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1巻
1-2
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この日、午前中は簡単に身体能力を見て、午後からは体力診断テストのような事をした。そんな説明は受けずに始められたが、そういった基礎能力が分かるような事ばかりをさせられる。
最後にはマラソンだった。先頭を行く細身の騎士について行けるだけついて行くというもので、必ずしも後をぴったりとついて行く必要はない。持久力の順位を見るには一番いい方法だ。多少足が遅くとも、最後まで走っていれば脱落者よりは良い評価を得るだろう。もちろん私の予想でしかないが。
私としても護衛対象者であるゼクセンがどれ程の体力の持ち主か知るにはちょうどよかった。意外にも他の連中よりはマシだったのが判明したのだ。基礎体力はある。腕力はそれ程ないが、午前中に確認した俊敏性も高かった。これならパニックで暴走しなければ、それなりに守りやすい。現在も息も絶え絶えに、だがちゃんと走っている。
「押そうか?」
「いいっ!」
私の持久力は、体力ではなく魔力からきている。孤児院の院長である、おばあちゃんも呆れる程魔力があるらしい。元々あった私の才能が、幼い頃、強い魔力に刺激され続けて開花したのだろうと言われている。捨てられてからおばあちゃんのところに来る前までいた、少し特殊な神殿の孤児院で。
「鎧、重いでしょう」
「いいっ」
「水は飲んだ方がいいよ」
差し出したそれをゼクセンは一口飲んで返してくる。
ゼクセンは意外と頑張り屋さんだ。多少遅れているが、それでも前を走っていた者たちが脱落した事によって、順位は上がっている。鎧と剣は軽めといっても、走り回れば意外に重い。そのうち荷物も持って行うだろう。馬に乗れればいいが、魔物は普段馬で走れる場所にはいない。逃げ込む先は獣道しかないような木々の中だ。先輩たちから見たら、今から脱落していては先が思いやられるだろう。
「るーちゃ、さきっ、いっ」
ゼクセンは息も絶え絶えに言う。健気なものだ。まるでわんこが頑張っているのを見ているようで、何というかこう、胸が締め付けられる。
「私の評価はこんな事では下がらないから問題ないよ」
私がしている事は、他者から見ればインチキに近いのだ。かといって、『これ』をやらないと私はろくに動けない。昔、神殿の孤児院にいた時に足を痛めて、本来であれば杖をつかなければまっすぐ歩けないような足なのだ。おばあちゃんの魔術でも治らなかったこの傷のせいで行動が制限され、だから私は必死になってこの技術を高めた。
辺りがやや薄暗くなった頃、ようやく先頭が足を止め、一周遅れになりながらも足を止めなかったゼクセンは、走り終わるとばたりと倒れた。指で突付いてみるが反応がない。これでは夕飯などろくに食べられないだろう。
先頭を走っていた騎士もさすがに息が荒く、監視していた──というか、新人を評価していた先輩方も、倒れている後輩たちの息が整うのを見守っている。
一番息が整っているのは私だ。
ぼちぼち立ち上がり始めた連中が、平然としていた私のもとへとやってくる。
「るーちゃ、おま、化け物かっ」
私は本名として通らなければならない名よりも、「るーちゃん」としての方が知られているようだ。
考えなくてもそうなるのは当たり前だった。一番よく名を呼ぶゼクセンが「るーちゃん」と大きな声で呼んでいるのだ。ゼクセンの容貌と高めの声は目立つから、印象に残る。私は彼らにとって「るーちゃん」なのだ。
「魔術の真骨頂は『補助』だ。威力のデカイ攻撃系の魔術を使えれば見栄えは良いけど、生き物を相手にするなら、魔術の真価を発揮するのは治癒や味方の動きを助ける補助魔術だと私は考えている。力無き者に力を与えるのが補助魔術。それが私の得意とするところ」
「ずりぃ」
「何より私は傀儡術師」
力を見せつけるように、ふわりと浮いて見せた。傀儡術と一言で言っても種類は様々だが、共通して言えるのは「操る」事に特化したかなり特殊な魔術であるということ。それは相手の精神であったり、相手の身体だったりするが、自分の身体も対象となる。
「インチキだろ、それっ!」
「と思ったから、ちゃんと走っていたんだ。さっきは飛んでいなかった」
「は? 魔術で自分の身体を操ってたのか?」
「そう。傀儡術には色々とあるけど、私は物をこうして操るタイプの傀儡術師。精神を操る洗脳系の人と違って、操っている時は自分か周りが『操られてる』って普通は気付くから、安心して良いよ」
試しにずるい、インチキと言ってくれた少年の足を肩幅に開かせた。
「足がっ」
「今のは靴を操った。人体は複雑だから下手に操ると骨折するし面倒だから、滅多にやらないよ」
並の傀儡術師はね。
ただでさえ特殊な素質が無ければ使えないマイナーな術だ。傀儡術の素質があると、赤ん坊の頃は暴走して物を壊すので、悪魔に取り憑かれた子として親に捨てられることがとても多い。成長してもまともな教育を受けている者が少ないから、どうしても使い手は少なく、その名前の不気味さからも偏見を持たれる。
「まさか、そいつの靴を上げてやったりしてなかっただろうな」
「ないない。そこの先輩に聞いてみれば? たぶん自前の力以外でのインチキを見張る役目でゼクセンの事も見てたはずだから。人に知られないように他人に協力してもらって、涼しい顔をするのは卑怯だからね」
指をさされた騎士は、気まずそうに後ろ頭をかいた。見張られている事を見抜かれていないとは考えていなかっただろうが、誰が誰を見張っているかまでを見抜かれているとは考えていなかったのだろう、きっと。様子を見る限りでは、水を渡してやった時のようにちゃんと目に見える助け合いをする分には、きっとマイナスにはなっていない。助け合う精神は大切だ。
でもああして見張っているという事は、金持ちのボンボンが私みたいなのを雇ってインチキする事もあるんだろう、きっと。
「でもずりぃだろ、やっぱりさぁ」
「体力の代わりに魔力を消費したよ。嫌になる程水を飲まなきゃならない」
「水で回復!? そんなのありか!?」
「あり」
