に愛される夢を見た。あり得ないと割り切っていたあの頃に見た夢は幸せだった。
角度を変えて落とされるキスと急く手で暴かれる服。夢の中のアレックスはいつも余裕がない。それほどまでにがっついてくれていた。
実際はそこまで求められたことなんてなくて、本命は他にいた。
過去にたくさんいたのであろうセフレよりも関係性が浅くて、キス以上なんてすることもなかった。
ふと、最近後ろを弄っていないなと思い出した。
そんな余裕なんてなかったし、壁を挟んですぐ隣に子供達のいる場所で出来るような環境でもなかった。けれど以前使っていた潤滑油も張り型もバッグの中に入っている。
帰ったら久しぶりにやろうかな。
アレックスに抱かれる夢を見ながら、一人でしっとりと浸る予定を立てる。
しばらく弄っていないから夢みたいにすんなり入ることはないけれど、夢とは違って相手なんていないのだ。
アレックスは今頃意中の聖女と付き合っていて、数ヶ月王都を留守にしていた神官のことなんて忘れているに違いない。
いっそこれを機に他の人を好きになるのはどうか。恋愛なんて出来なくても、身体だけの関係ならばその手の店に行けば見つかると聞く。
リヒターは割り切った関係なんて得意ではない。
ほんの少し前まで家族のような温かみのある教会にいたからなおのこと。だがこんな地味で取り柄のない男を求めてくれる相手がいるとも思えない。それでも他の誰かを思う自分を想像しなければ、今よりももっと駄目になってしまいそうだから。
『抱かれるなら体格の良い人がいいな』
『俺じゃ不満か?』
『いいえ、抱かれるならあなたのような人がいい』
目の前の男の背中に手を伸ばし、行為に浸る。
貫かれる痛みはない。快感もきっと本当ならもっと強いものがあるのだろう。
けれどリヒターはそんなの知らない。後ろの蕾の先に進んだことがあるのは自らの指と、『初心者向け』の言葉と共に売られていた張り型だけなのだから。
神官長の回復が進むにつれ、リヒターの気持ちは重くなっていく。
ここでも王都でもない別の場所で神官をすれば、とも考えた。けれど神官長の回復の知らせを聞いた王都の教会から手紙が届いた。
『来月には帰還せよ』
短い文だが、リヒターに選択肢は与えられていない。別の道を歩くのなら王都に帰り、ある程度仕事をこなした後で選ばなければならない。
辺境を去る日、教会総出で見送りをしてくれることとなった。
「お世話になりました」
「世話になったのはこっちの方だよ。神官長の仕事だけじゃなくてガキの世話ばかりさせて悪いね」
「いえ、みんな良い子たちでしたから。それより神官長のお身体は」
「十分休ませてもらったおかげで前より元気になったくらいだ」
「それは良かったです」
「先生、俺達立派な神官になるよ!」
「神紐だって上手に結べるようになるから」
「応援してるね」
一人一人と握手を交わし、王都から来た迎えの馬車に乗り込む。
行きには乗合馬車を使ったが、神官長達が評価してくれたのだろうか。座席のクッションも柔らかい。ガタゴトと揺られながら気付けば眠りについていた。
『リヒター、愛してる。俺だけのものになってくれ』
唇を塞がれ、これは夢だと気づいた。
アレックスを遠くから見つめていた時にも似たような夢を見たことがある。
無理だと理解していながらも彼に愛される夢を見た。あり得ないと割り切っていたあの頃に見た夢は幸せだった。
角度を変えて落とされるキスと急く手で暴かれる服。夢の中のアレックスはいつも余裕がない。それほどまでにがっついてくれていた。
実際はそこまで求められたことなんてなくて、本命は他にいた。
過去にたくさんいたのであろうセフレよりも関係性が浅くて、キス以上なんてすることもなかった。
ふと、最近後ろを弄っていないなと思い出した。
そんな余裕なんてなかったし、壁を挟んですぐ隣に子供達のいる場所で出来るような環境でもなかった。けれど以前使っていた潤滑油も張り型もバッグの中に入っている。
帰ったら久しぶりにやろうかな。
アレックスに抱かれる夢を見ながら、一人でしっとりと浸る予定を立てる。
しばらく弄っていないから夢みたいにすんなり入ることはないけれど、夢とは違って相手なんていないのだ。
アレックスは今頃意中の聖女と付き合っていて、数ヶ月王都を留守にしていた神官のことなんて忘れているに違いない。
いっそこれを機に他の人を好きになるのはどうか。恋愛なんて出来なくても、身体だけの関係ならばその手の店に行けば見つかると聞く。
リヒターは割り切った関係なんて得意ではない。
ほんの少し前まで家族のような温かみのある教会にいたからなおのこと。だがこんな地味で取り柄のない男を求めてくれる相手がいるとも思えない。それでも他の誰かを思う自分を想像しなければ、今よりももっと駄目になってしまいそうだから。
『抱かれるなら体格の良い人がいいな』
『俺じゃ不満か?』
『いいえ、抱かれるならあなたのような人がいい』
目の前の男の背中に手を伸ばし、行為に浸る。
貫かれる痛みはない。快感もきっと本当ならもっと強いものがあるのだろう。
けれどリヒターはそんなの知らない。後ろの蕾の先に進んだことがあるのは自らの指と、『初心者向け』の言葉と共に売られていた張り型だけなのだから。
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