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3巻
3-2
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「ありがとうございます。アルザさんもお稽古とかでお忙しいはずなのに」
「たまには稽古から離れないと、稽古自体が嫌になってしまうからね。それにこういった下準備も楽しいよ。可愛い後輩達とも話ができたし」
傀儡術の才能がある彼女は、幼い頃にその才能を恐れた親に捨てられ、この孤児院の世話になっていたらしい。その際聖騎士のルゼに多大な恩を受けたそうで、ルゼに憧れて聖騎士になろうとしたこともあったと聞いている。が、武術の才がなかったため断念し、代わりに格好いい女になるために役者を目指したのだとか。
「ここ、通れるように隙間を空けておいたから、動き回るのには困らないと思うけど」
そう言ってアルザはテーブルとテーブルの隙間を示す。
「とても助かります。本当なら私が何度か通って、そういった配置も考えるべきでしたのに」
「仕方がないよ。小娘達の面倒事に巻き込まれて、大変だったんだから」
「大変だったのはゼノンさんやナジカさんです。私は薬を飲んで、聞かれたことに答えていただけですから」
エルファは先月、ある闇族の少女に連れ回されて、大変な目にあった。その少女は、魔物の国のマフィアを束ねている男の娘で、ナジカやゼノンを含む数人の傀儡術師達は子供時代、そのマフィアのボスに買い集められて犯罪者予備軍にされていたらしい。そこを聖女エリネに保護されて、この慈善院に入ったのだそうだ。娘の方も、その頃から何かと悪さを重ねているので、ナジカ達は怒りを込めて、彼女達一派を『小娘達』と呼んでいる。
「でもまさか、ちょっと連れ回されただけで、ここまで大事になるとは思っていませんでした」
「だから連れ回されたんじゃなくて、誘拐されたんだって。洗脳もされかけたんだから、少しは怯えたり嫌悪したりしようよ」
ナジカが呆れたように口を挟んできた。
「あの下剤作用のある解呪薬を飲む羽目になったことについては、さすがに恨んでますよ」
『小娘達』を率いる小娘――マゼリルは、傀儡術の中でも特に恐ろしい〝洗脳〟の力を持っている。ちょっと好きになる、嫌いになる程度に人の心を操る傀儡術師ならたまにいるそうだが、完全に洗脳し、人を思い通りに動かすような傀儡術師は、マゼリルぐらいらしい。
エルファは洗脳こそされなかったが、軽くマゼリルの力の影響を受けてしまった。影響と言っても少しばかり気持ちが素直になる、という程度のものだったが、それでも下剤作用のある解呪薬を飲んで、しばらく養生しなければならなくなった。快復した後もまた狙われるかもしれないからと一人での外出を周りに禁じられ、そのせいで今回のお茶会についての打ち合わせもできなかった。だからゼノンがこちらに来て代わりに打ち合わせをし、お菓子以外に必要な道具類も先に運んでくれたのだ。彼の協力には感謝の極みだ。
「さぁて、お客様をお迎えする時間だから、あんた達は食堂に行って、いただいたお菓子を食べてな」
マグリアがそう言って子供達を促す。
「えー、あたしも薬草魔女のお話、聞きたい」
「このませガキ。あとでウルバさんに聞けばいいでしょ」
一部の子供達はお茶会に興味津々らしく、頬を膨らませてマグリアを睨み上げている。エルファはその様子を微笑ましく眺めながら言った。
「少人数ならいいと思いますよ。今回のお茶会には、こちらの子供達に慣れてもらうという意味もありますし、大人しく話を聞ける子なら」
「そうかい?」
「もちろん、皆様に伺ってみないことには分かりませんが」
「それなら、まあ……あんた達、平等に選ぶからね! ただし聞き分けのない子は抜きだよ!」
マグリアは騒がしい子供達を追い立てるようにして神殿の外に出ていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
今日のお茶会の会場としてナジカ達からこの施設を薦められた理由は、たった一つだ。
ここに根強く残る悪い噂を少しでも払拭するためである。
この施設にいる傀儡術師の子供達が、人を操る邪悪な力を持っているという偏見に満ちた噂。まったくの事実無根であるのだが、物語などでそういった傀儡術師の悪役がよく出てくるので、世間の認識はなかなか変わらないらしい。
同じ傀儡術師であるルゼが聖騎士として活躍しているため、この国ではそういった偏見も薄れてきているものの、それでも実際に自分の近くの、しかもこんな元訳有り物件に住んでいるとなれば、心から受け入れるのは難しいだろう。
エルファは、そんな場所でのお茶会に来てくれた人々を見回した。若い人からお年寄りまでと年齢は様々だが、いずれも女性ばかりだ。男性は、女性の多い集まりにはあまり参加しないという慣習がこの国にはあるらしい。
「お手伝いとして小さな子がいてもよろしいでしょうか、皆様」
ゼノンと一緒にお茶の準備をしてくれる子供達を横目で見ながら尋ねる。ウルバと赤ん坊連れのマグリアは不安げに、ナジカはお菓子を食べられる瞬間を心待ちにした様子で仕切り布の前で見守っている。
エルファは偏見が強い人がいないことを祈りつつ、一人一人の顔色を窺う。すると一人のおばあさんが前に出て、穏やかな笑みを浮かべた。
「孤児院に来て、子供が嫌だなんて無茶苦茶なことを言う人なんておりませんよ」
「ええ、そうですね」
別の若い女性も頷いた。彼女は少し膨らんだお腹を撫でている。
「あら、お子さんがいらっしゃるんですね」
「はい。生まれるのはまだまだ先ですが、それに備えて薬草魔女のお話を聞きたかったんです。レストランの方はいつも満席だから、行く機会がなくて」
「そうでしたか。私もようやく今の環境に慣れてきたので、こういった機会を増やしていきたいと思っています。さあ、皆さん、座ってください」
エルファが勧めると、招待客は席に着いた。各テーブルにはクロスを敷いて素敵なティーセットを置き、花瓶や小物などを飾っている。花以外はエルファが用意して事前にゼノンに届けてもらったものだ。花はこの施設の庭に咲いたものをマグリアが提供してくれた。