「ずりぃ」
ぐちぐち言う割には、元気な奴だ。話している間にゼクセンも起き上がり、ふらふらと歩いて再び脱力する。
「るーちゃん、僕、いつかるーちゃんみたいに、タフになる、よっ」
「いや、魔力無しでこうだったら化け物だから」
無茶苦茶な事を言う前向きなお坊ちゃまだが、疲れたくないと早々に足を止めた連中よりはずっと男らしい。おばあちゃんの言うところの「いい男」という奴だ。
「各自、動けるようになったらそのまま解散。メシを食うなり、シャワーを浴びるなりしてこい」
先輩が口元に手を当てて、どこの劇団員かと思うようなよく通る声で宣言した。私はろくに歩けないゼクセンを傀儡術で持ち上げて、部屋に戻ると彼の汚れた上着を脱がせてベッドに横にした。
その状態で寝てしまった彼に向けて治癒術をかけ、半刻程で叩き起こす。このままじゃ朝まで熟睡である。運動したら食事が必要だし、その前に汗を流さなければ臭くなる。汗臭い美少年なんて耐えられない。
「シャワーに行くよ」
「え、シャワー? どうやって?」
「いいから行くよ。私、服着たままシャワーを浴びるから、何を見ても驚かないように。ついでに人前では私の言葉は肯定するように」
「え……うん」
寝起きのゼクセンは、混乱しながらも言われるがままに頷いた。
シャワーを浴びないと、おかしいと思われる。ゼクセンは綺麗好きだ。その綺麗好きな彼と、シャワーを浴びない私が一緒ではさらにおかしいのでこれも対策を考える。
どうせおかしいと思われるなら、とびきり奇抜な事をしてやればいい。それがあまりに極端だと、人は逆に受け入れてしまう。
シャワー室にはまばらに人がいたけれど、新人たちの人数を考えればかなり少ない。皆食事か、部屋でダウンしているのだろう。私は何気ない顔をして服を着たままシャワー室に入る。ゼクセンは脱衣所で脱いでいるため別行動だ。
野郎どもの裸に怯みそうになりながらも、私は上着だけ脱いで、堂々と服を着たまま突き進む。不審の目が向けられる中、私は服を着たままシャワーを浴びた。行動は怪しいが、胸は悲しい程無いので、こちらが一番怪しまれたくない事は怪しまれない。
私にとって水浴びは、汗を流すよりも、水を浴びる事そのものが重要だ。
水を魔力に換えるのは天族が得意とする術だ。天族とは翼が生えた、霞だけを食べて生きる謎多き生物である。他の種族に混じる事なく、独特の文化を持ち、原始的な暮らしをする種族だ。魔物の一種とされているが、地上に住んでいるため魔獣の一種だという者もいる。何にしても、この世で最も魔力が高く、また魔力の使い方の上手い種族であるのは間違いない。
私は天族を見習い、彼ら程ではないが水を魔力とする術を会得していた。たぶん水以外でも出来るが、土など固いし、火など熱いし、風などとらえられないし、やはり水が一番である。
「ふぃ……」
気が済むと脱衣所に向かいながら魔術で身体の水分を蒸発させる。まだシャワーを浴びる事すらしていない連中が見物人になっているが、気にしない。気にしたら負けだ。
「るーちゃん、終わった? 長かったね」
もちろんゼクセンが着替える時間をとるために、長く浴びていたんだ。
「魔力を使ったから、水を浴びて取り込んでたんだよ。ついでに洗濯もしたし」
誰かが「あれが洗濯かよ」と呟いた。反応は上々だ。
「ほら、髪にクシぐらい通せって。はねている」
持っていたクシで金髪をとき、ついでに生乾きの髪から程よく水分を抜いてやる。彼の侍女たちがしていたよりも不格好だが、そのまま乾かすよりはいい。
一週間もこれを続けていたら、こいつら出来ているんではないかなどと噂されるような気はするが、これも気にしたら負けだ。変な噂など放置すればいい。親しくなった連中には、将来義理の兄弟になる予定だと説明すれば、仲が良いのも納得してくれるはずだ。可愛い可愛い妹の、綺麗な綺麗な婚約者。それを綺麗に綺麗に保つ馬鹿な兄と見られればよい。
この茶番はゼクセンを護衛すると知った時のおばあちゃんの案だが、ちゃんとルーフェス様はデメリットも含めて納得している。自分の事ではないので変な噂など流れないに越した事はないが、どうしようもない部分だ。私は偽者なのだ。多少変人と言われようが、それ以上の名声を残し、このお坊ちゃまの護衛を淡々とこなせばいいだけだ。その間にゼクセンが立派に一人で生きていけるようになってくれるとありがたい。私がここにいるのは、近い将来訪れるルーフェス様の病死までなのだから。その時になったら「私の病気は悪化して、実家に帰る」事になる。そして任を解かれ、私のその後は領主様が何とかしてくれるだろう。彼らはとてもいい人で、私に対して罪悪感を持っている。
しかしそれらはすべて、ルーフェス様が死んだ後か、それに近い状態の話。その長くはない期限内で、死ぬと分かっている少年自身にしてやれる事はおそらく少ない。たまに視界を貸して、唯一の親友であるゼクセンの保護と、彼を守るための環境作りと、教育。それぐらいしかしてやれない。
ルーフェス様の事は昔から好きだ。私の事など存在すら意識していなかっただろうが、神殿の孤児院にいた頃、私はたまにやってくる彼がけっこう好きだった。彼が来ると、おみやげとしてお菓子を持ってきてくれたから。そんな単純な理由で彼に好感を持ち、皆で来るのを楽しみにしていた。そんな彼が今、隣にいるゼクセン以上に近い存在となっている。私と彼が共有しているその記憶は、私にとってはとても大切な物だ。今となっては私たち二人でしか共感出来ない、大切な思い出。
そんな存在が、近いうちに死ぬのだと分かっている。
思い出を共有する相手が死ぬ事により、幼い頃の私の思い出は、その時私たちの大切だった人たちは、完全に闇に葬られる事になる。
しかしそれは仕方のない事だ。人は簡単に死ぬものだ。思い出はいつか無くなるもの。自分が今まで死ななかったのは、運がよかっただけなのだ。
「そーだ、るーちゃん。ご飯を食べたら図書室に行こうよ」
「おいおい、さっきまで死んだような顔してたのに、回復早いな。明日は筋肉痛だから休んどけ」
髪をタオルで乾かしていた親切な先輩に忠告を受けた。
「大丈夫です。治癒術でケアしてますから、他の人たちよりも軽度で済みます」
