斯波良久BL短編集

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中

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妹の代打で魔法少女やってます(現代)

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 突然ですが、僕、悠山 楓は週2で魔法少女をしています。

 男なのに魔法『少女』ってどうなんだって思うかもしれない。……というか思ってくれ。正直初めて数カ月が経ってそう思う。

 世界のためっていうか僕のために真面目に魔法少女をやってくれ!ともう妹の紅葉を説得するのは疲れた。

 あいつは出資会社のオッサンたちの趣味全開で作られたフリッフリのワンピースを兄が着せられようが、むしろ最近スカートの部分の丈が僕の分だけ短くなっていようが、アイドルのライブを優先させるような奴だ。
 いや、そもそもこんなことをやっているキッカケもそのアイドルのライブに行きたいからである。

「一之瀬君を生で見たいので週末は呼ばないでください。もし呼び出したら世界、滅ぼしますよ?」――と紅葉は真顔で雇用主を脅したのだ。

 簡単に言えば、紅葉は、僕の妹は世界よりも、女子高生の間で人気沸騰中のアイドル一之瀬 尊のライブを優先させた。

 魔法少女は閑散とした店のアルバイトのように相談すればシフトが変えられるほど甘くはない。なにせ変わってくれる人がいないのだ。完全なオンリーワンである。
 悪の集団なんて幹部が5人もいて、ローテンション組まれているし、ぶっちゃけ襲撃もあっちの都合で行われるという自由さ。それに対して、正義の味方の方は完全にいつ呼ばれるのかわからないのだ。

 授業の単位は国が何とかごまかすとして、ドラマは国家権力を利用してCMカット版を事前に入手できるとして、食事と睡眠が中断させられた時にはその苛立ちを悪の幹部だの下っ端だのにぶつければどうにでもなる。
 だが一之瀬君のライブはそうはいかないのだと紅葉は熱弁した結果、『魔法適正』とやらが妹の次にある双子の兄の僕に白羽の矢が立った。

 妹が魔法少女なんてやる前は魔法なんてファンタジーでしょ?と思っていた僕としては「期間限定とはいえ、魔法使えますよ!」と言われれば心はほんの少しだけは揺らぐ。
 妹の能力を羨ましいと思ったこともある。
 だが、高校生にもなってあの服は恥ずかしいと速攻断った。

 ――けれどそれは聞き入れられなかった。
 紅葉が国のお偉いさんを脅した次は、お偉いさんは僕に泣きついてきたのだ。

「楓君、君も明日世界がなくなったら悲しいよね? なんでもあげるからお願い、世界を救ってぇ~」

 ハッキリ言って50過ぎたおじさんに泣きつかれると良心は痛む。だが、あの服は着たくない。

 ――ということで、顔は晒さないことと僕専用の服を作ること、後最新のゲームはなんでも買ってくれることで話はついた。
 別にゲームだけじゃなくてなんでも買ってあげるからね!と言われたことで承諾したわけじゃない。
 本当だ! 信じてくれ!

 まぁ何はともあれ、紅葉が休む週末は僕が魔法少女の役を受け持つことになったのだが、僕はそれから数日後、非常に後悔することとなる。

 顔は今の時代、個人情報は大事だからと妹の時にも魔法少女補正?みたいな名前の国の最新技術を駆使して作った、顔が人の頭ではハッキリと覚えられないようになっている機械を使ってどうにかしたらしい。
 それはいい。

 問題は服の方だ。
 用意されたのは紅葉のものとさほど変わらないワンピース。

「さすがに楓君が男の子だからって基本の形は変えられないよ!」

 そう言われた時には絶望した。
 なんでこんな仕事、引き受けたんだろう?って。
 それでもその後すぐに悪の集団が、子どもから大人まで夢と希望を提供してくれることで有名なレジャー施設を襲ったと聞かされ、その服でしか魔法が使えないからと言われればそうするしかなかった。

 今もその判断は間違っていたなんて思わない。
 従姉妹家族がその日、あの場所に行っていなければ少しは駄々をこねたかもしれないが……。

 まぁともかく、そんな感じで初出動を迎えた僕だったのだが…………悪の組織が僕が想像していたのと全く違う活動をしていることに頭を抱える日々だ。



「楓君、出動命令だよ」
「……今日はどこですか?」
「今日はプールだね。くっそ、あいつら楓君の分の水着が今日やっと完成したことをどこから知ったんだか」
「あの、山田さん。水着って何ですか?」
「ん? 防水式の服だと思ってくれればいいから!」

 そう言われて出動した僕が馬鹿だった。
 これはずっと僕の希望だったパンツをやっと付けてくれたことを喜べばいいのか、それともビキニタイプであることに文句を言えばいいのか……。

 マイクから聞こえてくるのは「やっぱり似合う」だの「ワンピースタイプの方がよかった」だの「もう何着か作ろう」だの、国の機関だとは思えない会話ばかりである。
 ……だがそれでも今から顔を合わせる悪の組織の幹部連中に比べたら全然マシなのだ。


「来たな、フロウ」
「あなたたちがこうして攻めてきた以上は出動せざるを得ませんから……」
「ふっ、そう言って平日は代打を立てているじゃないか! 気付かれないとでも思ったか! 一瞬でも騙されそうになった私達が可哀想だとは思わないのか!」
「そんなこと言ったら毎回あなたたちに休日を潰される僕の方が可哀想ですからね!?」