「あら、綺麗な花。見たことないわ。なんていう花かしら」
花が好きなのか、一人の中年の女性が目を輝かせた。するとマグリアが説明してくれる。
「ごめんなさい。テルゼさん……知人にいただいたもので、名前はちょっと。よろしければ種が取れたらお分けしましょうか。名前も、今度彼に会った時に聞いておきます」
「まあ、嬉しいわ。私、お花が大好きなの。ありがとう」
マグリアの提案に、何人かが顔をほころばせた。どうやら園芸を趣味とする人達らしい。
テルゼとは魔族の青年だ。魔族を含め魔物達は地下の国に住んでいるから、もしかしたら地下の花なのかもしれない。そんなことを考えながらエルファはお茶の準備をする。
だが、ふと声をかけてきた女性の言葉を聞いて、頬を引きつらせた。
「そういえばエルファさん、あなた、魔族に間違えられて誘拐されたそうじゃない。大変だったわねぇ。あなたも攫われた魔物達も無事にルゼ様に助けていただけてよかったわね」
エルファが誘拐され、それがきっかけでルゼ達が違法である魔物売買の組織をつぶすに至った、という話は相当に広まっているようで、最近は会う人会う人にこの話題を持ちかけられる。しかも『マゼリル達に興味を持たれて誘拐された』ではなく、『魔力が強いせいで魔族のラスルシャと間違えられて誘拐された』という話になっているらしい。
ルゼ達によると、この件はマゼリル達のことを含め世間にあまり情報公開していないので、そんな風に誤解されていた方が都合がいいのだそうだ。だから否定しないようにとも言われたが、あんな美女と間違えられたと思われるのは、少し複雑な心境だ。
「緑鎖の皆様と、ギルネスト殿下のおかげです」
「ルゼ様に助けに来ていただけるなんて、それだけは少し羨ましいわぁ」
皆、興味津々といった顔だった。あの時は大変だったが、それで客の興味が惹けるなら、エルファの苦労も報われるというものだ。
「その女の子が、ルゼ様が救った妖族ね。今はフレーメで働いてるんですって? なんて可愛らしいのかしら」
救われた妖族は別の子だが、ややこしくなるので曖昧に頷いておく。
「リズリーちゃんもお手伝いに来ているなんて思わなかったわ。人間の街には慣れた?」
「はい。フレーメの皆も、お客様もとても親切にしてくださるので、だいぶ慣れました」
どうやら今日は、ティールームの方に通っている人も来てくれたようだ。リズリーがお客様と話す間、エルファはマグリアとウルバに手伝ってもらいながら各席にお茶を出す。リズリーには、ああやってお話をするのも大切な経験だ。人間に慣れることができるし、接客の練習にもなる。
「今お配りしたのは、冬からラフーアとフレーメで出す新商品です。ジンジャーなど身体が温まる効果を持つハーブと、カモミールなど美容と健康にいいハーブをブレンドしています。健康と美容に、冷えは大敵です。冷え性で悩む方にもぴったりですよ。妊娠していても安心して飲めますので、ご笑味ください」
その他、生地に薬酒を練り込んでいるマフィンと、店で普段出しているビスケット。足りなければ他のお菓子も用意してある。一つ一つ説明をしながら、エルファは各席を見て回った。
薬草魔女のお茶会は、常連のお客ばかりなら会話を楽しむだけで終わることもあるが、今回のように初めての人が多ければ、健康についての質問が多くなるのが常だ。だが、今日は先日の誘拐事件のせいで、いつもとは少し違う様相を見せていた。
「あなたを助けに来たルゼ様は、さぞ素敵だったんでしょうねぇ」
「ドレス姿でしたよ。でも、慣れたご様子で、スカートに足を絡めたりせず、走り回っていらっしゃいました」
「まあ、潜入捜査というやつかしら」
「女装なさっていても、きっと素敵ね」
女装という表現が少し引っかかったものの、エルファは女性達の熱狂ぶりに驚く。ルゼという女聖騎士が人気なのは知っていたが、ここまでファンの年齢層が広いとは思ってもみなかった。てっきり若い女の子が年の近い女性の活躍に憧れているのだと思いきや、マダム達からも絶大な人気を誇っているらしい。その様子を見て、アルザは苦笑しながら立ち上がる。
「マダム、ルゼ様の話題もいいけれど、何かお身体の悩みはないのですか? 私は最近、月の物が来る前の肌荒れと湿疹がひどくて、悩んでいるんですよ」
アルザは、部屋の隅にいる男性達に聞こえない程度に声を潜めて言った。
「アルザ様のようにお美しい方でも、肌が荒れるのですか」
「ええ。ひどいと顔が真っ赤になって白粉を厚塗りしなければならない。困ったものです」
女性の憧れの的である舞台女優の悩みに共感を覚えたのか、皆は大きく頷いた。
「そういえば私は最近、膝が痛くてねぇ。医者に行くほどの痛みじゃないけど、困っててねぇ」
一番年長の老婦人が、頬に手を当てて言う。
「そうそう、私も腰が……」
うんうんと、年配の女性達が頷いた。エルファはアルザの助け船に感謝しながら、
「それでしたら」
と言って、持ってきた薬草と薬瓶の入った籠を開ける。そしてその中から目当てのものを取り出すと、一部をゼノンに渡し、煮出して火傷しない程度に冷まして持ってきてくれるようお願いした。
「〝あの日〟絡みの肌荒れは、体質なので劇的に改善ということはありません。ただしっかりと周期を記録して、肌が荒れ始める前に脂っこいものや刺激物を避ければ、多少は改善されます。一番いいのは、肌を清潔にしてちゃんと保湿することです。これは肌荒れ防止の基本ですね。ですが、ただの乾燥と違って、クリームなどを塗りすぎると悪化するので注意が必要です」
エルファはブレンドした乾燥ハーブを熱湯に入れる。
「脂っこいもの、お肉はやはり身体によくないのかしら?」
何か思い当たることがあるのか、一人の女性が問いかける。
「そうですね、お肉そのものというより、脂の多い部位を避けた方がいいですね」
「やっぱりそうよね」
エルファの返事に女性は大きく頷いた。
「野菜と魚はいいですよ。お肉でも、脂の少ない部位なら大丈夫です。あと甘いものも控えた方がいいですね」