皆に「お前等ずるい」と言われそうだけど、私は気にしない。だってゼクセンの親にもお金もらっているから。
「じゃあ、るーちゃぁん、俺も俺も、図書室行くぅ」
背後から首を絞めるように抱きつかれ、ぎょっとして頭を後ろに下げる。近距離からの頭突きを食らった少年ははぐはぐ言いながら鼻を押さえ、それを見た別な少年が心配そうに声を掛ける。
「だ、大丈夫か、オルバー」
「はぐあぅ」
よく見れば、さっきずるいずるいと言っていた奴だ。
「治療して欲しかったら金払え」
甘えても無駄である。私は金と自分が楽しむため以外では動かない利己的な女だ。
「ケチ」
「ケチでけっこう。魔力も無限じゃないんだ」
慈善行為などしたら、どれだけたかられるか分かったもんじゃない。それを防ぐためには、初めからタダ働きはしないという態度を貫き通せばいい。
「お前ら、済んだらさっさと行け。後がつかえてるんだぞ」
「はぁい」
先輩に言われて、私たちは速やかにその場を離れた。シャワーもかなりの数あるのだが、そろそろ人数がそれ以上に増えてきたようだ。もう一つ浴場があるのだが実質的に先輩専用になっているらしく、下っ端が行っても気まずい思いをするだけらしい。先輩に連れられていくのでない限り、覚えが悪くなり出世にも響く。つまり、先輩に許可なく混じってんじゃねぇという、狭い心の表れである。
「っていうか、るーちゃん」
「ルーフェス」
鼻を押さえながら尚も話しかけてくる少年に、一応言い返す。
「るーちゃんは、なんであんなけったいな洗濯を?」
「何か問題が?」
「普通に洗濯に出せよ。洗濯する下女も、それで稼いでるんだぞ」
むぅ……意外と常識的な指摘をされてしまった。あまり頑なに嫌がると、かえって変に思われる……
周囲に人がいない事を確認し、少し声を抑えて言う。
「私は病弱で、ベッドがホームという生活が幼い頃から続いた」
「まぁ……丈夫そうには見えないな」
「魔術を使って動けるようになったけど、そうでなければ一人では歩けない身体だ」
「そうなのか?」
「ああ。だからとても人には見せられない身体なんだ。気味が悪い物は、見たくもないだろ。見せたくもないし」
この言い訳はルーフェス様が考えた事だ。女の子にもしもの事があるよりは良いだろうと。彼にとっても私にとっても自虐的だが、採用させてもらった。
「るーちゃんは、とっても頑張り屋だから一人で何でも出来るけど、とっても病弱でか弱いんだから、からかったり虐めちゃダメだよ」
ゼクセンが涙ぐましい事を言う。
「私はゼクセンが虐められる事の方が怖いんだけど。しゃれにならない気がして」
絡んできた彼も納得してくれたようで、あぁ、と頷いている。
他人事ながら心配でならない。彼本人だけでなくルーフェス様のためにも、ゼクセンは何としてでも綺麗な身体で帰してやりたいのだ。
「まぁ、頑張れ」
「頑張るよ」
手を差し出されたので、握手を返す。彼は一瞬、ぎょっとしたような表情を見せた。手の細さに驚いたのだろう。
「よし、これで俺たちは友達だ」
「ははっ、友情割引はないよ」
「ケチめ」
ま、万が一の時にゼクセンの事を頼める相手が欲しいところだから、人となりを見て使えそうなら少しぐらいは優遇してやるか。
人付き合いで大切なのは、様々な点に対する加減である。
第二話 ロイヤルな方々と詐騎士
私は剣術の訓練が少しばかり苦手だ。魔物退治に剣術など必要のない私には、それを学ぶ機会が無かったのだ。主に型が問題で、一定の姿勢をとり続けるのは骨が折れる。物もふわふわ浮かせるのは楽でも、一ヶ所に固定させるのはとても難しい。しかしそれも、一ヶ月近い訓練でずいぶんと克服し、見た目はなかなか様になるようになった。
そんなささやかな苦労と達成感を覚えながら今日も剣を振るう。来週には様子見期間が終わり、団分けが行われる。どこの騎士団に入るかで、未来は大きく変わる。騎士団によって都に留まれるところもあれば、郊外へ行かなければならないところもあるのだ。
今一緒にいる連中と、宮殿の他の場所や郊外で訓練している連中は再編成される事になる。しかし厳しい訓練のせいで初めにいた内の何人かはもう脱落しているだろうから、全体数は多少減っていそうだ。
私は常日頃互いを補助し合えるゼクセンが一緒でないなら、長く保たないと断言しているので、バラバラにされる事は無いだろうと思っている。時折彼に増幅術を使わせてさりげなく力を見せつけてきたから、バラバラにしようとする奴がいたらそいつは馬鹿だと言われるだろう。優秀だと認識されている人材の力を殺しては、無能の誹りを受ける。
それで五ヶ月後、本当に使い物になると判断されれば、地方に派遣される。
そうなれば私も気が楽になる。都に比べて規律もゆるくなるからこっそり抜け出しやすくなるし、女装すれば大手を振って公衆浴場へ行って風呂にも入れる。切った自分の髪で作ったカツラも使える。
そんな事を考えていると、周囲がざわついた。
「グランディナ姫だ」
誰かが呟く。先輩の声だろう。ほとんどの新人たちは、王族の顔など知るはずもない。
私も女だ。お姫様というのには少なからず憧れを抱いている。内心うきうきしながら振り返ろうとすると、続く周囲の声が耳に届いた。
「不気味姫がなんで……」
「日の光の下に出ても平気なのか」
どんな姫君だそれは、と思いながら振り返る。
確かに、不気味だった。年は十七、八か。長い長い癖のある黒髪に、暗がりの中にあっても、黒すぎて逆にはっきり見えそうな黒いローブ。特徴的な金に近い瞳。金の瞳は凶兆と言われ、生まれたらすぐに殺されていた時代もある不吉の瞳だ。その瞳を持つ者は実際に魔力が強く、悪い物まで引き寄せる事があるためにそんな風に言われている、と聞いた事がある。不吉だといわれる元々の理由は、魔族がそんな色の瞳をしているからだろう。魔族とは、褐色の肌と金色の瞳を持つ、形だけはもっとも人に近い、亜人間型の魔物だ。この国にはあまりいないが、もう少し西や南には多くいるらしい。
この姫君は肌が真っ白いので、まず混じりっ気のない人間だ。魔族との混血はどうしても浅黒くなるから、真っ白ということはないだろう。
