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25時のバレンタイン・キス ②-1 〜バレンタイン前日〜

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バレンタイン前日。

キッチンに立つ僕は、早速レシピサイトを目の前に、初めてのお菓子作りに奮闘する!
『トリュフチョコレートの作り方』のサイトを開け、エプロンをつけ、シャツの袖を捲りあげて、やる気満々!気合だけは充分入っている!

「えっーーーと、まずはチョコを刻む…と」

お店の袋からチョコを取り出し、丁寧に包み紙を開けていく。
わざわざ、輸入食料品のお店まで足を運んで買った、フランス産の高級板チョコ。
シンプルで余計な飾りもなく、四角いその板チョコは、真ん中にお店のロゴマークが刻まれており、それがさらに洗練された高貴さを際立たせていた。
そのチョコを惜しげもなく、まな板の上で細かく刻んでいく。

「どれくらい細かく?合ってる?合ってるよね???」

包丁を小刻みに動かし、ガリッガリッと音を立てて小さくなっていくチョコレート。
ぎこちなく包丁を持つ手が、時折震える。
何度も読み返したレシピサイトをまた見ては、僕は間違えていないか?確認する。

「えっとぉ…次は、生クリームを沸騰させる…と…」

コンロの壁に掛けてある片手鍋を手にした途端、ブブッー、ブブッーと、キッチンカウンターの上に置いていた僕のスマホが突然振動する。
マナーモードにしていたスマホの画面に浮かび上がる、彼の名前。

「もしもし?」

「あ?俺だけど…」

いつも聞く彼の声。
だけど、今日は、何だかトーンが低い。

「何?今ちょっと手が離せないんだけど…」

と、言い終わらないうちに、電話の向こうで聞こえたざわつく雑音、そして、トゥルルルと鳴り響くベルの音と、まもなく発車します…のアナウンスの声。

(え?)

僕は思わず、耳を疑った。

(彼は?どこにいる?)

「ごめん」

電話から聞こえる彼の少し曇った声。

「実は、仕事で少しトラブって…急に大阪に行かないといけなくなったんだ」

「…へ?」

(大阪…???)

僕は、思いもしない話に、声が裏返った。

「明日には必ず帰るから…あっ!新幹線きたっ…じゃ、乗るから、また後でかける…」

「えっ、ちょ…帰るって…」

と、僕が尋ねる前に、電話はとっくに切れていた。

(新幹線?え?東京駅にいたってこと?大阪?なに?出張???急に???トラブってて…」

急に飛び込んできた多くのワードに、僕の頭はこんがらがる!

「帰るって、何時になるんだよ…大阪なのに…」

無機質なスマホに向かって呟く僕。

「わかってるのかよ?!明日は!初めてのバレンタインデーだよ!!!」

僕は、行き場のない怒りをスマホに向け、ソファに投げつけた。





「2/14は、一緒にイルミネーションスポットを見に行きたいんだ」

「おっ!そこ、最近やってるとこだよね、イルミネーションとオブジェの幻想的な世界が見れるやつ。俺も見たいと思ってたんだ、いいよ、行こう」

「ほんと?楽しみー!」

「前の晩から、そっちに泊まりにいくよ」





ついこの前の、彼とのやり取りが脳裏をかすめる。

「今日の夜にはもう、一緒にいるんじゃなかったのかよ…」

口をキュッと結び、手を固く握る僕。

ー明日には必ず帰るからー

彼の言葉を思い出す。

(明日…明日必ず帰ってくる…)

僕は、祈るように心で繰り返すと、またキッチンに戻り、生クリームを片手鍋にトプットプッと流し入れる。
チラッとレシピを見返す。
挫けそうな気持ちを奮い立たせるように、レシピを大きな声で読み上げる。

「えっと…生クリームを弱火で沸騰直前までに温める…と」

指でコンロのスイッチをえいっ!と力強く入れる。

「作るって決めたんだ…それに、ちゃんと帰ってくるって言ったし…」

(大丈夫…きっと…)

キッチンやテーブルに広げたチョコや、ココアパウダー、バレンタイン用の小物。

(この日のために、材料も買ったし、いろんなところを見て回って、パッケージも集めたんだ…)

「あっ!!!」

生クリームを入れた片手鍋の鍋肌が、ふつふつと泡立ってきた。
僕は慌てて、刻んだチョコを入れ、

「混ぜる!混ぜる!!」

初めてのお菓子作りに、僕は集中するように声を出し、自分を励ましながら、1人キッチンで格闘する。
そして、願った。

(明日には、絶対帰ってこいっ!)


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