説明しながら、エルファは用意したティーカップをアルザに差し出した。
「ハーブは煮出したお湯の湯気を浴びるだけでも効果があります。お風呂に入れるといいとよく言われますが、顔だけならティーカップでも十分。お化粧の上からでもいいですが、できれば肌を綺麗にしてから湯気を浴びて、最後は飲んでしまいましょう」
「この香りは何のハーブ?」
「一番香っているのはアンゼリカです。香り付けにも使われるので、皆さまも嗅いだことがあるかもしれません。婦人病にも効果があり、炎症を抑えるので、アルザさんがおっしゃっていたような荒れ方には向いているハーブです。その他ローズマリー、カモミールなど、美肌によいとされる基本的なハーブをブレンドしています」
アルザは香りを嗅ぎ、言われた通りに顔に湯気を当てる。
「香りが好きだからよくこうしてるけど、肌にもよかったんだねぇ」
「ええ。そもそも適度に蒸気を当てることは肌にいいですからね」
肌が乾燥する憂鬱な季節になってきたので、こういった日々の習慣は大切だ。
「乾燥以外で起こる肌荒れの時に肌を弄りすぎると、逆効果になることが多いです。だからアルザさんも舞台に立っていない時は、できるだけ顔に余計なものをつけずに過ごすのがいいでしょうね。こうして蒸気を当てて、乾燥を防ぐ程度にクリームなどを塗ると改善される方が多いです」
すると、今まで様子を見ていた女性が言った。
「まあ、これでいいんですか。てっきりもっと臭いのきついものを飲めと言われるのかと」
薬草魔女というと、臭くてどろどろした苦そうな薬を出す、と思う人が多いのだ。
「そういうお茶もありますよ。フレーメで虫除けに使用しているニームという植物は非常に苦いのですが、我慢して飲み続ければとても美容にいいそうです。私も自分で試したことはないので持ち合わせがないのですが、興味があれば譲ってもらえるよう、うちの農場の者に頼んでみます。実際飲んでいる人もいますから、創意工夫で我慢できるぐらいの苦みにはなるようですし」
フレーメではハーブティーの一部を自社生産しており、その農場ではニームを虫除けとして使用していた。あれを口にするという発想は、あそこの人々にはないだろう。それほど苦いのだ。
するとアルザが少し考えながら言った。
「うーん。たまには皆に会いたいし、自分で行って頼んでみようかな。ゼノンも農場には最近行ってないんでしょ?」
ちょうどハーブを煮出したお湯を持って現れたゼノンに視線を向ける。すると、女性達の視線もゼノンに集まった。ゼノンは首を傾げる。
「え? 何? これが必要? ちょっと待って」
どうやら話を聞いていなかったらしい。農場について詳しいことは、後でアルザが話すだろう。エルファはお礼だけ言って彼が差し出す桶を受け取る。
「次は関節痛ですね。先ほども説明したアンゼリカは抗炎症作用があり、関節痛の薬でもあります。ですので、このようにガーゼに浸透させて、熱いうちに湿布します」
エルファは湯にガーゼを浸してから絞り、膝の痛みに悩んでいるという老婦人の患部に直接当てた。男性二人は女性が足を出しているということで、遠慮してナジカがいる隅っこの方に移動し、さらに背を向けてくれている。
「熱すぎたりはしませんか? 熱い方がいいんですが、火傷しては意味がないので」
「熱いけど、火傷するほどではないわねぇ」
「では、熱が逃げないように蓋をしますね」
と、上から乾いた布を巻く。
「熱いけど、気持ちがいいわ」
「腰にも同じ要領でできます。急性の痛みは冷やすのが鉄則ですが、慢性の場合はこのように温めるんです。さらに効果を求めるならパップ剤にしてもいいですね。作り方は簡単ですよ。生のハーブならそのまますりつぶし、乾燥したものなら粉末状にしてから水やオイルでのばして塗ります」
パップ剤作りは後始末が大変なので、こういうところではあまりやらない。
「嫁ぐ前、田舎の祖母がやっていたのをよく見たわぁ。懐かしいわねぇ」
と、老婦人はころころと笑った。笑顔が可愛らしい、品のある女性だ。
「田舎だとそこらに野生のハーブが生えているから、おばあちゃんの知恵袋的な民間療法が医療として行われていたりしますからね。薬草魔女はそういった民間療法も繰り返し検証し、効果があると判断したものを幅広く取り入れています」
「そうなのね。祖母のはこんなにいい匂いじゃなかったから、教えてあげたかったわ」
「薬効を追求していくとこういった湿布も臭くなったりするので、薬草魔女も自分の好みに合わせて選んでいますね。私は料理主体の薬草魔女なので、自然と香りの良さも考えてしまいますが」
薬効があっても鼻をつまみたくなる料理は人を選ぶし、自分も嫌なので滅多に作らないのだ。
「エルファ、準備できたって」
部屋の隅にいたナジカが声をかけてきた。
エルファはティーポットを置いた作業テーブルに近づき、右から順に説明していく。
「三つのティーポット、それぞれに薬効の違うハーブティーが入っています。特別なものではなくて、フレーメで販売しているお茶です」
リズリーや手伝ってくれた孤児院の女の子二人も、興味津々に自分達が用意したものを見つめていた。
「これが一般的な肌の悩みに効果的な『乙女の歓喜』です。ちなみに名付け親はゼノンさんです」
自分の名前が出たとたん、ゼノンはすいっと視線を逸らした。名付けとは、付けた時には満足していても、いざこのように発表されると恥ずかしくなるものだ。
「こちらが『魔女の祝福』。フレーメのお客様の要望で作った、身体の痛みに悩む方向けのお茶です。名前はお客様に付けていただきました。先ほどのように湿布にも利用できます」
そして最後のティーポットを指し示す。
「これがアルザさんにおすすめの、『乙女の祈り』という商品です。これもまたゼノンさんが名付けました。名付けとは難しいもので、使いやすい言葉を付けているうちに続々と似たような名前の〝乙女シリーズ〟が誕生してしまい、私も覚えるのが大変です。が、名前の響きが気に入ってまとめてお買い求めになるお客様もいらっしゃるので、とても好評のようですね」
「それは皮肉な話だねぇ」
と、アルザはゼノンを見た。
