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★デビュタント〜準備編〜★
家族会議
しおりを挟むある辺境伯の屋敷にて重苦しい空気が漂っていた。
食後の大きなダイニングテーブルを4人で囲んで家族会議がなされていた。
口火を切ったのはエトワール辺境伯当主でありセイラの父であるベルナール・エトワールであった。
歳の割に若々しく見える彼はシルバーブロンドの長めの髪を緩く左下の肩の辺りで結んでいる。サファイアのような瞳に細縁のシルバーの眼鏡をかけた理知的な美青年である。
「して、セイラよ。また先日行ったお見合いの相手からお断りの手紙が届いたんだが…今度は何をしでかしたんだい??」
柔らかな口調で問うてくるが、さすがは辺境伯当主、どこか有無を言わさぬような威圧感があった。
「…なにもしていないわ。ただ、エトワール辺境伯に婿に来るというのに魔物を1匹も見たことがないというので…少しだけ魔の森を案内して差し上げましたの。
もちろん入り口付近だけですし、私もいるので危険はございませんでした。
ただ…そのときに小さな…本当に小さなまた赤ちゃんのラグーラビットが1匹飛び出してきましたの。
赤ちゃんのラグーラビットには力がないのは皆様ご存知でしょう??
ですので、私もそのまま放置しようとしました。
が、そのとき、彼がラグーラビットに驚いて尻餅をついてしまいまして…その…粗相をしてしまったのです。
私も一生懸命フォローは入れさせていただきましたが、恥ずかしかったのか何も言わずにそのまま帰っていってしまわれましたの。」
セイラが話終わるのを聞いてベルナールは頭を抱えて黙り込んでしまった。
「セイラちゃん、たしかにね、エトワール辺境伯にお婿さんになるなら魔物との闘いは避けては通れないわ。
セイラちゃんの行動も彼を思ってのことだと思うわ。
けどね、物事には順序ってものがあって、いきなりやらせればいいってものではないのよ。
今からまで魔物を見たことのなかっ人がラグーラビットが安全だとどうしてわかるのでしょうか??
セイラちゃんは分かっているとしても彼はきっと知らなかったのでしょう。
思い立ったらすぐに行動するのはセイラちゃんの長所でもあるわ。
けどね、そうすることによって相手がどう思うのか、どういう状況になるのかまで想像できないとダメよ。」
母であるアリスが諭すようにセイラを諌めた。
母であるアリスは元クリステル伯爵令嬢であり、ブロンドのふわふわと波打ったロングの髪にピンク色の丸い大きな瞳を持った歳を感じさせない童顔の美少女だ。
「そうよ。もし彼に怪我でもさせていたら家同士の問題に発展していたかもしれないのよ。セイラ、あなた1人の行動がエトワール家に打撃をあたえてしまうこともあると自覚を持ちなさい。
毎回毎回あなたの不祥事をもみ消すのにも限界というものがあるのよ。」
姉であるクロエが厳し目な口調でセイラを諌める。
クロエは父譲りのシルバーブロンドのストレートロングに少しキレ長のサファイアの瞳をした凛とした美人だ。
来年隣に領地のあるバロン伯爵に嫁入りをすることが決まっている。
対する妹のセイラはというと母譲りのブロンドの柔らかそうなふわふわロングにピンクのパッチリとしたまあるいおめめのまさに妖精と言っても過言ではないほどの愛らしさを持っていた。
にも関わらず、セイラには恋人はおろか婚約者すらできたことが一度もなかった。
そう、恋愛経験ゼロ令嬢だったのだ。
理由は言わずもがな、今までの会話から予測できるであろう。
「だって…ラグーラビット1匹であんなに驚くとは思わなかったのだもの…。
子供のラグーラビットなら子どもでも簡単に退治できるくらいだもの…」
セイラはシュン…と落ち込みながら下を見つめていた。
「セイラ…私たち辺境伯に住んでいるものは魔物との遭遇は日常茶飯事のようなものだ。驚くこともあるまい。
けど、辺境伯以外のもの達は魔物を目にする機会は滅多にないんだ。