 悪の組織は妹に買収でもされたのか、なぜか休日ばかりを狙って襲撃するようになった。
 それも休日がなくなってしまった僕への嫌がらせかと思うほどにレジャー施設ばかりを、だ。

 真夏日が続くからか知らないが、最近は海やプールに出没してはクラーケンやよくわからない触手まがいのもので水の中へと引きずりこんでは、僕をあげたり下げたりしたり、スカートの中を覗いてみたりして遊んでいる。

 ほんと、こいつら世界滅ぼす気あるのかとそろそろツッコみたくなる。

「……ってちょっとやめてください。いれないで! っもう……」

 最近の彼らは魔法少女を倒すことよりも無力化させることに力を注いでいるのか、全員で配下のモンスターを使って、人によっては僕の服の中に直接手を突っ込んで服を脱がしにかかる始末だ。
 その手に容赦なく魔法をぶっ放しては彼らがなぜかいい顔で撤退していくまでをしのぐのが僕の魔法少女としての役目である。

 今日も今日とて「また来週会おう!」と戦隊ヒーローのごとく去っていった悪の幹部連中の背中に最大級の魔法をかました。


 ――まさかその後に最大の悪が迫っていることも知らずに。

 それは水着で戦わされた僕の機嫌を取るために、お偉いさんが用意してくれた優待券で高級銭湯を体験した帰りのことだった。

 男湯なのにシルクのジェットバスがあったり、ミストサウナがあったり、後なんでかは知らないけど行くとこ行くとこでお客さんが居なくなったり……まぁとりあえずは銭湯を満喫した。それこそまぁ水着の一着ぐらいは水に流してやろうと思うくらい上機嫌だったのに……やつは、悪の根源は現れた。

「悠山 楓君……いや魔法少女フロウと言った方がいいかな?」
「お、お前は……」

 なぜか僕の名前を知っておきながらあえて魔法少女と言い直すこのイケメンは、悪の組織のトップ……なんだけど。

「……名前、なんだっけ?」
 幹部連中の人数多すぎて忘れた。というかこいつにはまだ1回しか会ってないし、事前に情報とか聞かされないで会った時に名乗られただけだから忘れた僕はきっと何も悪くない。うん、そう。忘れられたくなかったら名刺でも用意してくるべきなのだ。

「そうツレナイ態度をとるでない。我が名はホーク。お前の夫となる男だと言っただろう?」
「あー、そんなこと言ってた気がしなくもない……」

 もうそんなことは幹部連中に一通り告げられていて、この組織頭大丈夫かと心配したのは魔法少女を初めてすぐに思ったことだ。
 だが、男だと分かっていてわざわざもう一度告げてくるあたりは、一番上が一番頭が湧いているのかもしれない。

「今日は約束を果たそうと思ってな」
「は?」
 約束ってなんだよ。んなもんした覚えはないと首をひねって過去の記憶を掘り起こしていると不意に目の前が真っ白くなった。



「っふ…………んぁん…………っ」
 目が覚めると同時に身体に快感が植え付けられる。いや、攻め立てられる快感で目が覚めた、といった方が正しいかもしれない。
 それから逃げようと必死であがくも、魔法少女の服を身にまとっていない僕はただの人間。つまりは無力な一般市民である。
 例え目の前になんかよくわからないドロドロの液体で汚れた自分の腹部があっても、身体の様々な部分に、特に下半身に違和感を感じても、それをどうにかする術なんて持たないのである。


「ホーク、やめ……って……」
 唯一できるのは、僕に違和感と同等の快楽を与え続けているその男に縋ることだけなのだ。

「可愛いフロウ。我が妻よ。この腹に元気な我が子を孕むといい」
 だがその男は男である僕の腹をつうっと指先で撫でては愛おしそうに微笑むだけで、僕の言葉なんて聞いちゃくれないが。

「っふ……んぅ」
 顔の作りは立派なこの男は舌使いも立派なもので、絡み合う唾液には何か怪しい成分でも含まれているんじゃないかってくらい、次第に頭の回転が遅くなるのを感じた。


 この時の僕はそれこそもうこのままこの男の子どもを孕んでもいいんじゃないかと思うほどには頭がやられてきていた。
 今になって思えば、男が子どもを孕むはずがないのだ。……普通なら。

 もう大体お分かりかと思うが、僕の身体はすでにこの時子どもを孕めるように作り替えられていたのだ。



 お陰であれから数カ月が経過した今、僕はその男の妻となり、僕の腕には男との子どもが抱かれている。

 それから我が妻の故郷を滅ぼすことはしないと悪の組織は長年続けていた地球滅亡計画に終止符を打った。結果、地球には平和が訪れたのだった。


 ……全ては魔法少女代打の僕の犠牲があってこそである。


「ホーク、やったね!」
「紅葉よ、恩に着るぞ」
「これくらい気にしないで、家族でしょ!」

 その裏で魔法少女である妹と悪の組織のトップである夫の取引があったことは限られた人間しか知らないのだろう。……妹に売られていたなんて出来れば僕も知りたくはなかった。
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