しかしそんな事はどうでもいいとすら言える、些末な問題だ。金色の瞳だと差別を受けるのは確かだが、はっきり言ってこの姫はそんな程度の理由で不気味姫などと呼ばれているとは思えなかった。
金の瞳以上に特徴的なのが、顔にある引きつった火傷の痕だ。
とてつもなく綺麗な顔立ちを、火傷によって台無しにされている。その上、巻き毛というにはろくな手入れもされていない長すぎる黒髪。おまけに不吉の瞳。まさに不気味姫。
私の憧れる姫君とはちょっと……いや、かなり違う。私が思い描く姫君は、白かピンクのドレスを着た、優しそうだが馬鹿っぽい金髪碧眼の美女である。それが彼女は暗くて不気味で、それでいてどこか知性を感じるのだ。本当に予想外。
そんな姫君がなぜだか迷う事なく私の方に向かってきているのだ。私が何かしただろうか? まったく身に覚えがない。
「あなたが魔術師?」
まさか……物見遊山か、この姫様。
「はい。ルーフェス・デュサ・オブゼークと申します」
ぎこちなく騎士の礼をする。平民で女の私にこんな礼をする機会は一生ないはずだったので、どうしても優美さに欠ける。
「いいわ」
堅苦しい挨拶は無用とばかりに、ひどい火傷の古傷がある右手で払う仕草をした。顔にあるのも右側の頬。何があったらこんな火傷をするのだろうか。かなり費用は掛かるが薬と魔術で治す事も出来るはずなのに、素材は間違いなく最上級の姫君の顔がそのままにされているなんて。いくら金色の瞳でも、これはないんじゃ無かろうか。胸元だけ見ても羨ましい程女性の魅力にあふれているのに、もったいない。
「身体を魔力で動かしているとか」
「左様でございます」
私はお人形遊びで習得した、貴婦人に対する礼を取る。
「顔を上げなさい。どれ程頼っているの?」
「本来であれば杖が無くては真っ直ぐ歩けないので、普通に歩くのにも」
お前は何のために走ってるんだと言われ、リハビリ気分と答えたら親指を地面に向けられたり、中指を立てられたりした。
「専門は」
「傀儡術です。他は簡単な補助と、治癒術を」
傀儡術は悪い方に使えば立派な攻撃にもなる術だ。王宮には私の他に傀儡術のマスタークラスがいるとは聞いた事がないので、少なくともこの国の表側にはいないのだ。ただ、裏にならいるかもしれない。物や精神を操るというのはある意味、諜報や暗殺向きだから、いても不思議ではない。
「そう。傀儡術だけでもないのね」
お気に召していただけただろうか。
「精度はどの程度?」
唐突に尋ねられ、私は戸惑った。精度とは、傀儡術の精度の事だろう。どれ程のものを求めているのか知らないが、分かりやすい例えを考える。
「針の穴に糸を通したりと、そういう方向での精度でよろしいでしょうか」
姫様は頷いた。
「いらっしゃい」
「……は?」
私は驚いて友人たちを振り返る。彼等は遠くで、びしっと親指を立てた。違うのはゼクセンだけだった。
「るーちゃん……ルーフェスが何か?」
「ちょっと困った事があるから、月弓棟まで来て欲しいの。ああ、あなたがホーンの言っていたこの子の友人?」
「ホーン?」
ゼクセンが、彼の知らぬ名前を聞いて首をかしげた。ホーンにはおばあちゃんが手紙を出して私やゼクセンのことを伝えていたのだろう。
「私の兄弟子で、月弓棟で白鎧の騎士団付きの魔術師として働いているんだ」
彼はうちの孤児院で最も出世した人だ。まだ二十代前半だが、コネも何もなく才能だけで宮仕えしている天才である。騎士団付き魔術師という、何かあった時に戦場に出なければならない役職を王宮で与えられているが、基本的に魔術師はせいぜい魔物退治をする時に後方支援をするだけであって、前面に出される事もない。
「ああ、そっか。ゼクセン・エダ・ホライストと申します」
「あなたたちは攻性魔術の使い手じゃないから、月弓棟に計測に来なかったでしょう?」
「はい」
攻性魔術とは攻撃系の魔術、月弓棟とは魔術師たちが管轄する施設だ。魔術師以外は誰も近づこうとしない、かなり特殊な場所らしい。殺傷力の高い攻性魔術を使える新人騎士は、月弓棟で魔力の質などを測定されているが、私のように仲間を補助する魔術しか使えない者は、基本的に仲間を傷つける危険も少ないため測定されなかったのだ。
そんな事を話題にするという事は、彼女も魔術師なのだろう。王族の姫君が魔術師とはかなり珍しいのではなかろうか。
「今からじゃ中途半端だから、昼食を食べてから二人とも見学ついでにいらっしゃい。昼からは休みにしてあげるわ。大至急ではないけど、できるだけ早めにお願いしたい用なの」
「畏まりました」
それだけ言うと、彼女はきびすを返して去っていく。
実に不気味で不思議な姫様であった。でも姫君には違いないから、顔を合わす機会があったら、ルーフェス様を起こして見せてやろう。きっと喜ぶ。その前にびっくりするだろうけど。
月弓棟というのは、この国の技術の精髄が集まる場所である。そのため、ある意味この国で最も厳重に隔離されている場所だ。技術が漏れるのを防ぐためと、魔術の暴走被害を防ぐため、という意味で。
分厚い壁に、厳重な警備。結界も張られていて、正面の入り口以外から中に進入するのは不可能だろう。警備をしているのは白鎧の騎士だ。私たちの事は聞いていたらしく、一人が姫様の待つ研究室へと案内してくれた。
「おお、ホーンと同郷の奴か!」
研究室内へ入ると、中にいた人々がこちらを見た。広い共同研究室だが、物で溢れかえってごちゃごちゃしている。
「おい、ホーン、お前の自慢の弟弟子が来たぞ」
「ねぇねぇ、この人形を動かしてみてよ」
眼鏡をかけた女性が、実寸大の人型模型を指さして言う。言われるままに動かして一人でワルツを踊らせる。よほどストレスが溜まっているのか、無精髭のおっさんが雄叫びを上げて立ち上がり、狭い通路で人型模型と踊り出す。
「おもしろぉい」
ゼクセンがパチパチと手を叩く。面白いというか、むしろ大丈夫なのかと心配になる。
「なんだ、もう彼女作ったのか。ホーンの弟分のくせに手が早い。どこで働いているんだ?」
ホーンの同僚らしき魔術師がゼクセンに絡む。上機嫌だったゼクセンがぶすっと膨れたのを見て、からかった男がケラケラと笑いながら、アメを手にして立ち上がった。
「冗談だから膨れるなよ。ほら、アメやるから」