「お、俺に名付けをさせるのが悪いんだよ」
「受けたなら別にいいんじゃない? 従業員の名前を付けていくよりはいいと思うけど」
くすりと笑うアルザはとても色っぽかった。以前、商品の名付けに悩んだカルパがヤケクソで従業員の名を片っ端から付けていこうとして、反対多数で却下されたらしい。
エルファは話の最中にもお茶を配っていく。ハーブの説明も大切だが、店の宣伝も大切なのだ。エルファが考案した商品がたくさん売れれば、エルファの給金も上がるのだから。
お金の使い道は山のようにある。薬効の高い希少な植物は目が飛び出るほど高価だったりするので、諦めてしまうことが多かったのだ。
だからこの催しだって当然有料だ。駆け出し薬草魔女のお茶会なので、もちろん高くはない。ちょっとした席料と飲食代だ。赤字になるような安売りはしないが、〝実りの聖女の子孫〟という無駄に高い評判を利用してぼったくることもしない。ちょうどいい匙加減というものがあるのだ。
それに、健康にいいからと薬を高く売りつけるなどという、詐欺のようなことがあってはならない。薬草魔女の教えが宗教のようになってもいけない。参加者に自分で考えさせるのも大切なことだ。お茶会を開く時、エルファはいつもそれを心がけている。
「そういえば、アルザ様とゼノンさんはいつ頃ご結婚なさるの? 付き合ってもう長いでしょう?」
女性の一人が、突然思わぬことを尋ねた。極秘にしているわけではないので知っていても不思議ではないのだが、それにしたってよく知っているような口ぶりだ。
「あら、そうなの?」
「幼馴染みなんでしょう?」
「幼馴染み同士の恋だなんて、素敵ねぇ」
ご婦人方が若い二人の恋について話し出すと、ゼノンの頬が引きつった。アルザは彼をちらりと見て、不服そうに唇を尖らせる。
「え、えっと……」
アルザの態度の意味を読んだのか、ナジカがゼノンの肩を叩いた。
「そろそろいいんじゃないのか? あんまり待たせるのもどうかと思うぞ」
するとゼノンは視線を泳がせた。
「でもその……結婚とかまだ……そもそも今だって正式に付き合っているわけでは」
「えっ!?」
ナジカは驚いたような声をあげた。
「確かに、付き合おうと言われたことはないけど……」
アルザが横目でじとっとゼノンを見ながら言った。ナジカも呆れた顔で言う。
「人気絶頂のアルザに迷惑かけるのが嫌なのは分かるけどさ、さすがにそれは失礼だから、ちゃんとした方がいいぞ。何のためにその若さで店任せてもらったんだよ。ゼノンの努力と実力もあるけどさ、事情を察して取り計らってくれたカルパさんにも失礼だろうが」
「う、うん」
ナジカが鼻先に指を突きつけると、ゼノンは小さく頷いた。ナジカがはっきりした性格なのに対して、ゼノンはずいぶんと穏やかな性格だ。そして慎重でもある。緊急時には即断即決できるが、そうでない時はこのようにはっきりしない態度を取ってしまうのだ。
アルザは腕を組み、じっとゼノンを見つめた。
人目を引く華やかな美女と、少し抜けた雰囲気のある、おっとりとした青年。
見つめ合う二人を、人々は固唾を呑んで見守る。
「ア、アルザ、あの……」
「なに?」
「迷惑でなければ……そろそろ、正式に付き合う?」
それを聞いてアルザはため息をついた。
「なんでそこで疑問形?」
「ご、ごめん」
「いいけど。何でもできて、ルゼ様に料理人になったことを惜しまれるほど強いのに、そんな性格のままっていうのがゼノンらしさだから」
確かに彼は料理だけでなく、なんでも器用にできる。ここに棚が欲しいと言えば、倉庫の中から板を持ってきてささっと作ってしまったりする。籠を編めば、エルファよりも上手く作ってしまう。傀儡術師としての腕も確かで、カルパと出かける時は護衛を務められるほど腕っ節も強い。普段そんなことを感じさせないのは、彼のこの性格ゆえだ。
「迷惑でもないし、ゼノンがいいなら隠す必要もないって、前から言ってるでしょ」
そう、隠したがっていたのはゼノンだ。彼は自分に自信がない。だから任せられた店が上手くいってから、という予定だったらしい。そして現在、店は上手くいっている。カルパへの世間の信頼、この国では珍しい薬草魔女のレシピ、そして若いが腕の確かな料理長のゼノン。それらの要因が揃ったおかげで店は繁盛し、それにつられるようにして本業である茶問屋の業績も上がっている。友人達からすれば、そろそろと思うのも当然だった。
「迷惑だと思うなら、友達付き合いもやめてるよ」
「そうだね。ありがとう」
アルザがきっぱり言い放つと、彼は素直に礼を言う。するとアルザはまたため息をつく。
「あのね。私の邪魔になるとか思ってるみたいだけど、私の夢はとっくに叶ってるの。最初の頃とは違う形だけど、誰もがルゼ様みたいだと言ってくれるようになったわ。これで満足しているの。本当よ」
アルザはゼノンを見上げる。しかしゼノンはその言葉を鵜呑みにはしていないようだった。
役者のような人気商売は、結婚をきっかけに周囲の態度が変わることもある。アルザが人気女優になるに至った役は、昔の実りの聖女に仕えた女兵僧――つまりルゼに似た、強く美しい女性だ。当然ファンはほぼ女性である。女性というのは、有名人の交際相手を見る目が厳しい。見劣りすると思えば、多かれ少なかれ叩いてくるのは容易に想像できた。二人の認識の溝は、とても深い。エルファは尋ねる。
「アルザさんは、その夢が叶った時点で満足されていたんですか?」
「ええ。やりたかった役をやらせてもらえて嬉しかったわ。あの役がやりたくて役者になったんだもの。それももう二年近く続けられたしね。そろそろ交代してもおかしくないでしょう? 劇団にいる以上、役はいつか後輩に譲るものだもの。その時は難しい脇役とか、裏方もやってみたいわ」
夢が叶って、次の目標もある。しかもそれは現実的だ。
「まあ、アルザ様は歴代のイーズ役の中で最もルゼ様に近いと評判でしたのに、その後任なんて務まる子がいるんでしょうか?」
女性の一人が心配そうに言う。
「その評判が災いして、私もなかなか違う役ができず悩んでいるんですよ」