なのに急に魔の森に行くなど、いくら安全といえども無理な話なんだよ。
セイラ、分かってくれるかな??」
「…はい。お父様…私が安直すぎました。申し訳ございません。」
「分かってくれればいいんだよ。
次から同じことをしなければ大丈夫さ。
」
ベルナールはなんだかんだセイラには甘くなってしまい、頭を軽く撫でながら慰めている。
「しかし、このままではセイラの婚約者候補がいなくなってしまう。クロエは嫁入りが決まっているしセイラには何がなんでも婿をとってもらうしかない。
…もし、それがダメならばセイラは領地の修道院へ入れ、縁者から養子をとって家を継いでもらうしかなくなってしまうだろう。」
「そんな…まだ年若い貴族の娘が修道院だなんて…。ベルナール様!!なんとかなりませんか??それではあまりにもセイラが不憫すぎますわ!!」
愛娘が修道院に入るという衝撃的な話にアリスは思わず涙を流しベルナールへ縋りついた。
「ああ。もちろん、私もセイラを修道院に入れたいとは思っていないんだよ。ただ、このままだと万が一ということもあるという話で…。」
ベルナールはアリスの肩を抱きながら慰めた。
「そもそも婚約者候補で送られてきたのは彼が最後だったんじゃないかしら??」
クロエお姉様の言葉にセイラは驚いて俯いていた顔を上げた。
「だって、あなた前の婚約者候補には魔獣について3時間ひたすらマシンガントークをしてお断りされたでしょう??
その前の方には魔獣を料理して食べさせようとして怒らせてしまい破談となったでしょう??
その前はピクニックと称して魔の森を散歩させたでしょう??彼、魔獣がトラウマになってしまわれたそうよ。
その前は貴族なのに料理をしようとして止められたのを突っぱねたら口論になったんでしたっけ??
これだけ婚約者候補からお断りされ続けてるのよ??
せっかく容姿は良いのに、これではあなたに何か瑕疵があるのではと思われても仕方ありませんわよ。」
クロエお姉様の現実を突きつける言葉にセイラは返す言葉がなくなり黙り込んでしまった。
「まあまあ、たしかにクロエの言うように今後セイラに縁談がくるのは難しいのかもしれないね。
けどね、家の跡継ぎの問題もある。
だから、こうしようではないか。
セイラ、君は先日16歳になったね。
16歳といったらデビュタントがあるだろう??
今年も王宮でデビュタントを開催するらしく…セイラの分の招待状もいただいているんだ。
これがどう言う意味がわかるかい??」
「ああ、そういうことですのね。
それは名案ですわ。」
クロエお姉様とお母様はお父様の言わんとしていることが理解できたそうだが、私にはいまいちよく分からない。
そのためジッとお父様を見つめ続きを促す。
「…セイラ。このデビュタントで自分自身の力で婚約者となり得る良縁を掴んできなさい。
今までの君のやらかしから考えると私たちの方で相手を探したところで同じことの二の舞だろう。
だから、セイラ、君が…君自身が相手を選んで来るんだ。」
「えっ!そんなこと…!!」
セイラはベルナールの言い分にあんまりだと声を上げようとするが…
「できないじゃないよ。もうやるしかないんだ。セイラ、君はそこまできてしまっているんだよ。
こちらも出来る限りのフォローはするから頑張りなさい。
もしこれでも見つからなければ…修道院に預けられると思いなさい。いいね??」
セイラはベルナールの有無を言わさない口調に
「かしこまりました…。」
と答えることしかできなかった。
本日の家族会議は重苦しい空気のまま終えることとなった。
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まだ長編書き途中なのについ、他のお話にも手を出してしまいました💦
よろしければ長編のほうもお目通しいただけると幸いです。
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