ゼクセンは無言でぷいと顔を逸らした。怒ってる怒ってる。よくこういう絡まれ方をするので、本気で間違われるならともかく、明らかにからかわれているのが分かるから不機嫌が顔に出てくるのも仕方がない。
最後にはマラソンだった。先頭を行く細身の騎士について行けるだけついて行くというもので、必ずしも後をぴったりとついて行く必要はない。持久力の順位を見るには一番いい方法だ。多少足が遅くとも、最後まで走っていれば脱落者よりは良い評価を得るだろう。もちろん私の予想でしかないが。
私としても護衛対象者であるゼクセンがどれ程の体力の持ち主か知るにはちょうどよかった。意外にも他の連中よりはマシだったのが判明したのだ。基礎体力はある。腕力はそれ程ないが、午前中に確認した俊敏性も高かった。これならパニックで暴走しなければ、それなりに守りやすい。現在も息も絶え絶えに、だがちゃんと走っている。
「押そうか?」
「いいっ!」
私の持久力は、体力ではなく魔力からきている。孤児院の院長である、おばあちゃんも呆れる程魔力があるらしい。元々あった私の才能が、幼い頃、強い魔力に刺激され続けて開花したのだろうと言われている。捨てられてからおばあちゃんのところに来る前までいた、少し特殊な神殿の孤児院で。
「鎧、重いでしょう」
「いいっ」
「水は飲んだ方がいいよ」
差し出したそれをゼクセンは一口飲んで返してくる。
ゼクセンは意外と頑張り屋さんだ。多少遅れているが、それでも前を走っていた者たちが脱落した事によって、順位は上がっている。鎧と剣は軽めといっても、走り回れば意外に重い。そのうち荷物も持って行うだろう。馬に乗れればいいが、魔物は普段馬で走れる場所にはいない。逃げ込む先は獣道しかないような木々の中だ。先輩たちから見たら、今から脱落していては先が思いやられるだろう。
「るーちゃ、さきっ、いっ」
ゼクセンは息も絶え絶えに言う。健気なものだ。まるでわんこが頑張っているのを見ているようで、何というかこう、胸が締め付けられる。
「私の評価はこんな事では下がらないから問題ないよ」
私がしている事は、他者から見ればインチキに近いのだ。かといって、『これ』をやらないと私はろくに動けない。昔、神殿の孤児院にいた時に足を痛めて、本来であれば杖をつかなければまっすぐ歩けないような足なのだ。おばあちゃんの魔術でも治らなかったこの傷のせいで行動が制限され、だから私は必死になってこの技術を高めた。
辺りがやや薄暗くなった頃、ようやく先頭が足を止め、一周遅れになりながらも足を止めなかったゼクセンは、走り終わるとばたりと倒れた。指で突付いてみるが反応がない。これでは夕飯などろくに食べられないだろう。
先頭を走っていた騎士もさすがに息が荒く、監視していた──というか、新人を評価していた先輩方も、倒れている後輩たちの息が整うのを見守っている。
一番息が整っているのは私だ。
ぼちぼち立ち上がり始めた連中が、平然としていた私のもとへとやってくる。
「るーちゃ、おま、化け物かっ」
私は本名として通らなければならない名よりも、「るーちゃん」としての方が知られているようだ。
考えなくてもそうなるのは当たり前だった。一番よく名を呼ぶゼクセンが「るーちゃん」と大きな声で呼んでいるのだ。ゼクセンの容貌と高めの声は目立つから、印象に残る。私は彼らにとって「るーちゃん」なのだ。
「魔術の真骨頂は『補助』だ。威力のデカイ攻撃系の魔術を使えれば見栄えは良いけど、生き物を相手にするなら、魔術の真価を発揮するのは治癒や味方の動きを助ける補助魔術だと私は考えている。力無き者に力を与えるのが補助魔術。それが私の得意とするところ」
「ずりぃ」
「何より私は傀儡術師」
力を見せつけるように、ふわりと浮いて見せた。傀儡術と一言で言っても種類は様々だが、共通して言えるのは「操る」事に特化したかなり特殊な魔術であるということ。それは相手の精神であったり、相手の身体だったりするが、自分の身体も対象となる。
「インチキだろ、それっ!」
「と思ったから、ちゃんと走っていたんだ。さっきは飛んでいなかった」
「は? 魔術で自分の身体を操ってたのか?」
「そう。傀儡術には色々とあるけど、私は物をこうして操るタイプの傀儡術師。精神を操る洗脳系の人と違って、操っている時は自分か周りが『操られてる』って普通は気付くから、安心して良いよ」
試しにずるい、インチキと言ってくれた少年の足を肩幅に開かせた。
「足がっ」
「今のは靴を操った。人体は複雑だから下手に操ると骨折するし面倒だから、滅多にやらないよ」
並の傀儡術師はね。
ただでさえ特殊な素質が無ければ使えないマイナーな術だ。傀儡術の素質があると、赤ん坊の頃は暴走して物を壊すので、悪魔に取り憑かれた子として親に捨てられることがとても多い。成長してもまともな教育を受けている者が少ないから、どうしても使い手は少なく、その名前の不気味さからも偏見を持たれる。
「まさか、そいつの靴を上げてやったりしてなかっただろうな」
「ないない。そこの先輩に聞いてみれば? たぶん自前の力以外でのインチキを見張る役目でゼクセンの事も見てたはずだから。人に知られないように他人に協力してもらって、涼しい顔をするのは卑怯だからね」
指をさされた騎士は、気まずそうに後ろ頭をかいた。見張られている事を見抜かれていないとは考えていなかっただろうが、誰が誰を見張っているかまでを見抜かれているとは考えていなかったのだろう、きっと。様子を見る限りでは、水を渡してやった時のようにちゃんと目に見える助け合いをする分には、きっとマイナスにはなっていない。助け合う精神は大切だ。
でもああして見張っているという事は、金持ちのボンボンが私みたいなのを雇ってインチキする事もあるんだろう、きっと。
「でもずりぃだろ、やっぱりさぁ」
「体力の代わりに魔力を消費したよ。嫌になる程水を飲まなきゃならない」
「水で回復!? そんなのありか!?」
「あり」
「ずりぃ」
ぐちぐち言う割には、元気な奴だ。話している間にゼクセンも起き上がり、ふらふらと歩いて再び脱力する。
「るーちゃん、僕、いつかるーちゃんみたいに、タフになる、よっ」
「いや、魔力無しでこうだったら化け物だから」