彼女の後釜は、よほどの役者でなければ見劣りすると言われてしまうようだ。舞台上の彼女はとても魅力的だったので無理もない。
「たまには稽古から離れないと、稽古自体が嫌になってしまうからね。それにこういった下準備も楽しいよ。可愛い後輩達とも話ができたし」
傀儡術の才能がある彼女は、幼い頃にその才能を恐れた親に捨てられ、この孤児院の世話になっていたらしい。その際聖騎士のルゼに多大な恩を受けたそうで、ルゼに憧れて聖騎士になろうとしたこともあったと聞いている。が、武術の才がなかったため断念し、代わりに格好いい女になるために役者を目指したのだとか。
「ここ、通れるように隙間を空けておいたから、動き回るのには困らないと思うけど」
そう言ってアルザはテーブルとテーブルの隙間を示す。
「とても助かります。本当なら私が何度か通って、そういった配置も考えるべきでしたのに」
「仕方がないよ。小娘達の面倒事に巻き込まれて、大変だったんだから」
「大変だったのはゼノンさんやナジカさんです。私は薬を飲んで、聞かれたことに答えていただけですから」
エルファは先月、ある闇族の少女に連れ回されて、大変な目にあった。その少女は、魔物の国のマフィアを束ねている男の娘で、ナジカやゼノンを含む数人の傀儡術師達は子供時代、そのマフィアのボスに買い集められて犯罪者予備軍にされていたらしい。そこを聖女エリネに保護されて、この慈善院に入ったのだそうだ。娘の方も、その頃から何かと悪さを重ねているので、ナジカ達は怒りを込めて、彼女達一派を『小娘達』と呼んでいる。
「でもまさか、ちょっと連れ回されただけで、ここまで大事になるとは思っていませんでした」
「だから連れ回されたんじゃなくて、誘拐されたんだって。洗脳もされかけたんだから、少しは怯えたり嫌悪したりしようよ」
ナジカが呆れたように口を挟んできた。
「あの下剤作用のある解呪薬を飲む羽目になったことについては、さすがに恨んでますよ」
『小娘達』を率いる小娘――マゼリルは、傀儡術の中でも特に恐ろしい〝洗脳〟の力を持っている。ちょっと好きになる、嫌いになる程度に人の心を操る傀儡術師ならたまにいるそうだが、完全に洗脳し、人を思い通りに動かすような傀儡術師は、マゼリルぐらいらしい。
エルファは洗脳こそされなかったが、軽くマゼリルの力の影響を受けてしまった。影響と言っても少しばかり気持ちが素直になる、という程度のものだったが、それでも下剤作用のある解呪薬を飲んで、しばらく養生しなければならなくなった。快復した後もまた狙われるかもしれないからと一人での外出を周りに禁じられ、そのせいで今回のお茶会についての打ち合わせもできなかった。だからゼノンがこちらに来て代わりに打ち合わせをし、お菓子以外に必要な道具類も先に運んでくれたのだ。彼の協力には感謝の極みだ。
「さぁて、お客様をお迎えする時間だから、あんた達は食堂に行って、いただいたお菓子を食べてな」
マグリアがそう言って子供達を促す。
「えー、あたしも薬草魔女のお話、聞きたい」
「このませガキ。あとでウルバさんに聞けばいいでしょ」
一部の子供達はお茶会に興味津々らしく、頬を膨らませてマグリアを睨み上げている。エルファはその様子を微笑ましく眺めながら言った。
「少人数ならいいと思いますよ。今回のお茶会には、こちらの子供達に慣れてもらうという意味もありますし、大人しく話を聞ける子なら」
「そうかい?」
「もちろん、皆様に伺ってみないことには分かりませんが」
「それなら、まあ……あんた達、平等に選ぶからね! ただし聞き分けのない子は抜きだよ!」
マグリアは騒がしい子供達を追い立てるようにして神殿の外に出ていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
今日のお茶会の会場としてナジカ達からこの施設を薦められた理由は、たった一つだ。
ここに根強く残る悪い噂を少しでも払拭するためである。
この施設にいる傀儡術師の子供達が、人を操る邪悪な力を持っているという偏見に満ちた噂。まったくの事実無根であるのだが、物語などでそういった傀儡術師の悪役がよく出てくるので、世間の認識はなかなか変わらないらしい。
同じ傀儡術師であるルゼが聖騎士として活躍しているため、この国ではそういった偏見も薄れてきているものの、それでも実際に自分の近くの、しかもこんな元訳有り物件に住んでいるとなれば、心から受け入れるのは難しいだろう。
エルファは、そんな場所でのお茶会に来てくれた人々を見回した。若い人からお年寄りまでと年齢は様々だが、いずれも女性ばかりだ。男性は、女性の多い集まりにはあまり参加しないという慣習がこの国にはあるらしい。
「お手伝いとして小さな子がいてもよろしいでしょうか、皆様」
ゼノンと一緒にお茶の準備をしてくれる子供達を横目で見ながら尋ねる。ウルバと赤ん坊連れのマグリアは不安げに、ナジカはお菓子を食べられる瞬間を心待ちにした様子で仕切り布の前で見守っている。
エルファは偏見が強い人がいないことを祈りつつ、一人一人の顔色を窺う。すると一人のおばあさんが前に出て、穏やかな笑みを浮かべた。
「孤児院に来て、子供が嫌だなんて無茶苦茶なことを言う人なんておりませんよ」
「ええ、そうですね」
別の若い女性も頷いた。彼女は少し膨らんだお腹を撫でている。
「あら、お子さんがいらっしゃるんですね」
「はい。生まれるのはまだまだ先ですが、それに備えて薬草魔女のお話を聞きたかったんです。レストランの方はいつも満席だから、行く機会がなくて」
「そうでしたか。私もようやく今の環境に慣れてきたので、こういった機会を増やしていきたいと思っています。さあ、皆さん、座ってください」
エルファが勧めると、招待客は席に着いた。各テーブルにはクロスを敷いて素敵なティーセットを置き、花瓶や小物などを飾っている。花以外はエルファが用意して事前にゼノンに届けてもらったものだ。花はこの施設の庭に咲いたものをマグリアが提供してくれた。
「あら、綺麗な花。見たことないわ。なんていう花かしら」
花が好きなのか、一人の中年の女性が目を輝かせた。するとマグリアが説明してくれる。
