グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

文字の大きさ
上 下
4 / 9

4.

しおりを挟む
 それから辺境に辿り着いたわけだが……。


「馬鹿っ! それじゃないって言ってるだろ」
「えっとこの組み方どうするんだっけ?」
「配置これであってる??」
「聖女様の服、洗濯日間違えたーー」

 神官服を身に纏った子供達が教会で右往左往していた。
 神官は一人だけとの話だったので、ここにいる彼らは皆、神官見習いなのだろう。

 教会の規模を考えると多い気もするが、地方の教会は孤児院も兼ねている。そのまま神官や聖女になる子もいれば他の職につく子もいる。神官になって王都に来た同僚だっているので、特別この教会がイレギュラーという訳ではない。

 てんやわんや状態の彼らだったが、リヒターの顔を見つけると「あーーーーーー!」と大声を上げた。

「王都の神官さん! ……ですか?」
「はい。臨時で派遣されましたリヒターと申します」
「よろしくお願いします」

 少年達は一斉にぺこーっと頭を下げた。
 そしてわらわらとリヒターの周りに集まった。

「王都の神官さん、早速教えてもらいたいことがあって」

 彼らはメモ帳を持っていて、そこに書かれていることを確認しながら行っているようだ。ここの神官に教えてもらったのだとか。

「分からないことがあったら聞くように言われているんだ。でも聞けば起きてきちゃうから。俺達だけでなんとかしようと思ったんだけど……」

 しょぼんと肩を落としながらそう打ち明けてくれた。
 だが一人で回していくのだとばかり思っていたリヒターにとって、やる気のある神官見習いが沢山いるのはありがたいことだ。

「順番に説明していきますね」
「あ、敬語はやめてください」
「俺たちまだ見習いで、下っ端だから」
「敬語もあんまり上手くないし」
「分かった。じゃあ説明するから、何か分からないことがあったら遠慮なく聞いてね」

 一つ一つ彼らの疑問を解消して、せっせと溜まった仕事を片付けていく。

 中でも急務だったのが神紐の準備である。
 神官長が作っていた分はすでに使い終わってしまったらしく、頑張って作ろうとしていたのだが挫折してしまったのだとか。

「それなら僕が馬車の中で作った分があるから」
「本当に!?」
「神紐はいくらあっても困らないから。だからひと段落したらみんなも編み方を覚えよう」
「うん!」

 元気で純粋で良い子たちばかりだ。恋に敗れた傷は溶けるように癒されていく。
 それから寝込んでいる神官長に挨拶して、辺境の代理神官長ライフがスタートした。

「みんな、今日は上半期の神事について勉強しようか」

 といっても王都にいた頃とは違い、神官見習いへの教育がメインである。
 土地ごとに神事のタイミングは違うので、神官長が作ってくれた通期メモを見つつではあるが、内容は一緒だ。

 聖女見習いの子も知っていて損はないと神官見習いの子達と並んで席についている。

 今までちゃんとした勉強会を開いたことはなかったようだが、今回の一件で午前中に時間を取るようになったようだ。辺境ヴィクドリィアの聖女であるウェィリアも手伝ってくれた。

「ほらここ足し算間違ってる! この前教えただろ!」
「あれ? 本当だ」
「いいかい? 計算だけはちゃんと出来るようにしておくんだよ。馬鹿だと金をちょろまかされるからね!」
「はーい」

 ウェィリアの場合は神官見習い・聖女見習いの勉強というよりも外で生き抜くための勉強がメインだが。

 母親のような気持ちなのだろう。

 臨時とはいえリヒターも彼らの力になりたくて、夜な夜な大きな紙に神紐の編み方を描いていく。細かいところが分かりづらいからと色も複数使い分けたものを居住スペースに貼り出した。

 すると子ども達は空いている時間に普通の紐で練習をするようになった。


「リヒター先生~」
 いつからか先生と呼ばれるようになった。慕われていて嬉しいと思う一方で、日に日に彼らにとっての神官長にはなれないのだと自覚させられる。

 どんなに受け入れられても。
 どんなに楽しいと思っても。
 どんなにここにいたいと願っても。

 リヒターは先生であり、臨時の神官長だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

繋がれた絆はどこまでも

mahiro
BL
生存率の低いベイリー家。 そんな家に生まれたライトは、次期当主はお前であるのだと父親である国王は言った。 ただし、それは公表せず表では双子の弟であるメイソンが次期当主であるのだと公表するのだという。 当主交代となるそのとき、正式にライトが当主であるのだと公表するのだとか。 それまでは国を離れ、当主となるべく教育を受けてくるようにと指示をされ、国を出ることになったライト。 次期当主が発表される数週間前、ライトはお忍びで国を訪れ、屋敷を訪れた。 そこは昔と大きく異なり、明るく温かな空気が流れていた。 その事に疑問を抱きつつも中へ中へと突き進めば、メイソンと従者であるイザヤが突然抱き合ったのだ。 それを見たライトは、ある決意をし……?

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

公爵令息は悪女に誑かされた王太子に婚約破棄追放される。

克全
BL
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...