無茶苦茶な事を言う前向きなお坊ちゃまだが、疲れたくないと早々に足を止めた連中よりはずっと男らしい。おばあちゃんの言うところの「いい男」という奴だ。
「各自、動けるようになったらそのまま解散。メシを食うなり、シャワーを浴びるなりしてこい」
先輩が口元に手を当てて、どこの劇団員かと思うようなよく通る声で宣言した。私はろくに歩けないゼクセンを傀儡術で持ち上げて、部屋に戻ると彼の汚れた上着を脱がせてベッドに横にした。
その状態で寝てしまった彼に向けて治癒術をかけ、半刻程で叩き起こす。このままじゃ朝まで熟睡である。運動したら食事が必要だし、その前に汗を流さなければ臭くなる。汗臭い美少年なんて耐えられない。
「シャワーに行くよ」
「え、シャワー? どうやって?」
「いいから行くよ。私、服着たままシャワーを浴びるから、何を見ても驚かないように。ついでに人前では私の言葉は肯定するように」
「え……うん」
寝起きのゼクセンは、混乱しながらも言われるがままに頷いた。
シャワーを浴びないと、おかしいと思われる。ゼクセンは綺麗好きだ。その綺麗好きな彼と、シャワーを浴びない私が一緒ではさらにおかしいのでこれも対策を考える。
どうせおかしいと思われるなら、とびきり奇抜な事をしてやればいい。それがあまりに極端だと、人は逆に受け入れてしまう。
シャワー室にはまばらに人がいたけれど、新人たちの人数を考えればかなり少ない。皆食事か、部屋でダウンしているのだろう。私は何気ない顔をして服を着たままシャワー室に入る。ゼクセンは脱衣所で脱いでいるため別行動だ。
野郎どもの裸に怯みそうになりながらも、私は上着だけ脱いで、堂々と服を着たまま突き進む。不審の目が向けられる中、私は服を着たままシャワーを浴びた。行動は怪しいが、胸は悲しい程無いので、こちらが一番怪しまれたくない事は怪しまれない。
私にとって水浴びは、汗を流すよりも、水を浴びる事そのものが重要だ。
水を魔力に換えるのは天族が得意とする術だ。天族とは翼が生えた、霞だけを食べて生きる謎多き生物である。他の種族に混じる事なく、独特の文化を持ち、原始的な暮らしをする種族だ。魔物の一種とされているが、地上に住んでいるため魔獣の一種だという者もいる。何にしても、この世で最も魔力が高く、また魔力の使い方の上手い種族であるのは間違いない。
私は天族を見習い、彼ら程ではないが水を魔力とする術を会得していた。たぶん水以外でも出来るが、土など固いし、火など熱いし、風などとらえられないし、やはり水が一番である。
「ふぃ……」
気が済むと脱衣所に向かいながら魔術で身体の水分を蒸発させる。まだシャワーを浴びる事すらしていない連中が見物人になっているが、気にしない。気にしたら負けだ。
「るーちゃん、終わった? 長かったね」
もちろんゼクセンが着替える時間をとるために、長く浴びていたんだ。
「魔力を使ったから、水を浴びて取り込んでたんだよ。ついでに洗濯もしたし」
誰かが「あれが洗濯かよ」と呟いた。反応は上々だ。
「ほら、髪にクシぐらい通せって。はねている」
持っていたクシで金髪をとき、ついでに生乾きの髪から程よく水分を抜いてやる。彼の侍女たちがしていたよりも不格好だが、そのまま乾かすよりはいい。
一週間もこれを続けていたら、こいつら出来ているんではないかなどと噂されるような気はするが、これも気にしたら負けだ。変な噂など放置すればいい。親しくなった連中には、将来義理の兄弟になる予定だと説明すれば、仲が良いのも納得してくれるはずだ。可愛い可愛い妹の、綺麗な綺麗な婚約者。それを綺麗に綺麗に保つ馬鹿な兄と見られればよい。
この茶番はゼクセンを護衛すると知った時のおばあちゃんの案だが、ちゃんとルーフェス様はデメリットも含めて納得している。自分の事ではないので変な噂など流れないに越した事はないが、どうしようもない部分だ。私は偽者なのだ。多少変人と言われようが、それ以上の名声を残し、このお坊ちゃまの護衛を淡々とこなせばいいだけだ。その間にゼクセンが立派に一人で生きていけるようになってくれるとありがたい。私がここにいるのは、近い将来訪れるルーフェス様の病死までなのだから。その時になったら「私の病気は悪化して、実家に帰る」事になる。そして任を解かれ、私のその後は領主様が何とかしてくれるだろう。彼らはとてもいい人で、私に対して罪悪感を持っている。
しかしそれらはすべて、ルーフェス様が死んだ後か、それに近い状態の話。その長くはない期限内で、死ぬと分かっている少年自身にしてやれる事はおそらく少ない。たまに視界を貸して、唯一の親友であるゼクセンの保護と、彼を守るための環境作りと、教育。それぐらいしかしてやれない。
ルーフェス様の事は昔から好きだ。私の事など存在すら意識していなかっただろうが、神殿の孤児院にいた頃、私はたまにやってくる彼がけっこう好きだった。彼が来ると、おみやげとしてお菓子を持ってきてくれたから。そんな単純な理由で彼に好感を持ち、皆で来るのを楽しみにしていた。そんな彼が今、隣にいるゼクセン以上に近い存在となっている。私と彼が共有しているその記憶は、私にとってはとても大切な物だ。今となっては私たち二人でしか共感出来ない、大切な思い出。
そんな存在が、近いうちに死ぬのだと分かっている。
思い出を共有する相手が死ぬ事により、幼い頃の私の思い出は、その時私たちの大切だった人たちは、完全に闇に葬られる事になる。
しかしそれは仕方のない事だ。人は簡単に死ぬものだ。思い出はいつか無くなるもの。自分が今まで死ななかったのは、運がよかっただけなのだ。
「そーだ、るーちゃん。ご飯を食べたら図書室に行こうよ」
「おいおい、さっきまで死んだような顔してたのに、回復早いな。明日は筋肉痛だから休んどけ」
髪をタオルで乾かしていた親切な先輩に忠告を受けた。
「大丈夫です。治癒術でケアしてますから、他の人たちよりも軽度で済みます」
皆に「お前等ずるい」と言われそうだけど、私は気にしない。だってゼクセンの親にもお金もらっているから。
「じゃあ、るーちゃぁん、俺も俺も、図書室行くぅ」
背後から首を絞めるように抱きつかれ、ぎょっとして頭を後ろに下げる。近距離からの頭突きを食らった少年ははぐはぐ言いながら鼻を押さえ、それを見た別な少年が心配そうに声を掛ける。