「ごめんなさい。テルゼさん……知人にいただいたもので、名前はちょっと。よろしければ種が取れたらお分けしましょうか。名前も、今度彼に会った時に聞いておきます」
「まあ、嬉しいわ。私、お花が大好きなの。ありがとう」
マグリアの提案に、何人かが顔をほころばせた。どうやら園芸を趣味とする人達らしい。
テルゼとは魔族の青年だ。魔族を含め魔物達は地下の国に住んでいるから、もしかしたら地下の花なのかもしれない。そんなことを考えながらエルファはお茶の準備をする。
だが、ふと声をかけてきた女性の言葉を聞いて、頬を引きつらせた。
「そういえばエルファさん、あなた、魔族に間違えられて誘拐されたそうじゃない。大変だったわねぇ。あなたも攫われた魔物達も無事にルゼ様に助けていただけてよかったわね」
エルファが誘拐され、それがきっかけでルゼ達が違法である魔物売買の組織をつぶすに至った、という話は相当に広まっているようで、最近は会う人会う人にこの話題を持ちかけられる。しかも『マゼリル達に興味を持たれて誘拐された』ではなく、『魔力が強いせいで魔族のラスルシャと間違えられて誘拐された』という話になっているらしい。
ルゼ達によると、この件はマゼリル達のことを含め世間にあまり情報公開していないので、そんな風に誤解されていた方が都合がいいのだそうだ。だから否定しないようにとも言われたが、あんな美女と間違えられたと思われるのは、少し複雑な心境だ。
「緑鎖の皆様と、ギルネスト殿下のおかげです」
「ルゼ様に助けに来ていただけるなんて、それだけは少し羨ましいわぁ」
皆、興味津々といった顔だった。あの時は大変だったが、それで客の興味が惹けるなら、エルファの苦労も報われるというものだ。
「その女の子が、ルゼ様が救った妖族ね。今はフレーメで働いてるんですって? なんて可愛らしいのかしら」
救われた妖族は別の子だが、ややこしくなるので曖昧に頷いておく。
「リズリーちゃんもお手伝いに来ているなんて思わなかったわ。人間の街には慣れた?」
「はい。フレーメの皆も、お客様もとても親切にしてくださるので、だいぶ慣れました」
どうやら今日は、ティールームの方に通っている人も来てくれたようだ。リズリーがお客様と話す間、エルファはマグリアとウルバに手伝ってもらいながら各席にお茶を出す。リズリーには、ああやってお話をするのも大切な経験だ。人間に慣れることができるし、接客の練習にもなる。
「今お配りしたのは、冬からラフーアとフレーメで出す新商品です。ジンジャーなど身体が温まる効果を持つハーブと、カモミールなど美容と健康にいいハーブをブレンドしています。健康と美容に、冷えは大敵です。冷え性で悩む方にもぴったりですよ。妊娠していても安心して飲めますので、ご笑味ください」
その他、生地に薬酒を練り込んでいるマフィンと、店で普段出しているビスケット。足りなければ他のお菓子も用意してある。一つ一つ説明をしながら、エルファは各席を見て回った。
薬草魔女のお茶会は、常連のお客ばかりなら会話を楽しむだけで終わることもあるが、今回のように初めての人が多ければ、健康についての質問が多くなるのが常だ。だが、今日は先日の誘拐事件のせいで、いつもとは少し違う様相を見せていた。
「あなたを助けに来たルゼ様は、さぞ素敵だったんでしょうねぇ」
「ドレス姿でしたよ。でも、慣れたご様子で、スカートに足を絡めたりせず、走り回っていらっしゃいました」
「まあ、潜入捜査というやつかしら」
「女装なさっていても、きっと素敵ね」
女装という表現が少し引っかかったものの、エルファは女性達の熱狂ぶりに驚く。ルゼという女聖騎士が人気なのは知っていたが、ここまでファンの年齢層が広いとは思ってもみなかった。てっきり若い女の子が年の近い女性の活躍に憧れているのだと思いきや、マダム達からも絶大な人気を誇っているらしい。その様子を見て、アルザは苦笑しながら立ち上がる。
「マダム、ルゼ様の話題もいいけれど、何かお身体の悩みはないのですか? 私は最近、月の物が来る前の肌荒れと湿疹がひどくて、悩んでいるんですよ」
アルザは、部屋の隅にいる男性達に聞こえない程度に声を潜めて言った。
「アルザ様のようにお美しい方でも、肌が荒れるのですか」
「ええ。ひどいと顔が真っ赤になって白粉を厚塗りしなければならない。困ったものです」
女性の憧れの的である舞台女優の悩みに共感を覚えたのか、皆は大きく頷いた。
「そういえば私は最近、膝が痛くてねぇ。医者に行くほどの痛みじゃないけど、困っててねぇ」
一番年長の老婦人が、頬に手を当てて言う。
「そうそう、私も腰が……」
うんうんと、年配の女性達が頷いた。エルファはアルザの助け船に感謝しながら、
「それでしたら」
と言って、持ってきた薬草と薬瓶の入った籠を開ける。そしてその中から目当てのものを取り出すと、一部をゼノンに渡し、煮出して火傷しない程度に冷まして持ってきてくれるようお願いした。
「〝あの日〟絡みの肌荒れは、体質なので劇的に改善ということはありません。ただしっかりと周期を記録して、肌が荒れ始める前に脂っこいものや刺激物を避ければ、多少は改善されます。一番いいのは、肌を清潔にしてちゃんと保湿することです。これは肌荒れ防止の基本ですね。ですが、ただの乾燥と違って、クリームなどを塗りすぎると悪化するので注意が必要です」
エルファはブレンドした乾燥ハーブを熱湯に入れる。
「脂っこいもの、お肉はやはり身体によくないのかしら?」
何か思い当たることがあるのか、一人の女性が問いかける。
「そうですね、お肉そのものというより、脂の多い部位を避けた方がいいですね」
「やっぱりそうよね」
エルファの返事に女性は大きく頷いた。
「野菜と魚はいいですよ。お肉でも、脂の少ない部位なら大丈夫です。あと甘いものも控えた方がいいですね」
説明しながら、エルファは用意したティーカップをアルザに差し出した。
「ハーブは煮出したお湯の湯気を浴びるだけでも効果があります。お風呂に入れるといいとよく言われますが、顔だけならティーカップでも十分。お化粧の上からでもいいですが、できれば肌を綺麗にしてから湯気を浴びて、最後は飲んでしまいましょう」