「だ、大丈夫か、オルバー」
「はぐあぅ」
よく見れば、さっきずるいずるいと言っていた奴だ。
「治療して欲しかったら金払え」
甘えても無駄である。私は金と自分が楽しむため以外では動かない利己的な女だ。
「ケチ」
「ケチでけっこう。魔力も無限じゃないんだ」
慈善行為などしたら、どれだけたかられるか分かったもんじゃない。それを防ぐためには、初めからタダ働きはしないという態度を貫き通せばいい。
「お前ら、済んだらさっさと行け。後がつかえてるんだぞ」
「はぁい」
先輩に言われて、私たちは速やかにその場を離れた。シャワーもかなりの数あるのだが、そろそろ人数がそれ以上に増えてきたようだ。もう一つ浴場があるのだが実質的に先輩専用になっているらしく、下っ端が行っても気まずい思いをするだけらしい。先輩に連れられていくのでない限り、覚えが悪くなり出世にも響く。つまり、先輩に許可なく混じってんじゃねぇという、狭い心の表れである。
「っていうか、るーちゃん」
「ルーフェス」
鼻を押さえながら尚も話しかけてくる少年に、一応言い返す。
「るーちゃんは、なんであんなけったいな洗濯を?」
「何か問題が?」
「普通に洗濯に出せよ。洗濯する下女も、それで稼いでるんだぞ」
むぅ……意外と常識的な指摘をされてしまった。あまり頑なに嫌がると、かえって変に思われる……
周囲に人がいない事を確認し、少し声を抑えて言う。
「私は病弱で、ベッドがホームという生活が幼い頃から続いた」
「まぁ……丈夫そうには見えないな」
「魔術を使って動けるようになったけど、そうでなければ一人では歩けない身体だ」
「そうなのか?」
「ああ。だからとても人には見せられない身体なんだ。気味が悪い物は、見たくもないだろ。見せたくもないし」
この言い訳はルーフェス様が考えた事だ。女の子にもしもの事があるよりは良いだろうと。彼にとっても私にとっても自虐的だが、採用させてもらった。
「るーちゃんは、とっても頑張り屋だから一人で何でも出来るけど、とっても病弱でか弱いんだから、からかったり虐めちゃダメだよ」
ゼクセンが涙ぐましい事を言う。
「私はゼクセンが虐められる事の方が怖いんだけど。しゃれにならない気がして」
絡んできた彼も納得してくれたようで、あぁ、と頷いている。
他人事ながら心配でならない。彼本人だけでなくルーフェス様のためにも、ゼクセンは何としてでも綺麗な身体で帰してやりたいのだ。
「まぁ、頑張れ」
「頑張るよ」
手を差し出されたので、握手を返す。彼は一瞬、ぎょっとしたような表情を見せた。手の細さに驚いたのだろう。
「よし、これで俺たちは友達だ」
「ははっ、友情割引はないよ」
「ケチめ」
ま、万が一の時にゼクセンの事を頼める相手が欲しいところだから、人となりを見て使えそうなら少しぐらいは優遇してやるか。
人付き合いで大切なのは、様々な点に対する加減である。
第二話 ロイヤルな方々と詐騎士
私は剣術の訓練が少しばかり苦手だ。魔物退治に剣術など必要のない私には、それを学ぶ機会が無かったのだ。主に型が問題で、一定の姿勢をとり続けるのは骨が折れる。物もふわふわ浮かせるのは楽でも、一ヶ所に固定させるのはとても難しい。しかしそれも、一ヶ月近い訓練でずいぶんと克服し、見た目はなかなか様になるようになった。
そんなささやかな苦労と達成感を覚えながら今日も剣を振るう。来週には様子見期間が終わり、団分けが行われる。どこの騎士団に入るかで、未来は大きく変わる。騎士団によって都に留まれるところもあれば、郊外へ行かなければならないところもあるのだ。
今一緒にいる連中と、宮殿の他の場所や郊外で訓練している連中は再編成される事になる。しかし厳しい訓練のせいで初めにいた内の何人かはもう脱落しているだろうから、全体数は多少減っていそうだ。
私は常日頃互いを補助し合えるゼクセンが一緒でないなら、長く保たないと断言しているので、バラバラにされる事は無いだろうと思っている。時折彼に増幅術を使わせてさりげなく力を見せつけてきたから、バラバラにしようとする奴がいたらそいつは馬鹿だと言われるだろう。優秀だと認識されている人材の力を殺しては、無能の誹りを受ける。
それで五ヶ月後、本当に使い物になると判断されれば、地方に派遣される。
そうなれば私も気が楽になる。都に比べて規律もゆるくなるからこっそり抜け出しやすくなるし、女装すれば大手を振って公衆浴場へ行って風呂にも入れる。切った自分の髪で作ったカツラも使える。
そんな事を考えていると、周囲がざわついた。
「グランディナ姫だ」
誰かが呟く。先輩の声だろう。ほとんどの新人たちは、王族の顔など知るはずもない。
私も女だ。お姫様というのには少なからず憧れを抱いている。内心うきうきしながら振り返ろうとすると、続く周囲の声が耳に届いた。
「不気味姫がなんで……」
「日の光の下に出ても平気なのか」
どんな姫君だそれは、と思いながら振り返る。
確かに、不気味だった。年は十七、八か。長い長い癖のある黒髪に、暗がりの中にあっても、黒すぎて逆にはっきり見えそうな黒いローブ。特徴的な金に近い瞳。金の瞳は凶兆と言われ、生まれたらすぐに殺されていた時代もある不吉の瞳だ。その瞳を持つ者は実際に魔力が強く、悪い物まで引き寄せる事があるためにそんな風に言われている、と聞いた事がある。不吉だといわれる元々の理由は、魔族がそんな色の瞳をしているからだろう。魔族とは、褐色の肌と金色の瞳を持つ、形だけはもっとも人に近い、亜人間型の魔物だ。この国にはあまりいないが、もう少し西や南には多くいるらしい。
この姫君は肌が真っ白いので、まず混じりっ気のない人間だ。魔族との混血はどうしても浅黒くなるから、真っ白ということはないだろう。
しかしそんな事はどうでもいいとすら言える、些末な問題だ。金色の瞳だと差別を受けるのは確かだが、はっきり言ってこの姫はそんな程度の理由で不気味姫などと呼ばれているとは思えなかった。
金の瞳以上に特徴的なのが、顔にある引きつった火傷の痕だ。
とてつもなく綺麗な顔立ちを、火傷によって台無しにされている。その上、巻き毛というにはろくな手入れもされていない長すぎる黒髪。おまけに不吉の瞳。まさに不気味姫。