「この香りは何のハーブ?」
「一番香っているのはアンゼリカです。香り付けにも使われるので、皆さまも嗅いだことがあるかもしれません。婦人病にも効果があり、炎症を抑えるので、アルザさんがおっしゃっていたような荒れ方には向いているハーブです。その他ローズマリー、カモミールなど、美肌によいとされる基本的なハーブをブレンドしています」
アルザは香りを嗅ぎ、言われた通りに顔に湯気を当てる。
「香りが好きだからよくこうしてるけど、肌にもよかったんだねぇ」
「ええ。そもそも適度に蒸気を当てることは肌にいいですからね」
肌が乾燥する憂鬱な季節になってきたので、こういった日々の習慣は大切だ。
「乾燥以外で起こる肌荒れの時に肌を弄りすぎると、逆効果になることが多いです。だからアルザさんも舞台に立っていない時は、できるだけ顔に余計なものをつけずに過ごすのがいいでしょうね。こうして蒸気を当てて、乾燥を防ぐ程度にクリームなどを塗ると改善される方が多いです」
すると、今まで様子を見ていた女性が言った。
「まあ、これでいいんですか。てっきりもっと臭いのきついものを飲めと言われるのかと」
薬草魔女というと、臭くてどろどろした苦そうな薬を出す、と思う人が多いのだ。
「そういうお茶もありますよ。フレーメで虫除けに使用しているニームという植物は非常に苦いのですが、我慢して飲み続ければとても美容にいいそうです。私も自分で試したことはないので持ち合わせがないのですが、興味があれば譲ってもらえるよう、うちの農場の者に頼んでみます。実際飲んでいる人もいますから、創意工夫で我慢できるぐらいの苦みにはなるようですし」
フレーメではハーブティーの一部を自社生産しており、その農場ではニームを虫除けとして使用していた。あれを口にするという発想は、あそこの人々にはないだろう。それほど苦いのだ。
するとアルザが少し考えながら言った。
「うーん。たまには皆に会いたいし、自分で行って頼んでみようかな。ゼノンも農場には最近行ってないんでしょ?」
ちょうどハーブを煮出したお湯を持って現れたゼノンに視線を向ける。すると、女性達の視線もゼノンに集まった。ゼノンは首を傾げる。
「え? 何? これが必要? ちょっと待って」
どうやら話を聞いていなかったらしい。農場について詳しいことは、後でアルザが話すだろう。エルファはお礼だけ言って彼が差し出す桶を受け取る。
「次は関節痛ですね。先ほども説明したアンゼリカは抗炎症作用があり、関節痛の薬でもあります。ですので、このようにガーゼに浸透させて、熱いうちに湿布します」
エルファは湯にガーゼを浸してから絞り、膝の痛みに悩んでいるという老婦人の患部に直接当てた。男性二人は女性が足を出しているということで、遠慮してナジカがいる隅っこの方に移動し、さらに背を向けてくれている。
「熱すぎたりはしませんか? 熱い方がいいんですが、火傷しては意味がないので」
「熱いけど、火傷するほどではないわねぇ」
「では、熱が逃げないように蓋をしますね」
と、上から乾いた布を巻く。
「熱いけど、気持ちがいいわ」
「腰にも同じ要領でできます。急性の痛みは冷やすのが鉄則ですが、慢性の場合はこのように温めるんです。さらに効果を求めるならパップ剤にしてもいいですね。作り方は簡単ですよ。生のハーブならそのまますりつぶし、乾燥したものなら粉末状にしてから水やオイルでのばして塗ります」
パップ剤作りは後始末が大変なので、こういうところではあまりやらない。
「嫁ぐ前、田舎の祖母がやっていたのをよく見たわぁ。懐かしいわねぇ」
と、老婦人はころころと笑った。笑顔が可愛らしい、品のある女性だ。
「田舎だとそこらに野生のハーブが生えているから、おばあちゃんの知恵袋的な民間療法が医療として行われていたりしますからね。薬草魔女はそういった民間療法も繰り返し検証し、効果があると判断したものを幅広く取り入れています」
「そうなのね。祖母のはこんなにいい匂いじゃなかったから、教えてあげたかったわ」
「薬効を追求していくとこういった湿布も臭くなったりするので、薬草魔女も自分の好みに合わせて選んでいますね。私は料理主体の薬草魔女なので、自然と香りの良さも考えてしまいますが」
薬効があっても鼻をつまみたくなる料理は人を選ぶし、自分も嫌なので滅多に作らないのだ。
「エルファ、準備できたって」
部屋の隅にいたナジカが声をかけてきた。
エルファはティーポットを置いた作業テーブルに近づき、右から順に説明していく。
「三つのティーポット、それぞれに薬効の違うハーブティーが入っています。特別なものではなくて、フレーメで販売しているお茶です」
リズリーや手伝ってくれた孤児院の女の子二人も、興味津々に自分達が用意したものを見つめていた。
「これが一般的な肌の悩みに効果的な『乙女の歓喜』です。ちなみに名付け親はゼノンさんです」
自分の名前が出たとたん、ゼノンはすいっと視線を逸らした。名付けとは、付けた時には満足していても、いざこのように発表されると恥ずかしくなるものだ。
「こちらが『魔女の祝福』。フレーメのお客様の要望で作った、身体の痛みに悩む方向けのお茶です。名前はお客様に付けていただきました。先ほどのように湿布にも利用できます」
そして最後のティーポットを指し示す。
「これがアルザさんにおすすめの、『乙女の祈り』という商品です。これもまたゼノンさんが名付けました。名付けとは難しいもので、使いやすい言葉を付けているうちに続々と似たような名前の〝乙女シリーズ〟が誕生してしまい、私も覚えるのが大変です。が、名前の響きが気に入ってまとめてお買い求めになるお客様もいらっしゃるので、とても好評のようですね」
「それは皮肉な話だねぇ」
と、アルザはゼノンを見た。
「お、俺に名付けをさせるのが悪いんだよ」
「受けたなら別にいいんじゃない? 従業員の名前を付けていくよりはいいと思うけど」