私の憧れる姫君とはちょっと……いや、かなり違う。私が思い描く姫君は、白かピンクのドレスを着た、優しそうだが馬鹿っぽい金髪碧眼の美女である。それが彼女は暗くて不気味で、それでいてどこか知性を感じるのだ。本当に予想外。
そんな姫君がなぜだか迷う事なく私の方に向かってきているのだ。私が何かしただろうか? まったく身に覚えがない。
「あなたが魔術師?」
まさか……物見遊山か、この姫様。
「はい。ルーフェス・デュサ・オブゼークと申します」
ぎこちなく騎士の礼をする。平民で女の私にこんな礼をする機会は一生ないはずだったので、どうしても優美さに欠ける。
「いいわ」
堅苦しい挨拶は無用とばかりに、ひどい火傷の古傷がある右手で払う仕草をした。顔にあるのも右側の頬。何があったらこんな火傷をするのだろうか。かなり費用は掛かるが薬と魔術で治す事も出来るはずなのに、素材は間違いなく最上級の姫君の顔がそのままにされているなんて。いくら金色の瞳でも、これはないんじゃ無かろうか。胸元だけ見ても羨ましい程女性の魅力にあふれているのに、もったいない。
「身体を魔力で動かしているとか」
「左様でございます」
私はお人形遊びで習得した、貴婦人に対する礼を取る。
「顔を上げなさい。どれ程頼っているの?」
「本来であれば杖が無くては真っ直ぐ歩けないので、普通に歩くのにも」
お前は何のために走ってるんだと言われ、リハビリ気分と答えたら親指を地面に向けられたり、中指を立てられたりした。
「専門は」
「傀儡術です。他は簡単な補助と、治癒術を」
傀儡術は悪い方に使えば立派な攻撃にもなる術だ。王宮には私の他に傀儡術のマスタークラスがいるとは聞いた事がないので、少なくともこの国の表側にはいないのだ。ただ、裏にならいるかもしれない。物や精神を操るというのはある意味、諜報や暗殺向きだから、いても不思議ではない。
「そう。傀儡術だけでもないのね」
お気に召していただけただろうか。
「精度はどの程度?」
唐突に尋ねられ、私は戸惑った。精度とは、傀儡術の精度の事だろう。どれ程のものを求めているのか知らないが、分かりやすい例えを考える。
「針の穴に糸を通したりと、そういう方向での精度でよろしいでしょうか」
姫様は頷いた。
「いらっしゃい」
「……は?」
私は驚いて友人たちを振り返る。彼等は遠くで、びしっと親指を立てた。違うのはゼクセンだけだった。
「るーちゃん……ルーフェスが何か?」
「ちょっと困った事があるから、月弓棟まで来て欲しいの。ああ、あなたがホーンの言っていたこの子の友人?」
「ホーン?」
ゼクセンが、彼の知らぬ名前を聞いて首をかしげた。ホーンにはおばあちゃんが手紙を出して私やゼクセンのことを伝えていたのだろう。
「私の兄弟子で、月弓棟で白鎧の騎士団付きの魔術師として働いているんだ」
彼はうちの孤児院で最も出世した人だ。まだ二十代前半だが、コネも何もなく才能だけで宮仕えしている天才である。騎士団付き魔術師という、何かあった時に戦場に出なければならない役職を王宮で与えられているが、基本的に魔術師はせいぜい魔物退治をする時に後方支援をするだけであって、前面に出される事もない。
「ああ、そっか。ゼクセン・エダ・ホライストと申します」
「あなたたちは攻性魔術の使い手じゃないから、月弓棟に計測に来なかったでしょう?」
「はい」
攻性魔術とは攻撃系の魔術、月弓棟とは魔術師たちが管轄する施設だ。魔術師以外は誰も近づこうとしない、かなり特殊な場所らしい。殺傷力の高い攻性魔術を使える新人騎士は、月弓棟で魔力の質などを測定されているが、私のように仲間を補助する魔術しか使えない者は、基本的に仲間を傷つける危険も少ないため測定されなかったのだ。
そんな事を話題にするという事は、彼女も魔術師なのだろう。王族の姫君が魔術師とはかなり珍しいのではなかろうか。
「今からじゃ中途半端だから、昼食を食べてから二人とも見学ついでにいらっしゃい。昼からは休みにしてあげるわ。大至急ではないけど、できるだけ早めにお願いしたい用なの」
「畏まりました」
それだけ言うと、彼女はきびすを返して去っていく。
実に不気味で不思議な姫様であった。でも姫君には違いないから、顔を合わす機会があったら、ルーフェス様を起こして見せてやろう。きっと喜ぶ。その前にびっくりするだろうけど。
月弓棟というのは、この国の技術の精髄が集まる場所である。そのため、ある意味この国で最も厳重に隔離されている場所だ。技術が漏れるのを防ぐためと、魔術の暴走被害を防ぐため、という意味で。
分厚い壁に、厳重な警備。結界も張られていて、正面の入り口以外から中に進入するのは不可能だろう。警備をしているのは白鎧の騎士だ。私たちの事は聞いていたらしく、一人が姫様の待つ研究室へと案内してくれた。
「おお、ホーンと同郷の奴か!」
研究室内へ入ると、中にいた人々がこちらを見た。広い共同研究室だが、物で溢れかえってごちゃごちゃしている。
「おい、ホーン、お前の自慢の弟弟子が来たぞ」
「ねぇねぇ、この人形を動かしてみてよ」
眼鏡をかけた女性が、実寸大の人型模型を指さして言う。言われるままに動かして一人でワルツを踊らせる。よほどストレスが溜まっているのか、無精髭のおっさんが雄叫びを上げて立ち上がり、狭い通路で人型模型と踊り出す。
「おもしろぉい」
ゼクセンがパチパチと手を叩く。面白いというか、むしろ大丈夫なのかと心配になる。
「なんだ、もう彼女作ったのか。ホーンの弟分のくせに手が早い。どこで働いているんだ?」
ホーンの同僚らしき魔術師がゼクセンに絡む。上機嫌だったゼクセンがぶすっと膨れたのを見て、からかった男がケラケラと笑いながら、アメを手にして立ち上がった。
「冗談だから膨れるなよ。ほら、アメやるから」
ゼクセンは無言でぷいと顔を逸らした。怒ってる怒ってる。よくこういう絡まれ方をするので、本気で間違われるならともかく、明らかにからかわれているのが分かるから不機嫌が顔に出てくるのも仕方がない。
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