くすりと笑うアルザはとても色っぽかった。以前、商品の名付けに悩んだカルパがヤケクソで従業員の名を片っ端から付けていこうとして、反対多数で却下されたらしい。
エルファは話の最中にもお茶を配っていく。ハーブの説明も大切だが、店の宣伝も大切なのだ。エルファが考案した商品がたくさん売れれば、エルファの給金も上がるのだから。
お金の使い道は山のようにある。薬効の高い希少な植物は目が飛び出るほど高価だったりするので、諦めてしまうことが多かったのだ。
だからこの催しだって当然有料だ。駆け出し薬草魔女のお茶会なので、もちろん高くはない。ちょっとした席料と飲食代だ。赤字になるような安売りはしないが、〝実りの聖女の子孫〟という無駄に高い評判を利用してぼったくることもしない。ちょうどいい匙加減というものがあるのだ。
それに、健康にいいからと薬を高く売りつけるなどという、詐欺のようなことがあってはならない。薬草魔女の教えが宗教のようになってもいけない。参加者に自分で考えさせるのも大切なことだ。お茶会を開く時、エルファはいつもそれを心がけている。
「そういえば、アルザ様とゼノンさんはいつ頃ご結婚なさるの? 付き合ってもう長いでしょう?」
女性の一人が、突然思わぬことを尋ねた。極秘にしているわけではないので知っていても不思議ではないのだが、それにしたってよく知っているような口ぶりだ。
「あら、そうなの?」
「幼馴染みなんでしょう?」
「幼馴染み同士の恋だなんて、素敵ねぇ」
ご婦人方が若い二人の恋について話し出すと、ゼノンの頬が引きつった。アルザは彼をちらりと見て、不服そうに唇を尖らせる。
「え、えっと……」
アルザの態度の意味を読んだのか、ナジカがゼノンの肩を叩いた。
「そろそろいいんじゃないのか? あんまり待たせるのもどうかと思うぞ」
するとゼノンは視線を泳がせた。
「でもその……結婚とかまだ……そもそも今だって正式に付き合っているわけでは」
「えっ!?」
ナジカは驚いたような声をあげた。
「確かに、付き合おうと言われたことはないけど……」
アルザが横目でじとっとゼノンを見ながら言った。ナジカも呆れた顔で言う。
「人気絶頂のアルザに迷惑かけるのが嫌なのは分かるけどさ、さすがにそれは失礼だから、ちゃんとした方がいいぞ。何のためにその若さで店任せてもらったんだよ。ゼノンの努力と実力もあるけどさ、事情を察して取り計らってくれたカルパさんにも失礼だろうが」
「う、うん」
ナジカが鼻先に指を突きつけると、ゼノンは小さく頷いた。ナジカがはっきりした性格なのに対して、ゼノンはずいぶんと穏やかな性格だ。そして慎重でもある。緊急時には即断即決できるが、そうでない時はこのようにはっきりしない態度を取ってしまうのだ。
アルザは腕を組み、じっとゼノンを見つめた。
人目を引く華やかな美女と、少し抜けた雰囲気のある、おっとりとした青年。
見つめ合う二人を、人々は固唾を呑んで見守る。
「ア、アルザ、あの……」
「なに?」
「迷惑でなければ……そろそろ、正式に付き合う?」
それを聞いてアルザはため息をついた。
「なんでそこで疑問形?」
「ご、ごめん」
「いいけど。何でもできて、ルゼ様に料理人になったことを惜しまれるほど強いのに、そんな性格のままっていうのがゼノンらしさだから」
確かに彼は料理だけでなく、なんでも器用にできる。ここに棚が欲しいと言えば、倉庫の中から板を持ってきてささっと作ってしまったりする。籠を編めば、エルファよりも上手く作ってしまう。傀儡術師としての腕も確かで、カルパと出かける時は護衛を務められるほど腕っ節も強い。普段そんなことを感じさせないのは、彼のこの性格ゆえだ。
「迷惑でもないし、ゼノンがいいなら隠す必要もないって、前から言ってるでしょ」
そう、隠したがっていたのはゼノンだ。彼は自分に自信がない。だから任せられた店が上手くいってから、という予定だったらしい。そして現在、店は上手くいっている。カルパへの世間の信頼、この国では珍しい薬草魔女のレシピ、そして若いが腕の確かな料理長のゼノン。それらの要因が揃ったおかげで店は繁盛し、それにつられるようにして本業である茶問屋の業績も上がっている。友人達からすれば、そろそろと思うのも当然だった。
「迷惑だと思うなら、友達付き合いもやめてるよ」
「そうだね。ありがとう」
アルザがきっぱり言い放つと、彼は素直に礼を言う。するとアルザはまたため息をつく。
「あのね。私の邪魔になるとか思ってるみたいだけど、私の夢はとっくに叶ってるの。最初の頃とは違う形だけど、誰もがルゼ様みたいだと言ってくれるようになったわ。これで満足しているの。本当よ」
アルザはゼノンを見上げる。しかしゼノンはその言葉を鵜呑みにはしていないようだった。
役者のような人気商売は、結婚をきっかけに周囲の態度が変わることもある。アルザが人気女優になるに至った役は、昔の実りの聖女に仕えた女兵僧――つまりルゼに似た、強く美しい女性だ。当然ファンはほぼ女性である。女性というのは、有名人の交際相手を見る目が厳しい。見劣りすると思えば、多かれ少なかれ叩いてくるのは容易に想像できた。二人の認識の溝は、とても深い。エルファは尋ねる。
「アルザさんは、その夢が叶った時点で満足されていたんですか?」
「ええ。やりたかった役をやらせてもらえて嬉しかったわ。あの役がやりたくて役者になったんだもの。それももう二年近く続けられたしね。そろそろ交代してもおかしくないでしょう? 劇団にいる以上、役はいつか後輩に譲るものだもの。その時は難しい脇役とか、裏方もやってみたいわ」
夢が叶って、次の目標もある。しかもそれは現実的だ。
「まあ、アルザ様は歴代のイーズ役の中で最もルゼ様に近いと評判でしたのに、その後任なんて務まる子がいるんでしょうか?」
女性の一人が心配そうに言う。
「その評判が災いして、私もなかなか違う役ができず悩んでいるんですよ」
彼女の後釜は、よほどの役者でなければ見劣りすると言われてしまうようだ。舞台上の彼女はとても魅力的だったので無理もない。
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